能登半島地震の教訓が示す、要配慮者避難の実態と今後求められる取組

公開日:2026年4月22日

自然災害・事業継続

令和6年能登半島地震対策検証報告書を基に、今後の要配慮者支援策について考察しました。

令和6年能登半島地震時の要配慮者支援では、情報の把握・連携、福祉避難所とのマッチング、福祉避難所の立ち上げ等に課題があったと報告されています。避難行動要支援者名簿の平時からの運用や情報連携体制の構築、個別避難計画を活用した平時からの支援体制の構築等がより一層求められます。

福祉避難所施設では、資機材の確保や訓練等により、福祉避難所開設・運営の実効性向上が期待されます。

災害時における高齢者・障害者等の避難や避難生活における課題

近年、日本列島を襲う自然災害が激甚化、頻発化する中で、特に災害時要配慮者(以下、要配慮者)の安全確保の重要性が強く認識されています。要配慮者とは、自力での避難や一般の避難所での生活が困難な高齢者や障害者を指します。要配慮者の避難時の安全を確保するためには、早期の避難行動を促しつつ、避難時に必要な支援を行う必要があります。

また、避難生活での健康悪化等による災害関連死(注2)を防ぐために、平時から要配慮者の避難生活における支援ニーズを把握し、被災下でも専門的なケアを提供できる体制・設備を構築しておくことが重要とされています。

国・自治体ではこのような災害時の要配慮者支援に関する各種対策を進めていますが、2024年1月1日に発生した能登半島地震では、高齢化が進む地域、厳冬期、インフラ途絶等の状況下で新たな課題が浮かび上がりました。

そこで、能登半島地震発災から2年が経過し、復興の歩みを進める今、本稿では令和6年能登半島地震対策検証報告書等の資料から災害時の要配慮者支援に関する課題を取り上げ、各課題に対する今後必要とされる取組を提言します。

要配慮者支援体制整備の歩み

今日の要配慮者支援策は、過去の大規模災害で明らかとなった課題や体制の脆弱性等を克服するため、段階的に整備されてきたものです。

2011年の東日本大震災で「誰が避難支援を必要としているか」という情報が事前に把握できていなかった反省から、要配慮者の安否確認や避難支援の必要性を判断するための情報基盤となる避難行動要支援者名簿(図1参照)の作成が、2013年に市町村に対して義務化されました。

その後、2019年台風19号等の災害において、避難行動要支援者名簿の情報が具体的な避難支援に結びつかず、多くの要配慮者が被害に遭った経験から、避難の実効性を確保するため、2021年に避難行動要支援者一人ひとりの避難先や避難支援者を明確にする個別避難計画(表1参照)の作成が市町村の努力義務となりました。

【図1】避難行動要支援者名簿と、その活用の流れ

(出典:内閣府「災害時に備えて今できること」を基に作成)

また、東日本大震災では3,808名の災害関連死のうち約88%が65歳以上、2016年の熊本地震では218名の災害関連死のうち約78%が70歳以上でした。一般の避難所では寒さや過密による健康悪化、衛生環境の悪化、医療・介護サービスの中断等が予想され、特に要配慮者は災害関連死につながる可能性が高いと考えられます。このため、要配慮者が避難生活中も専門的な医療・福祉的ケアを受けられるよう、一般の避難所とは別に、要配慮者が生活できる体制を整備した福祉避難所の確保を自治体が進めています。

このように、避難行動要支援者名簿の義務化、個別避難計画の作成推進、福祉避難所の確保といった要配慮者支援策は、過去の災害の教訓を踏まえ、要配慮者の避難と避難生活の安全確保を目的として段階的に制度化・整備されてきました。

避難確保計画の作成、避難訓練の実施について解説しています。

令和6年能登半島地震での対応実態と課題

令和6年能登半島地震は、最大震度7、死者605名(うち377名が災害関連死)(注3)、11万棟超の住家被害をもたらした大災害です。国・自治体では、厳冬期での発災や半島特有の地理的制約等の条件、孤立地域の発生等により、緊急啓開や被災地外への広域避難等の対応を余儀なくされました。

能登6市町の要配慮者は、1次避難所に避難したものの、そこでの生活が困難であったため、2次避難先として福祉避難所に避難しようとしました。しかし、福祉避難所となる施設やそこに勤める職員が被災し、開設できない福祉避難所が発生したこと等により、2次避難ができない要配慮者が多数発生しました。

このため、被災地外のホテル・旅館等へ広域的に2次避難する方針がとられました。併せて、2次避難先決定までの当面の避難所として1.5次避難所をいしかわスポーツセンター等に設置し、避難者と避難先のマッチングが行われました(図2参照)。

【図2】1.5次避難・2次避難について

(出典:石川県「1.5次避難所について」を基に作成)

