下請法から取適法へ。改正で、何がどう変わる?(第3回)
公開日:2026年1月7日
法改正

2026年1月1日から「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」が改正され、通称「取適法(中小受託取引適正化法)」として施行されることになりました。正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」という法律です。事業者間取引を大きく変える法改正を解説するシリーズの第3回目は、「業種別の留意点と具体的対応」です。
この法改正はひと言で言えば、中小事業者の保護を強化し、サプライチェーン全体で公正な取引慣行を促進することを目的としています。事業者間取引の抜本的な見直しへの理解を深めてください。
取適法解説シリーズのご紹介
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業種ごとの注意点
事業者間の取引の実態は業種によって異なりますので、留意点や具体的な対応も業種ごとに整理が必要となります。本号では代表的な業種(製造業、運送業、自動車販売業、建設業、情報・システム開発業、役務提供・サービス業)ごとに留意すべきポイントを整理いたします。
製造業
対象となる製造委託の範囲が拡大されている点にご注意ください。「金型・治具・専用工具等の製造委託」が新たに対象範囲に追加されています。

原材料を有償支給して製造を委託する場合も対象となります。発注書に「給付内容の明示」義務が生じますので、その支給・搬送・支払条件が明示・記録されているかを確認する必要があります。
製造ラインの変更・仕様変更・設計変更が頻繁に行われている場合も注意が必要となります。こちらも発注書の「給付内容の明示」義務に抵触する可能性があるため、変更対応の都度、書面で確認をすることが重要となります。
<想定される典型的なリスク>
①設計変更・仕様変更のたびに価格据え置き・納期短縮を要求する。
②支給材料・検査基準を曖昧にしたまま「不良返品」扱いにして減額する。
③発注書面に「支払期日」「受領日」が明記されていない。
<実務上の対応策>
①仕様変更・設計変更については「書面合意+価格再協議」を原則化しましょう。
②発注書には「受領日・支払期日・支払方法」を必ず記載しましょう。
③有償支給の材料・治具の有無を確認しましょう。引渡日・数量・評価額を記録し、保存期間(2年間)を厳守しましょう。
運送業
発荷主が運送事業者に物品の運送を委託する取引(特定運送委託)が今回新たに規制対象となっています。発荷主が運送事業者に運送を委託した場合、「発荷主=委託者」、「運送事業者=中小受託事業者」となります。

荷役・荷待ちを無償でさせる等、実質的に運送業者に負担を強いる取引構造は「不当な経済上の利益の提供要請」として禁止される可能性があります。
自社グループの物流子会社を使っていても、実質的に同一会社間での取引とみられないかどうか、取引実態を整理しておくことが必要となります。

<想定される典型的なリスク>
①荷待ち・荷役を無償で行わせる。
②配車後のキャンセル・ルート変更に伴うコストを支払わない。
③荷受人都合で待機が発生しても運賃に反映させない。
④荷主が下請代金支払書を発行せず「請求書待ち」のまま支払い遅延する。
<実務上の対応策>
①「積込み・荷降ろし・待機」などの作業を明確化し、委託契約書に記載しましょう。
②運賃・料金体系を明示した「書面・電磁的記録(メールでの受発注)」を双方で確認しましょう。
③発注内容・運送区間・支払期日をシステム上でも記録し、保存期間(2年間)を厳守しましょう。
④グループ内の委託関係を整理しましょう。また、物流子会社(100%子会社等)であっても、取引対価の実質性を確認することが必要です(形式的に親会社免除とならない点に注意)
自動車販売業
新車・中古車ディーラーが、委託事業者(整備工場・板金塗装・部品取付・輸送業者等)へ外注する取引が対象となり得ます。
販売代理店網における「再委託」関係(販売協力店、展示代行、物流補助等)も該当し得ます。
<想定される典型的なリスク>
①下請整備工場への修理・整備委託代金の支払い遅延。
②無償での保証対応・リコール対応を求める。
③板金塗装業者へ「手数料控除」「値引要請」を行う。
④車両回送・輸送費を下請側で負担させる。
<実務上の対応策>
①整備・修理・輸送委託契約を「発注書(電子メールでも可)」で必ず交付しましょう。
②契約書を作成し、作業内容・単価・支払期日・支払方法を明記しましょう。
③メーカー主導でのキャンペーン・保証対応時であっても、委託先への実費補償が必要となります。条件をあらかじめ明示しましょう。
④グループディーラー間の取引であっても、支払期日・代金減額行為には注意が必要となります。
⑤「請求書」「納品確認書」「作業完了報告書」をセットで保存しましょう。保存期間は2年間です。
建設業
建設業の請負工事契約は取適法の適用対象外となります。取適法の対象となり取引は、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4類型のみであり、下記のとおり、役務提供委託には建設業は含まれていません。
ただし、「建設業法」によって別途、専門的に規律されているため、実務上は取適法とほぼ同等の規制がかかっているとご理解ください。

