シニア人材が活躍する職場づくり(2)労務トラブル事例と予防策

公開日:2026年3月4日

人事労務・働き方改革

わが国の全就業者数における60歳以上の就業者の割合は徐々に増加しており、2024年には22.0%となっています。人手不足の状況下で、企業における高齢者の活躍機会はますます増えると予想されます。一方で労災事故における高年齢者の割合も増加しており、改正労働安全衛生法により、2026年4月から高齢労働者の防災対策が新たに企業の努力義務となります。

今回は、シニア人材が活躍する職場づくりをテーマとした2回シリーズの第2回「労務トラブル事例と予防策」として、加齢に伴う様々な身体の変化等を踏まえた配慮などについて解説します。

シニア人材の労働災害発生状況

60歳以上の就業者の割合が増加するなかで、労働災害の発生については60歳以上でより高い割合となっています。

下記のグラフ、「就業者数」と「労働災害による死傷者数」を年別にまとめたもので見てみましょう。就業者数のうち60歳以上の割合が2024年で22.0%となっています。これに対し、労働災害による死傷者数のうち60歳以上の割合は2024年で30.0%と就業者数と比較して高くなっており、60歳以上の労働災害発生率が高いことがわかります。

60歳以上の労働災害事故の型としては、以下のグラフが示すとおり「転倒」が非常に多くなっています。厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」(※)において令和6年度に「転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース」が新設されたことからも、国が課題と認識していることがわかるのではないでしょうか。

(※)エイジフレンドリー補助金とは、中小企業事業者を対象に高年齢労働者の労働災害防止のための設備改善や、専門家による指導を受けるための経費の一部を補助するものです。(令和7年度の新規公布申請の受付は終了しています。令和8年度の内容等については、厚生労働省HPで開示される情報をご確認ください。)

シニア人材の加齢に伴う各機能の低下については、下表のような研究結果があります。その中では生理的機能、特に視力・聴力等の感覚機能やバランス能力等は早い時期から低下が始まるとされています。これらのデータは、各職場においてシニア人材の労働災害防止策を検討するためのヒントになります。

労務トラブル事例

シニア人材について発生している、または想定される労務トラブル事例を見ていきましょう。

(1) 労働災害

先述のとおり、シニア人材の労働災害発生率は60歳以下よりも高く、加齢に伴う様々な機能の低下によるものが多くなっています。

具体的には、「蛍光管を交換するために脚立を用いて作業する際、ステップを踏み外し落下した」、「工場の作業場で水をまいて清掃していたところ、濡れた床で足をすべらせ転倒した」、「商品の陳列作業中に、何もないところでつまずき転倒した」などの事例が報告されています。このような労働災害を防ぐためには、特にシニア人材に向けた対策が必要と考えられます。

(2) 有期雇用契約の管理

多くの会社では、60歳あるいは65歳を定年年齢と定めています。そして定年後のシニア人材については、1年単位の有期雇用契約により継続雇用するケースが多くなっています。

この有期雇用契約については、更新を繰り返し継続雇用期間が5年超になると労働者側に「無期契約転換申込権」が発生します。そして、会社が特段の対策をしないまま、当人が無期契約転換を申し込んだ場合には、すでに定年年齢を過ぎていることから、定年が発生しないということになります。

すなわち、自己都合退職など定年以外の退職に該当するか、解雇する以外には雇用契約を終了できなくなります。この点は会社にとってのリスクと考えられます。

(3) 知識・経験の陳腐化

ITやDXなどの技術進歩により、シニア人材が蓄積してきた知識・経験が従来のままでは通用しない状況が多くなってきています。その結果として、現状の業務についてこられず職場に貢献できないケースや、自分のやり方にこだわることで若手社員とハレーションを起こすケースなどが発生する可能性があります。

労務トラブルの予防策

上記のような労務トラブルを予防するための対策について、各々解説します。

(1) 安全衛生管理体制の整備

経営トップが「高年齢者の労働災害防止対策に取り組む方針を表明」することや、担当者や組織を指定して「高年齢者の労働災害防止のための体制を整備・明確化」することなど、安全管理体制を確立することが有効です。