令和6年能登半島地震の対応では、このような1.5次避難所・2次避難所の展開による段階的な避難が特徴的と言えますが、2025年8月に公表された「令和6年能登半島地震対策検証報告書」(以下、「報告書」)では、その過程で直面した課題は少なくないと報告されています。ここでは、報告書で示された課題のうち、要配慮者に関係する課題を3点挙げます。

(1)要配慮者の福祉的支援・医療的ケアのニーズに関する情報の把握・連携に係る課題

まず、1次避難所・1.5次避難所における要配慮者の情報把握・共有が課題として挙げられます。報告書では、1次避難所から1.5次避難所、1.5次避難所から2次避難所等の段階的な避難にあたって、避難所や自治体間での情報共有・連携の仕組みが不足しており、特に広域的な2次避難で情報が途切れやすかったとされています。

また、1次避難所や1.5次避難所において避難者の情報収集・共有が難航したとも報告されており、主な要因として通信途絶、市町職員の被災によるマンパワー不足、各市町・支援機関の間での情報収集・共有方法の不統一が挙げられています。

(2)要配慮者と2次避難所のマッチングに係る課題

次に、要配慮者と2次避難先(福祉避難所、ホテル・旅館等)のマッチングも対処すべき課題として挙げられます。1.5次避難所は避難者の2次避難先決定までの調整期間を過ごすために開設されました。

しかし、報告書によると、1.5次避難所では避難者に関する情報の不足や避難者の流入過多による人員不足等により、要配慮者と2次避難先とのマッチングに時間を要し、避難者の滞在が長期化しました。避難者の長期滞在化は、要配慮者に対応するための設備(入浴設備、調理設備、トイレへのアクセス等)不足と、更なるマンパワー不足を引き起こしました。

その結果、2次避難先の調整に一層時間を要する悪循環に陥ったとされています。

(3)福祉避難所開設・避難者受入れに係る課題

そして、福祉避難所における開設・避難者受入れの準備不足も解決すべき課題です。石川県では事前に391ヵ所の施設が福祉避難所として指定・確保されていましたが、実際に開設されたのは最大27ヵ所と10%にも満たない数でした。

これは、福祉避難所施設とその職員の被災により福祉避難所運営の人員を確保できない、あるいは非常用発電設備が未整備であったために長期間の停電に対応できないなど、福祉避難所としての機能維持が困難となった施設が多数発生したことが原因です。

また、福祉避難所を開設した施設でも設備・備品不足に陥ったことが明らかになっており、介護用ベッド、おむつ、車いす、介護食等が不足したことが報告されています。

企業の地震対策の重要性と、被害を抑えるために取り組むべき施策、オフィスに備えておくべき備蓄品リストについて解説しています。

能登半島地震の対応検証が示唆する今後必要とされる取組

前章(1)~(3)で挙げた課題に対して今後必要とされる取組を、以下のとおり整理します。

(1)避難行動要支援者名簿、個別避難計画の活用による情報把握・連携の円滑化

避難所の環境による体調悪化や災害関連死を防ぐためには、各要配慮者の情報を早期に把握し、必要とする福祉的支援や医療的ケア等を提供する必要があります。そのため、自治体間・支援機関間での情報連携や避難所内での情報収集を円滑に行うための仕組みづくりが、国・自治体に求められます。

自治体間・支援機関間での情報連携については、報告書内で対応指針が示されており、多段階避難を想定し、支援機関間での情報引継ぎに使用する情報集約・連携フォーマットを作成した上で、誰がどのタイミングでフォーマットに情報を落とし込み、次の避難所に引き継ぐのかなど、運用ルールを決めておくことが重要とされています。また、情報連携のフォーマットは、通信途絶の可能性と共有時の利便性を考慮し、紙・デジタルの二重運用が望ましいと述べられています。

避難所内での情報収集については、本人・家族の連絡先や、必要とする福祉的支援や医療的ケア等、避難行動要支援者名簿・個別避難計画で扱われる情報を活用することが有用と考えられ、自治体におけるその具体的な活用方法として、以下を推奨します。

避難行動要支援者名簿には、氏名や緊急連絡先、必要な福祉・医療ケア等、避難所運営の初動で求められる情報が整理されています。これらを避難所の避難者名簿の作成・補完に活用するためには、名簿を平時から更新して精度を維持し、災害時には避難者名簿と突合・統合できるよう準備しておく必要があります。併せて、避難者名簿のフォーマットをあらかじめ準備し、ファイル形式や項目を揃えておくことが重要です。また、個別避難計画の活用方法として、避難時に計画を要配慮者本人が携行し、氏名や家族の連絡先、必要とする介護・福祉的支援ニーズ等を1次避難所が円滑に把握可能とすることも有効な手段です。

このように、避難行動要支援者名簿・個別避難計画は平時の整備が重要であり、これにより災害時に避難所内で実施する要配慮者への聞き取りの負担を軽減し、避難所間・支援機関間の情報連携を円滑化することが期待できます。

