健康経営優良法人2026 ~ 認定制度の変更点と今後の方向性 ~
公開日:2025年11月14日
健康経営・メンタルヘルス

健康経営優良法人2026における大規模法人部門・中小規模法人部門それぞれの認定項目の変更点やその背景、今後の方向性について解説します。
今年度は、経済産業省等の課題認識を踏まえ、「健康経営の可視化と質を向上」し「健康経営の社会への浸透・定着」等の実現に向け、設問内容や認定制度運営の見直しがありました。
また、2025年3月に改訂された健康経営ガイドブックを色濃く反映する内容となっています。
健康経営優良法人認定制度の動向
2025年8月18日より健康経営優良法人2026の申請が開始されました。前回の健康経営優良法人2025において大規模法人部門3,384社、中小規模法人部門19,848社が認定され(2025年8月13日時点)、制度開始以降、申請企業数・認定企業数ともに右肩上がりで増加しています。今回の申請においては、各部門とも更に増加することが予想されます。
また、内容については、2025年3月に改訂された健康経営ガイドブックを踏まえ、求められるレベルはより高くなっています。ここ数年は取組内容に対する評価から、実際の結果・成果に対する評価へと健康経営度調査票(中小規模法人部門では申請書)の主眼が移りつつあり、今後は健康経営による経営課題の解決という観点でストーリーを整理し、PDCAを回していくことがより重要になると考えられます。
2024年8月に開始された健康経営優良法人2025認定基準のポイントを紹介します。
健康経営優良法人2026認定要件の主な変更点
本章では、健康経営優良法人2026の認定要件について、部門共通、大規模法人部門、中小規模法人部門の順に変更点のポイントを解説します。
(1)大規模法人部門・中小規模法人部門共通
①健康経営ガイドブック2025の反映
※参照:Action!健康経営
a. 健康経営の理解促進に関する取組設問の選択肢を修正
経営トップ自らが従業員の理解を促進する取組に関し、健康経営の推進方針やKGI(重要目標達成指標)・KPI(重要とする評価指標)の進捗等、どのような内容を経営トップ自らが発信しているかを具体的に確認できるよう選択肢が修正されました。中小規模法人部門はブライト500に関する固有の設問にのみ反映されました。
b.組織全体に影響する効果検証の設問追加(健康風土の醸成に関する設問追加)
健康経営ガイドブックにおいて「企業の健康風土醸成」に関する必要性が追加されたことを受けて、どのように健康風土醸成の状況を把握しているかを問う設問が新設されました。中小規模法人部門は、上記同様、ブライト500向けの固有の設問にのみ反映されました。
②「健康経営の実践に向けた土台づくり」における評価項目の見直し
a.「性差・年齢に配慮した職場づくり」の小項目追加
就業者における性差・年齢が多様化する中で、女性や高年齢従業員が働きやすい職場づくりを進めることの重要性が高まっている現状を踏まえ、認定要件の中項目「健康経営の実践に向けた土台づくり」を見直し、女性の健康課題への対策および高年齢従業員への対策が小項目「性差・年齢に配慮した場づくり」の評価項目として整理されました。(表1)
b. 両立支援に関する設問の修正・追加
・仕事と介護の両立支援:2024年5月に改正された育児・介護休業法を踏まえ、選択肢を修正。法定を超える取組が求められるようになりました。
・仕事と治療の両立支援:評価項目「がん等の私病等に関する復職・両立支援の取り組み」の選択肢について、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の改訂を踏まえ修正されました。
③「メンタルヘルス」の項目名を変更
「メンタルヘルス」という言葉がネガティブな印象を与えるという意見を踏まえ、従業員が自身の能力をより発揮できるような取組であることが伝わるよう、認定要件の項目名が「心の健康保持・増進に関する取り組み」に変更されました。(表1)
(2)大規模法人部門
①ステークホルダー全体への健康経営に関する設問の新設・改訂
サプライチェーン等取引先等への普及に関する設問を2つから1つに削減し、国内外含めたグループ会社への健康経営推進方針の展開や浸透状況を確認する設問が新設されました。以前より、「トップランナーとして健康経営の普及に取り組んでいること」がホワイト500の必須要件でしたが、今年度は上記の両方を充足する必要があります。
②健康経営推進方針と目標、KGI等の定義の整理
前回までの設問では「健康経営で解決したい課題」「健康経営の実施により期待する効果」「課題解決または効果に繋がるKPI」の回答が求められていましたが、今回は健康経営ガイドブックの改訂に基づき、「健康経営推進方針」と「目標」、「KGI」等を回答するよう設問と選択肢が改訂されました。
そのため、従来の回答をそのまま利用できず、新たな定義・設問に基づいて社内での検討や整理が必要となります。さらに、Q73では企業全体の目標・KGIへの検証に対し、関与している役職(経営トップ・経営層レベル等)を確認する設問が追加され、併せて、具体的に改善した内容を確認するよう設問が修正されました。
③経営層の関与に関する設問の変更
経営トップ自らが健康経営推進方針と目標、KGI等を発信しているかを問う設問が追加され、当該設問の回答がホワイト500の必須要件とされました。また従来の取締役会・経営会議等での議題化の頻度に関する設問を廃止し、健康経営の推進方針を議論している会議体特定し、具体的な決定事項・報告事項を確認する設問に変更されました。(後者は以前よりホワイト500の必須要件)
④健保組合等保険者との連携に関する設問の変更
保険者への40歳以上の従業員の健診データ提供は、従来の独立した設問から「誓約事項」の扱いへと変更されました。
⑤選択要件数の変更
大規模法人部門の認定に必要な選択要件数について、「高年齢従業員の健康や体力の状況に応じた取り組み」の追加に伴い、16項目中13項目から17項目中14項目に変更されました。(ホワイト500は16項目中14項目)(表1)

