国内でもサプライチェーンの人権尊重取組具体化の検討が始動
公開日:2023年6月1日
人事労務・働き方改革
国内でもサプライチェーンの人権尊重取組具体化の検討が始動
サプライチェーンにおける人権尊重のための業界横断的なガイドラインの策定に向けて設置した経済産業省の検討会が2022年3月9日、初会合を開き、企業に求める人権取組を具体化する検討が始動しました。
会合では、ガイドラインの特性を、①国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする国際的スタンダードに則る②人権尊重に関する具体的な取組方法が分からないという企業の声に応える――とすることが明確にされました。
併せて、参加者からは、「人権の視点をビジネスモデルやコーポレートガバナンスを通して恒常的に組み入れるという人権デューデリジェンスの目的を明確化する」「人権尊重の考えをSDGsと結び付ける」「法制度ではなくガイドラインであることの意味を明確にする」などの意見が出されたのです。
ガイドライン案は、2022年7月末を目途に策定し、その後、国連を含む国際機関との意見交換やパブリックコメントを経て発行される見込みです。
国内では「ビジネスと人権」への関心が高まっています。その一方で、多くの企業が取組の具体的な内容や方法に模索しているのが現状です。例えば、政府が2021年秋に東証1・2部(当時)上場企業対象に実施したアンケートでは、人権デューデリジェンス未実施の理由の回答で「実施方法が分からない」が3割を超えました。ガイドラインは、こうした国内企業の悩みの解消に役立つことが期待されます。
一方、海外では、企業の人権取組への要求を明確化する動きが日本に比べて数段早く進んでいます。例えば、EU欧州委員会は2022年2月、企業のサステナビリティおよびデューデリジェンス指令案を公表しました。人権以外にも環境やガバナンスなどの要素も含み、対象もサプライチェーンより広義のバリューチェーンに規定しています。
具体的には、企業に
(1)デューデリジェンスの企業ポリシーへの統合
(2)人権及び環境に対する実在又は潜在的悪影響の特定
(3)顕在化した悪影響の収束又は最小化
(4)苦情受付手続の設置と維持
(5)デューデリジェンスポリシー及びその措置の効果モニタリング
(6)デューデリジェンス結果の公表
――などの対応を求めています。
EU内で活動する企業は国籍を問わずすべて対象です。加えて、取締役の責任にも言及しており、デューデリジェンスへの対応不備が法的責任につながる可能性が出てきています。
一方、日本のガイドラインは、法的拘束力を持たない見込みです。しかし、将来的にはEU同様のより厳格なルールに移行する可能性はあります。日本のすべての企業は、それを見越した準備が望ましいでしょう。EUなど海外の動向を視野に入れつつ、サプライチェーンやバリューチェーンを通した人権や環境におけるリスクの把握、特定・評価、適切な措置・対策の実施、定期的な効果のモニタリングと情報開示について着実な取組が求められます。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2022年5月(No.2)を基に作成したものです。
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