小規模事業場におけるストレスチェック義務化対応のポイント
公開日:2026年10月22日
健康経営・メンタルヘルス

改正労働安全衛生法の成立により、労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェック実施義務化が決定されました。
小規模事業場におけるストレスチェックでは、従業員のプライバシー保護や実効性の観点から原則として外部機関への委託が推奨されています。
本稿では、厚生労働省より公開された実施マニュアルを基に、小規模事業場におけるストレスチェック義務化対応のポイントを解説します。
小規模事業場におけるストレスチェック実施義務化の背景
2025年5月に改正労働安全衛生法が成立し、労働者数50人未満の事業場(以下、「小規模事業場」という)におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。また、2028年6月10日付官報(号外第128号)により、施行日は2028年4月1日であることが示されました。これは、従来努力義務とされていた小規模事業場においても、メンタルヘルス対策を実効的に進める必要があるとの国の判断に基づくものです。
ストレスチェック制度は、労働者に自身のストレスの状態に気づくきっかけを与え、必要に応じて医師による面接指導や職場環境改善につなげることを目的としており、2015年12月1日より50名以上の事業場においては既に実施が義務付けられています。
今回、小規模事業場へ実施義務が拡大された背景には、図1のとおり精神障害の労災支給決定件数が増加傾向にある中で、小規模事業場では、メンタルヘルス対策やストレスチェックの実施率が十分とはいえない状況があります。

図1 業務災害に係る精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
出典:厚生労働省「令和6年度過労死等の労災補償状況」
ストレスチェック義務化に関する概要およびストレスチェックの実施に向けた具体的な手順や円滑に制度を運用するためのポイントについて解説しています。
小規模事業場におけるストレスチェック実施の現状と重要性
2024年厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる割合は、労働者数30~49人の事業場では69.1%、10~29人の事業場では55.3%にとどまっており、さらにストレスチェックを実施している事業場は、労働者数30~49人、10~29人のいずれの規模でも6割弱程度と低調です。
しかし、小規模事業場にとってのメンタルヘルス対策やストレスチェックの実施は、単なる法令対応ではなく、事業継続性を高める施策としても重要です。小規模事業場を対象とした調査ではありませんが、2016年度厚生労働省「病休と復職支援に関する調査と分析」によれば、従業員にメンタルヘルス不調が生じた場合、1回目の平均的な休職期間は107日(約3.5か月)とされています。さらに、復職後に再休職するケースも約半数とされ、仮に少人数体制の事業場でこのような事態が起きた場合、大規模な事業場に比べ事業運営における人的影響は大きくなると考えられます。
一方で、2021年度厚生労働省「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」報告書によれば、ストレスチェック受検者の約7割が「自身のストレスが分かったこと」を有効と評価しています。また、医師による面接指導を受けた者の過半数が、その面接を有効と回答しています。これらを踏まえると、ストレスチェックはメンタルヘルス不調の早期発見や早期対応につながることが期待されます。ひいては、小規模事業場における従業員の長期休業リスクの低減を通じて、人材確保・定着や経営安定化に資する可能性があります。
そこで、本稿ではストレスチェック制度の概要を説明しながら、厚生労働省が公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(以下、「実施マニュアル」という。)を踏まえ、小規模事業場に求められる対応と実施のポイントを解説します。
小規模事業場におけるストレスチェック制度の概要
本章では、小規模事業場におけるストレスチェック制度の概要について解説します。特に断りがない場合、以下の記載は実施マニュアルに基づく小規模事業場向けの内容である点にご留意ください。
(1)ストレスチェックの対象者について
ストレスチェックの対象者は、一般定期健康診断と同じく「常時使用する労働者」であり、実施マニュアルでは、以下のいずれかの要件を満たす者とされています。
①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者および1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること。
※ なお、1週間の労働時間数が通常の労働者の4分の3未満である労働者であっても、上記の①の要件を満たし、労働時間数が通常の労働者のおおむね2分の1以上である者に対しても、ストレスチェックを実施することが望まれる。
なお、健康診断とは異なり、従業員に受検義務はないものの、実効性を確保するためには全員の受検が望ましいです。
(2)ストレスチェックの流れについて
小規模事業場におけるストレスチェックの基本的な流れは図2のとおりです。

