健康経営優良法人 2023 ~認定制度の変更点と今後の方向性~
公開日:2023年6月1日
健康経営・メンタルヘルス
2022年8月22日に「健康経営優良法人 2023」の申請が開始されました。2021年度と比較し申請手続や認定基準などにどのような違いがあるのか、大規模法人部門、中小規模法人部門のそれぞれについて解説します。
経営戦略と関連付けて健康経営を推進していくことや従来以上に情報開示を進めることで、取組の質を更に向上させることが求められているので、ポイントをしっかりと押さえておきましょう。
健康経営優良法人認定の状況
2022年8月22日に「健康経営優良法人 2023」の申請が開始されました。2016年度に創設された「健康経営優良法人認定制度」は、前回の「健康経営優良法人 2022」において大規模法人2,299社、中小規模法人12,255 社が認定され、制度開始以降、申請企業数・認定企業数ともに右肩上がりで増加しています。
特に中小規模法人部門においては、認定数が昨年度から4,321 件の増加となっており、認定取得に向けた動きが顕著です。健康経営優良法人の認定制度が創設されてから今年で7回目となりますが、「健康経営優良法人 2023」の申請手続や認定要件等における変更点についてポイントを見ていきましょう。
健康経営優良法人 2023 スケジュールや認定基準などの変更点について
スケジュールと申請の変更点
2022年度のスケジュールは図1の通りです。おおむね2021年と大きな変わりがありませんが、2022年8月22 日に「健康経営優良法人 2023」の申請が開始され、大規模法人部門、中小規模法人部門とも、2021年に比べ1週間程度申請期間が早まりました(大規模法人部門:2022年10月14日17時締切、中小規模法人部門:2022年10月21日17 時締切)。
また、2022年度より制度の民営化を見据え、補助事業者として日本経済新聞社が選定されています。これに伴い、申請が有料化されたことも大きな変更点の一つだといえます。
大規模法人部門は88,000 円、中小規模精進部門は16,500 円の申請料が必要です。なお、認定審査への申請を行わなくても、調査票の回答およびフィードバックシートを受領することは可能で、この場合は無料となります。
また、運営主体変更に伴い、ポータルサイト(https://kenko-keiei.jp/)がリリースされ、情報発信および周知啓発が行われています。
健康経営優良法人認定 2023 における改定ポイント
評価項目については大幅な変更点はなく、2021年とほぼ同様の項目となっています(表2、表3参照)。設問項目の改定の主なポイントとしては「①情報開示の促進」、「②業務パフォーマンスの評価・分析」(後述。大規模法人部門における主な変更点にて記載)、「③データ利活用の促進」が挙げられます(表1参照)。
「③データ利活用の促進」に関しては大規模・中小規模法人部門に共通して申請時に回答を求められる項目(中小規模法人部門は申請書末尾の任意回答アンケート項目として追加)になっています。健診情報の活用では、保険者に対して提供する健診データの種類や形式を問う形に変更されました。
また、これまでの40歳以上に加え、40 歳未満の従業員データについても提供状況を問う設問が追加されています。更に、官民によるライフログデータ等の利活用促進やヘルスリテラシー向上の観点から、健診情報等を電子記録として閲覧可能な環境を整える取組を行っているかも問われることになりました。
その他、上記①~③以外では、「運動習慣の定着に向けた具体的な支援」の設問で「転倒防止に関する項目」が追加され、「メンタルヘルス不調者への対応に関する取組」では「カスタマーハラスメント防止に関する項目」が追加されるなど、取組の幅が増えています。
大規模法人部門における主な変更点
情報開示の促進
健康経営優良法人認定では従来より情報開示を積極的に進めてきており、2021年の優良法人認定におけるホワイト 500 の認定要件として、「評価結果(フィードバックシート)および一部設問の回答内容について『開示可』とすること」が追加されています。これを踏まえ、「開示可」とした 2,000法人分の評価結果が公開されました。
これまでの開示項目では、メンタルヘルス不調や女性の健康といった健康課題への取組、従業員間コミュニケーションやワークラフバランス等の取組状況のスコア(偏差値)などが含まれていました。今回は、これらに加え、経営層の関与および社内への浸透の状況を示す情報が追加されることとなっています。
具体的には「経営会議での議題化の内容・回数」や制度・施策実行に関する5つの項目(従業員への教育、コミュニケーションの促進、食生活の改善、運動機会の増進、女性特有の健康関連課題に関する知識習得)における「取組内容」や「従業員の参加率」が追加されることとなり、より定量的データが開示されることになりました。このように、外部から見て実効性がより明確になるよう開示項目が増えており、今後も投資家など様々なステークホルダーに向けて、一層の情報開示が行われていくものと予想されます。
