リチウムイオン電池に起因する火災の現状と対策
公開日:2025年6月27日
事故防止

■ 近年、リチウムイオン電池を使用した製品が増加し、リチウムイオン電池の出火に起因する火災も増加傾向です。
■ 代表的な発火のメカニズムを説明し、関連する法令の改正について概要を説明するとともに、使用者が留意すべき火災予防上の対策についてまとめます。
リチウムイオン電池に起因する火災の現状
(1) 火災件数の増加の状況
リチウムイオン電池は、小型・軽量化することができ、自然放電も少なく、繰り返し高い電圧が出せるという優れた特徴を持っているため、スマートフォンや電熱ウェア、電気自動車等のさまざまな製品で使用され、我々の身近な存在となっています。
加えて、我が国では、2050年カーボンニュートラルおよび2030年度における温室効果ガス46%排出削減の実現に向けた政策の一つとしてリチウムイオン電池を含む蓄電池の導入拡大を推進しています1)。
このようなリチウムイオン電池の利用拡大に伴い、リチウムイオン電池やリチウムイオン電池を使用する製品の事故も増加傾向です。図1は、世界的に見たリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池使用製品の事故報告件数の推移であり、事故報告件数が増加傾向であることを示しています。2)3)

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独立行政法人製品評価技術基盤機構の報告においてリチウムイオン電池の事故を紹介しています。
このような世界的な事故報告件数の増加を受け、リチウムイオン電池に起因する火災に対する懸念も高まっており、国内外で注意が呼びかけられています。
例えば経済協力開発機構(OECD)の加盟国は、2024年10月から2025年1月までの間、リチウムイオン電池の安全性に関する国際共同啓発キャンペーンを実施しました。
国内においては、「リチウムイオン電池を使用して暖がとれる製品」の事故が、増加傾向にあると報告されており※、消費者庁は2024年12月5日にリチウムイオン電池使用製品の取扱いに関する注意喚起行っています。
※ 消費者庁の事故情報データバンクでは、「リチウムイオン電池を使用して暖がとれる製品」での事故情報が、2014年4月から2024年9月までに68件登録されており、2020年度以降、増加傾向にあると報告されています。2)
(2) 火災の事例
リチウムイオン電池に用いられる電解液は消防法上の危険物である「引火性液体」に該当する有機溶媒が用いられます。このため何らかの要因で発火すると激しく燃焼し、大規模な火災に発展するおそれがあります。国内外で発生したリチウムイオン電池に起因する火災の事例を紹介します。
事例①:非純正品の充電器でバッテリーを充電中に出火した火災4)
事務所の倉庫内でビデオカメラ用のバッテリーを充電していたところ、何らかの要因でバッテリーセルが内部短絡し出火した事例。出火したバッテリーの充電に使用した充電器は、非純正の充電器でした。

事例②:無人の事務所で携帯型扇風機から出火した火災4)
無人の事務所のデスク上で充電されていた携帯型扇風機が何らかの要因で短絡し出火した事例。

事例③:リチウムイオン蓄電池を保管する倉庫の火災(米国イリノイ州)5)
リチウムイオン電池の貯蔵施設で発生した大規模火災の事例。約6,500㎡の倉庫が罹災、約1,000世帯の3,000~5,000人が3日間の避難を余儀なくされました。

リチウムイオン電池の発火メカニズム
リチウムイオン電池に起因する火災を未然に防ぎつつ、安心して使用するためには、リチウムイオン電池の構造および発火のメカニズムについて理解を深めることが有用です。本項では、その概要を解説します。
(1) リチウムイオン電池の構造
リチウムイオン電池は複数のセルから構成され、一つひとつのセルは、リチウムを含む金属化合物でできた正極とカーボンでできた負極から成ります。これらは、電解質で満たされ、セパレータで隔たれた構造をしています。正極の金属化合物が電解質に溶解し、リチウムイオンと電子に分かれ、この電子が負極から正極に移動することで電流が生じます。


(2) リチウムイオン電池の発火メカニズム
リチウムイオン電池は誤った使用方法により発火につながるおそれがあるため、リチウムイオン電池の発火のメカニズムを理解し、出火防止に努めることが重要です。本稿では、リチウムイオン電池特有の発火メカニズムとして、過充電の繰り返しに伴う金属リチウム(デンドライト)の析出による発火メカニズムに着目し、解説します。
リチウムイオン電池は、長期間の使用で過充電と放電が繰り返されることにより、負極表面に針状のデンドライトが徐々に成長します。この成長したデンドライトがセパレータを突き破って、正極と負極が直接接触する内部短絡(ショート)の発生につながる可能性があります。内部短絡が発生すると、そこに電流が集中し、内部抵抗の増加等により、温度が上昇し、発火に至るおそれがあります7)。リチウムイオン電池の電解液は引火性の液体であるため、発火した場合、激しく燃焼します。また、外部からの衝撃により電極が変形すると、変形部分が過充電状態になることがあり、デンドライトが析出しやすくなるため、発火のリスクが高まることになります。また、製造時のごく小さな異物の混入や設計・製造不良も内部短絡の原因となることがあります。