出典:ACTION!健康経営
(3)中小規模法人部門
①評価項目の追加
2024年5月に改正された育児・介護休業法を踏まえ、小項目「ワークライフバランスの推進」に仕事と育児・介護の両立に関する評価項目が追加されました。(表3)
②選択要件数の変更
中小規模法人部門の認定に必要な選択要件数について、「高年齢従業員の健康や体力の状況に応じた取り組み」、「仕事と育児・介護の両立支援」の追加に伴い、15項目中7項目から17項目中8項目に変更されました。(ブライト500等は、15項目中13項目から17項目中16項目に変更)
③ブライト500等の評価基準の変更
従来の「適合項目数」を評価対象外とし、「健康経営の組織への浸透に向けた取り組み」「健康経営の推進による企業の健康風土の把握」が追加されました。この変更により、取組の量から質に評価のポイントがシフトし、ブライト500等では大規模法人部門に近いレベルの取組が求められるようになりました。また、相対的に「自社からの発信状況」の評価ウェイトが減少しました。(表2)
※注記:表2では、2026認定の評価ウェイト(合計100)と、前年度の評価ウェイト(合計20)を比較できるよう、5倍した値をカッコ書きで併記

出典:ACTION!健康経営より当社にて作成

出典:ACTION!健康経営
健康経営の深化に向けて
(1)総評
健康経営度調査の開始から10年が経過し、認定申請の有料化等の変更があったにもかかわらず、申請・認定企業数は増加し続けており、「健康経営」に対する企業の関心・意識の高まりがうかがえます。
特に中小企業においては、人材不足や従業員の高齢化が深刻化しており、解決策の一つとしての健康経営の普及拡大が望まれます。昨年度より試験的に導入された小規模法人特例制度(従業員数の少ない企業に対する認定要件の緩和)や、昨年度からブライト500の下位に新設された「ネクストブライト1000」は、裾野の拡大と質の向上を促す施策であると考えられます。
また、健康経営優良法人認定制度は、人事労務関連の法改正や企業全般に関わる課題(両立支援や女性・高年齢従業員への配慮等)を踏まえ、認定要件が毎年見直されています。そのため、認定制度に即して取組を継続していくことで、今求められる雇用や労務上の課題へ着実に対応していくことにつながります。さらに、先進的な取組事例を収集して自社の取組の参考にすることで、より高いレベルへステップアップすることも期待できるでしょう。
従業員が心身ともに長く活き活きと活躍できる職場づくりに向けて、認定の取得に留めず、中長期的な視点を持ちながら継続的に取組のブラッシュアップを進めてください。
(2)大規模法人部門
大規模法人においては、特に人的資本経営との関係が着目されています。健康経営は、企業価値の持続的な向上を支える人的資本経営の基盤として位置付けられており、担当者任せにするのではなく、経営トップ自らが関与する推進体制のもと、より高度な取組が求められています。具体的には、「経営層の関与」や「健康経営方針の経営レベルでの策定・経営戦略との連動」等が重視され、これらに関する評価項目の配点も高まる傾向にあります。
また、ステークホルダーである投資家は、健康経営が人的資本にどのような影響を与え、企業価値の持続的な向上にどのように寄与しているのかについて、具体的な情報を求めています。そのため、データを活用した定量的な把握や効果検証は、投資家への説明においても有用です。
したがって、まずは自社固有の課題をどのように把握し、どのように解決することで企業価値の向上につなげているかという戦略的なストーリーを、定量的なデータとともに示すことが必要であり、今後さらに求められるでしょう。
(3)中小規模法人部門
とりわけ、ブライト500やネクストブライト1000では、健康経営の取組レベルの高度化が求められており、大規模法人部門の水準に近づきつつあります。一方で、小規模法人については特例措置による要件緩和が実施されており、認定制度自体の参加や認定取得のハードルは比較的低く設定されています。
その結果、現在は、中小規模法人への健康経営の普及が進み、高度化と普及の両面が同時に展開されている状況です。今後は、認定取得や継続そのものを目標とする企業と、ブライト500等を目指してより高いレベルの健康経営に取り組む企業との間で、取組への意識や内容に差が広がることが予想されます。
中小規模法人においては、まず認定取得・継続を足掛かりとしつつも、自社として目指すゴールや目標を設定した上で、段階的に取組レベルを引き上げていくことが大切と考えます。こうした取組を着実に進めることで、健康経営におけるさまざまな波及効果を通じ、人材不足等の経営課題の解決につなげてください。
基本的な意味や注目されている理由、経営への活かし方について解説しています。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の人的資本・健康経営インフォメーション2025年9月(2025 No.2)を基に作成したものです。
MS&ADインターリスク総研株式会社
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