自転車ユーザーの意識と運転の実態について~アンケート調査結果より(2025年版)

公開日:2025年12月17日

事故防止

「周囲と比べて自分は交通ルールを守っており自転車の安全運転ができている」かの設問に対して「強くそう思う」と「そう思う」の合計は83.1%でした。しかし、実際には回答者の大半にヘルメット非着用、歩道通行がみられました。

回答者の8割以上が過去6か月間に、ヘルメット非着用での運転の経験があります。ヘルメット着用の努力義務については、9割近くの回答者が認識していたことを考えると対照的です。回答者の15.1%が過去6か月間に、「ながらスマホ」運転の経験があります。2024年11月の罰則強化後も「ながらスマホ」は根絶できていません。

回答者の7割近くが過去6か月間に、歩道通行の経験があります。自転車の車道通行の原則に関しては、回答者の約75%が認識していたことを考えると対照的です。

自転車損害賠償責任保険の加入率は58.1%でした。回答者が住む都道府県の自転車損害賠償責任保険に関する条例の認識(義務、努力義務、条例無し)については、48.2%が「わからない」、23.0%が「誤答」でした。

2026年4月より、16歳以上の自転車運転者による交通違反に対する交通反則通告制度(青切符)が導入されることについて、「全く知らない」と「よく知らない」の回答の合計が35.1%でした。ながらスマホ運転の反則金(12,000円)は妥当とする声が多い一方、歩道通行の反則金(6,000円)は高すぎるとの意見が過半数を占めました。性別・年齢別によるデータ分析では、安全運転の自己評価は年代が上がるほど減少し、「ながらスマホ」運転は40代男性に多いことが明らかになりました。

調査の目的・背景

自転車とは、道路交通法において軽車両の一つとされ、「人の力により運転する二輪以上の車」と定義されています。我が国の自転車保有台数は推計で約5,200万台であり、運転免許を必要としない気軽に使える交通手段として定着しています。その一方で、警察庁の統計によれば2024年の自転車が関わる交通事故は67,531件と、交通事故全体の23.2%を占めました。この割合は2016年の18.2%から増加傾向にあります。

また、自転車ユーザーの交通違反も無視できません。2024年の自転車が関わる交通事故のうち、自転車側に交通違反があった事故の割合は70.7%となり、ここ数年で最も高い値となりました。2024年の自転車の交通違反による検挙件数は51,564件と2016年の数の約3.7倍となっています。

そのような状況の中、わが国の自転車ユーザーの意識やその自転車運転の実態を探るべく、MS&ADインターリスク総研が2025年8月に自転車ユーザー1,000人に対してアンケート調査を実施しました。本稿では、本調査の結果およびデータ分析の結果について紹介します。

調査の概要

(1)調査実施期間

2025年8月18日~21日の間にインターネットによる調査を行いました。

(2)回答者数

1,000人(男性500人、女性500人)
15~19歳、20~29歳、30~39歳、40~49歳、50歳~59歳、の年齢5区分ごとに男女各100人。

(3)回答者属性

①自転車を運転する頻度

②職業

③居住地域(単位:人)

調査結果

(1)自転車を運転する目的および所有する自転車のタイプ

回答者の自転車を運転する主な目的(図1)および所有する自転車のタイプ(図2)は以下のとおりです。

(2)安全運転に関する自己評価

本調査では冒頭に、回答者へ「周囲と比べて自分は交通ルールを守っており自転車の安全運転ができている」かを聞きました。「強くそう思う」と「そう思う」の回答の合計は83.1%となりました。

(3)自転車に関する交通ルールの認識

①ヘルメット着用の努力義務化
2023年4月から自転車乗車時におけるヘルメット着用が努力義務化されたことについて、9割近くの回答者が認識をしています。

②ながらスマホの罰則
2024年11月から、自転車運転中にスマートフォン・携帯電話等の画面を注視あるいは通話をしながら自転車を運転(ながらスマホ運転)して事故等の危険を生じさせた場合は、「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」となっています。このことについて、「全く知らない」と「よく知らない」の合計が35.6%でしたが、半数を超える回答者が「知っている」と回答しています。

③車道通行の原則
自転車は、車道と歩道の区別のある道路では車道通行が原則となっていることの認識に関しては、「詳しく知っている」および「ある程度知っている」の合計が75.7%となっています。

ヒヤリハットの事例を紹介し、防ぐための対策について解説しています。

 

