100億宣言とは?中小企業にとってのメリットと取組の方法を解説

公開日:2025年10月20日

助成金・補助金

2025年2月、中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構により、「100億宣言」というプロジェクトがスタートしました。売上高100億円をめざす意欲的な中小企業を支えるための制度であり、「宣言企業」として認められればさまざまな恩恵が受けられます。

この記事では、100億宣言の内容や導入された背景、中小企業にとってのメリットを詳しく解説します。その上で、関連する補助金である「中小企業成長加速化補助金」の概要や申請条件なども併せて見ていきましょう。

100億宣言とは

「100億宣言」とは、中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構が一体となって立ち上げたプロジェクトの一つです。100億宣言の「100億」は売上高を示しており、「売上高100億円」をめざす中小企業や経営者を支援するための制度として、2025年2月に発表されました。

中小企業が規定に基づいて宣言書を作成し、売上高100億円の実現に向けた取組の実施を対外的に宣言すると、「宣言企業」として認められます。プロジェクトにあたっては、「100億企業成長ポータル」という名称のポータルサイトが設けられており、宣言企業はそのページに掲載される仕組みとなっています。

100億宣言が導入された背景

100億宣言が導入された背景については、中小企業庁が取りまとめた資料で詳しく紹介されています。ここでは、2つのポイントに分けて、100億宣言の狙いや創設の理由を見ていきましょう。

 

中小企業の支援と「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への移行

100億宣言の大きな目的は、中小企業の挑戦と創意工夫を支え、大きな付加価値を生み出せるように支援することにあります。現代の日本では、バブル崩壊後のさまざまな混乱に直面した結果、30年あまりにわたって、コストカット型の経済が続いてきたとされています。

近年では賃金引上げの動きが生まれているものの、成長と分配の好循環に向けた動きはまだ始まったばかりです。そうした中で、デフレに後戻りせず、賃上げと投資がけん引する成長型経済への移行できるかどうかは重要な課題となっています。

そこで、100億宣言では特に「国内雇用の7割」「付加価値の5割」を占める中小企業・小規模事業者を支えることに重きを置き、売上高100億という野心的な目標を持った経営者を増やすきっかけとして導入されました。

地域経済の活性化

100億宣言のもう一つの狙いは、地域経済の活性化にあります。中小企業は地域経済において、雇用やサプライチェーンを支える必要不可欠な存在です。

中小企業の「稼ぐ力」を伸ばすことが、そのまま地域の活力につながると考えられているのです。それには、構造的な底上げだけでなく、「良質な雇用の創出」と域内仕入れ等による「地域経済への貢献」が具体的な課題となります。

100億宣言の導入により、売上高100億という高い目標をめざせる環境を整えることで、地域にインパクトをもたらせる一定規模以上の企業が育っていくと期待されています。

企業価値を向上させていくには、自社の短期的な利益の追求だけでなく、地域や社会も含めた幅広い経営戦略の実現が重要です。本記事では、ESG経営についての取組や事例を解説しています。

 

中小企業が100億宣言を行う3つのメリット

個々の中小企業にとって、100億宣言の宣言企業になることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つの視点から解説します。

個々の中小企業にとって、100億宣言の宣言企業になることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つの視点から解説します。

中小企業庁においても、売上高100億円は、「既存の事業の延長では達成できない高い成長目標」として位置づけられています。そこで、高い成長意欲を持つ経営者が良質なネットワークを構築し、気づきを得られる機会として、100億宣言企業による「経営者ネットワーク」が構築されています。

経営者ネットワークの参加者は、いずれも野心的な目標を持つ前向きな経営者ばかりです。さらに、それぞれが異なる強みを持っていることから、情報交換や悩み・解決策の共有、業界を超えた協業等、さまざまな可能性が広がることが期待されます。

これまでにないビジネスチャンスを得たり、成功している企業の制度を吸収できたりと、前向きな成長機会につながるでしょう。

対外的なアピールにつながる

前述のとおり、100億宣言の宣言企業は、プロジェクトの公式ポータルサイトに掲載されます。そのため、企業の前向きなビジョンを対外的に示すきっかけにもなります。

ポータルサイトに掲載されれば、「確かな成長戦略を持つ企業」として、社会的な信用が高まり、自治体や各種商工団体、投資家等の目にも留まりやすくなるでしょう。さらに、ホームページや名刺等には、100億宣言の公式ロゴマークを記載できるようにもなります。

このように、ロゴマークを使用した広報活動によって、100億宣言をしている企業であることを広くアピールすることも可能です。

 

中小企業成長加速化補助金を申請できる

100億宣言を行う重要なメリットとして、「中小企業成長加速化補助金」の申請資格を得られる点が挙げられます。売上高100億円超をめざす中小企業の大胆な投資を支援する制度であり、具体的には100億宣言を行った「売上高10億円以上、100億円未満の企業」が対象です。