実務上の監督行政では、公正取引委員会による独占禁止法に基づく優越的地位の濫用、国土交通省による建設業法違反に基づく指導及び業務停止、が行われています。
<想定される典型的なリスク>
①下請けに対する「不当な減額」「無償での追加工事」「長期の支払い」等。
②下請けに対する「優越的地位の濫用」にも注意が必要。
<実務上の対応策>
①「法形式は異なるが、守るべき実務ルールは同じ」と位置づけられています。
②発注する際は「発注書(電子メールでも可)」を交付しましょう。
③契約書を作成し、作業内容・単価・支払期日・支払方法を明記しましょう。
④グループ間取引であっても、支払期日・代金減額行為には注意が必要となります。
⑤「請求書」「納品確認書」「作業完了報告書」をセットで保存しましょう。
情報・システム開発(ソフトウェア・映像・デザイン等)
情報成果物作成委託(ソフトウェア開発、Webサイト制作、映像・デザイン制作、設計図・広告コンテンツ作成等)が対象となっています。
外部委託しているデザイン・映像・システム開発案件では、役務提供とみなされるもの(作業期間・成果物の仕様等)か否かを整理し、発注書・契約書にて明示・記録してください。
受託事業者が中小企業に該当するかどうか(資本金・従業員数)を確認し、当該契約が対象取引かを判断しておくことが大切です。
<想定される典型的なリスク>
①納期直前の仕様追加や変更を無償で求める。
②「発注書」が存在せず、メール・口頭ベースで発注している。
③成果物の受領時に「完成確認書」を発行しない。
<実務上の対応策>
①成果物・納期・報酬額・支払期日を必ず書面明示しましょう。
②仕様変更や追加開発は「協議書」「見積書」を交わすことが必要です。
③電子契約サービスを利用して発注記録を残す(保存期間2年)ことが有効です。
④クリエイティブ業務(デザイン、動画制作等)は、成果物の範囲・納品形態・使用権限を明確化しておきましょう
役務提供/サービス業(清掃・メンテナンス・ビル管理・人材派遣等)
「自社が利用する役務の委託」は対象外となりますが、他社向け役務を提供している事業者がその業務をさらに他事業者に再委託する場合は対象となり得ます。
支払期日・記録義務・協議義務などが発注形態・再委託形態を問わず適用されるため、サブ委託先を含む契約整備が必要です。
契約変更・仕様変更・代金据え置き等がある場合には、役務の内容・数量・対価を明確に提示・協議し、記録に残す運用を行うことが賢明です。
<想定される典型的なリスク>対象範囲
①契約変更・代金減額を一方的に通告する。
②無償で休日出勤・夜間作業等を求める。
③業務報告書・勤怠記録を受け取らずに曖昧な請求処理を行う。
<実務上の対応策>
①契約にあたっては、「作業場所・作業時間・単価・支払期日」を明確化しましょう。
②当初契約から変更する際は、「変更依頼書」+「価格協議記録」を残しましょう。
③サービス提供の成果確認を月次で行い、受領日を明確にすることで的確な請求処理を行いましょう。
全業種共通の推奨事項
・「契約書・発注書・受領記録・支払明細」を時系列で整理し、電子保存しましょう。
・「下請取引適正化指針」に基づく社内チェックリストを年1回以上実施しましょう。
・発注担当者への教育を実施(特に購買部門)することが必須となります。
・下請法違反は公表・勧告リスクがあるため要注意です(特に再犯企業は社名公表されます)。
出典:公正取引委員会・中小企業庁資料「取適法リーフレット」から抜粋













