登記事項証明書等の「代表取締役等住所非表示措置」について
公開日:2025年1月31日
法改正
2024年10月1日から、商業登記規則等の一部を改正する省令が施行され、「代表取締役等住所非表示措置(以下、「非表示措置」とする)」がスタートしました。これにより商業登記に記載される代表取締役の住所を一部非表示にすることができ、プライバシーの保護を図り、誰もが安心して起業できるよう、見直しが行われました。
「非表示措置」の概要
「非表示措置」創設の背景
法人に営業所がない場合に裁判管轄や送達等の基準となること等から、会社法では「株式会社の代表取締役等は住所を登記しなければならない」とされており、法務局の登記事項証明書や民間会社の登記情報提供サービスでは、法人代表者の住所記載が義務付けられています。これにより、登記事項証明書等を取得することにより誰でも代表取締役等の住所を確認することができます。
一方、近年のインターネットやSNSの普及等を踏まえ「住所」という個人情報の公開が、①住所を公開することへの抵抗感からの起業の躊躇 、②ストーカー等の被害、③ダイレクトメールが大量に送られてくる等過度な営業行為の誘発につながること、等を懸念する声がスタートアップを始めとした経済界から高まっていました。
このような背景により、法人代表者のプライバシー保護を図りつつ誰もが安心して起業することができるよう「非表示措置」が創設されました。
「非表示措置」の概要と留意点
1)対象者
「非表示措置」の対象者は、株式会社の代表取締役です。特例有限会社、合同会社や合資会社の代表者は対象ではありません。
2)効果
「非表示措置」を実施した場合、登記事項証明書等の登記情報のうち、住所の一部(行政区画以外の部分)が非表示となります。これにより、株式会社の代表取締役が第三者から登記事項証明書等を通じて住所を知られることを回避でき、プライバシー保護が図られます。
3)要件
「非表示措置」を実施するための要件は、以下のとおりです。
4)留意点
※以下の影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討をお願いいたします
① 融資等の手続きが煩雑になる恐れがある
「非表示措置」を実施すると、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。
② 申出のタイミングが限定的である
「非表示措置」の申出は、登記変更等のタイミングでしか行えません。設立登記、代表取締役等の就任、重任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記等、代表取締役の住所が登記されることとなる登記の申請と同時に申し出る必要があります。よって、過去に登記された住所の情報は非表示にできず、既に登記事項証明書等に住所が記載されている代表取締役は、実際に引っ越すなど住所移転をしない限り「非表示措置」を実施できません。
③ 手続きを失念しないように注意
「非表示措置」が講じられた場合であっても、会社法に規定する登記義務が免除されるわけではありません。代表取締役等の住所に変更が生じ、引き続き住所の一部を非表示にしたい場合には、改めて「非表示措置」の申請が必要です。
④ 以下の場合には、登記官が職権で「非表示措置」を終了させる場合があります。
・「非表示措置」を希望しない旨の申出があった場合
・株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合
・(上場会社が)上場会社でなくなった場合 等
⑤ 完全に住所を秘匿できるわけではない
訴訟等を考えている利害関係者は、法務局に対し利害関係を証明すれば、代表者住所の開示を受けることができます。
まとめ
このように、「非表示措置」は、第三者に対して住所を秘匿することができる効果があります。一方、代表者の住所証明を別の書面で行う必要性が発生する等の煩雑さや、過去の登記事項証明書等に記載のある住所は非表示にできないといった、制約があります。現在代表取締役の方が「非表示措置」を実施したい場合は、住所移転のタイミング等で利用を検討するとよいでしょう。また、これから代表取締役になる予定の方は、銀行融資や不動産取引等への影響を十分に考慮して、「非表示措置」を実施するか否かを検討してください。
※詳細は、法務省ホームページ(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html)等で確認ください