従業員が業務中に熱中症になったら会社の責任はどうなるか?~判例から考える企業の安全配慮義務~
公開日:2026年7月29日
労働災害防止

例年猛暑が続き、全国で熱中症による労働災害が起こっています。建設業や運送業、警備業、製造業などの屋外・高温環境での作業はもちろん、倉庫内や工場、営業活動中などでも熱中症は発生しています。
令和7年6月1日からは労働安全衛生規則が改正され、職場の熱中症対策が義務化されました。従業員が、業務中に熱中症にかかり、会社の熱中症対策が不十分であったと認められる場合には、労働安全衛生法違反として、「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(労働安全衛生法第119条1号)」に科される可能性があります。その他、労働契約法における「安全配慮義務違反」として、多額の損害賠償を命じられる可能性もあります。
会社には「安全配慮義務」がある
労働契約法第5条では、使用者は労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働くことができるよう必要な配慮を行う義務(安全配慮義務)を負うと定めています。
つまり、「本人が水を飲まなかった」「本人が無理をした」というだけでは会社の責任は免れません。裁判では、「会社は熱中症を予見できたか」「予防措置を講じていたか」を厳しく見られています。
会社に約4,860万円の賠償命令が確定
熱中症に関して会社の安全配慮義務違反を認めた判例です。
福岡地方裁判所小倉支部は令和6年2月13日、中東へ出張していた30代の従業員が、炎天下で作業中に熱中症を発症し死亡した事案について、会社の安全配慮義務違反を認めました。さらに、福岡高等裁判所は令和7年2月18日に一審判決を支持し、最高裁判所も令和8年5月13日付で会社側・遺族側双方の上告を退けたため、会社に約4,860万円の損害賠償を命じた判決が確定しました。
裁判所は、会社が高温環境下での暑熱ストレスや熱中症発症リスクを十分に評価せず、必要な予防措置を講じていなかったことを重視しました。WBGT(暑さ指数)の把握や体調確認、作業方法の見直しなどが十分ではなかったことから、安全配慮義務違反が認められています。
一方で、会社の責任が否定された事例もあります。
名古屋地方裁判所令和2年10月26日判決では、熱中症により従業員が死亡したものの、会社は気象状況を考慮した作業管理や休憩・水分補給など一定の対策を講じていたことなどから、安全配慮義務違反は認められないと判断しました。
この2つの判例から分かるのは、「熱中症が発生した」という結果だけではなく、「会社がその時点で合理的に求められる対策を実施していたか」が裁判所の重要な判断材料になりえるということです。
企業が今すぐ見直すべきポイント
今回の労働安全衛生規則の改正により、職場の熱中症対策が義務化され、企業にはより具体的な対応が求められています。
会社が「義務」として行うべき3つのこと
① 報告体制を整備する
熱中症の自覚症状がある従業員や、異変に気付いた同僚が、誰に・どのように連絡するのかをあらかじめ決め、全員に周知しておく必要があります。
② 対応手順を決めておく
異変があった場合には、作業を中止させる、身体を冷却する、水分・塩分を補給する、医療機関を受診させる、必要に応じて救急車を要請するなど、一連の対応手順を事前に定めておく必要があります。
③作業者など関係者へ周知・教育する
せっかくルールを作っても、現場で知られていなければ意味がありません。熱中症の初期症状や緊急時の対応方法を教育し、誰もが迷わず行動できる体制を整えることが重要です。
その他にも、企業として確認しておきたい事項は以下のとおりです。
・WBGT(暑さ指数)の測定・記録
・作業計画の見直し(時間帯・連続作業時間)
・こまめな休憩時間の確保
・水分・塩分補給のルール化
・空調服や冷却用品の支給
・毎日の体調確認
・管理監督者への熱中症教育
・異変を感じたら直ちに作業を中止するルール
・実施状況を記録として残すこと
これらは従業員の命を守るだけでなく、「会社として必要な措置を講じていた」ことを客観的に示す証拠にもなります。













