サプライチェーンBCPの現状とまず取り組むべき現実的な対策について ~2025年度BCM実態調査より~
公開日:2026年6月26日
自然災害・事業継続

MS&ADインターリスク総研では、全上場企業を対象に「第10回BCM実態調査アンケート」を実施しました。アンケート結果から、サプライチェーンBCPへの取組があまり進んでいないことが分かりました。本稿では、サプライチェーンBCPの取組ステップを解説した上で、最低限押さえるべき取組ポイントを紹介します。
はじめに
サプライチェーンは近年ますますグローバル化し、企業活動は世界各地の調達・生産・物流ネットワーク等に依存するようになっています。また、この5年程度を見ても、地震や風水害といった自然災害のみならず、新型の感染症や戦争・紛争等の、いわゆる地政学リスクも顕在化し、いまやサプライチェーンの寸断は経営に直結する重大課題となっています。
従来、サプライチェーンは効率性を重視して構築することが主眼でしたが、現在は、企業には強靭性を有する(レジリエントな)サプライチェーンの構築が求められているといえるでしょう。
本稿では、2021年と2025年にMS&ADインターリスク総研が実施した「事業継続マネジメント(BCM)に関する日本企業の実態調査」の結果を踏まえ、サプライチェーンBCPにおける現状の課題を整理するとともに、最低限押さえるべき取組ポイントを紹介します。
BCP取組における「サプライチェーンリスク」への関心の高まり
図1は、「事業継続を行う上で関心のある危機事象は何か」という質問に対する、2021年と2025年の回答結果を比較したものです。「サプライチェーンのトラブル」への関心が、26.6%から34.6%へと伸びていることが分かります。さらに、サプライチェーンにも影響を与えうる「サイバーリスク」や「地政学リスク」を選択した割合も伸びています。
企業が事業継続を考えるにあたっては、サプライチェーンリスクを念頭に置く傾向が強まっていることが分かります。
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サプライチェーンBCPの現状と課題
先述のとおり、事業継続の観点からサプライチェーンリスクへの関心が高まっていることが明らかになりました。一方で、コンサルティング現場における印象では、実際にサプライチェーンBCPを構築し、運用できている企業は多くないと感じます。次に、サプライチェーンBCPの構築ステップを改めて整理するとともに、各ステップごとの企業の取組状況や課題について、アンケート結果を基に具体的に示します。

BCPの策定状況から、対応の対象や課題について解説しています。
(1)サプライチェーンBCPの構築ステップ

<STEP1:サプライチェーンの可視化>
自社の調達先を一次だけでなく二次・三次・四次以降まで遡って把握し、どのサプライヤーに依存しているかを明らかにします。この可視化は、後続の各ステップを行うにあたっての基盤となります。
<STEP2:優先事業に紐づくサプライヤーの洗い出し>
限られた人手・時間・予算等を踏まえると、全サプライヤーを一度に管理し、対策を実行するのは現実的ではありません。このため、事業継続に直結する優先事業や優先製品に紐づくサプライヤーを特定します。これを「重要サプライヤー」とします。
<STEP3:サプライチェーンのボトルネック分析(ボトルネックサプライヤーの洗い出し)>
上記の重要サプライヤーのうち、リスクが顕在化した際に影響を受けやすい、「脆弱性の高い」サプライヤーを絞り込みます。絞り込みにあたっては、サプライヤーの立地状況(場所)、他サプライヤーとの代替可否、サプライヤーの災害対策/BCP構築レベル等の観点から評価を行います。これら評価を踏まえ、脆弱性の高いサプライヤーを「ボトルネックサプライヤー」とします。
<STEP4:サプライチェーン強靭化施策の検討と実行>
STEP3で特定したボトルネックサプライヤーに対して、その脆弱性を緩和・解消するための具体策を検討します。具体策のうち、代表的なものを表1に示しました。表1では「事前対策」と「リスク発生後の対応」の観点から具体策を整理しましたが、「短期で実行できる施策」と「中長期で取り組む施策」等の観点から整理するなども一考でしょう。
次に、上記観点で検討した施策を、自社の経営戦略との整合や費用対効果等を踏まえ、優先順位をつけた上で実行に移します。実行にあたって留意すべきなのは、サプライチェーンへの対策を自社のみで進めるには限界があり、サプライヤーとの協働を上手く進めることが肝になる(表1における⑤⑦⑧等)という点です。
よって、十分に時間をかけてサプライヤーへ説明を行ったり、認識の相違を埋めるための目線合わせをしっかりと行うことが重要であるのは論をまちません。

