事業承継におけるM&Aが増加!具体的な手順と活用できる補助金制度を紹介

公開日:2025年10月27日

事業承継・M&A

事業承継は、企業の持続的な運営と成長を続ける上で重要なプロセスとなります。近年では、中小企業経営者の高齢化が進んでおり、事業承継の課題に直面する企業も増えているのが現状です。

今回は事業承継の3つの方法と、近年増加している「事業承継型M&A」の仕組みを解説します。その上で、事業承継型M&Aの進め方や活用できる補助金制度も詳しく見ていきましょう。

事業承継とは

事業承継とは、事業の経営権を後継者に引き継ぐことを指します。単に代表者を交代するというだけではなく、引継ぎ後のスムーズな事業推進をめざし、計画的に経営資源の承継を行うことが目的です。

企業における代表者の交代は、経営方針の変更による影響や株主・取引先・顧客からの信用損失、従業員のモチベーション低下といったさまざまなリスクの要因でもあります。スムーズな引継ぎを実現するためには、事業承継そのものを重要な経営課題として捉え、丁寧に準備を進めていくことが大切です。

事業承継の対象となる3つの経営資源

事業承継後に安定的な経営を行ってもらうためには、現経営者が培ってきた経営資源を適切に引き継ぐ必要があります。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、事業承継の対象となる経営資源を以下の3つに分けて定義しています。

・人(経営)
・資産
・知的資産

 

人(経営)

人(経営)の承継とは、経営権の引継ぎや後継者の選定等のことです。事業承継においては、まずこれまで育ててきた事業を誰に任せるのか、適切な後継者の選定が重要問題となります。

特に中小企業においては、ノウハウや取引関係が経営者個人に紐づいていることが多いため、人(経営)の承継が重要な構成要素となります。例えば、親族から後継者を選ぶのであれば、事業分野に対する十分な理解と経験が必要なのはもちろんのこと、経営そのものに対する深い知見も求められます。

そのためには、確かな資質を持った人物を選ぶだけでなく、育成にかける時間も見据えておかなければなりません。また、外部の第三者に承継する場合は、選定基準や内外への影響等を丁寧に検討する必要があります。

資産

資産の承継とは、株式や事業用資産(設備・不動産等)、資金の承継を指します。事業承継においては、株式や固定資産等のプラスの資産だけでなく、債務等の負債も引き継がれます。

また、資産の状況によっては、多額の贈与税・相続税が発生する可能性もあります。法律や税金、株式といった専門的な視点での対策が必要であるため、税理士等による支援機関からサポートを受けることが重要です。

知的資産

知的資産の承継とは、経営理念やノウハウ、従業員の技術・技能、経営者個人の信用、取引先との人脈、顧客データ、知的財産権、許認可といった多岐にわたる無形の資産を引き継ぐことを指します。知的資産は会社の強みであり、他者との差別化を図るための価値の源泉です。

しかし、目には見えない要素も多いことから、事業承継のタイミングで損失してしまうリスクもあるのが特徴です。例えば中小企業では、経営者と従業員の柔軟な結びつきが、事業継続の重要なカギを握るケースもめずらしくありません。

新たな経営者が従業員との信頼関係を構築できなければ、モチベーションの低下や離職といったトラブルを引き起こす可能性もあるでしょう。そのため、事業承継においては、知的資産をどのように可視化して、的確に引き渡すかが重要な課題となります。

事業承継の3つのパターン

一口に事業承継といっても、「誰に引き継いでもらうか」によって必要な準備や手続は異なります。ここでは、事業承継の方式を3つの類型に分け、それぞれの特徴を解説します。

親族内承継

親族内承継とは、子どもや兄弟といった親族に会社を引き継ぐ方法です。代々親族で経営が行われている企業等では、従来一般的な承継方法として採用されてきました。

早い段階から後継者探しを進められ、将来的な承継を見据えて段階を踏んだ教育が行えるため、十分な下準備ができるのがメリットです。また、後継者の客観的な妥当性も担保されるため、内外からの協力も得やすいのも利点と言えます。

一方、後継者本人に引き継ぐ意思がない場合や、その気があっても適性に欠ける場合もあるなど、必ずしも順調に承継できるとは限りません。働き方や価値観が多様化しており、家業にとらわれない選択をする若い世代も増えているのが現状です。

従業員等への社内承継

「社内承継(従業員承継)」とは、共同経営者や役員、若手の経営陣といった社内の人材に経営権を引き継いでもらう方法です。既に社内で一定の活躍を果たしている後継者に引き継ぐため、ノウハウ等の承継はスムーズに進みやすく、経営方針も一貫性を保ちやすいのが特徴です。

自社で働いてきた人材であれば、従業員との信頼関係も十分に築かれていると考えられるため、無形資産の引継ぎについても安心感が持てます。一方、適任者を1人に絞り込むのは難しく、親族株主等の了解を得られるかどうかも重要な課題です。

