【企業側】退職代行を使われたら?トラブルを避けるためにとるべき対応
公開日:2026年2月2日
人事労務・働き方改革

「退職代行」とは、依頼者に代わって勤務先へ退職の意向を伝えるサービスのことです。近年ではメディアやSNS等でも頻繁に取り上げられ、退職手続の円滑化を目的に利用されるケースが増えています。
一方で、企業からすれば突然従業員本人との接点が断たれてしまうため、対応に困ってしまうこともあるでしょう。今回は企業側の視点から、従業員に退職代行を使われてしまった際の対処法や、トラブルを避けるためのポイントを解説します。
年間で7.2%の企業が退職代行を通じた離職を経験

現代の労働環境において、退職代行は身近なサービスの一つになってきています。株式会社東京商工リサーチの調査によれば、2025年において退職代行による離職を経験した企業は、全体の7.2%にのぼるとされています。
さらに、大企業では15.7%が退職代行による退職連絡を受けており、サービス利用のハードルが下がっているのが現状です。また、厚生労働省大阪労働局職業安定部が行った「令和7年度第2回ハローワーク雇用等短期観測の結果」によれば、管内の企業の48.7%が、過去に退職代行を利用した離職を経験したと回答しています。
こうしたデータから、退職代行の利用をどのように受け止めるかが、企業の新たな課題になっていると考えられます。特に人事担当者は、トラブルを避けるためにも、退職代行の仕組みや対処法を的確におさえておくことが重要です。
退職代行に関するデータ

退職代行サービスは、具体的にどのような経緯でどのような層に利用されているのでしょうか。ここでは、関連する各種のデータを参照しながら、企業と利用者における現況を見ていきましょう。
利用者の傾向
退職代行の利用者は、若手世代に多いのが特徴です。先にも参照した東京商工リサーチの調査によれば、退職代行の利用者のうち「20代」は60.8%、「30代」が26.9%となっています。
これには、もともと離職が多い世代というのに加え、インターネットやSNSが身近である点も関係していると考えられます。SNS等では退職代行を扱う企業名も拡散されており、利用の仕組みも比較的にシンプルであることから、心理的なハードルが下がっているのでしょう。
しかし、それより上の世代にあたる「50代」が6.4%、「60代以上」でも2.8%と一定の利用者がおり、幅広い世代に広がりつつあるのも事実です。そのため、たとえ従業員の年齢層が高い組織であっても、必ずしも使われる心配がないとは言い切れません。
退職代行に対する企業の反応
退職代行が急速に普及していく一方で、企業の反応としては、やはり否定的な見方が強いと言えます。大阪労働局職業安定部の「令和7年度第2回ハローワーク雇用等短期観測の結果」では、退職代行サービスの印象として、42.9%の企業が「否定的」と回答しています。
それ以外は「中立」が25.4%、「わからない」が29.5%となっており、肯定的と回答した企業は「2.2%」しかありません。アンケートへの回答としても、「代行サービスが間に入ることで手続が煩雑になる」「引継ぎが必要な場合に困惑してしまう」等、対応に関する否定的な意見が挙げられています。
また、東京商工リサーチの調査では、2割の企業が採用時に「応募者の転職回数や職歴を厳格に見極めるようになった」と回答しており、否定的な視点を持つ企業は少なくありません。一方で、大阪労働局職業安定部のアンケートには「時代の流れで理解できる部分もある」「社風を踏まえると言い出しにくい本人の気持ちもわかる」等、利用することそのものには一定の理解を示す企業もあります。
否定的な意見もどちらかと言えば対応に関するものであり、まずは適切な対処方法を身につけることが重要な課題と言えるでしょう。
退職代行を使われた時の対応手順

前述のように、退職代行は「責任ある役職のメンバーも使う」「企業側からは予兆がわかりにくい」といった性質を持つのが特徴です。そのため、企業側の不適切な対応により、予期せぬトラブルに発展するケースも決して少なくありません。
ここでは、トラブルを避けるための適切な対処法を以下の手順に沿って解説します。
1.退職代行サービスの身元チェック
退職代行サービスには、大きく分けて弁護士事務所・日本労働産業ユニオン・弁護士資格のない民間サービスの3種類があります。形態によって適切な対応内容も変わるため、まずは運営元の身元を確認することが大切です。

