点呼問題とは?不適切点呼や未実施を防ぐためのポイントを解説
公開日:2026年1月19日
事故防止

国土交通省は「点呼問題」を起こした企業に対して、トラック等の貨物運送事業許可を取り消す行政処分を科しました。その後も全国規模で調査が行われ、違反が発覚した事業所にはそれぞれ処分が下されました。
その結果、許可取消により自社で対応できなくなった集配や運送が他の配送業者に委託されるなど、業界を揺るがす大きな問題へ発展しています。今回は、点呼問題がどのような経緯で生じたのか、その原因や予防のための対策について紹介します。
点呼問題の概要

「点呼問題」とは、企業において発覚した点呼不備問題を指します。運送業における「点呼」とは、ドライバーの健康状態や車両の状況を管理者が定期的に確認することを指し、安全な運行のために法律で義務付けられています。
点呼問題が発覚した経緯
とある企業による点呼問題が発覚したのは、社内調査がきっかけです。この調査によって、全国の事業所のうち約8割で、適切な点呼が実施されていないという事実が明らかにされました。
さらに、一部の事業所では点呼そのものが行われていなかったにもかかわらず、実施したかのように虚偽の記録を作成する違反行為も確認されています。なかには、アルコールチェックを受けないまま飲酒状態で配達業務が行われた事例も複数判明するなど、深刻な事態が明らかになりました。
国土交通省による調査と処分
この報告を受け、国土交通省は貨物自動車運送事業法に基づき、特別監査を実施しました。その結果、多数の不備や違反等が発覚したため、運送事業許可を取り消す方針が正式に通知されました。
対象となった企業は、この通知を受け入れる旨を発表しています。この運送事業許可の取消は、貨物自動車運送事業法における最も重い処分です。
具体的な内容としては、トラックやワンボックス車等の事業用自動車に対する、5年間の使用不可の処分が挙げられます。同時に、安全管理体制の是正命令も出されています。
大手事業者が、運送事業許可の取消を受けるのは異例であり、同じ運送や物流業界に与えた影響は大きいものがありました。
問題が起こった原因
点呼問題につながった大きな原因とされているのが、組織全体でのコンプライアンス意識の欠如です。とりわけ、現場レベルでの管理体制の不備や、点呼業務における監督責任の欠如が、大きな問題に発展していったと言えるでしょう。
対象となった企業においては、点呼問題を受けて改めて社内調査を行いました。すると、従業員からは「周囲もやっていないから、自分もやらなくていい」「点呼は面倒だから管理者がいる時のみやっていた」といった声が多く確認されました。
このように、本社や支社が定期的なチェック体制を取れていなかった点が、全体としての問題の見落としにつながったと考えられます。また、虚偽の記録を作成する違反行為が起きた理由としては、紙媒体を使用したアナログな点呼の記録方法も挙げられます。
点呼の実態を客観的に把握できる仕組みを確立していなかったことが、問題が放置されていた原因の一つだと言えるでしょう。
運送業における点呼の重要性

運送業において点呼は安全運転の要であり、法律によってルールが定められた手続でもあります。ここでは、点呼の重要性と法的な位置づけについて確認しましょう。
点呼は法令で義務付けられている
点呼は、「道路運送法」で義務付けられています。原則として運行管理者や補助者が対面で行うものであり、ドライバーの健康面と車両の安全性をチェックするのが目的です。
国土交通省が点呼記録簿の例として挙げている書面には、酒気帯びの確認や点呼執行者名を記載する箇所が設けられています。点呼記録簿は、誰が何を確認したのかを明確に記した上で、1年間保存しなければなりません。
点呼の主なチェック項目
点呼は、原則として運行管理者等がドライバーと対面で行います。主なチェック項目は、以下のとおりです。
【乗務前】
・健康状態(顔色、言葉遣い等)
・飲酒の有無(アルコール検知器等で確認)
・薬の服用状況や睡眠不足の有無
