10億宣言とは?中小企業経営者が知っておきたい対象・支援策と今からの準備

公開日:2026年9月7日

助成金・補助金

人口減少や人手不足が深刻化するなか、中小企業には、限られた人材でより高い付加価値を生み出す経営への転換が求められています。こうした状況を踏まえ、中小企業庁は売上規模の拡大や高収益化をめざす成長志向の中小企業に対し、経営改革と成長投資を集中的に支援する方向性を示しています。

そのなかで注目されているのが、売上高10億円規模をめざす企業を後押しする「10億宣言」の構想です。ただし、2026年8月時点では、「10億宣言」という名称で申請受付が始まっている制度ではなく、詳細な制度設計は今後明らかになる予定となっています。

この記事では、10億宣言の概要や100億宣言との違い、想定される支援策、活用に向いている企業の特徴、経営者が今から準備しておきたいことを解説します。

10億宣言とは

10億宣言とは、中小企業庁が「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」のなかで示した、売上高10億円規模への成長や高収益化をめざす中小企業に対する支援構想です。中小企業庁は、成長の核となる事業価値を持ち、経営改革に取り組む企業を選定し、政策支援を集中的に行う方向性を示しています。

特徴的なのは、経営者だけでなく、メインバンク等の金融機関による伴走も重視されている点です。設備投資や販路開拓といったハード面だけでなく、人材、組織、経営管理等を含めて企業の成長基盤を整えることが想定されています。

ただし、2026年8月時点では、正式な制度名称、対象要件、申請方法、審査方法、開始時期等は確定していません。今後の中小企業庁や経済産業省の発表を確認する必要があります。

地域未来牽引企業の概要について解説しています。

 

10億宣言の創設が検討される背景

10億宣言の構想が示された背景には、人口減少による労働供給制約があります。中小企業庁は、人材の確保が難しくなるなかで、従業員数を増やして生産量や売上を拡大する従来型の経営には限界があるとして、「強い中小企業」をつくる政策への転換を打ち出しています。

企業側にも、価格転嫁にとどまらず、商品・サービスの高付加価値化、省力化、DXやAIの活用、新市場への進出、M&A等を通じて、一人当たりの付加価値を高める取組が求められているのです。売上高10億円規模は、中小企業が経営者個人に依存した経営から脱し、組織、人材、設備、経営管理、資金調達等を本格的に整えていく一つの節目と考えられます。

10億宣言は売上だけを増やすことではなく、生産性向上と賃上げを両立できる企業を育てるための構想として捉えることが重要です。

10億宣言と100億宣言の違い

10億宣言と100億宣言は、ともに企業の成長を後押しする取組ですが、想定される企業の成長段階や宣言内容、利用できる支援策の整備状況には違いがあります。自社の売上規模や現在の経営課題を踏まえて、それぞれの位置付けを理解することが大切です。

対象となる企業規模と成長段階が異なる

100億宣言は、売上高100億円をめざす中小企業が、その目標や具体的な取組を経営者自ら宣言・公表する制度です。中小企業成長加速化補助金では、売上高10億円以上100億円未満の中小企業が対象とされています。

一方、10億宣言は、その手前の成長段階にある企業を主な対象とする構想です。中小企業庁の資料では、売上高1億円以上10億円未満の企業群が約60万社存在するとされ、この層等から売上規模の拡大や高収益化をめざす企業を育成する方向性が示されています。

100億宣言が一定規模に達した企業の飛躍的な成長を後押しするのに対し、10億宣言は、地域企業が成長軌道へ移るための経営基盤づくりを支える役割が想定されています。

宣言で重視される内容が異なる

100億宣言では、企業概要、企業理念、経営者の意気込み、売上高100億円を実現するための目標と課題、具体的な取組等を示します。100億円という高い目標を対外的に宣言し、経営者自身が成長へのコミットメントを示す仕組みです。

10億宣言で想定されるのは、経営者のビジョンだけではありません。自社が持つ事業価値をどのように磨くのか、成長を支える経営基盤をどう構築するのか、地域経済へどのような価値を還元するのか、金融機関がどう伴走するのかといった内容を一体で整理することが重要になります。

制度の整備状況と利用できる支援が異なる

100億宣言は既に制度として開始されており、宣言企業に対する中小企業成長加速化補助金や経営者ネットワーク等の支援策が運用されています。中小企業成長加速化補助金についても、2026年には3次公募が実施されています。

一方、10億宣言は制度設計が進められている段階です。支援策の具体的な条件や申請手続等については、確定情報と検討段階の情報を区別する必要があります。

100億宣言企業の取組について解説しています。

 

10億宣言で想定される5つの項目

10億宣言では、単に「売上高10億円をめざす」と表明するのではなく、成長を実現するための事業価値や経営基盤、地域への波及効果等を具体化することが重要になると考えられます。中小企業庁の政策資料では、経営者と金融機関がともに成長に取り組む仕組みが重視されています。

経営者のビジョン

まず求められるのが、経営者自身がめざす企業の姿を明確にすることです。何年後に売上高10億円をめざすのかだけではなく、その成長によって顧客や従業員、地域にどのような価値を提供したいのかを整理します。

