ストレスチェック結果を活用した職場環境改善(メンタルヘルス対策を中心に)

公開日:2023年9月6日

健康経営・メンタルヘルス

■ ストレスチェック制度開始から7年目を迎えましたが、ストレスチェックの結果を職場環境改善に活かしきれていないケースも多いと言われています。
■ まずは、ストレスチェック集団分析の見方や活用方法など基本的な情報を再確認します。
■ その上で、職場環境改善のヒントとなるよう、職場での取組事例を紹介します。
■ 今回は、メンタルヘルス対策を主眼に置いて解説します。

ストレスチェック結果活用の実態

ストレスチェック制度開始から2023年で7年目を迎えます。厚生労働省の2021年「労働安全衛生調査(実態調査)」では8割以上の企業がストレスチェックを実施していると回答し、制度が定着してきたことが伺えます。一方で、別の調査では、職場環境改善を経験したことがあるものはわずかであるという報告もあります(厚生労働省委託事業『ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業 報告書』2022年3月)。ストレスチェック制度の目的は、①労働者がストレスの程度を把握し、自身のストレスの気づきを促すことと、②職場環境改善につなげ、働きやすい職場づくりを進め、メンタルヘルス不調者発生を未然防止することです。特に②の実現においては、職場の状況に応じた適切なアクションを継続的に行う必要があります。では、ストレスチェックを効果的に運用し、職場環境の改善を実現するためにはどうすればよいでしょうか。今回はメンタルヘルス対策を主眼に見ていきます。

ストレスチェック集団分析結果の見方

ここでは、一般的に用いられる職業性ストレス簡易調査票を用いた集団分析結果を例に挙げます。

(1)仕事のストレス判定図

ストレスチェック集団分析でよく用いられる「仕事のストレス判定図」とは、事業場全体、部や課、作業グループなどの集団を対象として仕事のストレス要因の程度と、これらが労働者の健康に与える影響の大きさを評価する方法です(図1) 。具体的には、「職業性ストレス簡易調査票」の設問57問中12問(4尺度:仕事の量的負担/仕事のコントロール/上司の支援/同僚の支援)のみを用いて得点化し、評価を行います(図2)。例えば、A-1~3に対し「そうだ」、「ややちがう」、「まあそうだ」という順で回答すると、「仕事の量的負担」は4+2+3=9点となります。さらに集団分析を実施する単位で平均値を算出し、図1のそれぞれの判定図に数値をプロットして(この職場:●)、自社の平均(全職場平均:×)や日本全体の平均(全国平均:□)と比較します。

これらとあわせ、現状の職場のストレス状態が労働者の健康にどの程度影響を与えるかを判断するための指標として総合健康リスクを算出(「量-コントロール判定図の値」×「職場の支援判定図」/ 100)することができます。図3の例では、「仕事の量的負担」の職場平均が7.8点、「仕事のコントロール」が7.2点、「上司の支援」が7.0点、「同僚の支援」が7.3点の場合、「健康リスク総合」=「仕事の負担」100×「職場の支援」114÷100=114となります。

仕事のストレス判定図上の斜めの赤点線は、健康問題リスク(仕事のストレス要因から予想される心理的ストレス反応や疾病休業など)の全国平均で、数値を100として表します。総合健康リスクの数値は高いほど労働者の健康リスクが高い状態であることを示します。例えば、総合健康リスクが120であれば仕事のストレスのために心理的ストレス反応、疾病休業、医師受診率などのリスクが1.2 倍になるといわれており、職場環境改善などの対策が求められます。

(2)その他の尺度を用いた分析(あなたのストレスプロフィール)

職業性ストレス簡易調査票には、仕事のストレス判定図に使用されるもの以外の尺度が含まれています(図4)。これらの尺度についてもその平均値を集団として求め、全国平均値と比較することで、仕事のストレス判定図よりも詳細に仕事のストレス要因や心身のストレス反応の集団としての特徴を評価することができます。お手元のストレスチェック集団分析結果において、仕事のストレス判定図以外の尺度について集計がなされていない場合は、下記<参考>の方法で集計できます。

<参考>職業性ストレス簡易調査票を使用する場合、個人結果の出力には、標準化得点が用いられます(あなたのストレスプロフィール)。「仕事のストレス要因」(9尺度)、「心身のストレス反応」(6尺度)、「周囲のサポート」(4尺度)の計19尺度から、その点数を5段階に換算して評価します。具体的には、個人の職業性ストレス簡易調査票の各項目の点数を素点換算表の計算欄に従って計算し、ストレスの度合いを測ります。集計方法の詳細は「職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル」を参照ください。

