エイジフレンドリーへの取組み~高年齢者が活躍する職場づくり~
公開日:2024年11月29日
人事労務・働き方改革
高年齢労働者の現状
日本における人口動態
ご承知のとおり、日本の人口は近年減少局面を迎えており、2070年には総人口が9,000万人を割り込むと推計されています。また、総人口に占める65歳以上の割合は年々増加しています。2024年現在、65歳以上の人口は約3,600万人に達して総人口の約29%を占めており、2040年には約35%になると推計されています。このことから、企業経営においても今後は人的資本としての高年齢者の活用がますます重要となっていきます。
高年齢就業者数の増加
総務省のデータによれば65歳以上の就業者数は年々増加、2023年には900万人に達し全就業者の約13%に相当します。健康寿命の延伸や将来の生活資金への不安等の要因も相まって、定年後も働き続ける意欲を持つ高年齢者が増えているものと考えられます。人材不足が深刻化する多くの企業にとって、高年齢者は貴重な労働力となることが期待されます。
高年齢者が活躍するための制度設計
高年齢者の雇用確保措置
現在、高年齢者雇用安定法により、事業主は従業員の定年を定める場合には、その定年年齢は60歳以上とする必要があります。また、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要があります。
さらには、2021年4月以降、定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主または継続雇用制度の上限年齢を70歳未満としている事業主は、70歳までの継続雇用制度の導入など、70歳までの就業機会の確保の努力義務が求められることとなりました。ただ、2022年の時点で努力義務を実施済の企業は約28%に留まっています(厚生労働省 令和4年高年齢者雇用状況等報告)。
再雇用従業員の人事制度
高年齢者の雇用確保措置として継続再雇用制度を導入する企業は多くありますが、再雇用従業員に対する人事制度が整備されている企業はいまだに少ないものと考えられます。正社員のときから一律何%減として給与を設定している企業も多くありますが、再雇用従業員が活躍する職場を目指すにあたっては、人事制度の整備も重要です。
高齢社員の人事制度の課題としては、モチベーションの低下、多様性、育成と継承などがあげられます。定年前から一律で給与を下げる方式の場合、活躍が期待できる高齢社員であってもモチベーションの低下により思うような成果を上げられないケースも考えられます。また、中小企業では恒常的な人材不足から優秀な人材にはできる限り長い間活躍してもらうとともに、後任の育成にも取り組んでもらいたいところです。一方では健康面の問題からフルタイムでの勤務が難しい高齢社員も考えられるなど、定年前と比べると多様性が増し個別の事情が増えてくることもあります。これらに対応するためには、定年前と同様の業務を担い給与水準も定年前と同程度にする働き方や、定年前よりも業務量を減らし給与水準もその分下げる働き方、時短勤務など働ける範囲で勤務する働き方など、高齢社員の状況と会社と期待とを整合できる複数の区分を設けることが効果的です。さらに、各区分に応じた評価制度の導入や対応する給与体系の設計など、高年齢者が高いモチベーションを持って働き続ける制度設計をすることで、経験や知識が豊富な高年齢者が力を最大限に発揮することに繋がります。
また、高齢社員は仕事に対する姿勢や個別の事情などが多様であること、心身や環境の変化が仕事に影響を与えやすいことから、定期的に面談を行い本人の今後の働き方に関する希望や考え方を確認するとともに、会社の期待を伝える機会を設けることも重要となります。
エイジフレンドリーな職場づくり
事業者に求められる対応
働く高年齢者が増加する中で、労働災害による死傷者数は、60歳以上の労働者が占める割合は26%(2018年)と増加傾向にあります。労働災害発生率は、若年層に比べ高年齢層で相対的に高くなり、中でも転倒災害、墜落・転落災害の発生率が若年層に比べ高く、女性で顕著です。
一般的に、高年齢者は各機能が低下すること等により、若年層に比べ労働災害の発生率が高く、休業も長期化しやすい傾向があります。
上記は50~59歳の各機能水準の低下の割合を示したグラフです。この調査では生理的機能(特に、視力・聴力等の感覚機能、バランス能力等)は早い時期から低下が始まるとされており、一般的にはこれらの対策を検討していくことが効果的と思われます。上記を踏まえ、高年齢者を雇用していくためにも、以下のようなエイジフレンドリーな職場環境づくりが望まれます。
安全衛生管理体制の整備
