企業の7割が新卒「初任給引き上げ」平均引き上げ額は9,114円
公開日:2025年3月12日
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2025年4月入社の新卒社員に支給する初任給を前年度から引き上げる企業の割合は 71.0%と 7 割に達しました。人材確保や物価高騰、最低賃金の上昇に併せての対応が背景にあります。引上げ額の平均は全体で9,114円です。一方で、29.0%の企業が初任給を引き上げないと回答しました。
初任給額は「20万~25万円未満」が6割でトップとなりました。初任給が『20万円未満』の企業割合は前年度より低下しました。
企業の7割が初任給を引き上げ、平均引上げ額は 9,114 円
2025年4月入社の新卒社員に支給する初任給1を前年度から改定したかどうか尋ねたところ、初任給の引上げ有無を回答した企業のうち、「引き上げる」企業の割合は 71.0%と 7 割に達しました。一方で、「引き上げない」は 29.0%でした。
引上げ額を回答した企業では、引上げ額「1万~2万円未満」の割合が41.3%で最も高く、次いで「5 千~1万円未満」(30.7%)が続きました。なお、初任給を引き上げる平均額は 9,114 円でした。

初任給を引き上げる企業からは、「物価上昇のなか、社員の生活のために初任給を引き上げる」(中小企業、情報サービス)や「最低賃金の上昇に合わせて引き上げている」(小規模企業、農・林・水産)といったコメントがあがりました。
また、「応募が来ないため引き上げるが、固定費が上がるのは中小企業にとってかなり死活問題」(小規模企業、建材・家具、窯業・土石製品製造)のように、コストアップにより経営が圧迫されるとの声も複数聞かれました。
ほかにも、「初任給の引き上げにともない、既存の若手社員との逆転現象が起こらないよう給与の引き上げを行う」(大企業、飲食料品・飼料製造)や、「物価高による既存社員の生活への影響を考慮して全体の賃上げも行う」(中小企業、情報サービス)のように、初任給の引上げを契機に、既存社員の賃上げを行う予定または今後の課題としてあげた企業も多数ありました。
一方で、初任給を引き上げない企業からは、「物価が上昇中で利益が出ない状態のため、初任給引き上げの原資がない」(小規模企業、不動産)といった、厳しい様子がうかがえました。
また、「前年度にすでに引き上げたため、今年度は行わない。その代わりに既存社員の賃上げを行い、新卒社員との差をつける」(中小企業、専門サービス)といった声も聞かれました。
¹初任給は、HP や求人票に明示していた、メインとなる学歴・職種の、2025 年 4 月に新卒枠で採用する社員への月給を指す
初任給を引き上げる中小企業の割合高まる「小規模企業」は全体を8.8ポイント下回る
「初任給を引き上げる」と回答した企業の割合を規模別にみると、「中小企業」は 71.4%で、「大企業」(69.6%)よりも高くなりました。一方で、「小規模企業」は 62.2%と全体を 8.8 ポイント下回り、規模間で格差がみられました。
「大企業」からは「昨年引き上げたため、今年は様子をみる」(専門サービス)といった声がある一方で、「中小企業」からは、「最低賃金の改定を参考にして初任給の引き上げを行う」(建設)や、「大手企業とは違い苦しいが、元々支給額が低いため、物価高に合わせた賃上げを検討」(飲食料品卸売)といったコメントがあり、厳しいながらも大企業を中心に加速している賃上げの流れについていくために、中小企業では初任給を引き上げる動きが強まっているとみられます。
しかし、資金余力が比較的乏しい「小規模企業」においては、「物価上昇や薬価改定により減収減益のため、初任給引上げは行わない」(医薬品・日用雑貨品小売)等の声が聞かれ、経営が苦しいため引上げに踏み切れない企業は少なくありませんでした。

初任給『20万円未満』は 24.8%で、前年度から10.4ポイント減「25万~30万円未満」も2ケタへ上昇
2025年度の初任給の金額を尋ねたところ、「20万~25万円未満」の企業の割合が 62.1%で最も高く、前年度²比 4.7 ポイント増となりました。次いで「15万~20万円未満」(同 8.7 ポイント減)が 24.6%で続き、「25万~30万円未満」(11.4%)は 2 ケタへ上昇しました。
『20万円未満』は 24.8%と、前年度(35.2%)より10.4 ポイント低下しており、初任給の上昇傾向がうかがえました。大手企業で増えている「30万円以上」は1.7%と前年度(0.2%)から1.5ポイント上昇しました。

²2024年 4月入社における初任給に関する調査「<緊急調査>2024 年度賃上げ実績と初任給の実態アンケート」 (2024 年 4 月 18 日発表)より

まとめ
本調査で企業の71.0%が、2025年4月入社の新卒社員の初任給を引き上げることが分かりました。初任給を引き上げる企業の割合を規模別にみると、「小規模企業」は全体を8.8ポイント下回り、規模間での格差がみられました。引上げ額は、「1万~2万円未満」と回答した企業が41.3%で最も高く、平均額は 9,114 円でした。
初任給額は、「20万~25万円未満」が 62.1%でトップでした。また、初任給が『20万円未満』の割合は前年より10.4 ポイントも低下しました。このように、初任給を引き上げる動きが強まっていますが、その背景には物価高騰への対応、さらには最低賃金の上昇に伴う調整があると考えられます。
物価の上昇が続くなか、初任給の引上げは新たな人材確保には必要ですが、既存社員の給与とのバランスをとることも重要³であり、人件費の総額を増やす施策も必要となってくるでしょう。しかし、原材料費の高騰によるコストアップや物価上昇に伴う消費の停滞等厳しい経営環境のなかで、特に中小企業が賃上げのための原資を確保することは容易なことではありません。
実際、本調査の結果では人材確保のために苦渋の選択を迫られ、苦しいながらも賃上げを行った中小企業も多くみられます。こうした状況下、重要なカギとなるのは中小企業における“価格転嫁の進展”です。取引先との関係性・情報共有の強化等価格転嫁を行いやすくする工夫等企業努力とともに、それをサポートする政府・行政の多岐にわたる支援策の実施も肝要でしょう。
³ある研究によると、優秀な社員ほど新入社員より給与が低いと会社を辞めてしまう可能性が高まる(“New Facts About Pay: A data-based approach to smart compensation decisions”, Visier Insights Report, 2023)
調査先企業の属性
1.有効回答企業:1,519 社

2.企業規模区分
中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加え、下記のとおり区分。

株式会社帝国データバンク発行の「初任給に関する企業の動向アンケート(2025年度)」(2025年2月14日)を基に作成したものです。