一般消費者向け製品の事故報告・リコール制度の概要
公開日:2023年11月1日
その他
日本における消費生活用製品*1の事故報告・リコール制度の概要を紹介します。
消費生活用製品を所管する経済産業省は、事故報告制度については「消費生活用製品安全法に基づく製品事故情報報告・公表制度の解説 ~事業者用ハンドブック 2018~」*2(消費者庁と連名)、リコール制度については「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」*3 を事業者向けに公表しています。
事故報告制度
(1)根拠法
消費生活用製品安全法(以下、消安法)2条5項は「製品事故」を以下のように定義します。
消費生活用製品の使用に伴い生じた事故のうち、次のいずれかに該当するものであって、消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの(他の法律の規定によって危害の発生および拡大を防止することができると認められる事故として政令で定めるものを除く。)をいいます。
一般消費者の生命または身体に対する危害が発生した事故
消費生活用製品が滅失し、またはき損した事故であって、一般消費者の生命または身体に対する危害が発生するおそれのあるもの
「消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」には、「製品の欠陥によって生じた事故か不明なもの」も含まれるという点に注意が必要です。
その上で、製品事故のうち、「発生し、または発生するおそれがある危害が重大」である「重大製品事故」(消安法2条6項)について、消安法35条が報告義務を課しています。
なお、製品事故であっても重大製品事故に該当しない事故(非重大製品事故)については後述します(1.(8)参照)。
(2)報告義務者
消費生活用製品の製造事業者または輸入事業者が重大製品事故の報告義務を負います*4 。
(3)報告すべき場合
次に示す危害が発生するような製品事故が「重大製品事故」と判断され、報告が求められます *5 。
① 一般消費者の生命または身体に対する危害が発生した事故
- ・ 死亡事故
- ・ 重傷病事故(治療に要する期間が30日以上の負傷または疾病)
- ・ 後遺障害事故
- ・ 一酸化炭素中毒事故
② 消費生活用製品が滅失し、またはき損した事故であって、一般消費者の生命または身体に対する危害が発生するおそれのあるもの
- ・ 火災(消防が火災認定したもの)
(4)報告の内容
内閣府令により事故報告の様式が定められています 。この書式は経済産業省のウェブサイトからダウンロードすることが可能です *7 。
具体的には以下の項目について報告が求められます *8 。
- ・ 製品名
- ・ 品名(ブランド名)
- ・ 機種・型式等
- ・ 事故発生日
- ・ 火災の有無
- ・ 人的被害区分
- ・ 事故内容
- ・ 事故を認識した契機と日
- ・ 事故発生場所
- ・ 当該機種・型式等の製品に関する製造時期および数量
- ・ 当該機種・型式等の製品に関する輸入時期および数量
- ・ 当該機種・型式等の製品に関する販売時期および数量
- ・ 製造・輸入事業者の名称および所在地
- ・ 所属の業界団体名および同所在地
(5)報告の期限
製造事業者または輸入事業者は、自らが製造または輸入する消費生活用製品について重大製品事故が発生した場合、知った日を含め、10日以内に報告しなければなりません。
この「10日以内」には、土日・祝祭日もカウントされます。
ただし、10日目が土曜、日曜、祝日または年末年始閉庁日(12月29日~1月3日)の場合は、その翌日が報告期限となります *9 。
(6)報告先および報告の方法
報告先は消費者庁です。
方法としては、電子メール、FAX、消費者庁ウェブサイトからのweb 入力、郵送、直接持参があります。
(7)違反時の罰則
重大製品事故の報告義務に違反し、「報告を怠り、または虚偽の報告をした場合」には、当該製造事業者又は輸入事業者に対して、事故情報を収集、管理および提供するために必要な社内の体制を整備するよう命令(体制整備命令)が発動される場合があります *10 。
体制整備命令に違反した場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処されます *11 。この罰則は行為者本人のみならず、法人に対しても科せられます *12 。
(8)非重大製品事故の場合に求められる対応
非重大製品事故の場合は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に対し報告することが経済産業省の通達 *13 により要請されています。この報告はオンラインから行うことができます *14 。
(9)小売販売事業者等に求められる対応
小売販売事業者等は、重大製品事故の報告義務を負いませんが、重大製品事故の発生を知った場合は、その旨を当該製品の製造事業者または輸入事業者に通知する努力義務があります *15 。また、重大製品事故であるかどうかに関わらず、NITEに報告することも可能です。
リコール制度
(1)自主リコール
消安法38条1項は重大製品事故等が発生した場合に、当該製品の製造事業者または輸入事業者に対し、原因の調査を行った上で、必要に応じた製品回収および危害の発生・拡大防止の措置をとることを求めています。
この規定はあくまで努力義務であり、リコールを実施するか否かの判断は製造事業者または輸入事業者が行うこととなります。その判断に際し、経済産業省の発行するリコールハンドブックが参考となります。
リコールハンドブックは「被害の質・重大さ」、多発・拡大可能性の有無などの「事故(被害)の性格」、製品欠陥であるか消費者の誤使用であるかといった当該製品と「事故原因との関係」を判断要素とし、経営者が意思決定を行うことが重要としています。
(2)強制リコール