弁護士事務所は、退職の意向を伝えるだけでなく、依頼者に代わって退職条件の交渉や手続までを幅広く行うことができます。また、万が一企業と依頼者の間でトラブルが起これば、間に入って損害賠償請求等を行うことも認められています。
日本労働産業ユニオンは、労働組合の形態をとり、内部組合のない企業に属する労働者の権利保護をサポートする組織です。「退職代行トリケシ」の名称で、退職代行サービスも運営しています。
弁護士やユニオンは、従業員の代わりに条件交渉が可能なため、企業側もそれに応じなければなりません。一方、民間サービスが具体的な交渉や仲介を行うことは認められていないため、企業側も応じる必要はありません。
2.従業員本人の意思確認
代行サービスの身元を確認したら、退職の意思が実際に従業員本人のものであるかどうかを確認する必要があります。運営会社に委任状の提出等を求め、「本人の意思を確認できない限り受理できない」旨を伝えましょう。
あまり多いケースではありませんが、企業に混乱を招くために、悪意のなりすましによる偽装が行われている可能性もあるため、最初の段階で必ずチェックしましょう。
3.回答書の作成
退職の意思を確認できたら、企業側がきちんと対応している証拠を残すためにも、回答書を作成し、記録に残る形で送付します。回答書には、退職を認める旨と今後の手続や連絡用の窓口について記載しましょう。
退職代行を利用している以上、従業員側は企業との接触を望んでいないと考えるのが自然です。そのため、本人との接触は無理に行おうとせず、郵便やメール等で送付するよう心がけましょう。
4.雇用形態の確認
退職の意思を受け取った時には、従業員の雇用形態によって、企業側に求められる対応が異なります。民法の定めにより、無期雇用の場合は意思表示を受けてから2週間以上引き伸ばすことはできないため、退職日もそれに応じて決める必要があります。
民法六百二十七条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
それに対して、有期雇用の場合は、「やむを得ない事由」がない限りは原則として契約期間満了までは退職を拒否することも可能です。やむを得ない事由について法的な定義はないものの、病気や出産・育児、家族の介護による就労不能のほかに、ハラスメントや賃金未払い等が当てはまるとされています。
民法第六百二十八条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
5.退職届の提出依頼
退職希望日のすり合わせが済んだら、退職届を提出してもらいます。トラブルを避けるためにも、口頭ではなく必ず書面で送ってもらうようにしましょう。
書面の内容を確認し、漏れや不備がなければそのまま受理します。
6.退職日までの業務相談・引継ぎ依頼
退職日が決まったら、その日までの取扱いについて相談する必要があります。ルールの上では、退職の意思を表明しても退職日まで従業員の地位が継続されるため、引続き働いてもらうことも可能です。
しかし、退職代行を利用する時点で出勤は難しいとも考えられ、無理に勤務を命じればトラブルに発展する恐れもあります。そのため、特に勤務してもらう必要がなければ、有給休暇や欠勤扱いにするのが一般的です。
また、業務引継ぎの必要があれば、リモートワーク等で依頼したり、重要なデータの整理や共有のみ対応してもらったりするのも一つの方法です。ただし、基本的な連絡は退職代行サービスを通じて取り合うこととなるため、手続の負担と業務の必要性のバランスを考慮する必要もあります。
7.貸与物の返却依頼
必要に応じて、パソコンやスマートフォン、制服等の返還手続を行います。貸与物については、退職後に悪用されてしまうリスクを解消するため、宅配便等で確実に回収しましょう。
また、会社に従業員の私物がある場合はそのままにせず、取扱いについてきちんと相談することが重要です。従業員からの廃棄の依頼があれば、費用の負担について相談した上で、そのまま処分することも可能です。
従業員の退職状況について解説しています。
トラブルを避けるためのポイント