(2)平時における要配慮者と福祉避難所のマッチング

要配慮者と福祉避難所のマッチングが滞る要因は、「誰にどの支援が必要か」と「どの施設がどこまで対応できるか」の情報が整理されていない点にあると考えられます。したがって、自治体が避難行動要支援者名簿や個別避難計画により福祉的支援・医療的ケアのニーズを平時から把握した上で、福祉避難所側の受入れ条件や提供可能な機能を明確化し、両者を事前に紐づけておくことが有用です。加えて、移送時の引継ぎ項目と調整手順を定型化することで、災害時の個別調整を減らし、受入れの迅速化を図ることが可能です。

(3)福祉避難所における、平時からの避難者受入れ態勢の整備

より多くの福祉避難所を開設し、避難者を受け入れるためには、ライフラインや要員が十分に確保できない状況でも、事前に指定・確保した福祉避難所を迅速に開設し、要配慮者の受入れと必要なケア提供を実施できるようにしておくことが重要です。

そのため、福祉避難所として指定・確保された福祉施設等には、開設・運営に関する対応策を事前に整備し、必要な設備・備品を平時から確保しておくことが求められます。具体的には、通常とは異なる少人数シフトでも業務継続と避難者受入れが可能となるよう、参集可能な職員数を平時から見積もり、参集体制について職員間で合意形成を図ることが重要です。

また、縮小されたシフト規模に応じた業務分担と対応方針をあらかじめ整理しておくことが求められます。さらに、ライフライン途絶を想定し、非常用発電設備等の導入や、電気・ガス・水道に依存しない代替手段を準備することが不可欠です。加えて、受け入れた避難者に必要な支援を継続するため、想定人数に基づいて必要備品の数量を算定し、平時から十分な備蓄を確保することが重要です。

最後に、要配慮者への福祉的支援・医療的ケアの提供や避難生活支援に必要となる設備・備品の種類や数については、訓練等を通じて妥当性を検証しておくことが有効です。

一方で、これらの取組を施設単体で推進することには限界があるため、自治体による支援が必要と思われます。具体的には、物品購入に係る資金面の支援、福祉避難所の開設・運営マニュアル作成に資する参考資料やひな型の提供、開設・運営訓練の実施に向けたノウハウ提供や研修会の開催等により、自治体が施設側の取組を後押しすることが望ましいです。

災害時の負傷者搬送と応急手当、救護訓練の実施について解説しています。

 

まとめ

本稿では、主に報告書の内容を踏まえ、能登半島地震における要配慮者の避難や避難所支援に関する課題を整理した上で、今後求められる取組の方向性を示しました。

これら要配慮者支援策の運用・活用の取組事例としては、自治会を交えた会議体で避難行動要支援者名簿の活用方法について意見交換を行う自治体があるほか、福祉避難所開設訓練に要配慮者の参加も得て、行政・地域・福祉施設・要配慮者の連携体制を強化する取組を進める自治体も見られます。また、福祉避難所に必要な備蓄品目とその量の目安を示して購入を促す取組や、備品・人員の確保について関連業者や各種団体の支援を得られるよう協定締結を支援する事例も確認されています。

今後は、こうした取組が全国で展開され、行政・地域・家族等の支援者と要配慮者本人が当事者意識を共有し、平時から情報連携・支援体制の構築と受入れ体制の整備に継続的に取り組むことが求められます。

【参考資料】
1) 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(令和3年5月)
2) 内閣府「防災における高齢社会対策について」(令和6年4月)
3) 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(令和3年5月)
4) 石川県「1.5次避難所について」
5) 復興庁「東日本大震災における災害関連死の死者数(令和6年12月31日現在調査結果)」(令和7年2月)
6) 熊本県「災害関連死の概況について」(令和3年3月)
7) 令和6年能登半島地震対策検証委員会「令和6年能登半島地震対策検証報告書 ~発災後概ね3か月における石川県の初動対応の検証~」(令和7年8月)
8) 熊本県教育庁「熊本地震の対応に関する検証報告書」(平成30年3月)
9) 内閣府「福祉避難所の確保・運営 ガイドライン」(令和3年5月)
10) 内閣府「高齢者・障害者等の要配慮者に関する防災と福祉の連携について」(令和4年)

(注1)災害時要配慮者のうち特に避難行動において支援を必要とする者は「避難行動要支援者」と位置づけられており、制度上は要配慮者と区別されるが、本稿では表現の簡略化のため、避難行動および避難生活において配慮・支援を要する高齢者と障害者を「要配慮者」として記載している。
(注2)災害による負傷の悪化や避難生活等における身体的負担による疾病を原因とする死亡。
(注3)2025年6月30日時点

MS&ADインターリスク総研株式会社発行の医療福祉RMニュース2026年2月(2025年 No.3)を基に作成したものです。

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