弁護士が解説!【2026年10月1日施行】同一労働同一賃金ガイドライン改正に伴う実務対応と経営者・人事部門が検討すべきこと
公開日:2026年8月19日
人事労務・働き方改革

パートタイム・有期雇用労働者の待遇改善を進めるため、「同一労働同一賃金」に関する施行規則と告示が改正されます。<2026年10月1日施行・適用>
主な改正事項は以下のとおりです。
・雇い入れ時の労働条件明示事項の追加(省令)
・同一労働同一賃金ガイドライン(以下、単にガイドラインという)の改正(告示)
・雇用管理の改善等に関する措置内容の改正(告示)
※改正後の同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)は、本稿末尾の【参考資料】をご参照ください。
本稿では、ガイドライン改正に伴う実務対応や経営者・人事部門が検討すべきことについて解説いたします。
はじめに
同一労働同一賃金とは、正社員とパートタイマー・有期雇用労働者など非正規社員の待遇差を改善するために設けられたものです。インターネットで配信される記事などを見ると、「賞与や退職金も正社員と一緒にすべき!?」などと、過剰コンプライアンスとも言えるものが散見されます。これを見て、「我が社もパートタイマー全員に正社員と同額の退職金を出さないとマズいのか」と身構えた経営者・人事の方も多いのではないでしょうか。
しかし、結論から申し上げると、慌てて非正規社員の全ての待遇を正社員の待遇に揃える必要はありません。
同一労働同一賃金の本質は「手当があるかないか」ではなく、「待遇差の理由をきちんと説明できるか」にあります。賃上げと人手不足が同時に進むいま、待遇差の理由を説明できない場合、採用や定着にも悪影響を与えます。だからこそ、ここで方向を間違えないように、本稿では、経営者・人事が本当に意識すべき点と、逆にそこまで気にしなくてよい点を、実務視点で整理します。
そもそも、何が「不合理」とされるのか
同一労働同一賃金とは、正社員と非正規社員との間の「不合理な」待遇差を禁止する制度です。ここで二つ、前提を押さえておきましょう。
一つは、待遇は項目ごとに比べるということ。「年収トータルで見れば大差ない」という説明は通りません。基本給、賞与、各種手当……それぞれを切り分けて、それぞれに正社員と非正規社員との待遇に差がある場合、その差ごとに理由が問われます。

もう一つは、求められているのは差が「不合理でない」ことであって、「合理的」であることまでは要求されていない、という点です。この判断は、①業務内容、②責任の程度、③配置変更(異動・転勤)の範囲、④その他の事情、という4つの要素で行います。要するに、この4要素に照らして「説明がつかない」差が「不合理」とされやすい、ということです。
例えば、同じトラックドライバーで、正社員も非正規社員も同じように毎日事故なく安全に乗務しているのであれば、無事故手当に差をつける理由はありません。通勤手当も、正社員だろうと非正規社員だろうと「通勤」する以上、差をつける説明は難しいでしょう。
逆に、正社員と非正規社員を比べ、業務内容、責任の程度、配置変更の範囲について実際に異なるのであれば、業務手当や賞与などの待遇に差があってもおかしくないことになります。

