下請法から取適法へ。改正で、何がどう変わる?(第2回)
公開日:2025年12月26日
法改正

2026年1月1日から「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」が改正され、通称「取適法(中小受託取引適正化法)」として施行されることになりました。事業者間取引を大きく変える法改正となるため、3回にわたってこの法改正について解説しています。第2回は「法執行の強化と企業における対応」です。
この法改正はひと言で言えば、中小事業者の保護を強化し、サプライチェーン全体で公正な取引慣行を促進することを目的としています。事業者間取引の抜本的な見直しへの理解を深めていただき、2026年の経営への準備を進めていきましょう。
法執行の強化と関連法規との関係
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1.面的執行の強化
違反行為に対する監督・執行体制が強化されます。
・事業所管省庁への権限付与
公正取引委員会・中小企業庁に加え、各事業を所管する省庁(例:国土交通省、経済産業省等)にも、違反が疑われる事業者に対する指導・助言権限が付与されます。また、中小受託事業者が申告しやすい環境を確保するために、「報復措置の禁止」の申告先として、事業所管省庁の主務大臣が追加されます。
・報復措置の禁止対象拡大
中小受託事業者の保護も拡大されます。事業所管省庁へ違反事実を知らせたことを理由とする取引停止等の不利益な取り扱いを行うことも、新たに「報復措置」として禁止されます。
・是正後も勧告可能に
勧告の規定も拡大されます。違反行為がすでに行われていない場合でも、再発防止の観点から公正取引委員会が勧告を行えるように規定が整備されています。

2.関連法規との関係
(1)独占禁止法(優越的地位の濫用)との関係
取適法(旧下請法)は、独占禁止法の補完法という位置づけです。その関係性についても再確認しておきましょう。
・独占禁止法
優越的な地位にある事業者がその地位を利用して取引相手に不利益を与える「優越的地位の濫用」を禁止しています。しかし、違反認定には「優越的地位」の立証が必要であり、調査に時間を要することがあります。
・取適法
適用対象を資本金や従業員数で明確に定義することで、「優越的地位」の認定プロセスを不要とし、迅速かつ効果的に中小事業者を保護することを目的としています。
すなわち、下請取引については、まず取適法が適用され、その対象とならない取引であっても、独占禁止法の優越的地位の濫用規制が適用される可能性があると理解してください。
(2) フリーランス保護新法との関係
フリーランスとの取引についてもご確認ください。フリーランスとの取引が、「取適法」と「フリーランス保護新法」の両方の対象となり、違反行為も両方に抵触する場合には、原則としてフリーランス保護新法が優先して適用されます。ただし、個別の事案により判断が異なるため、専門家への相談が推奨されています。ご確認ください。
企業が取るべき対応
2026年1月1日の施行に向け、委託事業者となりうるすべての企業は、以下の対応を進める必要があります。
1.自社取引関係の総点検
・すべての取引先について、資本金および新たな基準となった従業員数を確認し、自社が「委託事業者」に該当するかのみならず、取引先が「中小受託事業者」に該当するかを洗い出すことが必要となります。
2.契約書・発注書フォーマットの見直し
・契約書や発注書には、発注内容、代金額、支払期日、検収基準等を明確に記載する必要があります。
・業界特有の見直しも必要です。例えばIT業界などにおける「仕様変更」と「バグ修正」の定義等を明確化し、追加費用に関する協議プロセスを条項に盛り込むことが必要となります。
・併せて、代金改定に関する協議の条件や手続きについても明記することが必要です。
3.社内規程の整備と担当者への周知
・購買・調達に関する社内マニュアル類を改正法の内容に沿って更新することが必要となります。
・第1回にも記載しましたが、下記の義務・禁止事項(「4つの義務と11の遵守事項」)について確認しながら、社内の体制整備を行っていきましょう。
・調達部門、法務部門、営業部門など関連部署の担当者に対し、研修やeラーニングを通じて改正内容、特に新たな禁止行為について周知徹底を行いましょう。

4.支払方法の見直しと資金繰りの再計画
・手形等による支払いを廃止し、現金振込等へ移行する必要があります。必要に応じ経費処理の手続きについても見直しが必要となります。
・実質的な支払サイトが短縮される可能性があり得ます。必要に応じ、自社のキャッシュフロー計画を見直すことも必要となり得ます。
次号(第3回)では、「業種別の留意点と具体的対応」について解説します。
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