ストレスチェック集団分析結果の活用方法

全国平均との比較や、同一部署における経年変化を見ながら、職場のストレス状況の変化を確認します。全国平均より悪い組織や、いままで良好だったのに急に悪化した組織については、その原因を推察します。集団分析結果に加え、業務内容や残業時間、休職者数、職場巡視の際に得られた情報、従業員の声(面談結果やアンケートなど)、産業保健スタッフが持っている情報などもあわせて分析すると効果的です。ある会社では、毎年人事部が全従業員と個人面談を行い、業務の繁閑や職場環境などの生の声をヒアリングして状況を把握しています。日ごろの職場の様子を把握できていれば、組織分析の結果とヒアリング結果を照らし合わせて「この部署は今年特に忙しいから」「新設の部署で仕事の進め方が定まっておらず、調整に苦労しているようだ」などのように分析し、より具体的な対策を講じることができます。事前に把握できていない場合は、結果が良くない部署に個別にインタビューして把握するのも有効です。

ポジティブな切り口でも分析します。毎年良い結果の部署や結果が改善できた部署の取組について、所属長などにインタビューを行い、優れた取組を社内に横展開するのもよいです。

職場環境改善は、職場全体で同じ施策を一斉に行う方法もあれば、各職場単位で固有の対策を行う方法もあります。次項以降ではそれぞれの例を見ていきます。

楽しみながら行う職場環境改善(職場内コミュニケーション活性化)

職場のコミュニケーションが円滑になれば、困ったときに相談しやすくなり、メンタルヘルス不調者発生の予防にもつながりやすくなります。メンタルヘルス対策というと、専門家の領域のように見えて、対策は難しいものと考えてしまいがちですが、コミュニケーション改善策と広くとらえると、より身近に感じられるのではないでしょうか。ここでは職場内コミュニケーションを切り口とした、ユニークな施策例を紹介します。

(1)サンクスカード(関連する尺度:同僚からのサポート)

職場内コミュニケーションの施策の一例として、「サンクスカード」という取組があります。日ごろなかなか伝えられない感謝の想いを、名刺サイズのカードに記して相手に渡します。カードを渡す側は、文字にすることで改めて感謝の想いを振り返ることができますし、カードをもらう側も「助けになったようで良かった」という気持ちになります。カードを機に会話も生まれます。

ある建設業の会社では、社長からこんなエピソードを伺いました。“サンクスカードの内容はもはや信書であり、1枚のカードに日頃の感謝がぎっしりと込められている。例えば、「重い荷物の運搬を手伝ってくれてありがとう」という、薄い内容のものはない。メッセージの質について議論したこともあった。重い荷物を運んでいる人を見かけたら手伝うのが当たり前だし、「そんな薄い会社じゃないだろう」という結論になった。公開許可を得たカードは社内に公開している。また、カードの枚数(書いた数ともらった数)を賞与に反映している。だからといって、仲間内でひたすら何十枚もカードを書きあうような本来の趣旨と離れることをしている人はいない。取組を通じて、お互いに感謝し合う風土が醸成されている。”

(2)1on1ミーティング(関連する尺度:上司からのサポート)

1on1ミーティングとは、定期的に上司と部下が1:1で行う面談(対話)のことです。目的は、部下を良く知ることにあります。そのため、話のテーマは、仕事はもちろん、プライベートや趣味の話でもOKとします。また、上司は部下の話に傾聴することを心がけます。
あるIT企業では毎週15分間の1on1ミーティングを行う中で、こんなエピソードがありました。“最初は何を話して良いかわからず、仕事の話をしていた。困っていることについて個別にアドバイスをもらえて助かったし、日ごろ感じていることを伝えたら、「よい案だね」と言って採用してくれた。また、15分は意外と長く、話題が尽きてしまったので、家庭の話もした。親の介護や子どもの話をしていたので、家庭の都合で突発的に休みを取らないといけなくなったときには、上司にもすぐ理解してもらえた。”

(3)レクリエーション大会(関連する尺度:職場の対人関係からのストレス、心身の反応)

スポーツ大会やBBQ、手軽に参加できるランチ懇親会などを実施している職場も多いでしょう。これも立派なコミュニケーション改善(活性)策と言えます。
 ある建設業では、従業員から意見を募り、毎月1回以上レクリエーションを行っています。“従業員皆が楽しめるよう、「体力向上(運動系)」、「メンタルケア(ぬりえ、座禅など)」、「従業員の交流(ボウリングなど)」を3本柱としている。スポーツ大会の類は、プレイヤーはもちろん、応援部隊も盛り上がっている。体を動かしたり、大きな声で応援することはストレス発散に有効だ。メンタルケアは運動が苦手な方も楽しく参加できるように工夫している。ぬりえや座禅は、「無」の心境、スポーツで言ういわば「ゾーン」に入った状態となり、リラックス効果が得られると心理の専門家も推奨している。ぬりえや座禅の後は、達成感を味わえるし、雑念が取り払われて頭がすっきりする。このようなレクリエーションを通じて、「意見募集や施策参加を通じて部署を越えた社内連携が活発になった(チームワーク向上)」といった効果があった。”
ある会社では部署をまたいだコミュニケーション活性化策として、社内けん玉イベントを行っています。オンラインも併用し、自宅はもちろん、海外拠点からも参加しています。副次的な効果として、けん玉の練習で足腰が鍛えられ、10キロやせたという報告もありました。
こうした取組は、ストレスチェック結果の「職場の支援(上司・同僚)」や「対人関係」「心身のストレス反応」のスコアにもプラスに働くことが期待できます。

