「令和6年度介護報酬改定」におけるBCP未策定事業者に対する基本報酬減算措置と経過措置について
公開日:2024年6月14日
自然災害・事業継続
2023年7月時点の介護サービス事業者における感染症BCPと自然災害BCPの未策定率はそれぞれ15%強でした。2023年度の介護報酬改定により、BCP未策定事業者は基本報酬が減算される運びとなりました(経過措置期間有)。この記事ではBCP策定等の義務化で求められる取組やBCP策定状況、BCP未策定事業者に対する措置等について解説します。
運営基準の改正によりBCP策定等の義務化で求められる取組
昨今のコロナ禍に代表されるパンデミックや、激甚化・頻発化している自然災害により介護サービス事業所においても倒産や事業継続が困難となるケースが確認されています。こうした現状を背景として、介護サービス事業所における感染症や自然災害への対応力を強化することを目的に、2021年度の厚生労働省令改正により指定居宅サービス等の事業の人員、設備および運営に関する基準(以下「運営基準」)が改正され、すべての介護サービス事業者を対象に「業務継続計画の策定等」として以下3つの取組が義務化されました。
① 業務継続計画(BCP)の策定
BCP策定の目的は「感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要な介護サービスの提供を継続的に実施するため、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るため」とされ、感染症と自然災害それぞれについて策定することが求められました。また、策定にあたって各BCPに盛り込むことが必要な項目が解釈通知で示されました(表1)。
併せて、運営基準においては「定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて変更を行うこと」とされていることから、事業所を取り巻く状況の変化や後述する訓練により明らかになった課題等に応じて作成したBCPについて適宜修正を図ること等が求められることとなります。
② BCP研修の実施
2024年4月以降は作成したBCPを共有するための研修を定期的に実施することが必要です。BCPの具体的な内容の共有、平常時の対応の必要性や緊急時の対応にかかる理解の励行を図ることとされ、併せて研修実施の記録を残すことも義務となりました。
③ BCP訓練の実施
BCPに基づいた訓練の実施も義務化となりました。感染症や自然災害が発生した場合において迅速に行動できるよう、事業所内の役割の確認、感染症や自然災害が発生した場合に実践するケアの演習等を定期的に実施することとされています。訓練の実施方法に関する指定はありませんが、事業所の状況や訓練の内容、検証したい課題等に応じて机上訓練や実動訓練を組み合わせながら実施することが推奨されています。
2024年3月31日までは義務化の経過措置期間であるため、それまでに各介護サービス事業所は感染症と自然災害双方のBCPを策定し、2024年4月以降に研修や訓練が実施できるよう準備をしておくことが必要です 。
介護サービス事業者におけるBCPの策定状況
厚生労働省社会保障審議会(介護給付費分科会)が2024年2月に公表した「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(結果概要)(案)」によりますと、介護サービス事業者の2023年7月時点における感染症BCPの策定状況は、「策定完了」が29.5%、「策定中」が54.8%、「未策定(未着手)」が15.5%でした。
また、自然災害BCPの策定状況は、「策定完了」が27.0%、「策定中」が55.2%、「未策定(未着手)」が17.0%となっています。職員数の少ない事業所において「策定中」「未策定(未着手)」と回答する割合が多かったことから、より小規模な介護サービス事業所においてBCPの策定・着手に困難な状況がうかがえます。
これらのことから、経過措置の期限となっている2024年3月31日までにBCPの策定が完了しない介護サービス事業者は、一定数存在することが想定されます。
BCP未策定介護サービス事業者に対する措置
厚生労働省は、2024年1月22日の社会保障審議会(介護給付費分科会)の中で、2024年度の介護報酬改定で、感染症もしくは自然災害のいずれか、または両方のBCPを策定していない介護サービス事業所に基本報酬の減算を導入する方針を示しました(居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除く)。ただし、2025年3月31日までの間は、感染症の予防およびまん延の防止のための指針の整備および非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には、減算を適用しないこととしました。また、訪問系サービス、福祉用具貸与、居宅介護支援についても一年間の減算を適用しない経過措置期間を設けることとしました。これらのサービス種別においては、「感染症の予防・まん延防止の指針」の策定が義務化されたのが直近であること、また、「非常災害対策計画」の整備が義務付けられていないためと考えられます。
報酬減算に経過措置期間が設けられたとはいえ、BCPは感染症や自然災害が発生した場合であっても利用者に必要な介護サービスの提供を継続させること、すなわち利用者を守るためのものであり、ひいてはサービスを提供する職員を守るものでもあるため、未策定(未着手)の事業所におかれては早急な対応が求められます。対応にあたっては、厚生労働省のホームページで、介護サービス事業者向けのBCPガイドラインや記入例を含むひな形、研修動画が公開されているため、これらを活用するのが有効です。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の医療福祉RMニュース2024年4月(No.1)を基に作成したものです。