まだ間に合う!これから始める健康経営の進め方

公開日:2025年6月4日

健康経営・メンタルヘルス

■ 「健康経営」は、労働力減少や高齢化を背景に取り組む企業・団体が拡大し、今後、取り組まないことが将来の経営リスクにつながります。
■ これから健康経営に取り組む企業は、まず3つのポイントを押さえると良いです。(①健康経営のゴールは経営課題の解決②3つの健康の考え方③基盤整備)
■ 健康経営優良法人認定制度(顕彰制度)が運営され、年々、参加企業は増加傾向にあります。自社の取組を客観的に把握する機会として有効活用すべく、認定へのチャレンジを推奨します。

今、健康経営が求められる背景

(1)経営を取り巻く環境の変化

VUCA(ブーカ)の時代という言葉で表されるように、経営を取り巻く環境は、日々、急速に変化し、より複雑で不明確な状況になっています。対応策として挙げられる「多様な人材の労働参画」も、少子高齢化・労働者不足の現状において、採用も容易ではありません。人材の流動化も進んでおり、定着に課題を持つ企業も多いです。SDGsやサステナビリティ、人的資本経営、ウェルビーイングといった考えの広がりも後押しとなり、労働者・求職者ファーストの労働市場が形成されつつあります。

一方で、労働法制の強化(上限規制等)や時間制約をもつ社員の増加により、かつてのような長時間におよぶような労働が許容されない中では、イノベーションや生産性向上の取組は、企業利益に直結し、ひいては事業継続の為にも必要不可欠と言えます。

(2)処方箋としての健康経営

このような経営課題解決の処方箋の一つになり得るのが健康経営です。健康経営は、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と整理されており、「企業理念に基づき、従業員等の健康保持・増進に取り組むことで、従業員の活力向上や生産性向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がる」効果が期待されています。

つまり、健康経営は、「従業員の採用や定着」「組織の活性化」や「生産性向上」等の経営課題に対し、各種の健康施策を通じてその解決や改善につなげるアプローチ手法の一つと言えます。

既に多くの企業・団体が健康経営に取り組んでおり、成功事例も発信されていますが、中堅・中小企業を中心にまだ取り組めていない企業・団体も多く、今後、健康経営に取り組まないことが将来の経営リスクにつながると考えます。始めるに遅いということはなく、是非、取り組んでいただきたいです。

(3)健康経営のメリット

代表的な健康経営のメリットを下表にて整理します。(表1)

健康経営推進のポイント

これから健康経営に取り組む企業には、以下、3つのポイントを押さえていただきたいです。これらを意識し取り組むことで、経営課題の解決につながる本質的な取組を、持続的なものとすることができます。

(1)健康経営のゴールは経営課題の解決【ポイント①】

前述の通り、健康経営は、経営課題の解決や改善につなげるアプローチ手法の一つです(図1)。従業員の健康増進や組織の活性化も健康経営の取組を通じて得られる効果ですが、経営的視点で考えたときには、本来のゴールはその先にあるべきと考えます。

開始にあたっては、これをふまえ、なぜ健康経営に取り組むのか、その目的を社内で明確にした上で取り組むことが推奨されます。施策ありきの推進ではなく、まずは目的をしっかり検討いただきたいです。

(2)3つの健康の考え方【ポイント②】

そもそも「健康」とは、WHO(世界保健機関)憲章前文で「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会仮訳)と定義づけられています。健康というと、一般的には、心(精神)と体(身体)の2面でとらえがちですが、もう一つ「社会的健康」があり、この3つの健康が満たされた状態が(真の)健康ということです。

社会的健康は、他人や社会と建設的で良い関係を築けることとされ、ワーク・ライフ・バランスや働きがい、働きやすさ、職場のコミュニケーションに関する施策もその一つに挙げられます。これまでに、働き方改革の一環として取り組んでいるケースもあります。

健康経営というと、食事や運動などの身体的健康に関連する取組が中心となるケースも散見されますが、この3つの健康の考えを念頭に、自社の健康課題を把握し、優先順位をつけて取り組んでいただきたいです。

