令和9年度介護報酬改定を見据えて ~これからの介護事業経営に求められる視点とは~
公開日:2026年8月5日
経営に関する全般
法改正

本ニュースでは、個別具体的な議論が開始された令和9年度介護報酬改定や介護サービスを取り巻く環境を整理し、介護事業者が目指すべき経営戦略について解説します。
介護報酬改定の大きな流れ
日本は既に総人口の内29%以上が65歳という「超高齢社会」に突入しています。高齢者の人口自体も2040年まで上昇を続ける見込みとなっており、シニアマーケットは拡大の一途を辿っています。それに伴い介護分野における社会保障費も増大しており、介護保険市場自体も拡大を続けているといって良いでしょう。
一方で、介護報酬そのものは、増大する社会保障費との関係から全てのサービス類型において大幅な上昇が見込める状況ではありません。近年の介護報酬改定時の改定率は一見概ねプラスとなっていますが、それは処遇改善によって底上げされたものとなっています。事業収益はむしろ減ってしまうという構造になっており、物価高騰等の影響もあいまって、介護事業経営は厳しさを増していると言ってよいでしょう。

出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
2027年(令和9年)には介護報酬改定が予定されています。2025年12月に取りまとめられた「介護保険制度の見直しに関する意見」においては、
Ⅰ 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築
Ⅱ 地域包括ケアシステムの深化
Ⅲ 介護人材確保と職場環境改善に向けた生産性向上、経営改善支援
Ⅳ 多様なニーズに対応した介護基盤の整備、制度の持続可能性の確保
の大きく4つのテーマについて言及されています。令和9年度改定にも、ここに提示された考えがある程度反映されてくることになります。
サービス類型ごとの取るべき基本の経営戦略
各サービス類型の具体的な改定に向けた議論も開始されています。既に議論が開始している主なサービスについて簡単に解説します。
※厚生労働省「第257回・第258回・第259回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料(2026年5月・6月)」を参考に作成
(1)訪問介護
立地、規模、事業形態によって経営状況が異なることが指摘されており、特に収支差率が優れている形態として訪問回数の多い事業所や同一建物減算を算定している事業所が挙げられました。従来の議論の流れも相まって、同一建物に対するサービス提供は今後も減算の方向性に進んでいきそうです。

出典:厚生労働省「第259回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料」(2026年6月)
(2)訪問看護
医療措置の実施割合や質の向上を目的とした加算の算定状況について議論されており、基本的にはこれらをより推進していく方向性になりそうです。また、同一建物に対するサービス提供に対する措置として令和8年度診療報酬改定において訪問看護における同一建物居住者への評価の見直しが引用され、これを踏まえた上での議論が進みそうです。また、理学療法士等によるサービス提供頻度が向上していることにも言及しており、以前おこなわれた減算に加えて追加の措置が検討される可能性もあるかもしれません。
(3)居宅介護支援
シャドウワーク等の課題についてこれまでの議論が整理される一方で「今回の制度改正を踏まえた、住宅型有料老人ホームの入居者に対するケアマネジメント(登録施設介護(予防)支援)に係る事項については、別の回で議論いただくことを想定」とあり、新類型の議論開始はまだ先になることがわかりました。
(4)通所介護
訪問系サービスの請求事業所数、受給者数、サービス費用額が増加傾向にあるのに対し、横ばいか類型によっては減少傾向にあることが示されました。送迎について職員の確保やシフト組み、利用時間の多様化による負担が大きくなっていることについても言及されました。何らかの措置が検討される可能性もあるでしょう。
(5)小規模多機能型居宅介護
人材確保や利用者確保等といった点が課題として挙げられています。利用者確保は継続した課題となっておりますが、現状としてはまだ解決には至っていないというところです。今後の議論がどうなるか注目したいところです。
