新入社員の教育で押さえておきたいポイント・人材育成のステップを解説
公開日:2024年3月8日
人材育成
日本の多くの企業では、学卒者の新卒一括採用を行っています。新入社員は業務遂行のための能力や社会人としてのマナーが身についていないため、企業がいちから教育を行っていく必要があります。
効果的に新入社員の教育を行っていくためには、基本的なポイントや人材育成のための手順を押さえておくことが大切です。この記事では、新入社員教育における課題やケアなどの点も含めて詳しく解説します。
新入社員の教育が必要な理由
新入社員の教育が必要なのは、人材の質が企業業績に影響を与えるものだからです。どのような点で教育が必要とされているのかを解説します。
社会人としての基礎を身につけさせるため
新入社員の教育を行う一つの理由として、ビジネスマナー等の社会人としての基礎を身につけさせる点が挙げられます。ビジネスシーンにおいては、時や場所を踏まえて相応しい振る舞いを行わなければなりません。
学生と社会人では立場や責任が異なるため、社内だけでなく社外の人と接する時に問題がないように、新入社員にマナーを身につけさせておくことが重要です。企業によっては、入社前の内定者研修としてビジネスマナーを習得させる機会を設けるところもあります。
自社が求める人材像に近づけるため
自社の社員として育成するためには、経営理念や事業方針等を十分に理解してもらい、自社の一員としての自覚を養ってもらう必要があります。自社が求める人材像を明らかにし、中長期的な視点に立って人材育成を行っていくことが大切です。
会社が掲げる理念や目的と、新入社員自身がめざす目標が重なることで、組織に対する帰属意識が芽生えるきっかけにもなるでしょう。組織の一員として自覚をしてもらうことで、日々の業務に熱心に取り組んでもらうだけでなく、モチベーションの低下から早期離職を招くリスクを減らしていけるはずです。
業務に必要なスキルを習得させるため
中途採用の社員とは異なり、新入社員は業務に関するスキルを身につけさせなければ、配属先で力を発揮することができません。業務遂行能力が不十分なままでは、仕事に対するプレッシャーを感じやすくなり、早期離職につながる恐れがあります。
ただし、新入社員に初めから多くのスキルを身につけさせようとすれば、かえって焦りを抱かせてしまうため、教育プログラムを作成して段階的に育成していくことが大事です。まずは、業務を行うために必要な最低限のスキルを習得させるため、OJT(On-the-Job Training)等を通じて教育の機会を与えていきましょう。
厚生労働省が公表している「令和4年度 能力開発基本調査」によれば、企業が従業員に求める能力やスキルとして、おもに次のものが挙げられています。
・チームワーク、協調性・周囲との協働力
・職種に特有の実践的スキル
・コミュニケーション能力・説得力
・課題解決スキル(分析・思考・創造力等)
自社の人材育成計画等に沿って、必要なスキルが何かを洗い出してみましょう。
人材育成のステップ
新入社員の教育を効果的に実施するには、基本的な手順を押さえておくことが重要です。おもなステップとして、以下のものが挙げられます。
1.課題点を明らかにする
2.職業能力評価シートを活用する
3. OJTコミュニケーションシートで効果測定を行う
4.フィードバックを実施する
厚生労働省が公表している「職業能力評価シート」の内容を基に、それぞれのステップについてポイントを解説します。
課題点を明らかにする
新入社員の教育を行う時は、まず現時点における課題点を明らかにすることが大切です。課題点を明らかにさせてから、具体的な施策を検討していくほうが、効率の良い人材育成に取り組んでいけるでしょう。
新入社員の教育においては、配属が予定されている部署の責任者の意見も聞きながら、業務に必要とされる知識やスキルを把握することが大事です。また、評価担当者によって評価基準がバラバラになってしまわないように、どのような観点で評価を行っていくのかも事前に決めておきましょう。
職業能力評価シートを活用する
厚生労働省では「職業能力評価シート」というチェックシートを公表しています。このシートを活用することで、「部下の能力レベルはどの程度なのか」「どのような能力が不足しているのか」といった点を把握することが可能です。
職業能力評価シートは従業員の能力レベルに応じて使い分けが行えるもので、具体的な
記入方法は次のとおりです。
1.被評価者の職種・職務・レベルの特定
2.自己評価の実施
3.上司評価の実施
4.上司による「コメント」の記入
教育を受ける新入社員とその上司が双方で評価を行うため、納得感を得ながら人材育成につなげていけるでしょう。
OJTコミュニケーションシートで効果測定を行う
