食品安全マネジメントシステムFSSC22000 V6への対応における留意点 第3回 要求事項の解説と取組例(その2)

公開日:2025年4月9日

その他

本稿では、「食品安全マネジメントシステムFSSC22000 V6への対応における留意点」と題し、FSSC22000 Version6(V6)(注1)について、Version5.1(V5.1)からV6への変更点と対応のポイントの解説を連載しています。

はじめに

前回から、FSSC22000の審査対象組織に対する要求事項のうち、「パート2審査対象組織の要求事項」における具体的な変更内容と、変更点をふまえた取組例を解説しています。

前回は「2.5.1 サービスと購入資材の管理」~「2.5.4. 計画書」を取り扱いました。

今回は、「2.5.5ロゴの使用」~「2.5.11 ハザード管理と交差汚染防止対策」までを対象とします。ただ、「2.5.5ロゴの使用」~「2.5.7環境モニタリング」については、連載第1回で「詳細化」として挙げた要求事項であり、V5.1で実施している現行の仕組み・ルールに対して、V6で詳細化された要求事項に基づき細分化した上で、「いつ/だれが/何を/どうする」等の肉付けをすることで概ね対応が可能なため、ここでの解説は割愛します。

本稿では、以下の要求事項について解説します。

以降の解説の要求事項は、FSSC 財団「FSSC22000 スキーム 第 5.1 版」、「FSSC22000 スキーム 第 6.0 版」を引用しています。

食品安全マネジメントシステムのV5.1からV6への変更点と対応のポイントについて解説しています。

2.5.8 食品の安全と品質の文化

本要求事項は新規追加されたものです。
(1)要求事項

a) ISO22000:2018の5.1に従い、及びこれに加えて、積極的な食品の安全と品質の文化を育成する組織の取組みの一環として、上級管理者は、マネジメントシステムの一部として、食品の安全と品質の文化の目標を設定し、実施し、維持しなければならない。
少なくとも以下の要素に対応しなければならない:
 
・コミュニケーション;
・教育訓練;
・従業員のフィードバックとエンゲージメント;及び
・食品の安全性と品質に影響を与える組織のすべてのセクションを対象とする、定義された活動のパフォーマンス測定。

b) この目的は、目標およびスケジュールを含む文書化された食品安全と品質文化計画書によって裏付けられ、マネジメントシステムのマネジメントレビューと継続的改善プロセスに含まれなければならない。

要求事項a) は、経営層による食品安全と品質の文化に関する目標の策定と、目標を踏まえた文化の醸成に関する運用(実施、維持)を求めるものです。ここでの「目標」は、原文では「Objective(s)」、すなわち、組織が目指す具体的な状況を示した目標を指します。

要求事項b) は、a) で設定した目標(Objective(s))を踏まえ、その状況を達成するための「目標」を含む計画書を作成した上で、その目標をモニタリングし、継続的に改善することを通じて、食品安全と品質の文化の醸成に取り組むことを求めています。ここでの目標は、原文では「Targets」、すなわち、期限を伴った測定可能な目標を指します。

(2)-1事業者の取組例
要求事項a) を踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。

【仕組み・ルール】
食品安全と品質の文化の目標(Objective(s))を設定する。

(2)-2事業者の取組例
要求事項b) を踏まえた加工食品メーカーの①食品安全と品質の文化に関する計画書の策定/②マネジメントシステムへの組入れの取組例を以下に示します。

【仕組み・ルール】
経営層が策定した「食品安全と品質の文化に関する目標(Objective(s))」を具現化するための、期限を伴った測定可能な目標(Targets)を含む計画書を作成した上で、それらをマネジメントシステムに組み入れて文化の醸成に取り組む。

2.5.9 品質管理

本要求事項は新規追加されたものです。
(1)要求事項

a) 組織は、以下を行わなければならない:
 
 i. ISO22000:2018の5.2及び6.2に加えて、それらに沿った品質方針及び品質目標を確立し、実施し、維持する。
 ii. 品質管理及び試験に対応する製品リリースを含め、認証適用範囲内の全製品及び/または製品グループに対して、最終製品の仕様に沿った品質パラメータを設定し、導入し、維持する。
 iii. ISO22000:2018の9.1及び9.3に加えて、それらに沿った、上記2.5.9 (a)(ⅱ)に定義される品質管理パラメータの結果分析と評価を実施し、それをマネジメントレビューのためのインプットとして含める。及び
 iv. ISO22000:2018の9.2に加え、これに沿って、この条項に定義された品質要件を内部監査の適用範囲に含める。

b) 製品が適用される顧客及び法的要求事項を満たすことを確実にするため、単位、重量、体積を含む数量管理手順を確立し、実施しなければならない。これには、品質と数量の管理に使用される機器の校正と検証のためのプログラムを含めなければならない。

c) 包装及び表示を含む製品が、適用される顧客及び法的要求事項を満たすことを確実にするため、ラインの立ち上げ及び切り替え手順を確立し、実施しなければならない。これには、前回の稼働時の表示や包装がラインから取り除かれていることを確実にするための管理が行われることを含めなければならない。

