企業対象のESG訴訟が増加、背景に子会社・サプライチェーンへの責任拡大
公開日:2023年9月22日
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持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)が2023年2月14日公表したレポートによると、企業に対するESG関連訴訟が過去30年間で25%増加、特に直近10年間で急増しています。分析によると、子会社やサプライチェーンに起因する訴訟やESG関連リスクのデューデリジェンスの不備などを捉えて取締役会の善管注意義務違反を問う訴訟の増加が目立っています。1990年から2022年までのESG関連訴訟623件を分析しました。
ESG訴訟と子会社やサプライチェーンの関連性
レポートでは、ESG訴訟を子会社やサプライチェーンの業務といった訴因などでパターン化して集計・分析したところ、いずれも訴訟件数が増えていました。子会社・サプライチェーン起因の事案で、親会社・委託元企業の取締役会が訴えられるパターンが増加傾向であることも分かりました。その背景に指摘したのが責任範囲の拡大です。自社の直接的な活動に加えて、子会社・サプライチェーンにおけるESG問題も親会社の責任とする整理が広がったためです。一方で、各国の法制備も影響しています。例えば国別の訴訟件数では、欧州、特にフランスとドイツが上位を占めます。いずれも環境法規制が世界でも最も厳しく、サプライチェーンでの問題についても企業が責任を問われます。
一方、取締役会の善管注意義務を問う訴訟では、ESGリスクのデューデリジェンスの不備が主な訴因に挙がります。リスクの把握や対策の抜け漏れが生じたとの追及です。上述のように、子会社・サプライチェーンへの責任範囲が広がるのに伴い、それらで生じた問題についても責任を問われるケースがあります。ESGリスクのデューデリジェンスを義務化する法制備の進展も訴訟件数の増加傾向を後押ししています。例えば、フランスの企業注意義務法(Duty of Vigilance Law)は、国内の大企業にサプライチェーンにおける環境や人権に関するデューデリジェンスを義務化しました。同国でESG訴訟件数が多い事実と符合します。さらには、OECD多国籍企業ガイドライン、生物多様性条約のようなソフトローが判断基準に採用される傾向も件数増の要因に挙げられています。
また、ESG関連リスクの開示の適否も過去10年で増加している訴因となっています。これは国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)や欧州企業サステナビリティ開示指令(CSRD)などに見られるような非財務情報に関する制度開示の拡充が背景にあります。
レポートは、ESG訴訟増加の背後にある大きな潮流として、企業が地球環境や社会に与える影響にも焦点をあてる「ダブルマテリアリティ」の普及を指摘しています。企業は制度開示対応に加えて、法的リスク対策を考慮する面でも、ダブルマテリアリティの概念理解や自社ビジネスの検証の必要性を改めて浮き彫りしています。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2023年4月(第1号)を基に作成したものです。