さらに、株式取得の際には後継者の資金力に難があるなど、金銭面の問題で実現できないケースもあります。

事業承継型M&A

「事業承継型M&A」とは、外部の第三者に自社を譲渡し、経営を引き継いでもらう方法です。後継者を広く外部に求められるため、主に親族が承継を希望していない場合や、社内に適切な人材がいない場合に活用されます。

現経営者の立場からすれば、外部に経営権を譲渡することで、個人保証・個人資産の担保提供から解放されるのが利点となります。また、従業員の雇用は確保しつつ、売却によって創業者利益も確保できるのがメリットです。

一方で、経営方針は譲受側に委ねられてしまうため、企業文化や経営理念のすり合わせには慎重な態度が求められます。また、ステークホルダーからの理解を得るためには、選定の基準や引継ぎ後の経営方針等について十分な説明が必要となります。

中小企業の事業承継型M&Aは急激に増加

近年の事業承継では、事業承継型M&Aの件数が急激に増加しています。ここでは、事業承継の現状について詳しく見ていきましょう。

事業承継のポイントについて解説しています。

 

親族内承継の減少

後継者の確保は、中小企業における重要な経営課題の一つとなっています。日本政策金融公庫が廃業予定者を対象に行った調査では、廃業理由の28.4%が後継者難とされています。

「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」等、さまざまな事情により、親族内だけで後継者を探すのは難しくなっているのが現状です。それに対して、社内承継や事業承継型M&A等の親族外承継は、近年増加傾向にあります。

親族外承継という新たな選択肢が普及したことで、全体的に後継者不在率はやや改善傾向に入っているものの、全体を見れば後継者難によるやむを得ない廃業は決して少なくないと言えるでしょう。

 

政府による後押しの強化

増加する中小企業の廃業対策として、近年では事業承継型M&Aについて、政府による取組も強化されています。事業承継型M&Aでは、希望の相手を自力で見つけるのが大きな課題となります。

そこで、各所に事業引継ぎ支援センターが設けられ、積極的にM&Aマッチング支援を行うようになりました。その結果、国内の中小企業におけるM&Aは増加しており、2022度の実施件数は、事業承継・引継ぎ支援センターを通じたものが1,681件、民間M&A支援機関を通じたものが4,036件となっています。

これは、前回調査年の2014年度と比べると、10~20倍の数値にあたります。また、後継者の資金力による引継ぎの断念を防ぐために、「事業承継税制」や「事業承継補助金」等の制度も整備され、資金面による事業承継の断念を予防する措置もとられています。

事業承継型M&Aの手順

事業承継の進め方は、どの類型を選択するかによって異なります。ここでは、近年増加している事業承継型M&Aの手順について見ていきましょう。

なお、事業承継型M&Aに必要な準備・手続は多岐にわたるため、企業独力での実現は難しいのが実情です。実際の手続は、事業承継全般の相談に対応している公的機関「事業承継・引継ぎ支援センター」に相談をしながら準備を進めるのがスムーズです。

 

経営状況と課題の見える化

事業承継の第一歩としては、まず経営状況の確認や課題の把握を行い、引継ぎの準備を進める必要があります。

準備段階では、中小企業庁が用意している「事業承継診断」や、経済産業省の「ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)」、内閣府が提供する「経営デザインシート」を活用するのが便利です。事業承継診断とは、事前に用意された質問に回答しながら、必要なプロセスを明らかにしていくためのツールです。

ローカルベンチマークとは、企業の健康診断を行うためのツールであり、「財務面の6つの指標」、「商流・業務フロー」、「非財務面の4つの視点」の3枚組のシートになっています。また、経営デザインシートは将来の持続的な成長に向け、価値創造メカニズムをデザインして、理想の姿に移行するための診断ツールです。

準備に関しては、親族内承継、社内承継、事業承継型M&Aのいずれも基本的に同じプロセスを経ることとなります。自社の状態や今後の方向性を明らかにし、必要に応じて情報共有を行いましょう。

事業承継計画書の策定

事業承継では、「事業承継計画書」の策定が重要となります。自社の現状把握が済んだら、事業承継計画書の作成を進めましょう。

 

事業承継計画書とは

事業承継計画書とは、中長期の経営計画に、事業承継の時期、課題項目、具体的な対策を盛り込んだ書類を指します。具体的には、現経営者に関する情報や経営理念、将来の経営ビジョン、企業業績の推移、財政状態、引継ぎの方向性や方法、対象者等を明確にし、一つずつ記載していきます。

事業承継計画書の役割と重要性

事業承継計画書の役割は、現経営者と後継者との認識をすり合わせることにあります。書類の形式で明文化されていれば、外部の後継者ともスムーズに意思疎通が図れるようになるでしょう。

また、事業承継計画書があれば、親族や従業員とのもめ事を回避し、共通認識のもとで事業承継を進められるようになります。事前に広く意見を求め、合意された事項を盛り込めば、引継ぎ後の不満や行き違いを予防することが可能です。

