健康経営優良法人2025 ~ 認定制度の変更点と今後の方向性 ~
公開日:2024年9月27日
健康経営・メンタルヘルス
■2024年8月19日に健康経営優良法人2025の申請が開始されました。
■大規模法人部門・中小規模法人部門それぞれの認定項目の変更点や今後の傾向について解説します。
■「健康経営の可視化と質の向上」「健康経営の社会への浸透・定着」の実現に向け、設問内容や認定制度運営の見直しがありました。
健康経営優良法人認定制度の動向
2024年8月19日に健康経営優良法人2025の申請が開始されました。前回の健康経営優良法人2024 において大規模法人2,988社(前年比312件増)、中小規模法人16,733社(前年比2,721件増)が認定され(2024年3月時点)、制度開始以降、申請企業数・認定企業数ともに右肩上がりで増加しています。
また、求められるレベルも年々高くなっています。認定の4つの評価側面(「経営理念・方針」「組織・体制」「制度・施策実行」「評価・改善」において、従来は「制度・施策実行」の設問数の割合が高く、施策をどれだけ実施したかが評価される傾向にありました。
しかし、ここ数年は「経営理念・方針(健康経営の戦略・発信・普及)」や「評価・改善(取組の効果検証)」の設問数の比重が高まっています。その背景には、経営の関与や外部発信、評価改善を丁寧に行うことで、健康経営の取り組みの質を高める狙いがあります。この傾向は、大規模法人部門・中小法人部門共に、今後も継続すると考えられます。(図1)
健康経営優良法人2025認定基準の変更点について
(1)今年度の健康経営施策の方向性
健康・医療新産業協議会第12回健康投資WG事務局説明資料(2024年7月)より、今年度の健康経営施策の方向性のうち、認定項目に影響するものを表1にまとめました。
① 健康経営の可視化と質の向上
健康施策に留まりがちな健康経営の目的について、より上位の経営レベルの目線で整理し、その効果を可視化することで、経営が関与しながら着実に進めていくことを促しています。
また、PHR(健診情報やライフログ等)の活用や健保等保険者とのコラボヘルスを促すことで、取り組み結果の可視化や実効性の追求を目指しています。
人材不足が進む中、多様な背景を持つ従業員が柔軟な働き方ができる環境整備が急がれます。中小法人部門においても、上位層に取り組みの開示を促したり、新たな顕彰枠を設けることで、さらに上のレベルを目指すよう促しています。
② 健康経営の社会への浸透・定着
様々なハードルがあり健康経営に着手できていなかった中小零細企業や、取り組みが十分に浸透していない非正社員向けの施策や、育児・介護との両立支援、若年層向けの啓発等にもスポットを当て、健康経営の裾野をさらに広げることを目指しています。
(2)大規模法人部門における変更点
① PHR(Personal Health Record:健診情報やライフログ等)の活用促進
PHRの活用は、自身の健康状態・生活習慣の可視化や、職場以外も含めた従業員の生活全般にわたる健康への充実した支援につながります。健康経営においても適切に活用されることが望ましいことから、PHRの活用に向けた環境整備状況全般についての設問が新設されました。
なお、そこで得られるデータ活用方法の一例として、企業または保険者が、従業員の健診情報をPHRサービス事業者のクラウド上で管理し、健診情報以外のPHRは個人が特定できない形式に加工・集計したデータを受け取ることで、健康経営の効果検証等に活用することをイメージしています。
② 40歳未満の従業員に関する健診データの提供
企業と健保組合等保険者との連携(コラボヘルス)促進のため、健保組合等保険者に対する40歳未満の従業員に関する健診データの提供を、今年度から加点事由とされました。
③ 質の向上に向けた意識醸成(配点バランスの修正)
健康経営の取り組み意義や質の向上への意識を持ち続けることを促すため、次の2点について、配点バランスを修正しています。
i. 配点全体を見直し、健康経営推進に重要な設問に重みをつける(経営レベルの会議等)
・経営レベルの会議等の議題を問う設問については、選択肢をより具体化し、会議体を取締役会とそれ以外(経営レベルの会議)に分離されました。また、経営層の関与を評価する内容に変更されました。
・大規模法人の認定要件に「取締役会・経営会議等で健康経営を議題として取り上げていること」がホワイト500の必須条件として加わりました。(図2)
ii. 自社の状況を把握したうえで、結果・成果を意識した取り組みを推進するため、プロセスの多寡ではなく、アウトプット指標側への配点を高められました。(Q38 受診勧奨、Q39 ストレスチェック、Q41 健康保持・増進に関する教育、Q48 コミュニケーション促進、Q53 食生活改善、Q54 運動習慣の定着)
④ 柔軟な働き方の促進
多様な従業員が心身ともに健康に働ける環境整備という観点から、事由を問わない在宅勤務・テレワークの導入状況を含め、柔軟な働き方を確保するための企業の取り組みを評価する選択肢が追加されました。