・車両の日常点検状況
【乗務後】
・飲酒の再確認(呼気検査等)
・運行中の異常報告
ほかには、ドライバー名や車両番号、点呼を実施した日時を記載する必要があります。
【関連記事】
飲酒運転を防止するための取組について解説しています。
不適切点呼と点呼未実施
「不適切点呼」とは、点呼は行ったものの、内容が法令で定められた基準を満たしていない状態のことです。記録の不備やアルコールチェックの未実施等のことであり、内容によっては罰則の対象となります。
「点呼未実施」とは、点呼そのものが全く行われていない状態のことです。点呼未実施は、不適切点呼よりも重い行政処分の対象となるため注意が必要です。
なお、メールでの体調確認や運行管理者自身による点呼等も、「対面で運行管理者とドライバーが行う」という条件を満たしていないため、不適切点呼ではなく点呼未実施に該当します。ただし、ドライバーが遠隔地にいるなどのやむを得ないケースでは、携帯電話や業務用無線での点呼が認められています。
点呼の実施義務違反における罰則
点呼は法令で実施が義務付けられているため、違反すると罰則があります。主な罰則は車両の使用停止です。
例えば、罰則により1台の車両が10日間使用停止になる場合、「10日車」として罰則期間を日数で表した行政処分が下されます。2025年12月時点での、主な罰則内容は以下のとおりです。
【点呼の実施に関する罰則】
・点呼の未実施:初違反で40日車、再違反で80日車
・不適切な点呼:初違反で20日車、再違反で40日車
・軽微な違反等:初違反で警告、再違反で10日車
・飲酒運転防止にかかる点呼実施義務違反:初違反で100日車、再違反で200日車
【記録に関する罰則】
・点呼記録簿への虚偽記載・改ざん:初違反で60日車、再違反で120日車
・記録すべき事項の記載漏れ・不備:初違反で警告、再違反で10日車
・点呼記録の録音・録画保存義務違反:初違反で警告、再違反で10日車
なお、アルコールチェッカーの未設置や未使用は、飲酒運転防止にかかる点呼実施義務違反として「100日車」の罰則が下されます。
遠隔点呼とは

遠隔点呼とは、対面での点呼が難しい時に、要件を満たす機器やシステムを用いて遠隔で実施する点呼のことです。具体的には、「旅客自動車運送事業運輸規則および貨物自動車運送事業輸送安全規則の規定に基づき、事業者が、機器を用いて、遠隔の営業所または車庫にいる運転者に対して行う点呼」を指します。
複数の車庫や事業所にいるドライバーの点呼も、一つの営業所から行えるため、管理業務の効率化につながります。労働環境の改善や運行管理の効率化を目的として、2022年4月から本格的に運用が始まっており、条件を満たせば対面点呼と同等の効果が認められます。
遠隔点呼が可能な範囲
遠隔点呼は、次の8つのパターンに分けられます。
自社営業所と当該営業所内の車庫との間
自社営業所の車庫と当該営業所内の他の車庫との間
自社営業所と他の自社営業所との間
自社営業所と他の自社営業所内の車庫との間
自社営業所内の車庫と他の自社営業所内の車庫との間
自社営業所と完全子会社等の営業所との間
自社営業所と完全子会社等の営業所内の車庫との間
自社営業所内の車庫と完全子会社等の営業所内の車庫との間
同一事業者でなくても、グループ会社であれば遠隔点呼が可能です。例えば、子会社同士で片方の運行管理者が、もう一方の子会社に所属するドライバーの点呼を遠隔で行うことができます。
ただし、グループ会社でも業種が異なる場合(配送事業者とバス事業者等)は、遠隔点呼の実施が認められていません。
遠隔点呼を実施する要件
遠隔点呼を行うためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
1.遠隔点呼機器の要件
カメラやモニター等を通じて、運行管理者がドライバーの表情や全身、酒気帯びの有無等を確認できることが要件です。アルコール検知器の測定結果を記録、保存するとともに結果をチェックできる体制を整えておく必要があります。
