異常気象による風水害の中国における影響とその対策

公開日:2024年11月1日

【要旨】
・2024年は世界規模での温暖化とエルニーニョ現象の影響により、世界各地で激しい大雨や気温の上昇が観測されている。
・2024年4月と6月に華南地域で発生した風水災害は深刻な被害をもたらした。特に広東省では4月に豪雨、洪水、雹、竜巻など様々な災害が発生し、各地域に甚大な影響を及ぼした。
・異常気象時の風水災害に対応するためには、ハードとソフトの両面から、日常対応、直前対応、事業復旧という三つの側面で対策を講じる必要があり、各対策について解説する。

2024年に発生した異常気象とその原因

2024年は大雨や洪水、干ばつ、高温など、地球規模で異常気象が発生しています。4月から6月にかけて、ブラジル、アフガニスタン、アラブ首長国連邦、イエメンなどで記録的な大雨が観測され、広範囲にわたる洪水が発生しました。 4月16日にはアラブ首長国連邦の一部で年間平均降水量の約2倍の大雨を観測し、大規模な洪水が発生しました。

中国においても、2024年4月から6月にかけて例年と比べ、大雨、洪水、高温、干ばつが多く発生しました。当初は広東省、福建省、江西省で大雨と洪水が発生し、その後、大雨の区域は徐々に南部から北部に遷移し、6月には湖南省、重慶省、安徽省にも影響を与えました。

中国で発生した異常気象の主な理由は①地球温暖化、②エルニーニョ現象の2つの現象が考えられます。

次に2024年4月~6月にかけて中国で発生した異常気象について、それぞれの現象を解説します。

1) 地球温暖化

2024年の4月から6月にかけて、地球全体の平均気温は過去最高を記録しました(図1)。一般的に、気温が上昇すると、大気中により多くの水蒸気が含まれるため、降水量が増加します。

また、温度が高くなると大気の対流は活発になるため、大気中の水蒸気が高い高度まで流入する可能性が高くなり、雨が発生しやすくなります。

中国の2024年4月から6月の平均気温に着目すると、例年よりも約1℃~2℃高いです(図2)。広東省では、4月の平均気温が24.4℃と、例年を2.2℃上回り、4月の最高気温の記録を更新した地域もありました。

降水量では、広東省の2024年4月の月平均降水量が497.4mmと過去最高を記録し、過去の同時期の平均降水量を181%上回りました。広東省最大の国家気象観測所(佛網県)の月間累積降水量は1152.4mmに達し、この記録は上海市の年間平均累積降水量(1273mm)に匹敵する降水量となりました。

2024年6月に入ると、広東省では例年の平均気温との差が見られなくなりました。平均降水量も2024年の月平均降水量(352.1mm)と過去の平均降水量(329.7mm)の差が小さくなったことから、気温の上昇が降水量の増加に影響したと考えられます。

2) エルニーニョ現象

2023年に発生したエルニーニョ現象の影響で、2024年4月以降西太平洋に位置する亜熱帯高気圧の勢力が強く、南シナ海やベンガル湾から中国大陸方面へ水蒸気を大量に含んだ大気が流れているため、雨が降りやすい状況が形成されていたと考えられます。

2024年5月から7月にかけては亜熱帯高気圧が北上するため、降水量が多い地域も徐々に北上します。このため、4月から6月にかけての大雨の影響範囲は、4月の広東省・福建省から、6月には湖南省や安徽省へと北上します(図3)。

2024年4月から6月に発生した災害

上記の影響を受けて、2024年4月から6月にかけて広東省、福建省、湖南省、重慶市などで大雨、洪水、雹、竜巻が発生し、都市部や農村部で洪水、地滑り、地下通路への浸水被害が多数発生しました。以下に被害状況の事例を紹介します。

1) 洪水

2024年4月の大雨により広東省では多くの水位観測所で警告水位を超え、清遠と韶関で浸水被害が発生しました。 洪水により、建物の内部に泥が入り込み、家財道具や電子機器類など様々なものが浸水しました。

また、屋外においても樹木が倒れるなど、地域経済的に大きな被害をもたらしました(図4)。大雨は都市部だけでなく、農作物へも大きな影響を及ぼしました。6月2日以降、江西省の多くの地域で大雨が降り、6月17日時点で、洪水により江西省では約7万8000ヘクタール分の農作物が影響を受け、約3,800ヘクタール分の農作物が失われました(図5)。

2)雹

広東省広州市では2024年4月に複数回大雨が観測されました。その際に雹が3回観測され、4月27日に発生した大雨の際は、広州市増城区では直径5cmを超える大きな雹を観測しました。雹による災害は、車両、建物、ドアや窓、人、作物と広範囲に被害が確認されました(図6および7)。