補助金を利用できるかどうかは審査によって決められますが、申請が受理されれば「最大5億円(補助率1/2以内)」の経費が補助される仕組みとなっています。

補助金の申請条件

補助金を申請できる条件は、以下の3つの要件を満たす「売上高10億円以上100億円未満の企業」であることとなっています。

  1. 「100億宣言」を行っていること

  2. 投資額1億円以上(専門家経費・外注費を除く補助対象経費分)

  3. 一定の賃上げ要件を満たす今後5年程度の事業計画の策定(賃上げ実施期間は補助事業終了後3年間)

賃上げ要件とは、補助事業が終了してから3年間の「給与支給総額」または「従業員・役員1人あたり給与支給総額」の年平均上昇率が、事業場がある都道府県の直近5年間における最低賃金の年平均上昇率以上であることを指します。つまり、申請時には企業がある都道府県の最低賃金の年平均上昇率を直近5年間分にわたって調べ、それを上回る上昇率を実現するための計画を立てなければならないということです。

なお、目標を立てる上で、給与支給総額と従業員・役員1人あたり給与支給総額のどちらを用いるかは、申請時に選ぶことができます。

 

補助対象経費の例

補助対象となる経費は幅広く、次のような費用がカバーされています。

・建物費(拠点新設・増築等)
・機械装置費(器具・備品費含む)
・ソフトウェア費
・外注費
・専門家依頼料

最大5億円という高額な補助額が支給されることもあり、建物の新設や機械装置の導入といった大掛かりな経費にも活用できるのが特徴です。ただし、補助事業のために利用されることが前提となっている点には注意が必要です。

例えば、建物費については事務所・生産施設・加工施設・販売施設・検査施設・共同作業場のほかに、倉庫等も対象とすることができますが、いずれも「もっぱら補助事業のために使用されること」が条件となっています。

100億宣言の申請方法

100億宣言の宣言企業になるためには、適切な方法で申請を行う必要があります。ここでは、申請手続の方法と、宣言の作成方法について解説します。

専用ポータルサイトから手続をする

100億宣言については、プロジェクト専用のポータルサイトが開設されているため、そちらから手続を進めます。ホームページに公表要領や申請要領が添付されているので、まずは詳しい申請条件等を確認しましょう。

その後、ホームページから申請様式をダウンロードし、必要事項を記載した書類をPDF形式で提出します。申請内容が実行事務局で認められれば、ポータルサイトに宣言内容が掲載され、宣言企業としてさまざまな活動が行えるようになります。

宣言企業となった場合には、企業名だけでなく申請時の宣言内容も公開されるため、公表を前提に記載することが重要です。

 

宣言に盛り込む内容

100億宣言には、以下の5つを盛り込む必要があります。

  1. 企業概要(足下の売上高、従業員数等)

  2. 売上高100億円実現の目標と課題(売上高成長目標、期間、プロセス等)

  3. 売上高100億円実現に向けた具体的措置(生産体制増強、海外展開、M&A等)

  4. 実施体制

  5. 経営者のコミットメント(経営者自らのメッセージ)

単におおまかなゴールを設定するだけでなく、到達のための具体的な数値目標や手段も丁寧にまとめなければなりません。客観的な根拠のある戦略が求められるため、自社の現状やポジション、業界のあり方等を幅広く分析し、じっくりと宣言内容を策定しましょう。

なお、ポータルサイトでは、多様な業界の企業をモデルとした記載例が紹介されています。内容やまとめ方、情報の粒度等を参考にしてみるのも良いでしょう。

 

作成時の注意点

100億宣言の作成にあたっては、経営者のメッセージとともに経営者の写真が必要となるため、事前に用意しておきましょう。また、自社に関する記載内容は企業の概要や理念にとどめ、具体的な商品・サービスのアピールは避けるのが無難です。

100億宣言を行う上で知っておくべき注意点

100億宣言プロジェクトに参加する際には、いくつか事前に理解しておくべき注意点があります。

必ずしも補助金を利用できるとは限らない

注意点の1つめは、宣言企業として認められたとしても、必ずしも補助金を利用できるとは限らないという点です。中小企業成長加速化補助金を申請すると、1次審査・2次審査を通じて、計画の効果・実現性が定量的・定性的に審査されます。

審査ポイントは厳格であり、単にビジョンやシナリオが優れているかどうかだけでなく、地域への波及効果や金融機関等のコミットメント、組織体制等も含まれているのが特徴です。特に2次審査では、経営者自身によるプレゼンテーションや外部有識者からの質疑応答も実施されるため、審査に通るにはしっかりとした準備と戦略が必要となります。

審査結果によっては必ずしも採択されるとは限らないため、100億宣言を行う上では、補助金以外のベネフィットもきちんと明確化しておくことが大切です。なお、2025年10月現在、既に1次公募の受付は終了しているものの、2次公募が行われる予定です。

締め切り間際にはアクセスが集中するため、募集が開始したらできるだけ早めに申請手続を行いましょう。

 

補助事業者にはさまざまな義務が生じる

2つめの注意点として、中小企業成長加速化補助金を利用する場合は、交付を受けた後に事業化状況報告や知的財産等報告の義務が生じます。また、事務局から実地検査等を求められた時には、関連書類の提出を含め、協力をする必要があります。