図2 小規模事業場におけるストレスチェックの流れ(オレンジは事業者の義務、緑は努力義務)
出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」を基にMS&ADインターリスク総研株式会社にて作成
まず、事業者はストレスチェック制度導入の方針を社内で示し、制度の企画・運営を担う実務担当者を選任します。その後、実務担当者を中心に外部機関と相談しながら、実施計画や運用方法を決定していきます。具体的には、調査票の内容や配布・回収方法、受検期間を定め、従業員に案内して回答してもらいます。
なお、回答率が低い場合には、受検期間中に受検を促すことも必要となります。受検期間終了後、あらかじめ定めた基準により高ストレス者と判定された従業員の中から、実施者が面接指導の必要性を判断し、対象者へ通知します。通知を受けた対象者は、自身の判断で面接指導を申し出るかどうかを決定します。申出があり面接が実施された場合、事業者は面接指導医師から結果の通知とその後の就業上の措置に関する意見を受け、就業上の措置を決定するという流れです。
なお、図2のとおり、ストレスチェックの結果による集団分析とその結果を用いた職場環境の改善は努力義務であるものの、前述した人材の定着や経営安定化の観点からは積極的に取り組むことが推奨されます。
(3)ストレスチェックの実施に必要な役割について
ストレスチェックの実施にあたっては、表1に示す役割を担う者が必要となります。小規模事業場にとっては、これらの役割を担う人材をどのように確保するかが大きな課題となることが想定され、外部への委託が現実的な選択肢となるでしょう。特に、実施者は「医師、保健師、一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士または公認心理師」、面接指導医師は「産業医、あるいは、所定の講習を受講した面接指導実施医師」のように指定された有資格者に限られるため注意が必要です。

出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」を基にMS&ADインターリスク総研株式会社にて作成
なお、面接指導医師は厚生労働省所管の支援機関である地域産業保健センターへ依頼し、無料で産業保健サービスを受けることも可能です。ただし、1事業場あたり2回、労働者1人あたり2回までとの利用回数制限があります。また、ストレスチェック制度の施行後は多数の小規模事業場から依頼が殺到し、面接の実施までに時間を要することも想定されるため、外部機関へ有償で委託することも検討すべきです。
(4)使用する調査票について
労働安全衛生法に基づくストレスチェックでは、「仕事の要因」、「心身の反応」、「周囲のサポート」の3領域について確認する必要があります。実施マニュアルでは、これら3領域を網羅している「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)での実施が推奨されています。なお、同調査票の簡易版である23項目でも法令上は実施可能ですが、集団分析の精度が下がるため、職場環境改善には活用しにくくなる点に留意が必要です。
また、調査票の配布・回収方法については、現在はストレスチェックシステムでの実施が一般的となっています。この場合、従業員がPCやスマートフォンで回答し、集団分析結果の確認やデータ保存もシステム上で行えることが多いです。なお、外部委託機関によっては紙の調査票を配布・回収する方法もありますが、個人の回答内容や結果を事業者や実務担当者が確認できないよう、実施方法を工夫する必要があります。
実施マニュアルを踏まえた小規模事業場における対応のポイント
前章ではストレスチェックの基本的な流れや注意事項について解説しました。本章では小規模事業場において特に留意すべきポイントを解説します。
(1)従業員のプライバシー保護が最優先
第一に、小規模事業場では、従業員のプライバシー保護を最優先にストレスチェックを実施する必要があります。ストレスチェック結果は慎重な取扱いが必要な個人情報であり、原則として事業者が個人結果を直接入手しない運用が求められます。
また、面接指導の申出勧奨も、対象者であることが他の労働者に推測されない方法で行う必要があります。小規模事業場でこのような運用体制を社内人員のみで整備するには、プライバシー保護上のリスクと運用負担が大きいです。そのため、実施マニュアルでは、実施事務の大半を外部機関へ委託することが推奨されています。
具体的には、外部機関が提供するシステムを使用するなどして、個人結果は外部機関や面接指導の要否を判断する実施者のみが閲覧できるようにするなどの対応例が示されています。
(2)業務委託先の選定が重要
第二に、小規模事業場では外部機関への委託が実質的に不可欠となるため、委託先の選定が重要です。これを受けて、実施マニュアルでは外部機関に対して実施体制、実施方法、料金体系等を整理した「サービス内容事前説明書」の作成と事業者への提出を求めています。
そのため、候補となる外部機関から「サービス内容事前説明書」を入手し、下表の視点で自社の実施環境や予算等に合致するか確認すると良いです。