職業能力評価シートを活用することで、個々の新入社員の能力を把握できます。能力開発における課題等が見つかったら、スキルアップを図るための具体的な施策を立てるために、「OJTコミュニケーションシート」も活用してみましょう。
OJTコミュニケーションシートとは、職業能力評価シートの評価結果を一目でわかるようにグラフ化したものであり、結果を基に今後の課題や目標を記入できるフォーマットを言います。このシートを活用することで、個々の従業員の強み・弱みを把握でき、能力レベルに応じた効果的な人材育成につなげていけます。
フィードバックを実施する
従業員自身と上司が、職業能力評価シート等のデータを基に、それぞれ現状や課題等をチェックしていくことが大切です。どのような点に認識のズレが生じているのかを共有し、改善につなげていくために定期的な1on1ミーティングの実施等を通じて、フィードバックを行っていきましょう。
特に、新入社員の場合は適切なフィードバックがなければ、業務で戸惑うことも多いと言えます。安心して仕事に取り組んでもらうために、日ごろからコミュニケーションを大事にしてみましょう。
新入社員教育における課題点
新入社員の教育を行う時は、どのような課題が生じやすいかを事前に把握しておきましょう。具体的な課題点について解説します。
指導役に時間的な余裕がない
日本の新入社員教育は、OJTが中心となっています。厚生労働省が取りまとめた「令和4年度 能力開発基本調査」の結果によれば、計画的なOJTを正社員に対して実施した企業は全体の60.2%です。
しかし、新入社員の指導役となる上司や先輩社員に時間的な余裕がなければ、十分な指導が行えないという課題が生じてしまいます。OJTを効果的に実施するために、指導役の業務負担を減らすことを検討してみましょう。
人材を育成するスキルが不足している
指導役に人材育成のスキルが不足していれば、新入社員の能力を高めるのは難しくなると言えます。特にOJTの場合、指導役の能力や経験に新入社員の育成効果が影響する部分が大きく、注意が必要です。
そのため、メンターとしての適性や新入社員との相性をもとに、適切な指導役を選出することをおすすめします。また、必要に応じて指導担当者向けの研修を行い、新入社員の教育効果にできるだけバラつきが出ない態勢を整えてみましょう。また、指導担当者が率先して新入社員の教育に取り組むように、人事評価制度の見直し等もあわせて行うことが大事です。
体系的な育成計画が立てられていない
人材育成に関する計画がきちんと定まっていなければ、場当たり的な指導につながりやすいと言えるでしょう。短期的な視点で業務に必要な能力を新入社員に身につけてもらうだけでなく、中長期的な視点でもどのような人材に育てていきたいかを明らかにすることが大切です。
いつまでに何を身につけてもらうのか、といったプランを明示しておくほうが、指導を受ける新入社員も心がまえをしやすくなるはずです。自社の人材戦略や事業計画等と照らし合わせて、新入社員の育成計画を立ててみましょう。
新入社員へのケアにも力を入れる
新入社員のケアが適切に行われていければ、業務におけるパフォーマンスの低下や早期離職につながる恐れがあります。どのようなケアを行えば良いかを解説します。
ストレスチェックを実施する
ストレスチェックとは、従業員が記入したストレスに関する質問票を集計・分析し、ストレスの状態がどうであるかを調べるための簡易検査を言います。労働安全衛生法によって、2015年12月から従業員が50名以上いる企業においては毎年1回の実施が義務付けられています。
定期的に行う健康診断等とあわせてストレスチェックを実施し、従業員のメンタルに不調がないかを確認しておきましょう。
ストレスの原因について把握する
ストレスチェックや定期的な面談等を通じて、新入社員が抱えやすいストレスの原因を把握しておくことが大切です。おもなストレスと予防するための対策をまとめると、次のとおりです。
定期的な面談の機会を設ける
新入社員が意欲的に学んでいく環境を整えるには、日ごろから円滑にコミュニケーションを取ることが重要です。定期的に面談を行う機会を設けたり、上司以外にも相談できる窓口を社内に設置したりすることで、新入社員が安心して働ける環境を整備してみましょう。
普段から新入社員と接する機会を多くすれば、メンタルや体調の変化等に気づきやすくなるはずです。企業としてきちんと従業員のケアを行っている姿勢を示すことで、モチベーションの低下や早期離職等を防げるでしょう。
まとめ
新入社員の教育をどのように行うかは、自社の将来の経営戦略や事業計画にも影響してくる部分であるため、しっかりと取り組んでいく必要があります。事前に新入社員の能力等を把握した上で、育成計画や具体的に取り組む施策を検討してみましょう。
また、実際に施策を実行してからどのような効果や課題が見つかったのかを定期的にチェックしていくことも大切です。1on1ミーティングやストレスチェック等を通じて、新入社員のケアにも力を入れてみましょう。