2.遠隔点呼機器を設置する施設及び環境の要件
運行管理者が、ドライバーの表情や様子を確認できる照度で点呼を行うことも要件の一つです。500ルクス(勉強や読書等の書類作業が可能な照度)以上の明るさが推奨されています。
3.遠隔点呼機器の運用上の遵守事項
運行管理者に義務付けられているのは、事前の道路情報や運行中の車両位置の把握です。また、面識のないドライバーの遠隔点呼をする際には、事前にそのドライバーと対面かオンラインで面談する機会を設けて、普段の相手の表情や健康状態を把握しておく必要があります。
その上で、事業者は管轄の運輸支局長等に申請を行い、遠隔点呼実施の承認を受けなければなりません。
遠隔点呼の導入と課題
遠隔点呼を導入すると、業務の負担を軽減できます。各営業所や車庫にいるそれぞれのドライバーの点呼をする際に、1人の運行管理者が1カ所で対応できるため、特に夜間や早朝の人員の少ない時間帯に活用したい仕組みだと言えます。
その一方で、遠隔点呼制度に対応した機器の準備や社内体制の整備が必要になるため、導入にコストと時間がかかるのが課題です。なかでも、特に重要となるのは、遠隔点呼に対応できる運行管理者の確保です。
営業所の車両数によって、配置しなければならない運行管理者の数は決まっており、5年以上の実務経験が必要等の規定があります。そのため、機器や環境の整備が進んでも、人員不足の面から遠隔点呼を実施できないケースも考えられます。
点呼で違反が起こりやすい事例

2024年に国土交通省近畿運輸局が発表した「自動車運送業者に対する監査と処分結果」によると、運送業者が起こした違反のうち最も多いのが点呼に関するものです。ここでは、点呼において起こりやすい事例を紹介します。
形式的な点呼になっている
点呼は日常的な業務であるため、繰り返しているうちに手続が形式的になりやすい側面があります。表面上は点呼記録簿を記載していても、十分な確認が行われていない状態であれば点呼違反につながります。
実際に、点呼体制が杜撰になっていたあるバス会社で、運転手が酒気帯び運転で摘発され、行政処分が科される事態となりました。
運行管理者の資格がない
運行管理者の資格がない人が点呼を行うと、行政処分の対象となります。運行管理者の人員不足やシフト管理の甘さから、無資格者による点呼が常態化しているケースもあります。
運行管理者は講習の受講や実務経験を積んだ上で、試験に合格しなければ担当できないポジションです。ドライバーと運行管理者の兼任も可能ではありますが、自身がドライバーとして点呼を行う場合は、別の運行管理者とともに実施する必要があります。
記録の虚偽記載や漏れがある
運転手への点呼が実際には行われていないにもかかわらず、点呼記録簿に虚偽記載をするようなケースもあります。点呼記録簿の虚偽記載・記載漏れは、運行管理体制の不備や記録管理の問題とされ、点呼実施義務違反として行政処分の対象となります。
点呼を行っていないのに実施したかのように記載したり、飲酒の有無等の確認すべき事項をチェックしていなかったりするケースが散見されています。今回ご紹介した点呼問題でも、同様の事例が多数確認されています。
アルコールチェックの不備
飲酒運転が起こる背景には、ドライバーの意図的な飲酒(二日酔いも含む)、点呼記録簿の改ざん(飲酒したが乗務開始)、アルコール検知器の故障の3パターンがあります。パイロットの飲酒による複数便の出発遅延等の事例が起きた航空業界では、乗務12時間前以降の飲酒が禁止されることとなりました。
運送業界でも同様に、飲酒運転防止の取組が強く推進されています。2024年3月に国土交通省物流・自動局が発表した「自動車運転事業者における飲酒運転防止マニュアル」では、「アルコール度数5%の500mlの缶ビール1本」でも「アルコールが抜けるまでに4時間はかかる」ため、運転前日の飲酒は控えるように推奨しています。
また、アルコールチェックを確実に実施するためには、機器の状態も定期的に確認しなければなりません。ある旅客運送業者では、アルコール検知器が壊れたまま使用し続け、検知結果がすべて「異常なし」と記録されていた事例がありました。