高年齢者が安心して働くことができるよう、経営トップによる高齢者労働災害防止対策に取り組む方針を表明することや、対策の担当者や組織を指定して体制を明確化することなど、安全管理体制の確立が求められます。高年齢者に多発する労働災害の防止対策としては、転倒防止、墜落・転落防止、腰痛予防、はさまれ・巻き込まれ防止、交通労働災害防止、熱中症予防などがあげられます。このような高年齢者の身体機能の低下等による労働災害発生リスクについて、現場の高齢社員からの直接の意見、災害事例やヒヤリハット事例から洗い出し、対策の優先順位を検討する等、リスクアセスメント*の実施が重要になります。
*職場の潜在的な危険性・有害性を見つけ出し、これを除去、低減して労働災害を未然に防ぐための手法
職場環境の改善
身体機能の低下を補う設備・装置の導入等、ハード面での対策は、高年齢者の労働災害防止に有効です。例えば、バランス能力・筋力・俊敏性・視認性の各々の低下により発生可能性の増える転倒防止のために、階段へ手すりを設置すること等が挙げられます。また、視認性や薄明順応の低下に対応するための作業場所の照度の確保等、高年齢者の身体機能の低下に合わせて優先順位をつけて対策していくことが考えられます。また、筋力や持久力の低下を考慮して、勤務形態や勤務時間、休憩時間を工夫する等のソフト面での対策も考えられます。
健康や体力の把握とそれに応じた対応
まずは、労働安全衛生法で定める健康診断を確実に実施することです。そして、加齢による心身の衰えのチェック項目の導入や、厚生労働省の転倒等リスク評価セルフチェック票を活用するなど、事業場の働き方や作業ルールに合わせた健康状態のチェックを行いましょう。チェック結果に応じて労働時間の調整や作業転換を行うことで、高年齢者が無理なく中長期的に活躍することが期待できます。
また、加齢に伴う生活習慣病やがんなどに対応するための健康指導やがん検診の受診など、高年齢者特有の健康課題への対応も効果的と思われます。
安全衛生教育の実施
作業内容やリスクの確実な理解のため、十分に時間をかけて、写真や映像等の文字以外の情報も活用した安全衛生教育が有効と考えられます。また、教育を行う方や管理監督者、共に働く社員等に対しても、高年齢者に特有の特徴と対策についての教育を行うことも効果が期待できます。
リスキリング・リカレント教育
環境変化のスピードが増し、従来の知識・経験が十分に活用できないこととなる状況を踏まえて、中高年の学び直しの重要性が増してきています。特にITやデジタル分野に対しては経験不足から苦手意識を抱えていることも多く見られ、これらの領域の学習についてハードルを感じていることも考えられます。対応するための手法として、業務とIT・デジタルの関連性や効果的な活用方法などを伝えつつ、中高年用の研修プログラムを用意するなどが考えられます。特に中高年が持つノウハウや暗黙知などは会社にとって有益な財産でありこれをIT・デジタルで仕組化していくことも重要と思われます。
高年齢者雇用継続給付金
60歳到達時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の従業員に対しては、一定の要件を満たすことで高年齢者雇用継続給付金が支給されます。支給額は低下率に応じて決定されます。この給付金は、本人の就業意欲を維持、喚起し、雇用の継続を援助、促進することを目的としています。60歳に到達することでそれまでと業務や役割が変わり、60歳到達前と同水準の給与の継続支給が困難な場合であっても、当該制度を有効活用することで就業の継続に繋がる可能性が高まります。
高年齢者雇用継続給付金については現状で60歳以降の給与に対し最大15%の給付がされていますが、2025年4月より最大10%の給付に減額されます。高年齢者雇用継続給付金の支給を前提として定年後の社員の給与を設計していた場合には、思わぬところで本人の収入が減ることになります。この点に注意して必要に応じて賃金設計の見直しなども検討することをお薦めします。
給付金の詳しい手続き等は専門家や地域所轄の公共職業安定所にご確認ください。
(発行:社会保険労務士法人みらいコンサルティング)
・参考URL
厚生労働省:エイジフレンドリーガイドライン
(https://www.mhlw.go.jp/content/001107783.pdf)
中央労働災害防止協会:エイジフレンドリー職場
(https://www.jisha.or.jp/age-friendly/ageaction100.html)
厚生労働省:高年齢労働者の安全衛生対策について
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00007.html)