売上高だけでなく、営業利益や付加価値、賃金等の定量的な目標と、自社が将来実現したい姿を結び付けることが重要です。成長に必要な変革やリスクについても認識した上で、経営者として実行責任を示す必要があります。

事業価値の磨き上げ

成長するためには、「顧客がなぜ自社を選んでいるのか」を明確にする必要があります。技術力、品質、スピード、専門性、ブランド、顧客基盤、地域とのつながり等、自社の競争力の源泉を整理します。

経営者個人の営業力や低価格だけに依存せず、商品やサービスとして再現できる状態をつくることも大切です。新商品開発、新市場への進出、海外展開、知的財産の活用等、売上と利益の双方を伸ばす施策を検討してみましょう。

成長アセットの構築

事業を継続的に拡大するためには、人材、組織、設備、データ、顧客基盤、知的財産、外部パートナー等の経営資源を蓄積する必要があります。売上が拡大しても、あらゆる判断を経営者一人が担っていては成長に限界があるものです。

幹部人材の育成や権限移譲、採用・評価制度、業務標準化、管理会計、DX等を整え、組織として事業を動かせる体制を構築することが重要です。

地域経済への貢献

中小企業庁は、成長企業による賃上げや地域経済への波及効果を重視しています。100億企業の支援でも、域内仕入れや地域における価値創造等が評価項目とされています。

10億宣言についても、自社の成長によって雇用や賃金、地域内調達、取引先企業、事業承継等にどのような効果を生み出せるのかを整理することが重要になると考えられるでしょう。自社だけが成長するのではなく、地域全体への波及を示す視点が求められます。

金融機関の伴走支援方針

10億円規模への成長には、設備、人材、販路等への先行投資が必要です。そのため、中小企業庁の構想では、経営者が経営改革に取り組むことと併せて、メインバンクが伴走支援を行うことが重視されています。

金融機関との関係も、融資を申し込む時だけのものではありません。成長計画や資金計画を共有し、投資の妥当性や返済余力を継続的に確認する関係を構築することが重要です。

10億宣言企業に想定される支援策

10億宣言企業に対しては、経営改革を進めた上で大胆な成長投資につなげるという政策の方向性が示されています。投資だけでなく、経営管理、人材、資金調達等を組み合わせた支援が重要になると考えられます。

設備投資・販路拡大への投資支援

売上高10億円をめざす過程では、生産能力の増強、新商品・サービスの開発、省力化、DX、販路拡大等への投資が必要になる場合があります。国は現在も、新事業進出やものづくり、省力化、デジタル化等、企業の成長ステージに応じた支援策を展開しています。

10億宣言についても、こうした成長投資と連動した支援が検討される可能性がありますが、具体的な補助率や上限額等は正式な発表を確認する必要があります。

生産性向上のための支援制度について解説しています。

 

成長投資を支える金融支援

設備投資や新規採用、研究開発、新市場への展開等は、投資から成果が出るまで時間がかかる場合があります。そのため、自己資金だけでなく、民間金融機関や政策金融を含めた資金調達の設計が欠かせません。

重要なのは、借りられる金額を起点に投資額を決めないことです。投資回収期間や返済余力、運転資金、自己資本の状況等を確認し、計画未達の場合にも資金繰りを維持できるようにしておく必要があります。

人材確保・経営管理等のソフト支援

企業規模が大きくなるにつれて、営業、製造、IT、財務、人事、経営企画等の専門人材が必要になります。中小企業庁の強化戦略でも、人材確保やM&A、海外展開等に関するソフト支援を組み合わせる方針が示されています。

同時に、月次決算や予算管理、部門別採算、KPI等、経営者の経験や勘だけに依存しない管理体制を整えることも大切です。

10億宣言に取り組むメリットと注意点

10億宣言への準備は、自社の成長戦略を整理する機会になります。一方、売上目標を優先するあまり、過大な投資や借入れを行わないよう注意が必要です。

成長戦略と投資の優先順位を見える化できる

宣言を検討する過程では、どの市場を狙うのか、どの商品を伸ばすのか、どのような人材や設備が必要なのかを一つの成長計画として整理することになります。「売上を増やしたい」という抽象的な方針を、商品別の売上や粗利益、顧客数、生産能力、採用人数、投資回収期間等の具体的なKPIに落とし込むことで、限られた経営資源をどこへ集中させるべきか判断しやすくなります。

金融機関や社内外との対話を深められる

成長計画と経営数値を整理することで、金融機関との対話も具体的になります。必要な投資額や実施時期、資金調達方法等を早期に検討できるためです。

また、会社がめざす姿を明確にすることは、従業員や取引先、採用候補者との認識をそろえる上でも役立ちます。ただし、宣言そのものが融資や補助金、受注等を保証するものではないので注意しましょう。

制度詳細が未確定である点に注意する

2026年8月時点では、売上高10億円をめざす成長志向企業への集中支援という政策の方向性は示されていますが、「10億宣言」の具体的な申請方法や審査基準、支援メニュー等は公表されていません。