出典:「パートタイム・有期雇用労働法の概要(厚生労働省)」より抜粋
ガイドラインに振り回されないために
ここで、改正ガイドラインの読み方を確認しておきます。そもそも、ガイドラインはあくまで告示、つまり行政の解釈であって、法律そのものではありません。最終的に待遇差が不合理かどうかを決めるのは裁判所です。ガイドラインに並ぶ「問題となる例/問題とならない例」も、典型例を示したものにすぎません。
しかも、このガイドラインには以前から一つクセがありました。実務でめったに起きないようなケースは事細かに「これはOK、これはNG」と記載される一方で、「賃金制度そのものが正社員と非正規で違う(例えば、月給か時給かの違い)」という現場で多く見られるケースについては、曖昧なままだったのです。
今回の改正では、従前脚注にわずかに記載されていたこの部分が本文へ昇格し、賃金制度それ自体の違いについても、「将来の役割期待が違うから」といった主観的・抽象的な説明では足りず、実態に即して客観的・具体的に説明せよ、と明確化されました。
問われているのは「賃金制度を一本に統一したか」ではなく、「正社員と非正規社員で制度が違うことに、きちんと説明がつくか」です。業務内容、責任の程度、配置変更の範囲の違いから、正社員と非正規社員の役割相違を明確にすることが先決です。逆に言えば、非正規社員に正社員とほぼ同じ仕事をさせていて、転勤もないなかで「パートタイマーだから」という理由だけで待遇が異なるケースは危険です。
今回のガイドライン改正で会社が実務的に検討すべき点
今回のガイドラインで改正された記載については、7項にまとめておきますが、まずは全体感として対応が必要な点を挙げます。
第一に、説明義務の強化です。労働者から待遇差の理由を尋ねられたのに、会社が何も説明できず、均等・均衡への配慮もないまま一方的に賃金を決めていた。このような場合、その待遇差は「不合理」と推認される可能性があります。つまり、待遇差の説明ができない(しない)こと自体がリスクになるのです。この説明は、聞かれてから慌てて考えても間に合いません。日頃から「なぜこの待遇差があるのか」を自社の言葉で発信できるようにしておきましょう。
第二に、抽象論はではなく、具体的な説明方法を検討する必要があります。「将来の役割期待が違う」、「優秀な人材を確保・定着させるため」だけではなく、①業務内容、②責任の程度、③配置変更の範囲、④その他の事情という同一労働同一賃金の判断要素に照らして具体的に説明方法を検討していく必要があります。
「パートタイマーだから」は、もはや待遇差の理由にならないのです。
第三に、名目と実態をそろえることです。例えば、「転勤があるから正社員にだけ住宅手当を払う」という建前がある場合に、正社員も含めて誰も転勤させていなければ、その待遇差は説明がつきません。名目(建前)と実態(運用)がズレている会社ほど、不合理性が高まります。
第四に、定年後再雇用も「定年後だから」という理由では対応できません。定年後再雇用者(嘱託社員)も同一労働同一賃金の対象です。例えば、退職金については定年時に一度支給しているので嘱託社員を不支給とするのはOKですが、賞与については嘱託社員の貢献度がゼロでない限り、少額支給は検討した方が良いでしょう。
また、手当についても「(嘱託社員となって)転勤がなくなったから住宅手当を外す」といった個別の理由があれば不支給でもOKですが、嘱託社員となった以降も毎日同じように会社へ通勤するのであれば、通勤手当は払う必要があります。
第五に、長く勤める非正規社員への「ゼロ」は危ない、という点です。10年、20年と勤めてきた非正規社員に、賞与や退職金を一律ゼロというのは、説明が困難です。正社員と全く同じ金額にせよとは言いませんが、賞与なら貢献がゼロでない限り何らかの形で報いる、退職金なら「慰労金」のような別枠を用意する、といった検討は必要でしょう。
冷静に対応すべき点
一方で、ガイドラインの内容によって、機械的に正社員と非正規社員の待遇を揃えにいくほうが企業力を弱くします。
「ガイドラインに載っている手当を全部パートタイマーにも支給しなければ」と考える必要はありません。問題となるのは、正社員と非正規社員が同じ仕事・同じ責任・人事異動の範囲も同じなのに、待遇に差をつける場合だけです。業務内容、責任の程度、配置変更の範囲が違うのであれば、合理的な範囲で差があってよいのです。
また、業務内容、責任の程度、配置変更の範囲が異なるのであれば、休暇の日数に傾斜をつける(例:正社員:5日・非正規社員:3日など)といった設計の余地も残されています。
そして、最終的に企業の総額人件費で考えた場合、非正規社員の待遇を上げるのか、正社員の待遇を下げるのかについては、実は法律の定めはありません。そのため、労働条件の不利益変更(労働契約法10条)の問題は残りますが、ある企業では、待遇差が不合理とされた住宅手当について、労働組合と協議した上で、経過措置期間を設けて正社員の同手当を廃止した、という対応もあり得るのです。
現実には「財布は一つ」です。ない袖は振れない以上、非正規社員の待遇を手厚くするなら、正社員の待遇を「上げない」という選択になる企業も出てくるでしょう。きれいごとだけではなく、限られた賃金原資をどのように配分し、その配分にどのように説明をつけるかを労使で検討すべきです。
なお、フルタイムで働く無期雇用のパートタイマーや勤務地限定正社員などは、形式的にはこの規制の直接の対象ではありません。とはいえ、この人手不足の時代に「規制の対象外だから」と放置するのは得策ではないでしょう。自主的に、規制対象外の社員の待遇も整え、説明できるようにしておくことが、人材の確保・定着の観点からは重要です。
まず、何から手をつけるか
やるべきことは、すぐに制度改定をすることではなく「待遇の棚卸し」です。自社の手当・賞与・退職金・休暇・福利厚生を一つ一つ書き出し、それぞれ何のための待遇か、趣旨目的を言語化します。
そのうえで、正社員と非正規社員で業務内容、責任の程度、配置変更の範囲がどう違うのかを整理し、名目と実態がズレていないかを点検し、不合理な相違がないかをチェックしましょう。説明できない待遇差があるか、という観点から見直して下さい。
改正ガイドラインは、押しつけられるルールではありません。自社の人事制度を見直すための、いわば「点検リスト」です。正社員と非正規社員の待遇を揃えることがゴールなのではなく、非正規社員を含めた御社の社員に待遇を説明できることがゴールなのです。
この一点さえ外さなければ、改正ガイドライン施行後に迷うことはありません。
待遇別・対応の目安
最後に、改正ガイドラインの内容で実務上よく問題になる待遇について、考え方の目安を一覧にしておきます。

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(※)週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング2022」人事・労務部門1位