補助事業が完了してからも、予告なく実施検査が行われる場合があるので、あらかじめ把握しておきましょう。さらに、補助関係書類は、事業終了後5年間にわたって保管しなければなりません。

万が一、会計検査院から求めがあった時は、いつでも閲覧できる状態にしておく必要があるので、データの管理も徹底することが重要です。なお、申請時の賃上げ目標を満たせなかった場合は、未達成率に応じて補助金の返還が求められます。

補助事業者の義務については、中小企業成長加速化補助金の公募要領に詳しくまとめられているので、必ず目を通しましょう。

 

100億達成企業の事例

100億宣言では、宣言後に売上高100億円を達成した企業について、「100億達成企業」として掲載を行うものとされています。ここでは、独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページから、売上高100億円を達成した企業の事例をピックアップしてご紹介します。

 

電子機器修理・計測器校正のニッチ分野で売上高100億を達成

電子機器サービスを扱うとある企業は、創業から20年足らずで売上高100億円を達成するという快挙を果たしました。同社は電子機器修理や計測器校正といったニッチ分野で、世界市場のトップ企業(グローバルニッチトップ)をめざす会社です。

もともとは大手メーカーから業務を受託して、通信機器や計測機器の部品を製造する企業の社内事業として立ち上げられました。そのきっかけは、下請けとしてのものづくりの限界と将来への不安にあったと言います。

部品製造から、新たに保守・修理といった分野で事業の可能性を見出すと、数年後には国内各社から多数のサービス業務を受注するまでになります。その陰には、きめ細やかなニーズに対応する修理サービスへの注力がありました。

例えば、既にメーカーサポートが終了した機器の修理に対応したり、短期間かつ低コストでグローバルサービスを提供したりと、顧客を大事にする独自の取組を実施します。その結果、2016年には売上高50億円に到達すると、さらには大企業の校正部門を買い取り、大きく事業を発展させていきます。

校正部門は、大企業にとってはノンコア事業として扱われやすい一方、中小企業からすればコア事業になり得る特殊な分野です。同社は大企業の一部を買収しながらマーケットに参入すると、売上高50億円の到達からわずか4年で、2倍にあたる100億円達成の結果を残しました。

酒造業界の常識を破る挑戦で売上高100億を達成

山口県のとある酒造メーカーでは、業界の常識を打ち破る取組により、売上高100億円を達成しました。同社が設立されたのは戦後間もない頃であり、1980年代前半までは地元の小さな酒造として経営されていました。

時代とともに日本酒離れが進み、販売不振にあえぐなかで、1984年に経営を引き継いだ三代目によって新たな取組が打ち出されます。それは、これまでの安価な普通酒を脱却して、当時幻とも言われていた純米大吟醸造りに挑戦するというものです。

その結果、1990年に純米大吟醸「獺祭」を生み出すと、その後も手探りで品質改良を重ねながら、地道に販路を開拓していきました。一方、極端に時間や手間がかかる等、生産プロセスには大きな課題を抱えており、現場にもオペレーションの変化によるストレスが積み重なっていきます。

その後、追い打ちをかけるように、新規事業である地ビール事業に失敗してしまいます。わずか3か月ですぐに撤退を決断するも、蓄積された不満から酒造りの柱である杜氏が職人を伴って離脱し、企業全体が窮地に追いやられてしまいました。

そうしたなか、逆境に陥った三代目が決断したのは、一般社員の力を結集したゼロからの酒造りです。杜氏の経験に頼らず、「データを重視した酒造り」を行うという業界の常識外の挑戦をスタートすると、徐々に杜氏が持っていた暗黙知が可視化されていきます。

すると、業務の属人化が解消され、結果として「DX」という言葉がない時代に図らずもDXが実現されていきました。杜氏制度から脱却することで、期間限定だった酒造りが通年で行えるようになり、製造量も拡大していきます。

さらに、本社の建て替えによる大幅な生産効率の改善も重なり、ついには2016年に売上高100億円の実現を果たしました。現在、同社では海外展開でさらなる販路を広げつつ、2号蔵、3号蔵と生産拠点の拡大も続けています。

DX化の基本的なポイントや推進の手順、「2025年の崖」と呼ばれる課題まで、DX化に関わる、今こそ知っておくべき情報について包括的に解説しています。

 

まとめ

100億宣言とは、売上高100億円の達成をめざす中小企業を支援するためのプロジェクトです。中小企業が規定の申請条件を満たして宣言を提出することで、「宣言企業」として認められ、さまざまな恩恵を受けられるようになります。

100億宣言を行うことには、「経営者ネットワークへの参加」「対外的な信頼性の構築」といったメリットがあるほか、「中小企業成長加速化補助金」の申請条件の一つをクリアすることにもつながります。補助金の申請が認められれば、最大5億円までの大型の補助を受けながら、自社の飛躍的な成長基盤を整えることが可能です。

補助金の制度と100億宣言の目的・内容をチェックし、自社の経営戦略に活かせる可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

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