要求事項a) は、食品安全マネジメントシステムに「品質管理」の要素が追加され、品質方針(Policy)の確立、品質管理の実施、維持を求めるものです。なお、ここでいう「品質」とは、顧客及び法的要求事項を満たす製品特性を指し、比重や体積、色差(Lab)や塩分濃度などの数値管理が可能な物理量で管理するのが一般的です。

要求事項b) は、品質管理に必要な物理量の測定・評価(測定機器の校正方法や検証プログラムを含む)に関する手順書の策定とその確実な運用を求めるものです。

要求事項c) は、内容物だけではなく、包装やパッケージ表示も食品安全のために必要な要素ととらえ、包装やパッケージ表示に係る品質を満たすことを確実にするための手順を文書化し、確実に運用することを求めるものです。

(2)事業者の取組例
要求事項a) のⅰを踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。a) のⅱ~ⅳおよびb)とc)の取組は、従前の商品仕様書や各種手順書等に品質管理に関する項目を追加することで概ね対応が可能なため、割愛します。

【仕組み・ルール】
品質方針(Policy)およびその方針のもとで達成すべき状況を具体化した品質目標(Objectives)を作成した上で品質管理に取り組む。

2.5.10 輸送、保管及び倉庫

本要求事項は項目が追加されています。
(1)従前の要求事項
従前の要求事項を以下に示します。輸送時に汚染されることがないような仕組みや、材料・製品の先入先出ルール等の期限切れにならないように管理する仕組みに関するものです。

2.5.9 輸送及び配達
組織は、汚染の可能性が最小限にとどまるような条件下で製品が輸送され、配達されることを確実にしなければならない。

2.5.10 保管及び倉庫
a) 組織は、FIFO要求事項と合わせて手順及びFEFO原則を含む指定の在庫回転システムを確立、実施、維持しなければならない。

b) フードチェーンカテゴリC0の場合は、ISO/TS22002-1:2009の16.2に加えて、組織は、製品の冷蔵または冷蔵に関連して屠殺後時間と温度を定義する具体的な要求事項を用意しなければならない。

(2)要求事項の変更点
V5.1では、「2.5.9 輸送及び配達」と「2.5.10 保管及び倉庫」とに分かれていましたが、V6では、「2.5.10 輸送、保管及び倉庫」に統合され、輸送および配達に関する要求事項は、c)、d)として、内容の拡充・具体化が図られました。これに伴い、V6では、「2.5.9 輸送及び配達」の要求事項は削除され、前出の「2.5.9品質管理」となりました。

2.5.10 輸送、保管及び倉庫
a) 組織は、要求事項と合わせて手順及びFEFO原則を含む指定の在庫回転システムを確立、実施、維持しなければならない。

b) フードチェーンカテゴリC0の場合は、ISO/TS22002-1:2009の16.2に加えて、組織は、製品の冷蔵または冷蔵に関連して屠殺後時間と温度を定義する具体的な要求事項を用意しなければならない。

c) フードチェーンカテゴリF1(小売/卸売/電子商取引)の場合は、BSI/PAS 221:2013の9.3に加えて、組織は製品が汚染の可能性を最小化する条件下で輸送及び配達されることを確実にしなければならない。

d) 輸送タンクを使用する場合は、ISO22000:2018の8.2.4に加えて、以下を適用しなければならない:
 
 i. 最終製品の輸送にタンクを使用する組織は、輸送タンクの洗浄に対処するための文書化されたリスクに基づく計画書を持たなければならない。これは、交差汚染の潜在的な発生源、及び洗浄の検証を含む適切な管理措置を考慮しなければならない。積み込む前に、空のタンクの受入地点で、タンクの洗浄度を査定するための措置が整っていることを確実にしなければならない。
 ii. タンクで原材料を受け取る組織の場合は、製品の安全性を確保し交差汚染を防止するために、最低限、以下の事項をサプライヤーとの契約に盛り込まなければならない:
タンク洗浄の妥当性確認、事前の使用に関連した制限、輸送される製品に関連して適用される管理措置。

要求事項c) は、小売/卸売/電子商取引においても輸送および配達における製品の汚染を最小化することを求めるものです。

要求事項d) は、輸送タンク(タンクローリーやバルクで使用するコンテナ等)を使用する際に、製品の安全性を保ち、交差汚染(食品から食品に汚染が移ること)を防ぐために、洗浄や安全性の検証、妥当性確認等の取組を求めるものです。

(3)-1 変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項c) を踏まえた卸業の取組例を以下に示します。

【仕組み・ルール】
追加された要求事項を踏まえ、『輸送による商品の擦れや潰れによる液漏れやピンホールの発生による汚染を想定し「荷崩れ予防措置の徹底や荷物の丁寧な取扱い」』等を追記し、輸送業者に周知した上で、以下のように実施する。

