優秀な人材を確保する「不妊治療等と仕事の両立支援」の最前線

公開日:2026年6月12日

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2023年に日本では全出生児のうち約8.6人に1人が生殖補助医療により誕生しています。近年、働く世代にとって不妊治療や不育症治療は「特別なこと」ではなく、「誰もが直面する可能性のある課題」へと変化しています。特に労働力不足が深刻な中小企業にとって、従業員の離職は大きな損失です。本号では、プライバシーに配慮しつつ、誰もが安心して働ける職場環境づくりのポイントを解説します。

なぜ今、経営者が「両立支援」に取り組むべきなのか

現在、日本では約2.6組に1組の割合の夫婦が不妊を心配したことがあり、実際に約4.4組に1組が不妊検査や治療を経験していると言われています。不妊治療等は「通院回数の多さ」「精神的・身体的負担」「仕事との日程調整が難しい」ことが特徴であり、「仕事との両立ができなかった」人の割合は約26%に上り、離職を選択するケースが後を絶ちません。

出典:厚生労働省「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」
P4:不妊治療に要する通院日数の目安 から抜粋

離職が発生した場合、新たな採用・教育コストとして1人あたり数百万円の費用がかかると言われています。制度を整えることは、これらの損失を防ぐリスクマネジメントそのものです。
また、常時雇用する労働者が101人以上の企業は、労働者の仕事と子育ての両立を図るため「一般事業主行動計画」を策定することとなっており、不妊治療等と仕事の両立についてもこの計画に盛り込むことが望ましい事項とされています。企業においては、社内の不妊治療等に対する理解の促進に一層努めることが求められています。

進化する福利厚生

(1)注目が集まる「卵子凍結」

キャリア形成期と出産適齢期が重なる現代、将来の選択肢を広げるための「卵子凍結」への関心が高まっています。
しかし、卵子凍結には高額の費用がかかることから、一部の自治体で助成金制度を設けているほか、会社が福利厚生として支援する動きも広がりつつあります。
また、三井住友海上では凍結卵子を医療機関で解凍した際、卵子が受精できない状態となっていた場合に、採卵や凍結に要した費用を補償する凍結卵子専用保険を提供しています。

(2)休暇制度の拡充と企業のサポート

仕事と不妊治療等の両立を後押しするためには、前述の「経済的負担の軽減」と「柔軟な休暇制度」を両輪で進めることが不可欠です。
不妊治療等は極めてプライベートな事柄であり、不妊治療を受けていることを「職場に一切伝えていない」とする人は半数弱います。職場で伝えていない理由は、「伝えなくても支障がないから」が最も多いものの、「周囲に気遣いをしてほしくないから」「不妊治療が上手くいかなかった時に職場に居づらいから」「不妊治療をしていることを知られたくないから」という人が一定程度みられます。休暇制度の設計にあたっては「不妊治療専用」と限定せず、あえて目的を幅広く設定することが、利用率向上とプライバシー保護の鍵となります。

以下に一例を紹介します。

〇ライフサポート休暇
治療以外にも、家族の介護や子供の学校行事、役所の手続きなど多目的に使える制度。
〇ヘルスケア休暇
不妊治療、がん治療、持病の通院、人間ドックなど、健康管理全般をカバーする制度。
〇ウェルビーイング休暇
申請理由を「通院」「自己研鑽」「リフレッシュ」など簡潔な選択式にし、詳細を問わない運用。
〇積立有給休暇
時効で消滅する有給休暇を積み立て、不測の療養や家族の看護に充てられるようにする制度。

通院頻度の高さや通院スケジュールの調整の難しさにも配慮し、時間単位の有給やフレックスタイム制度の導入も有効です。また、男女とも利用可能な制度とする(不妊の原因の約半数は男性に原因があるとされています)、非正規雇用も対象とする必要があります。
これらの両立支援制度を導入する最大のメリットは、不妊治療中の従業員だけでなく、全従業員にとっての「休みやすさ」に直結する点にあります。
2026年4月には病気を抱える労働者の「治療と就業の両立支援」が企業の努力義務※とされました。治療をしている人だけでなく、育児や介護、自身の健康管理など、誰もが直面し得る「急な休み」に対応できる仕組みにすることで、職場内の不公平感を払拭できます。「お互い様」という風土が醸成され、組織全体のチームワーク向上に繋がります。

※改正労働施策総合推進法(令和8年4月1日施行)
出典:厚生労働省チラシ

不妊治療等と仕事の両立に取り組む経営上のメリット

厚生労働省では、不妊治療等と仕事の両立に取り組む企業を「くるみん認定」にプラスして認定(プラス認定)し、企業の取組を推進しています。
この認定を受けると、くるみん認定、プラチナくるみん認定、トライくるみん認定にプラスマークを追加して、商品、広告、求人広告などで表示することができ、子育てサポート企業であることに加えて、不妊治療等と仕事との両立をサポートする企業であることもPRできます。

出典:厚生労働省「プラス認定とは」

企業にとって不妊治療等と仕事との両立が困難なことにより離職する人材が増えることは、労働力の減少、ノウハウや人的ネットワーク等の消失、新たな人材を採用する労力や費用の増加などのデメリットをもたらします。一方、従業員が不妊治療をしながら働き続けやすい職場づくりを行うことは、安定した労働力の確保、従業員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材を引き付けることなどにつながり、企業にとっても大きなメリットがあります。

経営者の背中を押す公的支援:両立支援等助成金

厚生労働省は、中小企業の両立支援を後押しするため、「両立支援等助成金(不妊治療等及び女性の健康課題対応両立支援コース)」を設けています。

不妊治療等、月経や更年期といった女性の健康課題に対応するために利用可能な両立支援制度を利用しやすい環境整備に取り組むとともに、労働者の相談に対応し、それぞれに対応する両立支援制度を労働者が利用した場合に受給できる助成金です。

出典:2026年度 両立支援等助成金のご案内

経営者が取るべきアクション

まずは「特別な配慮」ではなく「標準的な働き方」の一部として仕組みを整えることが重要です。両立支援の取組を行うには、以下のステップが必要です。

ステップ1 取組方針の明確化、取組体制の整備
ステップ2 社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
ステップ3 制度設計・取組の決定
ステップ4 運用
ステップ5 取組実績の確認、見直し

出典:厚生労働省「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」

また、厚生労働省が推奨する不妊治療連絡カードの活用もおすすめです。不妊治療等を受ける労働者と企業との円滑なコミュニケーションを図るツールとして、従業員が主治医の診断に基づき必要な配慮事項(通院時間や勤務制限など)を会社に正確に伝えるための書類です。
参照:厚生労働省 不妊治療連絡カードをご活用ください!

まとめ

不妊治療等の両立支援は、「優遇」ではなく「人材の確保」です。従業員が人生の困難に直面した際、会社がそっと背中を支える仕組みを持つことで、組織への信頼とエンゲージメントが高まります。

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