職場単位での職場環境改善

ここでは、個々の職場レベルに落とし込んだ職場環境改善策について見ていきます。一般的に「従業員参加型職場環境改善」と呼ばれます。この方法は、その職場で実際に働き、実態やニーズを一番良く分かっている従業員自身が、前向きな姿勢で、日ごろの課題とその解決策について意見を出し合い、出た意見を反映させていく手順を重視します。したがって、その職場の働き方の実態に合った職場環境改善策が提案されることが期待できます。自分たちが考案したアイデアで職場環境改善が実現できると、自信にも繋がりますし、職場に対する当事者意識や職場への愛着が醸成されます。

従業員参加型の職場環境改善ワーク

職場ごとに職場環境改善の計画を話し合うためのグループ討議を行います。気兼ねなく意見が言えるよう、5~6人の小グループに分けるとよいです。管理職はオブザーバーの立場で参加し、小グループの討議には参加せず、各グループの発表後や総括の最後に発言するなどの工夫をします。また、当日参加できないメンバーの意見も反映できるように、事前に意見を聞いておく、後日個別に意見を聞く機会を設けるなどの工夫をすると良いでしょう。前向きで建設的な意見を出せるように、問題指摘ではなく問題解決型で話し合います。最初から要改善点ばかり挙げるとネガティブな方向で議論が終始してしまう恐れがありますので、まずは職場の良い面から意見を出し合い、職場の強みを把握・整理したうえで、課題の議論に入ることをお勧めします。ストレスチェック集団分析結果も参考にすることで、強みや課題が客観的に見つけやすくなります。

①改善計画の作成と実施

職場の状況や改善の資源(人員や予算など)を考慮して、短期間で成果が出やすい改善策について計画します。その際、いつ、誰が、何を行うのかまで具体的に決め、記録します。

例)課題:子育て世代が多い部署において、仕事が専門分化し、産休・育休時の業務の引継ぎが不十分。そのため、特定の仕事が一人の社員に集中してしまう。
<対策>
①2か月後に各業務の担当が作業マニュアルの作成を行う。
②1か月後に管理職が担当業務のローテーションを起案。2か月後にローテーションを実施。

「【2018年改訂版】いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き(仕事のストレスを改善する職場環境改善のすすめ方)」の「改善計画・報告シート」(図6)は、計画後の改善報告まで1シートで管理できるため、参考にしてください。

複数の職場の取組を社内で共有しながら進めることで、中だるみも防げます。取組状況は定期的に安全衛生委員会や管理職会議などで進捗を確認し、必要に応じて安全衛生委員会や産業保健スタッフ、外部専門家などの第三者が支援すると効果的です。

②効果検証

設定した期限を迎えましたら、これまでの取組や成果を振り返ります。また、施策実施前後のストレスチェック結果を比較することで、取組の効果を客観的にも評価してみます。①の例であれば、心理的な仕事の負担(量・質)や上司・同僚からのサポートなどの尺度が参考になるでしょう。

健康診断結果と同様、取組後、結果の改善や目標の達成までには時間がかかるケースもあります。メンタルヘルス対策に限らず、業務の繁閑や社会情勢など様々な要因が影響することがあるからです。結果に結びつかなかった場合でも、職場環境改善のために意見交換ができたことや、改善に向けた取組がなされたその過程も評価したいです。好取組事例は社内に横展開するとよいでしょう。また、会社が好取組職場を表彰するような機会を作ることで意欲の継続も期待できます。

まとめ

ストレスチェック結果は、把握しにくい職場のメンタルヘルスなどの状況を定量的に可視化できるツール・職場改善のためのヒントとも言えます。「健康経営優良法人認定」においては、施策の効果検証を行うことが認定要件となっており、その手段としてストレスチェックの結果を指標として用いるケースもあります。従業員参加型職場環境改善は、普段感じていることを職場内で共有する良いきっかけとなります。最初は大変かもしれませんが、既存の定例会議に組み込み、「毎年〇月は職場環境改善ワークの月」などとして定着させるとよいです。これを機に従業員がより活き活きと働ける職場に変わっていくと捉え、まずはすぐに・前向きにできることからスタートするとよいでしょう。

出典
厚生労働省『ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて』令和4年3月
厚生労働省『令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』令和4年7月5日
厚生労働省委託事業『ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業 報告書』令和4年3月
平成29年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)『【2018年改訂版】いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き(仕事のストレスを改善する職場環境改善のすすめ方)』
労働者健康安全機構/厚生労働省『これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引き~』平成30 年11月
平成 14 年~16 年度 厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究 『職場環境等の改善によるメンタルヘルス対策に関する研究】職業性ストレス簡易調査票を用いた ストレスの現状把握のためのマニュアル ―より効果的な職場環境等の改善対策のためにー』平成21年5月
厚生労働省『労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル』平成28年4月


MS&ADインターリスク総研株式会社発行の健康経営インフォメーション2023年2月(No.4)を基に作成したものです。

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