(4)自転車に関する交通ルール遵守の実態

①ヘルメットの非着用
本調査では、回答者の過去6か月間の自転車運転において「ヘルメットを着用しなかったことがあるか」について聞きました。回答者の8割超が「ある」旨の回答をしています。前述のとおり、ヘルメット着用のルールについては、9割近くの回答者が認識していたことを考えると対照的です。

②ヘルメットを着用しなかったことがある回答者
さらに、ヘルメットを着用しなかったことがあるとした回答者815名に、そのことについてどう思うかを聞きました。問題はあるが、安全運転に自信がある、多くの人がそうしている、習慣を変えられないと回答した合計は68.4%でした。また、ヘルメット非着用を「問題ない」とした回答者は30.2%でした(注1)。

警察庁によれば、2024年に自転車乗用中に交通事故で死亡した327人のうち、その約半数が頭部に致命的な損傷を受けており、ヘルメット非着用時の致死率は着用時に比べて約1.4倍高いといいます。ヘルメット着用の重要性の認識について今後も注視する必要があります。

③ながらスマホ運転
本調査では、回答者の過去6か月間の自転車運転において、ながらスマホ運転をしたことがあるかについて聞きました。回答者の15.1%が「ある」旨の回答をしています。

④ながらスマホ運転をしたことがある回答者
さらに、ながらスマホ運転をしたことがあるとした回答者151名に、そのことについてどう思うかを聞きました。問題はあるが、安全運転に自信がある、多くの人がそうしている、習慣を変えられないと回答した合計は84.1%、「問題ない」とした回答者は11.3%でした。

これらの設問は、前述の自転車のながらスマホ運転の罰則規定による抑止効果を探ることが目的でした。本調査の結果では、同規定の施行後もながらスマホ運転を根絶することは出来ていないことが明らかです。後述の交通反則通告制度(青切符)の導入によって、この状況がどのように変化するか注視したいです。

⑤歩道の通行
本調査では、回答者の過去6か月間の自転車運転において「車道と歩道の区別のある道路で、歩道を通行したことがある」かについて聞きました。その結果、69.2%の回答者が「ある」旨の回答をしました。前述のとおり、自転車の車道通行の原則に関しては、約75%が認識していたことを考えると対照的です。

⑥車道と歩道の区別のある道路で、歩道を通行したことがある回答者
さらに、「車道と歩道の区別のある道路で、歩道を通行したことがある」とした回答者692名に、そのことについてどう思うかを聞きました。問題はあるが、自信がある、多くの人がそうしている、習慣を変えられないと回答した合計は73.7%、「問題ない」とした回答者は19.2%でした。

「その他」の自由回答の多くが、車道通行が「怖い」、「危険」(なため歩道通行はやむを得ない)としています。後述の交通反則通告制度(青切符)のパブリックコメントにおいて自転車の歩道通行を取り締まることに多くの批判が集まりました(注2)が、それは自転車ユーザーが感じる車道通行の危険性が理由となっていることが窺えます。

(5)自転車損害賠償責任保険の加入実態

自転車損害賠償責任保険とは、自転車利用中の交通事故で、他人の体の被害に係る損害および財物に係る損害を補填する保険です。具体的には、自動車保険、火災保険、傷害保険等の特約としてセットされる個人賠償責任保険、自転車保険、共済、TSマーク付帯保険等があります。ここでは、上記内容をあらかじめ回答者に説明した上でその加入状況について聞いた結果を紹介します(注3)。

①加入状況
まずは回答者に自転車損害賠償責任保険加入の認識について聞きました。その結果、58.1%が加入している旨の回答をしました。「わからない」の回答(15.8%)の約半数が10代の回答者によるものでした。

②回答者が住む都道府県の自転車損害賠償責任保険に関する条例の認識
現在、自転車利用者に自転車損害賠償責任保険の加入を条例で「義務付けている」のは34都道府県、「努力義務」としているのは10道県です(「条例なし」は3県)。上記内容をあらかじめ回答者に説明した上で、回答者の住む都道府県がどれに該当するかを聞きました。

その結果は、48.2%が「わからない」、23.0%が「誤答」でした。誤答の8割近くは、条例は「努力義務」と回答したが、実際は「義務」であったものです。

自転車事故によって他人の生命や身体を害した場合に、加害者が数千万円もの高額の損害賠償を命じられる判決事例が出ていることから、都道府県が条例によって自転車損害賠償責任保険への加入を義務化する動きが広がっています(注4)。しかし、それら条例が十分に周知されているのか、保険加入促進につながっているのかといった疑念を生む結果となりました。

