警察庁が注意喚起するノーウェアランサムとは

公開日:2023年12月8日

サイバーリスク

警察庁は2023年9月21日、「令和5年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」を公開しました。2014年上半期から半期に1回、サイバー犯罪やサイバー攻撃等のサイバー空間の脅威について、事例や統計データ等とともに警察の施策等を警察庁が取りまとめ、掲載しています。2023年上半期の脅威情勢のうち、ランサムウェア被害が依然高水準であること等を挙げています。

ランサムウェア被害

企業・団体等におけるランサムウェア被害として、2023年上半期に都道府県警察から警察庁に報告のあった件数は103件あり、警察庁は被害にあった企業・団体等にアンケート調査を行いました。アンケート調査の結果、ランサムウェアの感染経路は、VPN機器からの侵入が71%、リモートデスクトップからの侵入が10%を占め、これらテレワーク等に利用される機器等の脆弱性や強度の弱い認証情報等を利用して侵入したと考えられるものが82%だったことが判明しました。

最近の事例として、企業・団体等のネットワークに侵入し、データを暗号化する(ランサムウェアを用いる)ことなくデータを窃取した上で、企業・団体等に対価を要求する手口(「ノーウェアランサム(No-ware Ransom)」)による被害が、新たに6件確認されたことが示されています。

これまでのランサムウェア攻撃ではマルウェアによる暗号化スクリプト実行時にEPP*やEDR**によって検知されるケースもありましたが、ノーウェアランサムはその名のとおり、マルウェアを使わないため、検知されにくいです。さらに本手法は、攻撃者にとって比較的容易で、ローコスト・ローリスクであり、今後、本手法による被害が増加していくことが予想されます。

近年、事業継続に大きな影響をおよぼす、深刻なランサムウェア攻撃被害が日本国内でも多数発生しており、「バックアップの取得」の重要性がうたわれていますが、データの暗号化をしないノーウェアランサムにおいてはこの対策は無力です。攻撃者の手法は多様化しているため、もちろんバックアップの取得とデータリストアの訓練実施は引き続き必要ですが、データ窃取の防止には「組織内に侵入させない」、「侵入された後の不審な挙動を検知・ブロックする」などの多層的な対策が必須となります。

  • * Endpoint Protection Platformの略。ウイルス対策ソフトなどマルウェア感染を防止することに特化した製品。
  • ** Endpoint Detection and Responseの略。ウイルス対策ソフトで検知できず侵入された脅威(不審な挙動)を検知した
  •   り、当該製品が収集するログを元にマルウェアの侵入経路を特定する調査に活用する。

MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2023年11月(第8号)を基に作成したものです。

関連記事

英国NCSCがサイバーガバナンス実施規範を公表

2025年8月8日

サイバーリスク

2024年は中小企業のランサムウェア被害が増加、警察庁報告書

2025年7月23日

サイバーリスク

医療機関におけるサイバーBCP訓練・演習実施のポイント

2025年7月11日

自然災害・事業継続

サイバーリスク

中小企業の情報セキュリティ体制、未だ不十分 IPAが調査結果公表

2025年7月4日

サイバーリスク

給与デジタル払いとは?基本的な仕組みと導入のメリット・デメリットを解説

2025年5月26日

サイバーリスク

おすすめ記事

企業の地震対策は何から始めるべき?被害を抑えるためのポイントと備蓄品リストを紹介

2025年8月18日

自然災害・事業継続

採用戦略とは?立案の流れとポイントを事例とともに解説

2025年7月28日

人手不足

トランプ関税が日本に与える影響とは?中小企業経営者が知っておくべきリスクと対応策

2025年7月14日

その他

介護手当とは?受給条件やその他の手当を解説

2025年6月23日

健康経営・メンタルヘルス

子ども・子育て拠出金とは?制度の仕組みや計算式、課題点を解説

2025年6月16日

人事労務・働き方改革

週間ランキング

6月から義務化(罰則付き)となった「職場の熱中症対策」のポイント

2025年6月13日

人事労務・働き方改革

自然災害・事業継続

改正育児・介護休業法 ~令和7年10月1日施行編~

2025年3月28日

人事労務・働き方改革

「個人から法人への非上場株式の譲渡における注意点」

2024年11月22日

その他

休職中の社員の社会保険料負担

2023年7月28日

人事労務・働き方改革

弁護士が解説!企業が問われる法律上の賠償責任とは ~店舗・商業施設における訴訟事例~

2024年5月15日

その他