「相続登記の義務化」の概要と注意点
公開日:2024年8月30日
法改正
令和6年(2024年)4月1日から相続登記の申請が義務化されました。この「相続登記の義務化」については、施行日(令和6年4月1日)前に発生した相続も対象となり、義務違反の場合には過料処分となることに注意が必要です。
今回は法改正の概要や注意点、遺産分割協議が整わない場合の対応などについて解説します。
相続登記義務化の背景
不動産登記簿を見ても所有者又は所有者の所在が直ちに判明しない土地が、平成29年(2017年)の地積調査で約2割あることが分かりました。所在が判明しないことは、土地の適正な利活用を阻む社会問題となっています。特に、近年の自然災害の増加により、喫緊の課題として認識されるようになりました。
所有者又は所有者の所在が直ちに判明しない土地のうち2/3が相続登記未了、1/3が住所変更未了でした。そこで、相続登記及び住所変更登記手続きが、義務化されることになりました。
出典:法務省「所有者不明土地の解消に関するパンフレット」
改正法の内容
(1)相続登記の義務化及び相続登記を促す制度の導入
① 相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)
・相続により不動産を取得した者に対する、3年以内の登記申請の義務化
・義務違反の場合には、10万円以下の過料処分
② 相続登記手続の負担軽減(令和6年4月1日施行)
・「相続人申告登記」による申告義務履行のみなし制度の創設
・相続人に対する遺贈について、受遺者による単独申請
・法定相続での相続登記後の更正登記について、登記権利者による単独申請
・登録免許税の減税
③ 「所有不動産記録証明制度」の創設(令和8年2月2日施行)
・被相続人等の所有名義不動産を網羅的に把握する制度により、相続登記の漏れを防止
(従来、被相続人の所有不動産の検索方法は、市区町村別の名寄せ帳等で検索するしかなかったが、今後、法務局で氏名・住所等で網羅的に検索することが可能となる。)
(2)住所等変更の登記申請の義務化及び環境整備
① 住所等変更の申請義務化(令和8年4月1日施行)
・氏名若しくは名称又は住所の変更日から2年以内に、変更登記の申請義務付け
・義務違反の場合には5万円以下の過料処分
② 住所等変更登記手続の簡便化(令和6年4月1日施行)
・登記官が住民基本台帳ネットワークと連携し、変更情報を入手し本人の申出を経て職権登記
③ 外国に住所を有する登記名義人の連絡先を登記事項に追加(令和6年4月1日施行)
④ DV、ストーカー等に対して、住所情報を秘匿する仕組みの導入(令和6年4月1日施行)
(3)不動産利用促進のための制度の導入(令和8年4月1日施行)
・登記名義人の死亡情報及び氏名、住所等の変更情報を登記に反映させる制度の導入
(4)登記と住民票や商業登記簿との連携のための登記名義人特定情報の提供(令和8年4月1日施行)
① 自然人:生年月日等を登記申請情報に追加
② 法人:会社法人等番号を登記申請情報に追加
出典:法務省「所有者不明土地の解消に関するパンフレット」
施行日
(1)相続登記の義務化:令和6年(2024年)4月1日
(注意)施行日よりに前に発生した相続についても、施行日後3年以内の相続登記を義務付け
(2)住所等変更の登記申請の義務化:令和8年(2026年)4月1日
(注意)施行日よりに前に発生した住所等変更等についても、施行日後2年以内の住所等変更の登記を義務付け
実務への影響
(1)不動産の相続を知った日から3年以内に遺産分割協議を終えて、相続登記を申請することが必要
(2)不動産の相続を知った日から3年以内に遺産分割協議が整わない場合には、「法定相続登記」をするか、「相続人申告登記」を活用することが必要
参考:相続登記の義務化に関する詳細説明
(1)基本的義務(改正不動産登記法§76条の2第1項)
相続や遺贈により不動産を取得した相続人に対して、自己に相続がありかつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を義務化した。
⇒ 法定相続登記又は遺贈の登記。これらの登記は、相続人一人からでも申請可能。
(2)遺産分割成立時の追加的義務(改正不動産登記法§76条の2第2項、§76の3第4項)
3年以内に遺産分割協議が整った場合には、その内容にそった相続登記申請を行う。
⇒ 実務で最も多いパターンと思われる。
(3)相続人がすべき登記申請の具体的な内容
① 遺言書がある場合 ⇒ 遺言書に従った、相続又は遺贈の登記申請を行う。
② 遺言書がなく法定相続人が複数いる場合
・ 遺産分割が3年以内に整った場合 ⇒ 相続登記申請を行う。
・ 遺産分割が3年以内にできなかった場合 ⇒ 「法定相続による登記申請」又は「相続人申告登記※」のいずれかを選択。いずれも相続人一人から申請可能。
(注意)3年以内に相続登記をしない場合でも「正当な理由」があれば過料は免れるが、この「正当な理由」とは「相続人が重病等」である場合であり、「遺産分割協議ができなかった」ことは「正当な理由」とはならない。
※「相続人申告登記」とは?
相続登記の義務化に伴い新設された制度。相続開始から3年以内に遺産分割協議が整わない場合も、過料を科せられる可能性がある。この制度では、申請義務の履行期間内(3年以内)の申出により、当該申出人について相続登記申請義務を履行したとみなして、その氏名・住所等を登記官が職権で登記する。登録免許税もかからない。
<申出事項>
① 不動産の所有権の登記名義人について相続が開始した旨
② 自らがその相続人である旨
<必要書類>通常の相続登記のような被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等は不要。
① 不動産の所有権の登記名義人が死亡した記載のある戸籍謄本等
② 申出人が不動産の所有権の登記名義人の相続人であることを証する戸籍謄本等
【参考情報】
寄稿:司法書士・行政書士 星野リーガル・ファーム
発行:MS&AD経営サポートセンター