さらに、取引先や金融機関からの信頼を得る上でも、事業承継計画書は重要な役割を果たします。付き合いのある取引先や金融機関に対しては、事業承継計画書が固まった段階で情報共有し、丁寧に根回しをしておきましょう。

策定の流れ

事業承継計画書には、決められたフォーマットはありません。現状把握と関係者の意思確認を進めたら、経営理念や経営計画、売上目標等を言語化して、計画書に落とし込んでいきましょう。

その上で、事業承継の実施時期を検討し、周囲との摩擦や資金面の課題等の想定される障壁も洗い出すことが大切です。作成方式については、日本政策金融公庫が「事業承継・集約・活性化支援資金」制度の利用者に向けて用意しているフォーマットを活用してみるのも良いでしょう。

 

円滑な引継ぎ

事業承継計画書の作成が完了したら、実際に引継ぎのプロセスを進めていきます。この段階では、専門家のサポートを受けながら手続を一つずつ踏んでいく必要があるため、綿密な連携を図ることが大切です。

企業価値評価・マッチング

まずは、外部の第三者からも客観的な情報がわかるように、専門機関のサポートを受けながら企業価値評価を行う必要があります。その上で、「事業承継・引継ぎ支援センター」や「後継者人材バンク」「民間M&A支援機関登録制度」といったサポート機関に仲介してもらい、適切な相手とのマッチングを進めてもらいます。

企業価値担保権について解説しています。

 

交渉、基本合意の締結、デューデリジェンス

承継を希望する第三者が現れたら、仲介機関を通じて交渉を行います。交渉とは、売り手と買い手の基本合意を結ぶために行われるさまざまな手続のことです。

具体的な手続としては、企業の実態を正しく把握するための「デューデリジェンス」が挙げられます。デューデリジェンスとは、M&Aにおける買い手の企業が買収対象の財務状況や健全性を調査するプロセスのことです。

調査機関の協力を通じて、事業や財務、法務、税務、IT、人事といった幅広い観点から企業の実情を評価してもらいます。専門分野が多岐にわたるため、この段階では公的機関やM&A専門会社のほかに、弁護士や公認会計士、中小企業診断士等にもサポートをしてもらうのが一般的です。

最終契約の締結・クロージング

デューデリジェンスで発見された問題点があれば、再交渉を行って最終契約の締結を進めていきます。最終契約では各種の取決めを確認しながら「株式譲渡」や「事業譲渡」を行います。

そして、譲渡対価が支払われたことを確認したら、M&Aの最終段階である「クロージング」に入り、速やかに登記手続を済ませましょう。この段階では司法書士にサポートしてもらうのが基本ですが、借入金や不動産等への担保設定がある場合は、公的機関や士業等の専門家の指示に従って手続を進める必要があります。

ポストM&A

引継ぎ後は、「PMI」を行う必要があります。PMIとは、事業承継後の経営をスムーズに進めるための手続であり、具体的には役員や取引先等への報告や各種登記手続、売掛金の振込口座の変更等を指します。

一般的に、PMIには3か月~1年程度の期間がかかることが多いです。個別のケースや事業規模によっても所要期間は異なりますが、PMIの手続を進めるなかで、譲り渡し側は徐々に事業運営から距離をとっていくこととなります。

事業承継・M&A補助金(旧事業承継・引継ぎ補助金)を活用しよう

今回ご紹介したように、事業承継やM&Aには多数のプロセスがあり、幅広い専門家のサポートを受ける必要があります。専門家の活用にあたっては費用がかかるため、状況に応じて補助金を利用しながら、無理のない形で手続を進めることが重要です。

そこで活用を検討したいのが、経済産業省が取り扱う「事業承継・M&A補助金」です。これは、事業承継に関するさまざまな資金を補助するための制度であり、「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」の4つに区分されています。

今回ご紹介した事業承継型M&Aについては、事業を譲り受ける側を補助する制度が中心となっていますが、売り手側も活用できるのが「専門家活用枠」です。専門家活用枠は売り手・買い手のそれぞれに対して支援制度が設けられており、「売り手支援類型」は600~800万円を上限に、専門家によるサポート費用の一部を補助してもらえます。

基本的には「かかった費用の1/2」が補助率の上限となりますが、赤字や物価高による営業利益率の低下等を抱えている場合は、「2/3」まで補助されます。対象経費は謝金のほか、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料と幅広くカバーされているため、専門家にサポートを依頼する際には柔軟に活用できるのが特徴です。

2025年に活用できる補助金について解説しています。

まとめ

近年の中小企業における事業承継では、親族内承継から社内承継、事業承継型M&Aへとシフトしているのが特徴です。特に、外部の第三者に広く引継ぎ手を求める事業承継型M&Aは、国による支援が充実してきたこともあり、近年急速に普及してきています。

事業承継の相談は、公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」をはじめ、さまざまな窓口が受け付けています。事業承継を成功させるためにも、まずは相談機関を活用し、自社の現状や課題、今後に必要な手続等を洗い出してみましょう。

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