⑤ 育児・介護と就業の両立支援
介護と就業の両立支援が進んでいないという調査結果を踏まえ、介護と育児それぞれに設問を分離し、「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」の具体的なアクションを参照し、選択肢を拡充・整理されました。さらに、施策実行性を図るために、研修への参加率も評価対象となりました。
⑥ 非正社員等を対象に含めた企業の評価
常時使用しない非正社員等を対象に含めた健康施策の実施等が評価対象に加わりました。
(3)中小規模法人部門における変更点
中小規模法人部門においては、健康経営の普及を目指し、運営面で大きな変更がありました。一方で、設問内容については大きな変更はありませんでした。
① ブライト500申請法人フィードバックシートの公開
今年度より、ブライト500申請法人に対してフィードバックシートの公開を求めることとなりました。これは、中小企業においても自社の取り組み内容や立ち位置(申請企業内での順位・偏差値など)を公開することで、より一層の取り組みの充実や裾野拡大につなげる意図があります。
② 新たな顕彰枠の拡大
申請法人数の増加や上位層の差が縮まっていることを踏まえ、通常の認定からのステップを明示する目的で、ブライト500と通常認定の間に新たな冠(ネクストブライト1000)が設けられました。今後は、ブライト500、ネクストブライト1000、通常認定の3層構造となります。
③ 小規模法人への特例制度の導入
従業員数の少ない法人(表2)に限定して、取り組みの実態に合わせた健康経営の推進を促すにあたり、認定要件を低減した特例が設けられました。(図3)本特例制度は試験的な導入とし、3年以内に見直される予定です。
④ 健康宣言事業未実施の国保・共済組合等加入法人への対応
健康宣言事業未実施の国保組合・共済組合加入法人においては、自治体での宣言事業実施の有無にかかわらず自己宣言を認めることとなりました。
⑤ 育児・介護と就業の両立支援
本テーマについて中小規模法人部門の設問への影響はありませんでしたが、2025年度以降に認定項目とすることが予告されています。人材不足の中で中核人材に介護が発生した場合、企業の事業継続にも大きく影響することが懸念されるため、認定項目に加えることで取り組みを一層促進したいという狙いがあります。
図2 健康経営優良法人2025(大規模法人部門)認定要件
図3 健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)認定要件
出典:日本経済新聞社「ACTION!健康経営」(最終アクセス2024年8月21日)
健康経営優良法人2024について解説しています。
健康経営の深化に向けて
健康経営認定制度は人事労務関連の法改正や企業全般に関わる課題等(両立支援、高齢労働者への配慮など)も踏まえ認定項目が毎年改定されています。そのため、認定制度に対応し続けることで、基礎的な取り組みはアップデートできます。また、偏差値や順位の目標を設定することで、先進取り組み事例の確認や、他社との情報交換等を通じて、さらなるレベルアップも図れます。人手不足が深刻化する中、従業員が心身共に長く活き活きと活躍できる職場づくりに向けて、この認定制度をうまく活用ください。
認定制度においては、経営トップから「今年はホワイト500取得必須」「●位以内入賞」という明確な指示が出ているケースも多いです。一方で、推進担当者の努力だけでは、従業員の健康課題を解決し意欲や活力の向上などの成果につながりにくいです。これらの成果を出すためには業務外の時間帯を含めた従業員の意識・行動の変容が必要となる点や、健康診断等の結果に反映するまでに時間がかかるという難しさがあります。そのハードルを乗り越えるためには、経営トップの協力が重要な鍵となります。経営トップが従業員に対し、従業員の健康やエンゲージメントに関する想いを自身の言葉で発信することで、従業員の健康経営に対する捉え方も変わってくるでしょう。
また、順位や結果だけでなく、経営戦略と健康経営のつながりを整理したり、目標達成のためのプロセスについてもコミット・評価することが、健康経営推進のエンジンとなると考えます。今年度の評価項目は「経営層の関与」や「健康経営方針の経営レベルでの策定・経営戦略とのつながり」について具体的な内容を問うものになり、評価ウエイトが高まっています。長年健康経営を続けている企業においても、これを機に経営層とともに健康経営方針を振り返り、時には内容を見直しながら、より一層の進化に繋げてください。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の人的資本・健康経営インフォメーション2024 No.1を基に作成したものです。
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