(3)-2 変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項d) を踏まえた①原材料メーカー/②加工食品メーカーの取組例を以下に示します。

【仕組み・ルール】
タンクを使用する原材料メーカーは、追加された要求事項を踏まえ、輸送用タンク使用前点検手順書(記録含む)を作成した上で、自社もしくは輸送業者のタンク投入担当者に周知し、以下①のように実施する。タンクで原材料を受け取る加工食品メーカーは、追加された要求事項を踏まえ、以下の②のように実施する。

2.5.11 ハザード管理と交差汚染防止対策

本要求事項は項目が追加されています。

(1)従前の要求事項
従前の要求事項を以下に示します。要求事項a) は包装形態の機能によって賞味期限を延長するような場合が該当します。機能効果が保たれていることの検査方法の確立が必要です。要求事項b) は、食肉処理事業者等が実施している検査(抗生物質や微生物等)が適切であることを一つ川上の調達先等からエビデンスを取り付ける手順等の確立が必要です。

a) フードチェーンカテゴリI(食品包装及び包装材の製造)に対し、ISO22000:2018 の8.5.1.3に次の追加要求事項が適用される:

・組織は、包装が食品に対し何らかの機能効果を付与または提供するために使われている場合には、具体的な要求事項を用意しなければならない。

b) フードチェーンカテゴリC1(腐敗しやすい動物性製品の加工)に対し、ISO/TS 22002-1:2019の10.1に加えて次の要求事項が適用される:

・組織は、家畜の一時収容所や解体所における検査プロセスに対し、動物が人間の消費に適していることを確認するための具体的な要求事項を有しなければならない。

(2)要求事項の変更点
今回、新たに以下の要求事項が追加されました。

c) フードチェーンカテゴリD(飼料及び動物用食品の加工)の場合は、ISO /TS 22002-6:2016 の4.7項に加えて、以下の要求事項が適用される:組織は、動物の健康に悪影響を及ぼす可能性のある成分を含んだ原料/添加物の使用を管理する手順を定めなければならない。

d) FⅡ(仲買業/取引/電子商取引)を除く全フードチェーンカテゴリの場合は、ISO22000:2018 の8.2.4項 (h) に加えて、異物管理に関する以下の要求事項が適用される:
 
 i. 組織は、必要な異物検出装置の必要性と種類を決定するために、リスク評価を実施しなければならない。組織が異物検出装置を不要と判断した場合は、その正当性を文書化した情報として保持しなければならない。異物検出装置には、磁石、金属検出器、X線装置、フィルター、ふるいなどの機器が含まれる。
 ii. 選択された機器の管理及び使用について、文書化された手順が定められていなければならない。
 iii. 組織は、潜在的な物理的汚染(金属、セラミック、硬質プラスチックなど)に関連するすべての破損の管理手順を含む、異物管理のための管理体制を整備しなければならない。

要求事項c) は、飼料メーカーやペット等の動物用食品の加工メーカーにおいて、喫食する餌がおよぼす動物への健康危害を想定し、受け入れる原材料の安全性の担保を求めるものです。

要求事項d) は、ISO22000:2018 の8.2.4項 (h:交差汚染の予防手段)に加え、異物管理の観点からみたフローダイアグラムや危害要因分析表の再評価と、評価結果に基づく適切な異物検出装置の設置および設置の要否に関する判断根拠の文書化を求めるものです。

適切に異物検出装置の設置やCCPプラン/OPRPプランが策定されていれば十分な対応といえますが、本要求事項を満たすためには、異物検出装置を導入していない製造ラインについても設置不要と判断した根拠を文書化する必要があります。

(3)-1 変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項c) を踏まえた飼料メーカーやペットフードメーカーの取組例を以下に示します。

【仕組み・ルール】
追加された要求事項を踏まえ、従前のISO22000の8.5.1.2項(原料、材料及び製品に接触する材料の特性)に基づく原材料特性表を作成する手順書に、「受入れ原材料に対する安全性が国の規格基準等(注2)に合致していること」等を追記し、担当者に周知した上で、以下のように実施する。

(3)-2 変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項d) を踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。

【仕組み・ルール】
追加された要求事項を踏まえ、以下のように実施する。

おわりに

本稿では、審査対象組織に対する要求事項のうち「パート2 審査対象組織の要求事項」の「2.5.8 食品の安全と品質の文化」~「2.5.11 ハザード管理と交差汚染防止対策」までの範囲において、具体的な変更内容とそれをふまえた取組例をご紹介しました。

次回も同様に、変更があった要求事項(「2.5.13 製品設計及び開発」~「2.5.17 コミュニケーションの要求事項」)について、解説する予定です。

MS&ADインターリスク総研株式会社発行のPLレポート(食品安全)2025年1月号を基に作成したものです。

(注2)国の規格基準等の例

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