保育士等の処遇改善等加算の変更点と実務対応

公開日:2025年8月27日

助成金・補助金

保育士の処遇改善加算とは、保育士の賃金向上と待遇改善、保育士不足の解消を目的に内閣府が実施している補助金制度です。人事院の勧告による人件費の改定など、保育者の待遇改善が議論されている一方で、深刻な少子化によって人件費の原資となる委託費が減少するなど、職員の給与の維持・向上は難しい課題を抱えています。

このような環境下、令和7年度からは保育士等の処遇改善等加算ⅠからⅢが一本化され、従来の複雑な制度が簡素化されました。これにより、事務負担の軽減が図られ利用しやすい制度になっています。制度の変更点と実務的な対応について具体的に説明いたします。本号は、社会保険労務士法人ワーク・イノベーションに寄稿いただきました。

変更点の概要

(1)処遇改善等加算ⅠからⅢを処遇改善等加算(仮称)として一本化し、「区分1基礎分(以下、区分1)」、「区分2 賃金改善分(以下、区分2)」、「区分3 質の向上分(以下、区分3)」の各区分を設ける。

(2)従来の処遇改善等加算Ⅰ(賃金改善要件分)及び処遇改善等加算Ⅲは賃金改善という観点から区分2として統合し、処遇改善等加算Ⅱは区分3とする。

(3)キャリアパス要件については、職場環境の改善という観点から、1年間の経過措置を設けた上で、区分1の要件とする。

変更点の詳細

(1)処遇改善等加算の一本化と3つの区分
・「処遇改善等加算」として統合されるものの、目的に合わせて区分1、区分2、区分3とされているのが特徴です。
・必ず賃金改善に充てなければならないのは区分2と区分3で、キャリアパス要件分(2%)が基礎分に吸収されています。

(2)副主任保育士等における職位や職務職責の柔軟化
これまでは副主任保育士、専門リーダー、中核リーダー、職務分野別リーダー、若手リーダー等の職位の発令を受けていること、かつキャリアアップ研修の修了が要件でしたが、変更後は以下の①から③を満たすことで加算の対象となります。

①要件を満たす職員数が実際にいること
②研修は年度内に修了を予定していること
③必ずしも副主任保育士等の職位での必要はなく、それに準じた職位且つ、同等の職務発令を
受けていること


(3)賃金改善の方法を一本化
・3つの区分があるものの、配分方法は一本化されました。
・見直し後は区分2と区分3の合計額について、「2分の1以上を月額で配分、残額は一時金で配分可能」と変更され、従来の処遇改善等加算Ⅱの「4万円を1人以上」の要件も撤廃されました。
・ただし、見直し後の区分2は上限として「月額ベースで4万円」と設定されています。

(4)基準年度賃金を職員の前年度の賃金総額(実績)へ
・基準年度賃金を算出するには、「今いる職員が同じ立場で昨年も働いていたとした場合、賃金はいくらか?」という視点で比較することが求められていました。
・一方で、全く同じ条件の職員がいるわけではないため、仮の数字しか算出することができない等の問題点もありました。
・見直し後は、実際に支給された前年度における職員ごとの賃金実績と比較することになったため、賃金データの活用によって効率的に改善額を確定できることになります。

実務対応のポイント

実際の運用における留意点について解説します。

(1)賃金体系の再設定
・区分2と区分3の支給方法が一本化されましたが、職員の生活の安定を考慮して「2分の1以上は月額で配分」という新たなルールが設定されました。このため、月額と賞与のバランス、手当の再設計等を検討することも有効です。

(2)キャリアパスおよび労働条件明示の強化
・区分2に関しては、これまでのように決められた職位に就いている職員のみに配分されるのではなく、柔軟化が図られます
・一方で対象者や配分金額の根拠がわかりにくくなることが懸念されます。それぞれの職位における職務・職責・任用の要件等を示したキャリアパスを明確にした上で職員に開示し、自分がどのような職務を担っているのか、その職務はどのくらいの職位で求められるものなのかということを認識できるようにすると、職員の意識も高まっていくでしょう。

(3)賃金テーブル・支給方法の検討
・令和2年度の改正で、処遇改善等加算は基準年度賃金の中に含めるものとされました。これによって処遇改善等加算によって賃金改善を実施した後は、加算を含めた賃金水準(年収)を維持しなければならなりませんでした。
・しかし、このしくみは園児減少の影響を受けると事業者の負担が大きくなります。今回の見直しでは、年ごとに園児数を元に算出される加算額以上を配分すればよい(=園児減少で加算額が減ったら職員に配分すべき加算も減らしてよい)という変更がされています。

(4)加算額の変動に伴う不利益変更への対応
・上記⑶の変更点は事業者にとっての不安解消につながりますが、職員にとっては不利益変更に他なりません。
・このため、個別の労働条件通知書や給与辞令で一方的に通知するのではなく、減額の理由を丁寧に説明した上で同意を取るなど、慎重な対応を心がける必要があります。
・変更によって混乱も予想されますが、改めて賃金制度や評価制度を見直し、職員にとって納得感ある給与・職員が成長するキャリアパスのしくみを考え直してみることも検討するとよいでしょう。

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