業務パフォーマンスの評価・分析
従業員の業務パフォーマンスとして、アブセンティーイズムやプレゼンティーイズム、ワークエンゲイジメントなどの測定状況が問われていましたが、今回はこの3つの指標における複数年度分の経年変化などの結果や測定方法およびそれらの情報を開示しているURLを回答する設問が新設されています。
また、ワークエンゲイジメントについては活力(「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」)」と熱意(「自分の仕事に誇りを感じる」)それぞれの平均得点について回答欄が設けられました。これらはいずれも任意回答のため評価項目ではありませんが、企業が自発的に従業員のパフォーマンスについて健康経営の取組における効果分析を行うことで、その取組のレベルアップなどにつなげることが期待されています。
自社従業員を超えた健康増進に関する取組
経済産業省では、企業が健康経営を取引先など他社にも普及させていくことを目指しており、これに関連して、取引先の健康経営の取組や労働安全衛生等の状況について把握しているかを問う設問があります。
従前は、健康経営施策の実施状況や認定など表彰取得状況などを把握していることが問われていましたが、今回はこれに加え、「発注時に公開情報などで取組状況を確認することを社内ルールにする」、「取引先へアンケートを実施するなどして状況を把握する」など、取引先の取組状況を単に公開情報として把握するだけでなく、社内でどのように把握・考慮するのかルール化していることが求められるようになりました。
健康経営の取組に関する質の向上
健康経営の普及に伴い、取組とその効果について投資対効果が求められるようになってきています。今回、より具体的な取組内容を問う設問や健康投資効果の検証についての設問および選択肢が追加されました。
例えば、健康経営推進担当者についての設問では、従来の「担当者が設置されているか」を問う内容から、職場における健康推進策の「企画」、「推進」などどのような「役割」を担っているのか確認する内容に変更となっています。また、健康保持・増進に関する教育についての設問では、専門家による教育が選択肢として追加され、教育の質を問うものとなっているのが特徴です。
「健康経営の推進に関する効果検証」のパートでは、これまでも企業の各健康課題、施策実施結果、効果検証結果など改善状況について記述式の回答が求められていました。今回の調査票では、これらに加え、「健康経営の目標指標や経営上の課題の改善状況をどのように検証しているか」といった具体的な記述を求める設問が追加されました。
健康経営の取組が、本来の目的である企業価値の向上や経営課題の解決につながっているか検証することを促すものであり、これまで進められていた「評価・改善のための PDCA サイクル推進」に加え、更に実効的な取組として推進されることを期待する意図がうかがえます。
中小規模法人部門における変更点
中小規模法人部門に関しても評価項目・区分、適合項目数に変更はなく、認定要件となる設問も大幅な変更はありませんでしたが、ブライト 500 選定方法に関する評価項目や配点のウエイトが変更となった点が大きな変化といえます。
従来から設問項目にあった「社外発信の状況」に加えて、「PDCA サイクル推進の取組状況」、「経営者・役員の関与度合い」を問う設問が追加され、取組の評価・改善や経営層の主体性が重視されています。また、従来の「社外発信の状況」についても、健康経営を戦略的に実行し、その効果検証が問われる内容になっており、特にブライト 500 の選定方法は、より大規模法人部門に準じた基準となってきています。
今回の優良法人認定と今後の健康経営
これまでの認定制度の改定では、健康経営を社会全体へ普及を促進させたり、その取組の質(効果)を向上させていったりすることが大きな方針でした。そのような中、健康経営優良法人認定制度へのエントリー法人数は伸び続け、2021年度は約1万5千社にのぼりました。
今回を含め直近では、健康経営の取組と経営戦略との結び付けがより深く問われる傾向にあり、引き続きその効果や質を高めていくことが求められています。また、上記に加え、認定にはより一層の情報開示が求められていく傾向にあり、投資家や求職者などあらゆるステークホルダーから取組の質および実効性が見られるようになってきています。
今後、各企業が健康経営の取組および認定取得を進めるためには、経営課題解決に向けた取組を一層戦略的に行っていくことが必要となり、その取組効果についての定量的データの開示も、これまで以上に求められていくようになるものと予想されます。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の健康経営インフォメーション2022年9月(No.3)を基に作成したものです。