「個人から法人への非上場株式の譲渡における注意点」

公開日:2024年11月22日

その他

【このビジネスニュースで分かること】
○個人から法人へ非上場株式を譲渡する場合に、経済合理性のない譲渡額で売買した場合、個人・法人ともに思わぬ課税問題が生じるリスクがある。
○個人が法人に対して、時価の2分の1未満の譲渡価額で非上場株式を譲渡した場合、時価で譲渡があったものとみなして税務上取り扱われる。
○個人から法人へ非上場株式を譲渡した場合、株式の税務上の時価評価には4つのパターンがあるが、多くの場合、法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額で評価される。
○法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額は、
財産評価基本通達の「取引相場のない株式等の評価」の規定を準用して計算する。

はじめに

個人から法人への非上場株式の譲渡は、例えば経営に関与しなくなった兄弟家族からの集約や親族外の役員への承継など親族間で行われることが多く、その場合、株式の「売買金額」が問題になります。M&Aなど第三者との取引であれば、売主と買主で正常な交渉過程を経て譲渡額が決定されますが、親族や親族が経営する法人間など特殊な関係にある当事者間では、身内の取引ということで経済合理性のない譲渡額で売買することができてしまうからです。
しかしながら、経済合理性のない譲渡額での取引には、結果として思わぬ課税問題が生じるリスクがあるため、十分な注意が必要です。
そこで今回は、税理士法人タクトコンサルティングに寄稿いただき、個人と法人との間で行われる非上場株式の譲渡における税務上の注意点をお伝えします。

時価よりも低い金額で譲渡があった場合の課税関係

・個人が法人に対して、時価の2分の1未満の譲渡価額で非上場株式を譲渡した場合は株式の時価で譲渡があったものとみなして、譲渡所得を計算します(所得税法59条第1項2号、所得税法施行令169条)。
・売主個人は時価相当の対価を収受していないにもかかわらず、時価で譲渡したものとした税負担が生じます。
・時価の2分の1以上の譲渡価額であっても、同族会社等の行為又は計算の否認の規定に該当する場合には、時価で譲渡したものと取り扱われる可能性があります。(所得税基本通達59-3)。
・また、買主である法人においては、譲渡価額が時価の2分の1未満かどうかにかかわらず、譲渡価額が非上場株式の時価よりも低い場合には、その差額が受贈益とされ、法人税の計算上、益金の額に算入されます(法人税法22条第2項)。
・実務上は、上記のような税務上の課税問題を避けるため、国税庁の通達※に定められた方法に基づき算定した金額をもって、取引を行うことが一般的です。
※「2.売主個人における非上場株式の時価」をご参照ください。

売主個人における非上場株式の時価

個人が法人に非上場株式を譲渡したときの株式の税務上の時価について、国税庁通達は次の区分に応じて時価を定めています(所得税基本通達59-6、23~35共-9(4))。

(1)その非上場株式について売買実例がある場合
・最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額
(2)公開途上にある株式で、上場に際して株式の公募等が行われるもの((1)に該当するものを除く)
・入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額
(3)売買実例のないもので、その株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額がある場合
・その類似する他の法人の株式の価額に比準して推定した価額
(4)「上記(1)~(3)」に該当しない場合
・その株式の譲渡日又は同日に最も近い日における、発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

上記(1)~(3)に該当するケースは稀なため、たいていの非上場株式は(4)に該当し、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」として算定することになります。

財産評価基本通達の準用

上記2.(4)「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、相続税や贈与税の計算に使用される財産評価基本通達の「取引相場のない株式等の評価」の規定を準用して計算します。

(1)「同族株主」等に該当するかどうかは、株式を譲渡した個人の譲渡直前の保有株式数により判定する
・相続税等の計算における評価では、相続人や受贈者の取得後の株式数で判定を行いますが、本計算においては譲渡直前の株式数で判定を行うことが要求されています。
(2)株式を譲渡した個人が株式の発行会社にとって「中心的な同族株主」(譲渡直前の保有株式数により判定)に該当する場合
・その発行会社は常に「小会社」として計算します。
・また、「小会社」として計算する株価は、原則として清算価値に着目した「純資産価額」で評価します。ただし、納税義務者の選択により、同業種の上場会社の株価をベースに配当・利益・純資産の要素を比準させて計算した「類似業種比準価額」を半分織り込み、「類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5」の算式により計算した価額を評価額とすることも可能です。
(3)1株当たりの純資産価額の計算に当たり、株式の発行会社が土地等または上場有価証券を有しているときは、これらの資産については譲渡時の時価とします。
(4)1株当たりの純資産価額の計算に当たり、評価差額に対する法人税額等相当額は控除しません。相続税等の計算における「純資産価額」の計算では、清算を仮定して、含み益に相当する金額について法人税等(37%)の控除をすることが可能ですが、本計算においては控除することができません。

その他評価上の注意点

上記で説明した所得税基本通達59-6は、令和2年3月24日付の最高裁判決を受けて、その取扱いを明確化するために、一部改正がなされたものです。その際に公表された趣旨説明の中にも、今後の実務の参考になる考え方が示されていますので、重要な部分をご紹介させていただきます(令和2年9月30日資産課税課情報第22号「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について」の趣旨説明(情報))。

(1)類似業種比準価額の計算における、しんしゃく割合の明確化
・類似業種比準価額の計算過程において、上場会社と評価対象会社の格差を反映する目的で、しんしゃく割合(会社規模に応じて、大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5)を乗じることになりますが、上記3.(2)で常に「小会社」として計算される場合、しんしゃく割合も常に0.5になるのか、という疑問がありました。この点について、「小会社」として計算する場合も、しんしゃく割合まで常に0.5とするものではない(本来の会社規模のしんしゃく割合に応じる)ことが明らかにされました。
(2)純資産価額の計算における、評価対象会社の子会社株式の評価方法の明確化
・純資産価額の計算で、評価対象会社が非上場の子会社株式を保有している場合、その子会社株式の評価も上記3.(2)の「小会社」として評価するのか、という疑問がありました。この点について、評価対象会社がその子会社の「中心的な同族株主」に該当する場合には、その子会社株式についても「小会社」として評価するのが相当という考え方が示されました。

まとめ

個人から法人への非上場株式の譲渡は、株式承継の現場で頻繁に発生する取引になります。身内の取引ということで、ルーズな金額で株式の売買がされ、結果として税務上の評価額よりも相当低いという例も散見されますが、思わぬ課税問題が生じる可能性がありますので、慎重にご検討いただければと思います。

(発行:税理士法人タクトコンサルティング)

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