高年齢社員に対して多発する労働災害の防止対策としては、転倒防止、墜落・転落防止、腰痛予防、はさまれ・巻き込まれ防止、交通労働災害防止、熱中症予防などがあげられます。このような高年齢労働者の身体機能の低下等による労働災害発生リスクについて、まずは現場の高年齢社員からの直接の意見、災害事例やヒヤリハット事例から洗い出していきましょう。

そのうえで、対策の優先順位を検討する等、リスクアセスメント(※)の実施が重要になります。
(※)職場の潜在的な危険性・有害性を見つけ出し、これを除去、低減して労働災害を未然に防ぐための手法

このような高年齢者の労働災害防止の取組みについては、中央労働災害防止協会より発行されている「エイジアクション100」が参考になります。

チェックリスト方式で職場環境について高年齢者目線で網羅的に把握ができます。我が社がどこから取り組めば良いか分からないという場合には、このチェックリストを活用することにより現状を把握し、対策を実施していくことをお勧めします。

(2) 職場環境の改善

身体機能の低下を補う設備・装置の導入等、ハード面での対策は高年齢者の労働災害防止に有効です。例えば、階段に手すりを設置し、バランス能力・筋力・俊敏性・視認性の低下により発生可能性が増える転倒を防止します。また、作業場所の照度を確保し、視認性や薄明順応の低下に対応します。

このように、高年齢者の身体機能低下に合わせて優先順位をつけて対策していくことが考えられます。加えて、筋力や持久力の低下を考慮して、勤務形態や勤務時間、休憩時間を工夫する等のソフト面での対策を検討することもお勧めします。

(3) 健康や体力の把握とそれに応じた対応

労働安全衛生法で定める健康診断を確実に実施することはもちろんのこと、加齢による心身の衰えのチェック項目の導入や、厚生労働省の「転倒等リスク評価セルフチェック票」を活用するなど、事業場の働き方や作業ルールに合わせた健康状態のチェックを行いましょう。

その結果に応じて労働時間の調整や作業転換を行うことで、高年齢者が無理なく中長期的に活躍することが期待できます。

(4) 安全衛生教育の実施

作業内容やリスクを確実に理解させるため、十分に時間をかけて、写真や映像等の文字以外の情報も活用した安全衛生教育が有効と考えられます。また、教育を行う者や管理監督者、共に働く労働者に対しても、高年齢労働者に特有の特徴と対策についての教育を行うことにより効果を上げることが期待できます。

(5) シニア人材向けの規程の整備

シニア人材について有期雇用契約の更新を繰り返すことを前提として、定年後の無期契約が発生しないように規程を整備することが重要となります。具体的には、雇用上限年齢の設定や定年後の無期契約に対応するために70歳や75歳などで第二定年を設けることなどが考えられます。

また、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法に基づく「第二種計画認定・変更申請書」を所轄の労働局に提出することにより、無期雇用から定年を経て有期雇用となった労働者に対して無期契約転換申込権が発生しなくなるようにすることができます。

これにより定年後再雇用にて有期雇用契約で勤務するシニア人材については、有期雇用契約を更新し続けることができます。

(6) リスキリング・リカレント教育

環境変化のスピードが増し、従来の知識・経験が十分に活用できないこととなる状況を踏まえて中高年の学び直しの重要性が増してきています。特にITやデジタル分野に対しては経験不足から苦手意識を抱えていることも多く見られ、これらの領域の学習についてハードルを感じていることも考えられます。

これらに対応するための手法として、業務とIT・デジタルの関連性や効果的な活用方法などを伝えつつ、中高年用の研修プログラムを用意することなどが考えられます。特に中高年が持つノウハウや暗黙知などは会社にとって有益な財産であり、これをIT・デジタルで仕組化していくことも重要となります。

第1回「評価と処遇の検討ポイント」もご一読ください。

 

シニア人材が活躍する職場づくりをテーマとした2回シリーズの第1回として、「評価と処遇の検討ポイント」について解説しています。

 

社会保険労務士法人みらいコンサルディング

※三井住友海上では、外部専門家と連携し、企業・法人経営者の皆様に有益な情報を提供しています。

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