(2)サプライチェーンBCP構築の現状と課題
続いて、前項で整理したサプライチェーンBCP構築の各ステップについて、アンケート結果を基に、企業が実際にどのように取り組んでいるのか、その現状と課題を具体的に見ていきます。
<STEP1:サプライチェーンの可視化>
まず、自社のサプライヤーについて、一次だけでなく二次・三次・四次以降まで「社名と所在地を把握できているか」という問いに対する回答を示します(図3)。

二次サプライヤーについて「自社重要事業に関わるものはすべて把握している」「すべて把握している」と回答した企業は全体の約41%ですが、三次サプライヤーでは約21%、四次以降のサプライヤーでは約14%と急激に減少します。一方で、図5に示したとおり、「サプライチェーンの見える化」に取り組む企業は約52%と比較的多いです。これらのことから、「サプライチェーンの見える化に取り組む企業は比較的多いものの、サプライチェーン全体の可視化にはほど遠い」という課題が垣間見えます。
<STEP2:優先事業に紐づくサプライヤーの洗い出し>
事前対策を実施するサプライヤーを絞り込んでいる企業は、76.4%に上ります(図4)。なお、絞り込みの観点としては、「優先事業に紐づくサプライヤー」としている企業が最も多いことも本調査で明らかとなっています。

<STEP3:サプライチェーンのボトルネック分析(ボトルネックサプライヤーの洗い出し)>
今回のアンケートでは、ボトルネックとなる可能性のある「脆弱性の高い」サプライヤーの洗い出しを行っているかどうかを問う直接的な設問はありませんでした。
一方で、サプライヤーの脆弱性を把握するための手法として、「サプライヤーの立地場所」によりリスク評価を行ったり、「サプライヤーの災害対策/BCP構築レベル」等の観点から評価を行うなどが有効なのは先述のとおりです。今回のアンケートでは、前者に該当する「ハザードマップ等でサプライヤーの立地リスク評価」を行っている企業は18.1%であり、あまり進んでいないことが分かります(図5、前回2021年調査では20.8%)。
また、後者に該当する「サプライヤーに対する防災対策・BCP整備の有効性の確認(アンケート・ヒアリングの実施)」はさらに低く、前回と同じ16.1%に留まりました(図5)。このことから、ボトルネックサプライヤーの洗い出しまで手が回っている企業は比較的少ないことが窺えます。
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<STEP4::サプライチェーン強靭化施策の検討と実行>
ボトルネックサプライヤーの洗い出し結果を踏まえ、各種の強靭化施策を打っていく必要がありますが、表1に示したサプライチェーン強靭化施策のうち、「部品等の在庫の保有」を行っている企業の割合は低下しています(図5、前回調査29.7%→今回調査21.9%)。在庫を持つことによるコスト増加やキャッシュフロー圧迫等による財務的な負担が課題となり、対策が進んでいない可能性があります。
また、表1に示した「サプライヤーへの防災対策・BCP推進」については、図5における「サプライヤーに対する防災対策・BCP整備の有効性の確認(アンケート、ヒアリング等の実施)」「サプライヤーに対する防災対策・BCP整備の要請」「サプライヤーへの防災対策・BCP関連情報の提供」「防災対策・BCP推進を取引条件とする」が該当するものの、いずれも20%に満たないとともに、前回調査から横ばいまたは減少しており、対策が進んでいないことが窺えます。

