喫煙対策がもたらす企業経営への効果

公開日:2026年3月25日

健康経営・メンタルヘルス

従業員の喫煙は、健康リスクのみならず、生産性低下や医療費増加、さらには受動喫煙によるトラブルや訴訟問題等をもたらし、企業リスクを抱えることに繋がります。したがって、喫煙対策は今や回避できない企業におけるリスクマネジメントの一環であり、喫煙対策を積極的に推進することは、企業価値を高める重要項目の一つとなっています。

本ニュースでは、企業における喫煙対策の必要性と進め方について解説します。

喫煙による健康リスク

喫煙は、がんだけでなく、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等、さまざまな病気の原因にもなります。

たばこの煙の中には、たばこそのものに含まれる物質(主に自然由来の成分やたばこの製造過程で加えられる物質)と、たばこに含まれる物質(たばこを燃焼させたときに生成される有害物質)が不完全燃焼することによって生じる化合物があり、合わせて約5,300種類の化学物質が含まれています。この中には約70種類の発がん性物質も含まれていて、これらの有害な物質は、たばこを吸うとすぐに肺に届き、血液を通じて全身の臓器に運ばれ、DNAに傷をつけるなどしてがんの原因を作り出します。

がんの予防には、喫煙しないことが最も効果的です。しかし、現在喫煙しているとしても、これから禁煙することによって、がんになること、がんで亡くなることや、その他の病気になるリスクを下げることができるので、企業における喫煙対策は健康な従業員の確保の意味でも絶大な効果を生むことができます。さらに、職場で周りの人の健康への影響も少なくすることができます。

なお、喫煙年齢が若いほど、健康への影響が大きくなります。低年齢からの喫煙は、喫煙年数が長くなり、生涯の喫煙本数も多くなるため、がん等の病気にかかりやすくなります。

喫煙リスクは「ブリンクマン指数(喫煙指数)」で計算できます。数値が高いほど肺がん等のリスクが高まります。具体的には、指数が400以上で肺がんの危険性が高まり、700以上で慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がん、狭心症等のリスクがさらに上昇するとされています。

ブリンクマン指数(喫煙指数) = 喫煙年数 × 1日の平均喫煙本数

また、病気に留まらず、喫煙の影響は、肌の血行不良、ビタミンCの破壊、活性酸素の増加等により、顔の見た目が変化します。その結果、「スモーカーズ・フェイス」と呼ばれる、くすみやシワが目立つ、やつれた印象の顔つきになる可能性があるため、老若男女を問わず、ビジネスパーソンとして、押さえておきたいポイントです。

喫煙による健康への影響の段階には、レベル1~4まであり、さまざまながんの原因になります。ここでは、レベル1とレベル2について説明します。

喫煙している本人のリスク

喫煙していない周りの人のリスク
「受動喫煙防止法」により、受動喫煙による健康被害が一層注目されるようになりました。マナーからルールとなった受動喫煙ですが、つい忘れがちなのが職場や家族等周りの人への配慮です。「アルコールが入ると、つい忘れてしまう…」というような、気のゆるみにも気を付けたいものです。

 

企業において、食べる、話す等、実に多くの役割を果たすお口の不具合が、従業員の体調不良や、休業等を招くという観点から、企業がなぜ「お口の健康」に取り組まなければならないのか、ポイントを解説しています。

企業におよぼす影響

●経済損失との関連

喫煙がもたらす社会全体の経済的損失は、年間約2兆円にものぼると言われていますが、企業における経済損失には下記のようなものが考えられます。
■ 勤務中のスモークタイム(たばこによる休憩時間)は、年間170時間と試算されています。
■ スモークハラスメント“スモハラ”と呼ばれる受動喫煙トラブルによる損害賠償。 
過去の裁判事例によると、
・自動車教習所運営会社が100万円の和解金の支払い
・大手企業が350万円の和解金を支払い 等
企業が受動喫煙対策を怠ることで、法的・経営的リスクを抱える可能性があることが示されています。
■ 喫煙によるプレゼンティーズム
*プレゼンティーズムとは、従業員が職場に出勤しているにもかかわらず、健康上の問題等で、本来発揮できるはずの業務効率や生産性が低下している状態。

●運転中の喫煙リスク

東北大学の調査では、1日20本以上吸う人は、交通事故死亡リスクが非喫煙者と比べ1.54倍高くなるとしています。
出典:東北大学大学院歯学研究科「喫煙者は交通事故死亡のリスクが高い傾向」

(公社)全日本トラック協会(以下、全ト協)では、運転中だけでもたばこをお休みしてみませんか?」という、チラシを作成し、煙草を吸うための脇見や運転操作不適切等が、事故に繋がるとして注意を呼び掛けています。

トラック運送会社では、既に運転中の喫煙を禁止しているところもあり、喫煙は個人の嗜好とは言いながらも、企業が安全走行というコンプライアンスの側面から、強い強制力を発揮したと言えるのではないでしょうか。

ちなみに、全ト協が実施したアンケート調査ではトラックドライバーの喫煙率は48.6%と、全国の成人男性平均の27.1%の、1.8倍となっています。ただ、喫煙者の34.1%が「禁煙したい」と回答しており、経年で実施している同アンケートによると、業界における喫煙率の推移は微減ながらも減少傾向に向かっています。

出典:全ト協「トラック運送事業者のための健康起因事故防止マニュアル」P36

企業内の喫煙対策

●受動喫煙について

受動喫煙に際しては、労働安全衛生法第68条の2において、「事業者は労働者の受動喫煙を防止するため、事業場の実情に応じて適切な措置を講ずるよう努めるもの」と明記されています。もし“スモハラ”が社員間のトラブルにまでもおよぶと、直ちに生産性の低下につながることの認識も必要です。
さらに、職業安定法施行規則の改正により、企業には2020年4月から求人募集時に受動喫煙対策の明示が義務化されています。