この状態が続けば、大きな事故や損害につながる恐れもあるため、整備の徹底も心がける必要があります。
点呼を適切に行うための対策

点呼は毎回必ず行うため、「慣れ」や「形骸化」が起きやすい一面もあると言えます。だからこそ、従業員の意識を高く設定した上で、正確な手順に従い点呼を行うことが必要です。
従業員教育を徹底させる
従業員に対して、点呼の重要性や法令遵守の意識を浸透させるには、社内教育が大切です。法令が改正されるたびに、その都度正確な情報を従業員に共有する必要があります。
定期的に周知や研修を行っていないと、運行管理者や一部の人間が最新の法令を熟知しているのに対して、現場のドライバーが現在の正確な点呼の手順を知らないといったケースも起こり得ます。ドライバーに悪意がなかったとしても、結果として不正を働いてしまう事態を防ぐためにも定期的な講習や教育は欠かせません。
点呼の具体的な手順や記録の重要性を周知した上で、違反した場合の罰則についても細かく伝達することが大事です。教育方法としては、パソコンやスマートフォンを介して動画で学習する「eラーニング」や、数人で議論を交わすなどの「グループワーク」等が挙げられます。
運行管理者に対する研修を実施する
仮に酒気帯びで出勤したドライバーがいたとしても、運行管理者が適切に対処すれば、酒気帯び運転は防げます。そのため、運行管理者が点呼を正確に実施できるような体制を整えることが重要です。
その上で、各運送会社の事業主や責任者は、運行管理者が最新の法令や点呼違反の事例等を確認できる体制を構築することが大切です。運行管理者は2年に一度、国土交通省が指定した研修を受ける必要がありますが、それ以外にも随時情報をアップデートする機会を作っておくことが点呼違反や事故の防止につながります。
また、ドライバーと運行管理者の双方の健康状態や勤務状況を把握し、無理な運行がないように配慮することも重要な役割です。特に、長距離ドライバーの勤務時間やシフト体制については、定期的に確認する必要があります。
点呼のデジタル化も検討する
点呼の不正を防ぐためには、ドライバーや運行管理者への教育が重要なポイントとなりますが、人手不足が原因でなかなか十分な体制を取れないケースも考えられます。そこで、有効な手段となるのは点呼のデジタル化です。
例えば、IT点呼システムを導入すると、点呼の実施状況や記録をリアルタイムで管理できるため、記録の改ざんや紛失のリスクを軽減できます。アルコールチェッカーと連携すれば、酒気帯び運転を未然に防ぐことも可能です。
まとめ
大手事業者で起こった点呼問題は、点呼のマンネリ化やずさんな管理状態が原因となり、運送事業許可の取消という大きな事態に発展しました。点呼は業務の安全性を確保するための重要な手続であり、法律で厳格に定められたルールでもあります。
適切な点呼を行うためにも、まずは管理体制の強化と従業員教育を徹底することが重要です。その上で、人員への負担を軽減するためには、デジタルツールの活用も有効な選択肢となります。
改めて自社のチェック体制を確認し、点呼を無理なく確実に実行できるような仕組みを整えましょう。
【参考情報】
2025年6月25日付 国土交通省 「日本郵便株式会社に対する輸送の安全確保命令について」
2021年3月付 国土交通省中部運輸局 「点呼は安全運行の要」
2025年12月10日付 e-Gov法令検索 「貨物自動車運送事業輸送安全規則」
2025年3月3日付 国土交通省 「事業者間遠隔点呼の制度化に向けた最終とりまとめについて」
2025年12月4日付 国土交通省中国運輸局 「対面による点呼と同等の効果を有する点呼方法(遠隔点呼・自動点呼)」
2025年8月20日付 国土交通省近畿運輸局 「令和6年度自動車運送事業者に対する監査と処分結果」
2024年3月付 国土交通省物流・自動車局 「自動車運送事業者における飲酒運転防止マニュアル」


