(6)認知症対応型共同生活介護
「医療ニーズへの対応の更なる強化を図る観点」「介護人材の有効活用を図る観点」について言及されています。認知症対応型グループホームでの医療ニーズ対応はこれまでも推進される流れでしたが今後も継続していきそうです。また、人材の有効活用という観点からは生産性向上の取り組みにつながりやすく、何らかの措置が検討されるかもしれません。
なお、施設系サービスについての議論は記事執筆時点では開始されておらず、また他の類型の議論もまだ開始したばかりです。具体的な改定内容が見えてくるのは秋頃となりますので、注視が必要でしょう。
売上を最大化していくための取り組み
介護報酬改定の議論が始まると、「どの加算が新設されるのか」「どのサービスの報酬が上がるのか」といった点に注目が集まりがちです。しかし、これまでの介護報酬改定の流れを見る限り、制度改正だけで経営環境が大きく改善することは期待しにくい状況です。
また、同一建物減算が強化されそうな傾向を見ると、制度の方向性を理解した運営をおこなうことも重要になります。それは、加算は推進され、減算は抑制されるものであるということです。令和9年度介護報酬改定では事務負担軽減を目的として算定率の低い一部加算の整理等が検討される予定です。その中でも残ったものは特に重要視されている事項だと考え、実施を前向きに検討したいところです。
介護報酬改定を見据えた経営というのは報酬改定への対応だけではなく、現在の制度の中で売上を最大化する仕組みを構築することということもできるでしょう。
近年の改定を振り返っても、医療ニーズの高い利用者、認知症への対応、リハビリテーション、自立支援、看取りなど、より専門性や必要性の高いサービスが評価される方向性が一貫しています。先述の各論においても、訪問看護では医療ニーズへの対応、認知症対応型共同生活介護では医療対応の強化などが議題として挙げられており、こうした方向性は今後も継続すると考えられます。
こういった評価される取り組みを実施しながら報酬改定時のリスクを軽減していきつつ、自社はその中でも特に何を得意としているのか、どのような利用者に選ばれる事業所になるのかという視点でサービスを見直すことが重要になるでしょう。
とはいえ、こうした制度の方向性を踏まえても、介護事業経営そのものが今後大きく楽になることは考えにくい状況です。だからこそ、事業所が自らの取り組みによって改善できる要素に目を向ける必要があります。
その代表が「稼働率」です。報酬単価は制度によって決まりますが、稼働率は事業所の営業活動や地域との関係づくり、サービスの質によって改善できる余地があります。実際、近年は同じ地域、同じサービス類型であっても、安定して利用者を確保し続ける事業所がある一方、利用者確保に苦戦する事業所も少なくありません。その差は立地や偶然だけではなく、自事業所の強みを明確に打ち出し、地域から「このような利用者であれば、まず相談してみよう」と認識される存在になれているかどうかが大きく影響しています。
そのため、改めて自事業所がどのような価値を提供できるのかを整理することが重要です。医療ニーズへの対応、認知症ケア、リハビリテーション、重度者への対応など、自事業所が強みとする分野を明確にし、それを地域の居宅介護支援事業所や医療機関へ継続的に発信していくことが求められます。
また、営業活動についても見直しが必要でしょう。紹介を待つだけではなく、訪問先や報告内容、情報提供の方法、受入体制、利用開始までのスピードなど、一連の営業プロセスを振り返ることで改善できる点は少なくありません。営業を担当者個人の力量に任せるのではなく、組織として再現性のある仕組みを構築することが、安定した稼働率の維持につながります。
介護報酬改定への対応はもちろん重要ですが、それだけで経営が改善する時代ではありません。制度の方向性を理解した上で、自事業所の強みを磨き、地域から選ばれる理由を明確にし、稼働率を維持・向上させる取り組みを継続していくことが、今後の介護事業経営において最も重要な経営戦略の一つとなるでしょう。
運営の効率化と生産性向上
売上の最大化に取り組む一方で、運営の効率化も同時に進めていかなければなりません。介護報酬が大幅に上昇しにくい環境の中では、収益性を高めるためには「売上を増やすこと」と「限られた経営資源をより効率的に活用すること」の両方が求められます。