●喫煙対策の一例

■ 個人の意識改革や行動変容を促す方法
・禁煙セミナーの開催
・禁煙ポスターの掲示やリーフレットの配布
・特定保健指導を活用した個別の禁煙教育 等

■ 制度の導入や、施設の設置
・禁煙サポートプログラムの導入と費用補助
複数の健康保険組合では、オンラインによる禁煙をサポートするプログラムを導入し、定期的なフォローアップを行うことで、禁煙成功率を上げています。オンライン禁煙プログラムの費用は6万円前後ですが、健康保険組合によって補助概要は大きく異なり、最初に全額補助される場合もあれば、一旦は自己負担をし、成功後に補助金として返金されるケース等もあります。
参考:大阪薬業健康保険組合「禁煙サポート オンライン禁煙プログラム」
・禁煙ルーム等の設置等
・禁煙外来への誘導

オンライン禁煙プログラムを活用し、何度か禁煙を試みたものの、どうしても禁煙できないという人には、禁煙外来があります。禁煙外来は、ニコチン依存症という病気を治療するための専門外来で、医師が患者さんの喫煙状況やニコチン依存度を評価し、適切な禁煙補助薬(ニコチンパッチや飲み薬等)を処方します。また、禁煙を継続するためのアドバイスや、離脱症状への対処法等も教えてくれます。ニコチン依存症の診断テスト等一定の条件を満たせば、健康保険が使えます。

●就業規則でのルール設定のポイント

企業が就業規則において明文化する際には、法律で定められた事項に加え、会社の方針や従業員の状況を考慮し、具体的なルールを定める必要があります。
■ 就業規則に定める際の注意点
・明確性:従業員が理解しやすいように、具体的なルールを明文化する。
・公平性:喫煙者と非喫煙者の間で不公平感が生じないように配慮する。
・実効性:従業員がルールを守りやすいように、違反時の対応も明確にする。

■ 従業員の喫煙に対する対応
・就業時間中の喫煙:喫煙場所への移動時間や喫煙時間も労働時間として扱われる可能性があるため、会社として、就業時間中の喫煙に対する考え方を明確にする必要があります。
・就業規則への規定:会社の方針に基づき、就業時間中の喫煙を全面的に禁止する、喫煙時間を制限する、賃金控除を行うなどの規定を設けることができます。
・従業員への周知:従業員に、就業規則の内容や、喫煙に関するルールを周知徹底することが重要です。
・従業員の健康管理:従業員の健康増進のため、禁煙外来の費用補助や、禁煙に関する情報提供を行うことも有効です。

■ その他
就業規則の内容については、予め労使間の合意を得ておくことや、弁護士や社会保険労務士等専門家に相談しておくとよいでしょう。

健康経営と禁煙導入事例

健康経営においても、喫煙対策(禁煙導入)はごく当たり前の項目として、実に多くの企業が取り組んでいます。大企業での取組として紹介されているものに、下記のようなものがあります。
・オンライン禁煙プログラムの導入
・禁煙導入者へのキャッシュバック
・禁煙外来受診費用の補助
・卒煙サポーターの育成等を通じて喫煙率の低下を目指す企業
・「禁煙宣言」を社内外に発信して禁煙を組織の方針とする企業
これらは大手企業の事例ですが、中堅・中小企業で導入できるものもありますので参考にしてください。

喫煙者と非喫煙者の意識の相違は、お互いに理解し難い側面がありますが、筆者の知り合いの中小企業では、「気持ちを分かり合うための意識交換会」のようなユニークな企画を実施することで、成果を出しています。
参考:厚生労働省「職場における喫煙対策のためのガイドライン」

 

企業がなぜ「健康経営」に取り組まなければならないのか、ポイントを解説しています。

まとめ

「タバコ」の話といえば、かつては個人の嗜好品や健康問題という概念でしたが、副流煙問題も含め、もはや喫煙は社会問題となり、今や企業のコンプライアンスや生産性にまで論点がおよんでいます。
喫煙対策は従業員の福利厚生にのみならず、「生産性や企業価値を高める」という認識が、今後さらに浸透していくと考えられます。

NPO法人ヘルスケアネットワーク(OCHIS) 副理事長 作本 貞子

国土交通省健康起因事故対策協議会委員        
健康起因事故防止ワーキンググループ委員
「安全と健康を推進する協議会」(両輪会)代表


【プロフィール】
2003年、居眠り運転と関連性の深い睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策事業を日本でいち早く立ち上げ、全日本トラック協会や日本バス協会のSAS検査の指定機関等として突出した実績を持つ。
2017年、運輸業界向けに定期健康診断結果をフォローアップする運輸ヘルスケアナビシステム🄬を構築し、全日本トラック協会の受託事業として全国展開している。
安全と健康をテーマとして、全国的にセミナー講演や執筆活動を行っている。

●著書
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)ガイドブック」 
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)早わかりガイド」  
「睡眠ガイドブック」 
「運輸業界のためのSAS対策Q&A50」 他

●執筆
全日本トラック協会「健康起因事故防止マニュアル(改訂版とも)」
「新型コロナウイルス感染予防対策マニュアル」
自動車事故対策機構(NASVA)「運行管理者一般講習用テキスト29年版」 
国土交通省発出「SAS対策マニュアル改訂版」2015年8月の執筆に関わる。

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