さらに、表1に示した「代替・切替」については、図5における「サプライヤーの多重化(二社購買)の推進」が該当し、50.5%から45.2%に低下しています。多重化の推進は、特定のサプライヤーへの依存度を下げるため、サプライチェーン強靭化の観点からは実効性の高い取組ですが、実現には新規サプライヤーの開拓といった地道な取組や、バイイングパワーの減少による調達コスト増加等も生じます。そのあたりに、なかなか進まない要因があると考えられます。
加えて、表1に示した「迅速な情報把握」については、図5における「大災害発生時にサプライヤーから被災情報を素早く収集できる仕組みの構築」が該当しますが、この取組もあまり進んでいないのが実態といえるでしょう(前回28.6%→今回27.1%)。
なお、表1に示す施策のうち、「被害軽減」「シンプル化」「サプライヤーの復旧支援」等については、今回調査では実態を把握することができなかった点を申し添えます。
サプライチェーンBCP構築にあたり最低限押さえるべき取組ポイント
これまで見てきたように、サプライチェーンBCP構築の全体ステップは、「サプライチェーンの可視化→優先事業に紐づくサプライヤーの洗出し→サプライチェーンのボトルネック分析(ボトルネックサプライヤーの洗い出し)→サプライチェーン強靭化施策の検討と実行」となります。
しかし、各ステップを実行するにあたっては、マンパワー面、資金面、ノウハウ面等のさまざまな事情により、実際にはなかなか難しい取組であることも、アンケート結果から垣間見えます。よって、さほど手間ひまをかけずに一定の効果が得られる「まず押さえておくべき取組ポイント」を以下に紹介します。サプライチェーンBCP構築に二の足を踏んでおられる企業には、ぜひご参考にしてください。
(1)一次サプライヤーの把握・可視化
最低限、まずは一次サプライヤーの情報(サプライヤーの生産拠点住所・調達品目・自社製品との紐づけ)を把握することに取り組んでください。取り組んでいる企業であっても、サプライヤーの生産拠点でなく本社情報のみの把握に留まったり、調達品目は把握していても自社製品への紐づけまで出来ていない企業も多いです。比較的工数をかけずとも把握可能な場合も多く、もうひと踏ん張りして上記情報の把握に取り組んでください。
(2)一次サプライヤーの立地リスクの把握および防災・BCPレベルの確認
可視化した一次サプライヤーについて、まずは「立地リスクの把握」に取り組んでください。国内のサプライヤーであれば、生産拠点が所在する住所地のハザード情報を、自治体のハザードマップや国土交通省の「重ねるハザードマップ」等から収集し、地震や洪水等の自然災害リスクの高低を比較的簡単に調べることが可能です。
次に、「防災・BCPレベル」の確認にあたっては、簡易的なアンケート等を作成し、一次サプライヤーに一括送付して、レベルの高低を把握することも一考です。アンケート項目は、内閣府の事業継続ガイドラインに掲載されている「チェックリスト」や、レジリエンスジャパン推進協議会が作成した「レジリエンス認証審査項目」を参考に、より簡略化した上で、自社BCPとサプライヤーの防災対策・BCPとの整合を見るような質問を付せば、ファーストステップとしては十分でしょう。
なお、全一次サプライヤーに対して上記を実施した結果、「立地リスク」が高く、かつ「防災・BCPレベル」が低い先が、自社にとっての「ボトルネックサプライヤー」となります。
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(3)ボトルネックサプライヤーへの対策
上記(2)で絞り込んだボトルネックサプライヤーへの対策として比較的取り組みやすいのは、「ソフト面」の対策でしょう。具体的には、先述の「防災・BCPレベルの確認」結果を踏まえ、サプライヤー側の従業員へ防災・BCP教育を行ったり、BCPの策定を支援したり、さらには訓練支援等を行うなどの取組が挙げられます。これらソフト面の対策は、自社側でひとたび「コンテンツ」を作成しさえすれば、他のサプライヤーにも援用可能なものであり、さほど費用をかけず多数のサプライヤーに対して効果が見込める取組であると言えるでしょう。
おわりに
自然災害の頻発化・激甚化にとどまらず、直近ではイスラエルと米国によるイラン攻撃に見られるように、サプライチェーンに大きな影響を与えかねない事象が生じています。本稿では、このような状況を踏まえ、企業におけるサプライチェーン強靭化の取組ステップを解説するとともに、弊社が実施した「BCM実態調査」に触れつつ、取組の実態と課題を示しました。
(注)本アンケートは、日本国内全上場企業を対象に、オンライン調査を実施したものです。2025年は3,890社が対象、有効回答数は211社でした。なお、本調査結果は以下URLから入手できます。
https://www.irric.co.jp/reason/research/bcm/index.html
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のBCMニュース2026年4月(2026 No.1)を基に作成したものです。
MS&ADインターリスク総研株式会社
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