食品安全マネジメントシステムFSSC22000 V6への対応における留意点 第4回 要求事項の解説と取組例(その3)
公開日:2025年7月9日
その他

この連載では、「食品安全マネジメントシステムFSSC22000 V6への対応における留意点」と題し、FSSC22000 Version6(V6)(注1)について、Version5.1(V5.1)からV6への変更点と対応のポイントを解説してきました。
第2回から、FSSC22000の審査対象組織に対する要求事項のうち、「パート2 審査対象組織の要求事項」における具体的な変更内容と、変更点をふまえた取組例を解説しています。第2回では「2.5.1 サービスと購入資材の管理」~「2.5.4. 計画書」、第3回では「2.5.5ロゴの使用」~「2.5.11 ハザード管理と交差汚染防止対策」を取り扱いました。
今回は、「2.5.13 製品設計及び開発」~「2.5.17 コミュニケーションの要求事項」を対象とします。
本稿では、以下の要求事項について解説します。
はじめに

以降の解説の要求事項は、FSSC 財団「FSSC22000スキーム第5.1版」、「FSSC22000スキーム第6.0版」を引用しています。
食品安全マネジメントシステムのV5.1からV6への変更点と対応のポイントについて解説しています。
2.5.13 製品設計及び開発
本要求事項は項目が追加されたものです。
(1)従前の要求事項
従前の要求事項を以下に示します。新製品、製品または製造プロセスの変更が、安全で法令に適合した製品であることを確実にすることを求めています。

(2)要求事項の変更点
製品開発や製品リニューアル(工程変更含む)等を行う場合において、従前の要求事項e)に保存期間の検証に関する一文が追加(追加された一文にアンダーラインを追記)されました。また、新たに要求事項f)としてRTC(Ready-to-Cook:半調理食品)製品を対象とした要求事項が追加されました(a)~d)は変更なし)。

要求事項e)で追加された一文は、当該製品の賞味期限の設定に際し、従前のように、保存試験等を行った上で賞味期限を決定した後も、検証活動の一環として、継続して保存試験を実施することを求めるものです。
要求事項f)は、RTC製品(例:家庭で油調する非加熱の冷凍メンチカツや、家庭のオーブンで焼くグリルキット(カット鶏肉・カット野菜・別添ソース)等)について、パッケージ等に記載された調理手順により調理した際の安全性の検証、妥当性確認などの取組を求めるものです。
(3)変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項e)で追加された一文については、既存の商品開発マニュアルに以下のようなステップの検証プロセスを追記し、当該ルールに基づいて実施し、その記録を残していくことになります。
ステップ1:リスク評価を行い、リスクに応じたサンプリング頻度の決定
ステップ2:賞味期限を設定した試験方法によるサンプル品の分析
ステップ3:発売後半年を目安に分析結果やクレーム有無に基づくサンプリング頻度の見直し
また、要求事項f)を踏まえたRTC製品を製造する加工食品メーカーの取組例を以下に示します。
【仕組み・ルール】
一般家庭で使用する調理器具による調理方法を起案することや、その調理方法を、消費者に対して、分かりやすくパッケージに記載にする旨を、製品開発マニュアル等に追加する。

2.5.15 設備管理
本要求事項は新規追加されたものです。
(1)要求事項

要求事項a)は、ISO22000:2018の8.2.4項の前提条件プログラムに関連する新規設備の導入または既存設備の変更の際は、自社が購入仕様書を作成した上で、設備メーカー等から関連設備の製品仕様書等を取り付け、購入仕様書の要件を満たしていることの確認と記録を求めるものです。
要求事項b)は、新規設備や既存設備の変更に対するリスクを評価し、変更管理プロセスを確立・実施し、設備変更後の試運転に問題がなかったことを含めて変更管理プロセスの文書化を求めるものです。
(2)-1事業者の取組例
要求事項a)を踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。
【仕組み・ルール】
設備や備品等を新たに導入する際に、設備や備品等についての自社基準を定めた購入仕様書を作成して、サプライヤーに提示する。サプライヤーからは、その基準を満たしていることが確認できる製品仕様書や安全証明書等を取り付け、保管するルールを設備管理マニュアル等に追加して運用する。

(2)-2事業者の取組例
要求事項b)を踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。
【仕組み・ルール】
設備変更のタイミングでリスク評価を行い、その評価結果に基づく適切な当該設備の管理手段を決定し、試運転でその妥当性を確認する等の設備管理プロセスを定めた設備変更規程等を策定する。


2.5.16 食品ロス及び廃棄物
本要求事項は新規追加されたものです。
(1)要求事項

要求事項a)は、食品ロスと廃棄物削減のための方針(Policy)と目標(Objectives)を策定し、これを実行することを求めるものです。
要求事項b)は、加工食品メーカーや小売・卸等が、フードバンクやこども食堂等の事業者に対して寄付をした食品が安全に消費されるよう、食品提供者として管理態勢の整備を求めるものです。
要求事項c)は、加工食品メーカー等が、飼料メーカー等に対して余剰商品や副産物を飼料の原料として供給する場合は、余剰商品や副産物によって飼料が汚染されないように、原料供給者として管理態勢の整備を求めるものです。
要求事項d)は、これらの管理工程は、関連する法令に準拠し、最新の状態を維持することで、食品安全の確保を求めるものです。
(2)-1事業者の取組例
要求事項a)およびd)を踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。
【仕組み・ルール】
食品ロスおよび廃棄物削減の方針およびその方針のもとで達成すべき状況を具体化した目標を策定する。

(2)-2事業者の取組例
要求事項b)を踏まえた加工食品メーカー(食品提供者)およびc)を踏まえた加工食品メーカー(原料供給者)の取組例を以下に示します。

2.5.17 コミュニケーションの要求事項
本要求事項は新規追加されたものです。
(1)要求事項

従前から、リコール等の緊急事態が顕在化した場合は、審査(認証)を受けた認証機関に報告するルールとなっていましたが、今回の改定では要求事項として明文化されました。よって、ISO22000:2018の「8.4.2緊急事態及びインシデントの処理」に基づき作成した、既存の緊急時対応計画やリコール対応マニュアル等に「官公庁レベルの届出が生じた際は、3日間以内にFSSC事務局担当が認証機関にも連絡する。」等の一文を追加し、報告した旨の記録を残すことで対応できます。
おわりに
本稿では、審査対象組織に対する要求事項のうち「パート2 審査対象組織の要求事項」の「2.5.13 製品設計及び開発」~「2.5.17 コミュニケーションの要求事項」までの範囲において、具体的な変更内容とそれを踏まえた取組例をご紹介しました。
FSSC22000の認証取得組織は、2025年3月31日までにV6への移行審査を受けることになっていますので、一定の対応は済んでいるところですが、今後、FSSC22000の認証取得を目指す事業者においては、食品安全の取組を高度化するための取組の参考になれば幸いです。
今回の改定は、品質管理や食品ロス問題他、直近の食品関連事業者が抱える諸問題を踏まえた要求事項のアップデートとも言えます。認証取得有無に関わらず、社会のニーズや動向の変化を踏まえ、食品安全・衛生管理の体制のアップデートが求められます。
(注1)Foundation FSSC Delivering trust and impact for global food safety with FSSC 22000
(注2)食品寄附ガイドライン~食品寄附の信頼性向上に向けて~
(注3)食品循環資源利用飼料の安全確保のためのガイドライン
(注4)自己確認表(食品工場用)
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のPLレポート(食品安全)2025年4月号を基に作成したものです。

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