3)竜巻

2024年4月に広州市で発生した大雨では、雹だけでなく竜巻の発生も観測されました。4月27日に発生した大雨の際、広州市白雲区中羅潭鎮で竜巻の強度を示す「改良藤田スケール」におけるEF2クラスの強い竜巻が発生しました(最大風速は約50-60m/s)(図8)。

竜巻が通過した周辺では、物の飛散や、電線同士の接触によるスパーク、建造物の屋根やシャッターが吹き飛ばされるなど、甚大な被害が発生しました。この竜巻により5人が死亡、33人が負傷し、141の工場が被害を受け、一部の地域では停電が発生しました。

2024年4月に広州市で発生した竜巻以外に、7月5日には山東省菏沢市でも竜巻が発生しました。この竜巻では、車や樹木、家屋の屋根や外壁が飛ばされました。この竜巻の影響により、5人が死亡、88人が負傷するなど、地元に甚大な被害を与えました (図9)。

4)地滑りと道路の崩落

頻繁に発生する降雨や局地的な大雨は土壌中の水分飽和を引き起こし、岩石や土壌構造の緩みにつながり、地滑りや道路の法面崩壊を引き起こしました。2024年 5月1日には、広東省の梅大高速道路で法面崩落が発生しました。 この事故により、23台の車両が転落し、48人が死亡、30人が負傷しました(図10)。

また、4月中旬には浙江省の金雲市、広西チワン族自治区の霊川市と梧州市でも地滑りが発生しましたが、直前に住民が避難したことにより、死傷者は発生しませんでした(図11)。

5)浸水

大雨は地下施設にも深刻な被害を与えました。長沙市では2024年6月24日午前9時から午前10時までの1時間の降水量が過去の6月1か月の月間降水量を更新し、市全体で約7億6800万㎥の降水量を記録しました。地下施設においては、土嚢などの防水設備が設置されていましたが、排水処理能力を超えた大量の雨水が地下施設へ流れ込んだため、鉄道駅や多くの地下鉄の駅の地下通路が浸水しました(図12)。

激甚化する風水害に対する発災前後の対応

このように中国国内においても今後、風水災害の巨大化・甚大化が予想されます。今後も発生が予想される風水災害による被害の軽減のために、発災前後の対応を①風水災害発生前の日常対応、②事前対応、③災害発生後の復旧(事業復旧)と三つの段階に整理し、それぞれの段階においてソフトとハードの両面から対策を講じることが重要です(図13)。以下に各段階における対策のポイントについて解説します。

1) 日常対応

風水災害は日常生活や企業活動に与える影響が大きいです。そのため、日頃から災害対応体制の検討を行い、発災時の対応手順や役割分担の明確化、現場施設や設備の点検・整備をしておくことが最も基本的な取組と考えられます。

日常の取組の中では、経営管理部門や危機管理対応部門などにおいては、発災前の事前対応や発災後の事業復旧を前提とした体制構築と対応、復旧手順の整備、判断基準の明確化検討や周知、現場部門においては、災害対応に必要な資材や機材の準備、確認といった取組が重要です。


これらの日常における取組が、災害警報発令後の事前対応や発災後の事業復旧に密接に繋がっています。日常的に取組を進めていく中で、取組の改善や是正を進めることが必要ですが、当然コストもかかります。そのため、計画的かつ継続的に取組を進めることが重要です。表1に日常の対応を実施する際の要点を取りまとめました。

2) 直前対応

事前対応の実施については、表2に一例を示します。自社の事業形態や経営・運用・作業プロセスを踏まえ、表2を参考に警報発令後を起点に、対応すべき項目と対応開始時間や所要時間、対応責任部門(者)などを整理しておくことをお薦めします。

3) 事業復旧

日常の対策を含め、事前に対策を講じていたとしても、事業継続や生産能力に影響を与える可能性が考えられます。災害後、事業や生産を早期に再開し、事業や生産への損害を軽減するために、重要な業務や事業(主力製品の生産など)と必要な支援・関連事業(製品の輸送、従業員の賃金支払いなど)の復旧を優先する必要があります。

表3は災害後に事業や生産を再開・復旧に向けた取組のポイントをまとめた表です。企業によって事業形態や経営・運用・作業プロセスは様々ですが、表3を参考に対応項目や判断基準や連絡体制、対応責任部門(者)を整理しておくことをお薦めします。

最後に、本稿が企業や社員に与える被害や損害の最小化、企業活動および日常生活の早期復旧に寄与できれば幸いです。

MS&ADインターリスク総研株式会社発行の中国風険消息<中国関連リスクニュース> 2024年8月(No.1)を基に作成したものです。