帝国データバンク公表「外国人労働者、企業の16.7%が『採用を拡大』 ~特に教育・コミュニケーション面に課題~」
公開日:2024年4月10日
人手不足
帝国データバンクの調査によると、外国人労働者を現在「雇用している」とした企業は23.7%でした。また、今後「採用を拡大する」企業は16.7%となり、特に飲食店、旅館・ホテル等個人向けサービス業で採用意欲が高い傾向となりました。
雇用や採用における課題では、「スキルや語学の教育」(55.1%)と「コミュニケーション」(55.0%) が突出して高い結果となりました。ほか、人材の定着や自社への適応なども課題にあげられました。
はじめに
人手不足の長期化が見込まれるなか、2023年10月時点で外国人労働者の数は200万人、雇用事業所数は30万カ所を上回りました。いずれも過去最高を更新するなど年々増加しており、日本における外国人労働者の存在感は以前にも増して高まっています。
2024年3月15日の閣議決定では、技能実習制度が見直され育成就労制度が新設される方針が明らかとなりました。人材確保と育成を目的に、特定技能制度への円滑な移行による共生社会の実現をめざすとしています。しかし、外国人の雇用には課題も多く、人材の確保・定着は決して容易ではありません。そこで、帝国テータバンクでは外国人労働者の雇用・採用動向について調査を実施しました。
*調査期間は2024年2月15日~2月29日。調査対象は全国2万7,443社、有効回答企業数は1万1,267社(回答率41.1%)
*各数値は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計は必ずしも100とはなりません
*本調査の詳細なデータは、景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載しています
外国人を雇用している企業は23.7% 今後の採用拡大は個人向けサービス業で強い傾向
外国人の雇用・採用について尋ねたところ、現在「雇用している」とした企業は23.7%でした。一方で、59.2%が「雇用していない」結果となり、6割近くにのぼっています。
また、今後の採用についても尋ねたところ、現在外国人を雇用しており、かつさらに採用を拡大する企業は4.5%と僅かにとどまりました。また、現在は雇用していないが今後新たに採用する割合は12.2%で、合計16.7%が外国人労働者の採用を拡大する意向があることが分かりました。
業種別では「飲食店」が44.0%でトップとなり、次いで「旅館・ホテル」(35.8%)、「人材派遣・紹介」(33.8%)が続きました。上位10業種のなかで、サービス業や小売業を中心とした個人向けサービス業が多くを占めており、「特にリテール事業では、外国人の雇用は観光客とのコミュニケーションを円滑にするものと捉えている」(投資業、北海道)といった背景があります。他にも、「今後海外への輸出を検討する場合には、輸出国の技術者の採用を考慮したい」(電気機械器具卸売、大阪府)など、外国人を生かした人材活用の強みが聞かれました。
なお、これら上位10業種のなかでは「飲食店」「旅館・ホテル」「農・林・水産」「メンテナンス・警備・検査」は、特定技能の分野に指定されています。
本調査では、多様な人材の雇用・採用についても同様に尋ねています。管理職登用の動向が注目されている「女性」を雇用している企業は77. 9%と多くを占め、今後採用を拡大する方針の企業も19.4%と他より高くなっています。また、定年制の見直しに動く企業も多くみられるなか「シニア」の採用拡大に関しては、10.9%でした。
外国人雇用の課題、教育・コミュニケーション面が突出費用や手続き負担に苦慮する声も
外国人労働者を雇用する際の課題について尋ねたところ、「スキルや語学などの教育」(55.1%)と「コミュニケーション」(55.0%)が突出して高い結果となりました。実際に「採用前の段階で、ある程度の語学スキルがないと採用しにくい。小規模事業者には教育できる人的資源やノウハウがなく、語学習得に関する公的な支援施設がない」(家庭用電気機械器具小売、鹿児島県)など、課題と分かっていながらも具体的な解決策を講じられないという声が相次ぎました。特に、教育面では資格や免許が求められる建設業と運輸・倉庫業において、コミュニケーション面では同業種に加えて接客機会の多いサービス業で特に高水準でした。
これらの2項目以外にも、「日本人と同等以上の賃金がマストだが、必要機関への経費負担が大きく、一人当たりの人件費は非常に大きい」(はつり・解体工事、千葉県)や「過去に雇用していたが、生活面や就労支援の負担が大きい」(鉄鋼シャースリット業、北海道)、「技能実習生がいるが、法改正が予定されるなど今後が不透明。面接しても来日するのは半年以上後になるので、今後の方針が見えないと動けない」(塗装工事、山梨県)などの悩みを抱えている様子がうかがえました。
今後の見通し:外国人労働者は引き続き緩やかな増加と予想、一方で慢性的な課題も
当調査では、採用を拡大する意向のある企業は約2割となったものの、個人向けサービス業では意欲的な傾向が表れました。これらの業種では人手不足が高止まりしている現状を踏まえると、当分野では特に外国人労働者のニーズは強まることが予想されます。
今後は政府の支援策にも注目が集まるでしょう。今回打ち出された育成就労制度では、技能実習制度では原則として禁止されていた他企業への転籍が認められるようになる制度変更が目玉です。その要件の一つには、特定技能の認定に必要なレベルよりも易しい日本語能力検定N5段階が求められますが、外国人就労支援の関係者からは「N5段階の転籍は、受け入れ企業の苦労が増すのでは」と指摘する声も聞かれます。日本語能力向上プログラムの抜本的な改善が見られない現状を鑑みると、当調査で主な課題となった教育・コミュニケーション面は今後も大きな課題となるでしょう。企業からは外国人労働者の雇用に難しさを感じる意見が多いですが、地域やサプライチェーン等周囲を巻き込んだ就労サポート等、自社単体だけではない幅広い連携が必要となります。
調査先企業の属性
1 .調査対象(2万7,443社、有効回答1万1,267社、回答率41.1%)
2.企業規模区分
中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加え、下記のとおり区分。
株式会社帝国データバンク発行の「外国人労働者の雇用・採用に対する企業の動向調査」(2024年3月27日)を基に作成したものです。