正式決定前の情報を前提として、高額な設備を購入したり契約を結んだりすることは避ける必要があります。制度を利用できない場合でも、事業として成立する投資かどうかを確認することが大切です。

売上高10億円を目的化しない

売上が増えれば、必ず企業の経営状態が良くなるとは限りません。低採算の受注が増えたり、在庫や売掛金が膨らんだり、設備や人件費が先行したりすれば、売上が増えても手元資金が減る可能性があります。

売上高と合わせて、粗利益率、営業利益、付加価値、生産性、運転資金、キャッシュフロー等を確認する必要があります。売上高10億円は最終目的ではなく、継続的に利益と賃金を生み出せる企業へ成長する過程の一つと捉えることが重要です。

10億宣言の活用が向いている企業

10億宣言の構想は、すべての中小企業が一律に売上規模を拡大することを求めるものではありません。成長の核となる事業価値を持ち、経営改革を進められる企業ほど活用しやすいと考えられます。

成長の核と再現性を持つ企業

顧客から評価される技術や商品、サービスがあり、既存顧客への販売拡大、新市場への展開、商圏拡大等によって売上を継続的に伸ばせる企業は、10億円規模への成長を検討しやすいでしょう。また、経営者が数字を開示し、幹部育成、標準化、採用、DX、設備投資等を進め、経営者個人への依存を減らす意思を持っていることも重要です。

金融機関や外部支援者からの指摘を踏まえて計画を修正できる企業ほど、成長支援を有効に活用しやすくなります。

まず経営改善を優先したほうが良い企業

一方、赤字や債務超過が続き、資金繰りが逼迫している企業では、規模拡大よりも収益改善や金融調整等を優先したほうが良い場合があります。主力事業の採算性が確認できない状態で、補助金等を理由に設備投資を行うと、固定費や借入負担だけが増える可能性があります。

月次決算が整っていない、投資後の運転資金を見込めていない、経営者以外に実行責任者がいない場合等は、まず経営管理の土台を整えることが大切です。

10億宣言に向けて経営者が今から準備すべきこと

制度の詳細が確定してから、準備を始める必要はありません。現状分析や成長計画、組織・資金計画等は、10億宣言を利用するかどうかにかかわらず、中長期的な経営に役立ちます。

大規模成長投資補助金の概要について解説しています。

 

自社の現在地と成長のボトルネックを把握する

最初に行いたいのが、現在の経営状態の把握です。直近3~5年程度の売上高、粗利益、営業利益、従業員数、設備投資額、借入金、資金繰り等を確認します。さらに、商品・サービス別、顧客別、拠点別等に採算を分ければ、利益を生み出している事業と経営資源を消耗している事業を把握しやすくなります。

その上で、人材不足、生産能力、営業力、価格設定、管理者不足、IT環境、資金等、成長を妨げている最大の要因を特定します。

売上高10億円までの成長シナリオをつくる

次に、目標年度と売上高を設定し、そこまでの道筋を整理します。売上だけでなく、営業利益、付加価値、賃金、顧客数、平均単価、生産能力等も設定することが重要です。

既存事業の拡大、新商品、新地域、新市場、海外展開、M&A等、どの成長ルートを採用するのかを分けて考え、年度ごとの売上、利益、投資、人員の目標を設定します。計画どおりに進まないケースも想定し、追加投資を行う条件や撤退基準も決めておく必要があります。

投資・組織・資金計画を一体で整える

設備だけを増やしても、人材や資金が不足すれば成長は続きません。設備、DX、採用、教育、販促、M&A等の投資額と時期を整理し、売上が発生するまでの運転資金も含めて資金計画をつくります。

同時に幹部、営業責任者、生産責任者、管理部門等、成長を実行する組織体制も考える必要があります。経営者が現在担っている業務を洗い出し、段階的に権限を移していくことも重要です。

メインバンクと対話し、公式情報を継続確認する

成長計画は完成してから金融機関へ見せるのではなく、作成途中からメインバンクと共有することが有効です。必要資金や返済余力、財務上の課題等について早い段階で意見をもらえば、計画の実現可能性を高められます。

また、10億宣言については今後制度内容が具体化する可能性があります。正式な名称、対象企業、申請時期、支援策等が発表された段階で、自社の成長計画と照らし合わせて確認してみましょう。

制度に合わせて無理に経営計画を変更するのではなく、自社にとって必要な成長戦略を軸に考えることが大切です。

まとめ

10億宣言は、人口減少や人手不足が進むなかで、売上高10億円規模への成長や高収益化をめざす中小企業を後押しする政策構想です。中小企業庁は、成長の核となる事業価値を持ち、経営改革に取り組む企業に対して支援を集中させる方向性を示しています。

重要なのは、売上高10億円という数字だけを追いかけることではありません。自社の強みを明確にし、人材や組織、設備、経営管理、資金調達といった成長基盤を整え、利益や賃金を継続的に生み出せる企業へ変わることが求められます。

制度の詳細が未確定である今だからこそ、自社の現在地を分析し、成長シナリオや投資計画を整理しておくことが重要です。メインバンクとも早期に対話を始め、今後公表される公式情報を確認しながら、自社に合った成長の道筋を検討していきましょう。

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