技能実習・特定技能両制度、本格的見直しへ有識者会議が初会合、人権侵害防止が目的
公開日:2023年7月31日
人事労務・働き方改革
人材育成
法務省の外国人の技能実習制度・特定技能制度の見直しを検討する有識者会議が2022年12月14日、初会合を開きました。技能実習生への給与の不払いや劣悪な就労環境など頻発する人権侵害の防止が目的です。両制度の施行状況を検証、外国人材を適正に受け入れる方策を検討し、2023年秋に最終報告をまとめて関係閣僚会議へ提出します。
両制度の在り方に関する論点
初会合では両制度の在り方に関する論点が示されました。制度の存続や再編も含め、外国人労働者の受入れの方向性を検討します。外国人との共生をめざす上で、人権侵害の防止が重要な論点となっています。
2つの制度は異なる目的のために創設されました。
現状は「労働力不足の穴埋め」として使用
技能実習制度は労働力確保のためでなく、人材育成を通じた開発途上地域への「技能・技術・知識の移転による国際協力を推進すること」を目的として1993年に創設されました。一方、特定技能制度は2019年創設で、深刻な人手不足対策として、国内人材を確保することが困難な産業分野で「一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れること」が目的です。
しかし当初の目的と実態が乖離しています。技能実習制度では、多くの受入れ企業が「労働力不足の穴埋め」として使用しているのが現状です。在留外国人労働者約173万人(2021年10月末時点)の約2割を占め、実際の労働力として期待されている面が明らかとなっています。特定技能制度では、技能実習2号修了者は一定試験が免除されて容易に特定技能制度へ移ることができるため、特定技能制度在留外国人の約8割が技能実習生からの移行者が占めています。実質的に技能実習制度の延長制度として機能しているのです。
「人権侵害」「強制労働」の批判
日本経済にとって欠かせない労働力であるにもかかわらず、両制度に関連した低賃金、賃金未払、長時間労働、安全基準違反など「人権侵害」「強制労働」の批判が国内外から挙げられています。
多くの技能実習生は母国の送り出し機関で求職し、日本の監理団体を通じて実習先の企業と雇用契約を結んでいるケースが大半です。送り出し機関による高額な保証金の徴収、悪質なブローカーによる中間搾取なども影響し、半数以上は借金をして来日しています。そのため実習先で不当な扱いを受けても多くの場合、仕事を失う恐れから泣き寝入りするしかない状態となり、人権侵害の温床とも言われているのです。失踪する人は後を絶たず、2021年における技能実習生の失踪者数は7,000人を上回りました。特定技能制度においても、実質的には技能実習制度の延長制度であり、技能実習制度に係る人権侵害問題は解消されません。
米国務省は2022年7月、人身取引報告書で技能実習制度における労働搾取の人身取引被害が引続き起きていると批判しました。一方、国連・自由権規約委員会は2022年11月、技能実習制度を強制労働や性的搾取の温床になっていると指摘しています。
両制度の見直しが進み、人権侵害が生じやすい構造が改善されたとしても、実際に受け入れる企業側の姿勢・対応が変わらなければ、人権侵害は無くなりません。
日本政府が2022年9月に策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では、外国人労働者を人権侵害の防止に「特別な注意を払うべきである」と強調しており、受け入れ企業や地域社会も今回の制度見直し論議を契機に、人権意識を高める必要があります。人権侵害の救済対象をサプライチェーンまで広げている企業は依然少数ですが、企業が自社の影響範囲内での人権侵害の有無を洗い出し、必要な対策を講じる人権デューデリジェンスの対応を充実させることがますます重要となります。
【参考情報】
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2023年1月(No.10)を基に作成したものです。