消安法39条1項がいわゆる「危害防止命令」について規定します。これは消費生活用製品の欠陥によって重大製品事故が発生した場合などに、経済産業大臣が製造事業者または輸入事業者に対し、当該消費生活用製品の回収を図るなどの必要な措置をとるよう命じるものです。
ただし、このような命令が発動された事例は非常に少なく、2023年9月時点では3例のみです(旧法下の「緊急命令」を含む) *16 。
最近の動向
(1)事故報告制度
経済産業省の公表資料によると、過去10年における重大製品事故の受付件数は、毎年1,000件程度で推移しています。
また、NITEの2020年の調査結果 *18 では、重大製品事故の事故原因としては「製品起因」が30%を占める一方、「誤使用・不注意等」が27%と次いで多くなっています。
「誤使用・不注意等」による重大製品事故の割合を年齢層で比較すると、60歳代、70歳代、80歳代はいずれも60%を超えており、他の年齢層より高いこともわかっています。
日本においては今後さらに高齢化が進むことが確実視されており、「誤使用・不注意等」による重大製品事故が増えていく恐れがあります。
こうした状況を踏まえ、経済産業省は「誤使用等事故のリスク低減製品」の表示制度の検討を開始しています。同省資料 *19 によると、「ドアの隙間への指のはさみ込みによる負傷」、「暖房便座に長時間座ることによる低温やけど」といった具体的な誤使用の場面を想定して製品のリスク低減を図り、その効果が認証機関で認められた製品には表示(マーク)を付与する制度となっています。今後、2023年度中の詳細設計を経て、2024年度の運用開始が予定されています。高齢者や子どもの製品事故防止に向けて、他社にはない設計上の取組を行っているメーカーなどは、本制度の動向に要注目といえます。
(2)リコール制度
経済産業省の資料によると、過去10年間の年ごとのリコール開始件数は、毎年100件以下で推移しています。また、重大製品事故契機のものは毎年概ね20件前後であり、この点も大きな変動はありません。
一方で、毎年100件程度のリコールが実施されていることから、2007年以降に開始されたリコール案件の件数のみでも累計約1,900件に上っています。また、その大半は実施が長期化し、事業者の負担となっているといわれています。こうした状況を踏まえ、経済産業省はリコール案件を緊急度・優先度によってレベル分けし、レベルに応じた対応を事業者に求める制度を検討しています *21 。これは、「早期にリコール対象製品の回収等を行い消費者の安全を確保すること、および、企業の限られたリソースを合理的・効果的なリコール対応に振り向けること」が目的とされています。
運用開始時期としては2024年4月を目指すとされています。今後の製造事業者等によるリコール実施のあり方に影響があると考えられ、やはり要注目の制度といえます。
おわりに
過去の事故による教訓を踏まえ、日本においては2007年5月に重大製品事故報告制度が創設され、2000年代後半にかけて製品安全の実現やリコールの実施に関する事業者向けの各種ガイド文書が整備・公表されてきました。
その後、現在に至るまで大きな制度の変更は行われてきませんでしたが、本文中に取り上げたとおり、誤使用等事故のリスク低減製品に関する表示制度や、案件ごとの緊急度・優先度に応じたリコール対応を求める制度の検討が現在行われており、早ければ2024年度から運用が開始されますので、今後も随時ご紹介していきます。
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のPLレポート(製品安全)2023年9月号を基に作成したものです。
【参考情報】
*1 :「主として一般消費者の生活の用に供される製品(別表に掲げるものを除く。)」(消安法2条1項)のこと。「別表」に掲げられている製品として、船舶、道路運送車両、医薬品、化粧品、医療機器などがあります。
*2 : https://www.meti.go.jp/product_safety/producer/guideline/file/handbook_1.pdf
*3 : https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/recall_handbook2022.pdf
*4 : 消安法35条1項
*5 : 消安法2条6項、消費生活用製品安全法施行令5条
*6 :消安法35条2項、消費生活用製品安全法の規定に基づく重大事故報告等に関する内閣府令3条および様式第一
*7 : https://elaws.e-gov.go.jp/data/421M60000002047_20190701_501M60000002017/pict/H21F10001000047_1907221307_001.pdf
*8 : 様式第一の報告書と併せ、被害者の詳細などを記載した「参考資料」を付属文書として提出することが要請されています。
*9 : 行政機関の休日に関する法律2条
*10 : 消安法37条1項
*11 : 消安法58条5項
*12 : 消安法60条2項
*13 : 「消費生活用製品等による事故等に関する情報提供の要請について」(2011・03・03商局第1号)
*14 : https://www.nite.go.jp/jiko/jikohokoku/accidenttop
*15 : 消安法34条2項
*16 : 経済産業省「リコール情報」より
*17 : 経済産業省「製品安全行政を巡る動向」(2023年3月28日)に基づき弊社作成
*18 : 経済産業省「製品安全行政を巡る動向」(2023年3月28日)31ページ
*19 : 経済産業省「製品安全行政を巡る動向」(2023年3月28日)36ページから37ページ
*20 : 経済産業省「製品安全行政を巡る動向」(2023年3月28日)および「リコールの効率向上に向けて」(2018年3月19日)に基づき弊社作成
*21 : 経済産業省「製品安全行政を巡る動向」(2023年3月28日)15ページ