(3)基盤整備【ポイント③】

経済産業省が作成するガイドブックによりますと、健康経営は、⑴経営理念・方針、⑵組織体制、⑶制度・施策実行、⑷評価・改善の順序で進めます。具体的には、経営層が健康経営に取り組む意義・重要性を認識し、その理念を社内外へ表明し、実行力のある組織体制を構築、この組織体制を中心にPDCAを回すという流れです。基盤整備はこの中で、⑴経営理念・方針、⑵組織体制が該当します。

どうしてもさまざまな施策の企画や実行に関心が行きがちですが、中長期的な視点では、しっかりと基盤整備をすることが継続のポイントとなります。繰り返しになりますが、「何のために健康経営をするのか」という目的を明確化しておくことが重要です。

また、実行力ある組織においては、経営層のコミットメントや管理職層の関与は欠かせません。これまでの健康管理の延長線で、担当者や担当部署任せにするのではなく、多くの関係者を巻き込み経営層が関与した上で体制を整備できることが望ましいです。

(4)3つのポイントと健康経営優良法人認定制度の関係

健康経営の顕彰制度として、10年ほど前より経済産業省にて健康経営優良法人認定制度※が運営されてきました。年々、参加する企業・団体が増えており、毎年3月に認定法人の発表が行われています。申請部門は企業規模により大規模法人部門・中小規模法人部門に分かれていますが、認定要件は概ね共通です。認定要件は、前述の3つのポイントをふまえた形で構成されています。

体系的に整理された認定要件に照らし申請過程で自社の取組を客観的に把握して、より良い活動につなげていくためにも認定にチャレンジし、この機会を有効活用することをお勧めします。認定取得のみをゴールとすることは避け、健康経営の本来の目的である経営課題の解決につながっているかを意識しながら、毎年の申請を年に1回の振り返りの場として活用いただきたいです。

 

次のステップとは

ここまで本稿では、健康経営に取り組むにあたってのポイントを中心に説明してきました。健康経営に取り組む目的を定め、経営者を最高責任者とし、組織横断の組織体制を整備し…。しかし、ここが健康経営のスタートラインです。では、次のステップは何か。そのヒントを示し、本稿のまとめとします。本稿をきっかけに健康経営の第一歩を踏み出されることを祈念します。

(1)健康(経営)宣言の実施

健康経営に取り組む多くの企業・団体が、意思表明として、健康経営に取り組む目的を含めた健康(経営)宣言を実施しています。宣言を行う目的として二つあり、一つ目は社内への説明や熱意を示す為、二つ目は社外への意志表明です。後者については、HP等を通じ発信することで、健康経営に取込企業としてのアピールにもつながるでしょう。

宣言は、独自に作成するケースもありますが、多くの保険者が健康宣言事業を実施しており、それを利用するケースもあります。

(2)健康課題の把握とPDCA

次に、具体的な取組を進めるにあたっては、現状の把握が必須です。健康診断(問診含む)や勤怠データ等から自社の健康課題を抽出・整理します。データがなければ、アンケートや従業員へのヒアリングを実施します。解決すべき課題が複数ある場合は優先順位を設定し、目標設定の上、計画を策定、実行します。

最初から、大きな成果を期待するのではなく、小さな成功を積み上げるスモールスタートから開始することも肝要です。実施した施策は、振り返りを行い、改善の為の検討を行います。

(3)社外への継続発信

そして、取り組んだ内容は些細なことであっても、社外への発信を行います。HPへの掲載が主流ですが、最近はInstagram等のSNSの活用も広がっています。健康経営を行う目的に、採用力強化を挙げることもある一方、自社の健康経営の取組について全く発信できてないケースも散見されるため、非常に残念に感じています。

これらの情報は、求職者へのアピール材料となる為、継続して発信できる体制を整備いただきたいです。

 

2024年8月に開始された健康経営優良法人2025認定基準のポイントを紹介します。

 

初発だけでなく再発の防止に向けた取組を解説しています。

*健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

MS&ADインターリスク総研株式会社発行の人的資本・健康経営インフォメーション2025年3月(2024 No.3)を基に作成したものです。

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