退職代行を使われた時には、無用なトラブルを避けることを最優先にして手続を進める必要があります。ここでは、トラブルを回避するためにおさえるべき注意点をご紹介します。
従業員への無理な接触は控える
退職代行は予期しないタイミングで意外な従業員が使うこともあるため、周囲のメンバーがショックを受けてしまうケースもあります。距離の近い上司や管理職から、「真実を確認するために本人と話がしたい」と相談される可能性もあるでしょう。
しかし、これまで見てきたように、退職代行を使った従業員は会社との接触を避けていると考えるのが自然です。そのため、強制的に対話や接触を求めるべきではありません。
無理に連絡をとろうとすればさらなるトラブルに発展する可能性もあるため、引留め等はせず、手続をスムーズに進めることを心がけましょう。
民間の退職代行サービスとは交渉しない
弁護士やユニオン以外の退職代行会社は、依頼人に代わって退職条件の交渉等は行えません。一般の会社ができるのは、あくまでも退職の意思を代わりに伝えるだけであり、交渉や仲裁は非弁行為にあたります。
仮に退職条件がまとまったとしても、後から無効になる可能性もあるため、「非弁行為につき対応できない」旨をきっぱりと伝えることが重要です。反対に、弁護士事務所やユニオンを通じて交渉された場合は、正当な権利に基づく行為であるため、誠実に対応する必要があります。
従業員の私物は許可なく処分しない
退職代行を使った従業員が、その後も会社へ足を運ぶ可能性は極めて低いと言えます。しかし、出社しないからと言って、私物を許可なく処分すればトラブルのもととなります。
私物が残っている場合は、取扱いについて相談し、その内容を書面等で記録しておきましょう。なお、基本的には返却の必要がありますが、従業員から依頼があった場合には、会社側で処分することも可能です。
また、従業員から返信がない可能性もあるため、私物の引取りを依頼する場合は保管期限を付記しておくのがおすすめです。
退職代行を使われた後の対応

退職代行を使われた時には、影響の広がりを抑え、「連鎖退職」を防ぐことが先決となります。そのための対策として、企業が取り組むべきことを確認しておきましょう。
周囲の従業員へのフォロー
まずは周りへの影響を最小限にとどめるため、残された従業員へのフォローを徹底する必要があります。急な欠員の発生により、業務を遂行する周囲のメンバーに負荷が生じる恐れがあるため、状況に応じて速やかに分散や増員を検討しましょう。
特にもともと業務過多が原因で退職が発生している場合は、1人の欠員が連鎖退職を引き起こすリスクもあるので注意が必要です。また、組織内の事情や退職者のポジションによっては、実務面のみならず、精神面のケアも必要な場合があります。
現場の責任者と連携を図って、どのようなアプローチが必要になるのかを丁寧に見極めましょう。
退職原因を丁寧に振り返る
再び退職代行が使われる事態を避けるためには、退職原因を丁寧に振り返ることも大切です。退職した従業員に直接尋ねることはできないため、周囲のメンバーに意見を求めたり、匿名でアンケートをとったりして、社内の現状を細かく把握しましょう。
また、定期的に1on1ミーティングを実施するなど、できるだけ本音を引き出しやすい環境を整えるのも重要です。日ごろから風通しの良い組織づくりを行えば、仮に今後も自社を離れるメンバーがいたとしても、退職代行による突然の退職は防ぐことができるでしょう。
最低賃金引上げの取組について解説しています。
労働環境の改善
退職原因が明らかな場合は、それをもとに労働環境の改善に着手しましょう。退職原因が不透明な場合は、「賃金や労働条件が業界の水準と比較して見劣りしないか」「特定の従業員に負荷が集中していなかったか」等、想定される可能性を一つずつ検討することが大切です。
なお、厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によれば、主な退職理由として「給与等収入が少なかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」のほかに、「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位に挙げられています。給与や福利厚生だけでなく、人間関係も主要な退職理由の一つであるため、コミュニケーションを図りやすい環境を整備するなどのアプローチも重要と言えるでしょう。
まとめ
退職代行サービスを使われた時は、従業員を無理に引き留めたり、接触を図ったりすべきではありません。さらなるトラブルを避けるためにも、「穏便に手続を進める」「周囲への影響を最小限にとどめる」という2点を最優先にして動きましょう。
その上で、退職代行の対応が済んだら、再発を防ぐために環境改善を進めることも大切です。従業員の退職にどのような原因が隠されているのか、アンケートや1on1等を通じて丁寧に状況を把握しましょう。


