(6)交通反則通告制度の認知度と評価

ここでは、2026年4月より、16歳以上の自転車運転者による交通違反に対する交通反則通告制度(青切符)が導入されること、また既に公表されている反則金の金額について回答者に聞いた結果を紹介します。

①交通反則通告制度導入についての認識
まずは、同制度がそもそも導入されることについての認識の有無について聞きました。「全く知らない」と「よく知らない」の合計は35.1%でした。全国の自転車ユーザーの認識がこのような状態で2026年4月を迎えると、混乱を招くことが十分に予想されます。

②ながらスマホ運転に対する反則金について
さらに、交通反則通告制度(青切符)における、ながらスマホ運転の反則金(12,000円)について、その金額に対する考えを聞きました。最も多かった回答は「ちょうどよい」で57.2%でした。反則金の額について一定の納得が得られていることが窺えます。

③歩道通行に対する反則金について
併せて、交通反則通告制度(青切符)における、自転車による歩道通行の反則金(6,000円)について、その金額に対する考えを聞きました。最も多かった回答は「高すぎる」で55.9%でした。

カナダ司法省の調査研究(注5)によれば、反則行為の抑止力は、罰が大きいほどが高まるわけではなく、罰が公正である(と認識される)かどうかに関係するといいます。つまり、人が反則金について不釣り合いに高いと考える場合、交通違反の抑止力が低下する可能性があるという事です。その考えに従えば、この結果は問題を提起するものでしょう。

もっとも、警察庁は、単に歩道を通行しているといった違反については、「指導警告」が行われており、青切符の導入後も、基本的に取締りの対象となることはないとしています(注6)。

④交通反則通告制度導入後の効果について
最後に、同制度によって自転車が関わる交通事故は減少するかについて聞きました。「強くそう思う」と「そう思う」の合計は、62.8%でした。

考察:調査結果データの性別・年代別分析

ここでは、アンケート調査結果のデータを性別、年代別という切口で分析を試み、それから得られたデータの傾向について述べます。

(1)安全運転に関する自己評価が高い回答者

まずは、「周囲と比べて自分は交通ルールを守っており自転車の安全運転ができている」の設問に対して「強くそう思う」とした回答者193名に着目しました。性別、年代別で見ると、こうした自己評価の高い回答者は男性の方が多く、また男女ともに年代が上がるにつれて回答者数が減っていく傾向が明らかになりました。

 

(2)ながらスマホ運転をしたことがある回答者

ここでは、過去6か月にながらスマホ運転をしたことがあるとした回答者151名に着目しました。性別、年代別で見ると、回答者は男性の方が多く、最も多いのは40代男性であることが明らかになりました。女性については、20代が最も多く、年代が上がるにつれて回答者数が減少します。この結果は、ながらスマホ運転を減少させるために考慮すべきターゲット層を示唆しています。

まとめ

自転車の活用による環境負荷の低減、災害時における交通機能の維持、国民の健康増進等の実現に向け、自転車の利用増進を目的として、2017年に自転車活用推進法が施行されました。同法に基づき、2021年に「第2次自転車活用推進計画」が策定され、2025年がその最終年となります。

同計画の目標の一つは、「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」です。本調査では、8割を超える自転車ユーザーが、周囲と比べて交通ルールを守っており自転車の安全運転ができていると考えていることがわかっています。しかし、その一方で上記目標の実現に向けては、まだ課題が山積していることも明らかとなっています。

本稿では、ヘルメットの着用、ながらスマホ、車道通行の原則、自転車損害賠償責任保険、さらに2026年4月から導入される交通反則通告制度(青切符)等、可能な限り幅広くトピックを取り上げ、それらにまつわる実態と課題を明らかにすることを試みました。

本稿が自転車事故の防止の一助となれば幸いです。

(注1)ヘルメット着用は「努力義務」であり罰則がないため非着用で「問題ない」とした可能性もある。
(注2)山陽新聞「自転車青切符、意見5千件超 歩道通行取り締まりに批判」2025年6月18日
(注3)回答時の勘違いにより実際は保険に加入していた、またはその逆のケースが想定できるが、本稿では得られたアンケート調査結果に基づいて論考していく。
(注4)ただし罰則規定が設けられた例はない。
(注5)それは罰金が過剰で不当なものという認識から法に対する敬意が低下し、遵守率が下がるからとされる。Department of Justice Canada (2024) ”The Contraventions Act Program: Using behavioural science to identify evidencebased criteria for setting fine levels”
(注6)警察庁(2025)『普通自転車の歩道通行について』

MS&ADインターリスク総研株式会社

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