リチウムイオン電池に関連する法令の見直し
リチウムイオン電池に起因する事故が増加傾向であることや、利用の機会が増えていることを踏まえ、モバイルバッテリー外付け型製品からの発火事故防止の観点からモバイルバッテリーの安全基準に関する電気用品安全法の改正が実施されました。また、安全を考慮しつつ利用を促すために危険物関連法令の適用条件の緩和に係る改正が実施されました。近年改正されたこれらの関係法令の見直しの概要について説明します。
(1) 電気用品安全法の改正
モバイルバッテリー(リチウムイオン電池)は複数のセルから構成されます。セルごとに電圧監視が行われない場合、全体の上限充電電圧に達するまで充電が継続され、一部のセルで過充電となり、発火につながるおそれがあります。これはセルごとに電圧監視を行うことにより防止することが可能です。
このため、経済産業省は、電気用品安全法を改正し、各電池セルの電圧監視に係る規定を明確化しました。この規定は2022年12月28日に改正・施行され、2024年12月28日に2年間の経過措置期間が終了したため、国内で製造または輸入するモバイルバッテリー(リチウムイオン電池)に適用が義務付けられることになります。2)8)

また、既に使用中のモバイルバッテリー(リチウムイオン電池)においても火災予防の観点からPSEマークおよび届出事業者名等の表示の有無を確認して使用する等、火災リスクの低減に努めることが重要です。

(2) 危険物関係法令の改正
リチウムイオン電池は、中に含まれる電解液が消防法に定める危険物に該当するため、関係法令に示される技術基準を満たす貯蔵所で貯蔵することが義務付けられていました。一方、リチウムイオン電池は、2050年のカーボンニュートラルの達成も目標として利用拡大が進められており、大規模な貯蔵所の建設が必要であることから、一定の要件を満たす場合はこれらの技術基準を適用しないこととする特例を設ける等の関係法令の改正が行われ、2023年12月7日に施行されました。具体的には、蓄電池に含まれる危険物の分類が明確化されるとともに、貯蔵する蓄電池について、充電率60%未満、水が浸透する素材で包装すること等の条件を満たす場合、軒高、階数、床面積の規制が緩和される改正が行われました。以下に改正内容を説明します。
ア 蓄電池により貯蔵される危険物の分類
リチウムイオン蓄電池の電解液は引火性液体(第4類の危険物)に該当するものの、当該電解液が電極材やセパレーターに染み込み、固体状となっているものがあります。第4類の危険物が染み込み固体状となったものは第2類の危険物(引火性固体)または指定可燃物(可燃性固体類)のどちらかに分類され、この分類の判定や電解液の数量の算定方法がこれまであいまいでした。そのため、法令改正により、リチウムイオン蓄電池により貯蔵される危険物は第2類または第4類の危険物とすることが明記されました(危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令による改正後の規則第十六条の二の七)9)
イ 屋内貯蔵所に関する特例
危険物を貯蔵する屋内貯蔵所は関連法令により満足すべき技術基準が定められています。これらの規制は、リチウムイオン電池の取扱いの増加に対応するため、一定の条件を満たすリチウムイオン電池のみを貯蔵する屋内貯蔵所において一部の規定の適用が緩和される特例が設けられました。9)

主な出火防止対策
上述のように、リチウムイオン電池の取扱いが増加する中、大量に貯蔵する必要性に伴う業界団体等からの要望に基づき、関連法令の改正等により利用が推進されています。一方、リチウムイオン電池を取り扱う機会の増加を踏まえ、使用者や管理者はリチウムイオン電池の発火の危険性を理解し、以下のような点に留意して、取り扱うことが重要です。

まとめ
本稿では、まず活用の機会が増加しているリチウムイオン電池に起因する火災の状況および事例を紹介しました。次にリチウムイオン電池が火災につながる主なメカニズムを説明し、近年の法令改正の状況を説明しました。最後に使用者が留意すべき主な出火防止策を紹介しました。
リチウムイオン電池は、今後も取り扱う機会がますます増えると予想されることから、使用者がリスクも含めた特性を理解し、適切に使用することが重要です。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の災害リスク情報2025年3月(102号)を基に作成したものです。