その中でも、近年一貫して推進されているのが「生産性向上」です。令和9年度介護報酬改定に向けた「介護保険制度の見直しに関する意見」においても、「介護人材確保と職場環境改善に向けた生産性向上、経営改善支援」が大きなテーマとして掲げられており、今後も制度の重要な柱として位置付けられていくことがわかります。
また、近年の介護報酬改定では、生産性向上に関する考え方が様々な制度へ反映されるようになりました。例えば、処遇改善加算の職場環境等要件にもICT活用や業務改善、人材育成などの取り組みが数多く盛り込まれており、生産性向上は一部の先進的な事業所だけの取り組みではなく、介護保険制度そのものを支える考え方になりつつあります。
3 介護職員等処遇改善加算の要件
⑧ 職場環境等要件
処遇改善加算ⅠからⅣまでのいずれかを算定する場合は、別紙1表5に掲げる処遇改善の取組を実施すること。その際、処遇改善加算Ⅰ又はⅡを算定する場合は、別紙1表5の「入職促進に向けた取組」、「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」、「両立支援・多様な働き方の推進」、「腰痛を含む心身の健康管理」及び「やりがい・働きがいの醸成」の区分ごとに2以上の取組を実施し、処遇改善加算Ⅲ又はⅣを算定する場合は、上記の区分ごとに1以上の取組を実施すること。また、処遇改善加算Ⅰ又はⅡを算定する場合は、同表中「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」のうち3以上の取組(うち⑰又は⑱は必須)を実施し、処遇改善加算Ⅲ又はⅣを算定する場合は「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」のうち2以上の取組を実施すること。(略)
出典:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和7年度分)」
一方で、現場を見ると、生産性向上への取り組みには大きな差があります。ICTや業務改善、業務の標準化などを積極的に進め、職員の負担軽減や業務効率化を実現している事業所がある一方で、「忙しいから手が付けられない」と、これまでと同じ業務の進め方を続けている事業所も少なくありません。
しかし、今後の介護事業経営を考えると、この差はさらに広がる可能性があります。仮に営業活動が成功し、利用者を増やすことができたとしても、それを支える人材が確保できなければサービスは提供できません。人材不足が一層深刻化していくことが見込まれる中、生産性向上に取り組まないこと自体が経営上のリスクになっていくでしょう。
制度の方向性を見ても、今後の経営環境を見ても、生産性向上は「できれば取り組みたい施策」ではなく、「事業を継続するために取り組まなければならない経営課題」と言えるのではないでしょうか。
中長期的な見通しと経営戦略
令和9年度介護報酬改定の具体的な内容は今後も議論が進められ、秋頃には徐々にその方向性が明らかになってくるものと思われます。しかし、これまでの議論を見ても、制度の細かな見直しはあっても、介護保険制度全体が目指す方向性に大きな変化はありません。
医療ニーズへの対応や自立支援の推進、生産性向上、人材確保など、国が重点を置くテーマは一貫しています。介護事業者としては、改定内容そのものを追いかけるだけではなく、その背景にある考え方を理解し、自事業所の経営へ反映していくことが重要になるでしょう。
今後の介護事業経営は、制度改正によって経営環境が大きく好転することを期待する時代ではありません。制度の方向性を踏まえながら、自事業所の強みを磨き、地域から選ばれる仕組みをつくること、そして限られた人材で質の高いサービスを提供できる体制を整えていくことが、これまで以上に求められます。
令和9年度介護報酬改定は、そのための準備を進める良い機会でもあります。改定内容への対応だけにとどまらず、自事業所の経営を見つめ直し、中長期的な視点で経営基盤を強化していくことが、これからの介護事業経営において重要な視点となるでしょう。
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以上

