出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」を基にMS&ADインターリスク総研株式会社にて作成
とりわけ、表1で示した実施に必要な役割について、一般に小規模事業場では実施者や面接指導医師を担当できる産業医等の産業保健スタッフがいないため、外部機関においてこれらの有資格者による役割が提供可能かどうかを確認することが重要です。また、ストレスチェック実施にあたり、準備に伴う事務負担(例:システム利用の場合、従業員情報の登録等)が発生するため、併せて実施事務従事者の役割も提供可能か確認することを推奨します。
(3)高ストレス者が安心して面接指導を受けられる環境の整備が重要
第三に、高ストレス者が安心して面接指導を申し出られる環境を事業者が整備することが重要です。ストレスチェックの結果、高ストレスと判定され、面接指導の対象となった労働者については、できる限り面接指導を受けることが望ましいものの、面接指導を受けるかどうかはあくまで本人の判断となります。
もし、面接指導を申し出たことを理由に、本人に対する懲罰的措置や退職勧奨等の不利益な取扱いが行われれば、労働者は制度を信頼できなくなります。その結果、ストレスチェックの意味は失われ、健康障害や離職の防止に資することはなく、人材確保・定着や経営安定化という本来の目的も達成できなくなるでしょう。
そのため、事業者が面接指導の結果を踏まえて必要な措置を講じる際には、医師の意見を参考にしつつ、本人の意見を丁寧に聴き、管理監督者とも連携しながら、労働時間の短縮、業務負荷の軽減、配置転換等について慎重に進める必要があります。
併せて、面接指導の申出窓口だけでなく、外部の相談窓口についても周知し、労働者が複数の相談先を持てるようにしておくことが望ましいです。公的な相談窓口としては、厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトこころの耳」等が挙げられるため、労働者へ案内可能な機関を事前に確認することが推奨されます。
(4)集団分析およびその結果を踏まえた職場環境改善の取組が重要
第四に、ストレスチェックの実効性を高めるためには、集団分析を行い、その結果を踏まえて職場環境改善につなげることが重要です。ただし、集団分析は原則として10人以上の集団で行うものであるとされています。10人未満では個人が特定されるおそれがあり、実施は推奨されていないため、注意が必要です。
なお、職場環境改善については、集団分析の結果だけでなく、管理監督者が日常の職場管理で把握している情報や労働者の意見も踏まえて進めることが望ましいです。
改善取組の事例として、業務負荷のストレスが高いという結果を受けて業務効率化を進めた例や、職場環境によるストレスが高い(夏場の高温状態)という結果を受けてスポットクーラーを導入した例があります。
まとめ
本稿では、小規模事業場におけるストレスチェック義務化対応に向けて、ストレスチェック制度の基本と対応のポイントについて整理しました。
ストレスチェックは、従業員が自身のストレスに気付く機会を定期的に設け、早めに対処するきっかけをつくることで、メンタルヘルス不調の未然防止につながることを目的としています。ひいては、人材の確保・定着や経営の安定化にも資する制度です。
このように、小規模事業場にとっても意義のある制度である一方、実施にあたっての体制整備や外部機関の選定、プライバシー保護の取組等には一定の負担がかかることが予想されます。そのため、外部機関への委託を前提に、法令に則って確実に実施することが現実的な目標となるでしょう。
一方で、ストレスチェックの回答率向上、医師による面接指導以外の相談窓口の整備、集団分析に基づく職場環境改善の実施といった取組は、必ずしも義務ではないものの、ストレスチェックの実効性を高めることが期待されます。今回の義務化を機に、経過措置期間である今から情報収集や運用方法の検討を積極的に進め、ストレスチェックを健康で生産性の高い職場環境づくりにつなげていきたいものです。
参考文献:
・厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」
・内閣府「令和8年6月10日官報(号外第128号)」
・厚生労働省「令和6年度過労死等の労災補償状況」
・厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」
・厚生労働省「平成二十八年度労災疾病臨床研究事業費補助金 主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究-8.病休と復職支援に関する調査と分析-」
・みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社「令和3年度厚生労働省委託事業 ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業 報告書」
・独立行政法人労働者健康安全機構東京産業保健総合支援センターWebサイト(最終閲覧日:2026年6月17日)
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の人的資本・健康経営インフォメーション2026年7月(2026 No.1)を基に作成したものです。
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