法改正で営業秘密侵害の訴訟リスク増す懸念 特に転職者の情報持ち込みへの対策に注意

公開日:2024年11月8日

法改正

2024年4月施行の改正不正競争防止法で、営業秘密の侵害をめぐる訴訟の際に、「使用等の推定規定」(注1)を適用可能な対象が拡大しました。

「使用等の推定規定」(注1)を適用可能な対象が拡大

改正で、特に転職者が前職の情報を持ち込む場合の訴訟リスクが高まるおそれがあります。企業は経済産業省のハンドブックを参考にするなどして対策強化が必須です。

改正前は、適用対象が産業スパイによる持ち出しなど比較的悪質性が高い行為者に限定されていました。しかし今回の改正で、元従業員や業務委託先等による持ち出した場合も適用対象になりました。

企業間の転職が当たり前になるにつれて、転職者が前職の営業秘密に該当し得る情報を転職先に持ち込み、訴訟に発展するリスクが高まるでしょう。企業は訴えを起こされた場合に備え、転職者による秘密情報の持ち込みに際して重過失がなかったことを立証できるよう必要な対策を講じておくことが必要です。

この点、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(注3)の中で、転職者の受け入れに際して、▽前職での秘密保持義務や競業避止義務の有無や内容等の確認(就業規則や退職時の契約書等)▽転職元での秘密情報を持ち込むことを禁止する誓約書等の取得▽転職者の業務内容の定期的な確認 ▽私物のUSBメモリ等の記録媒体の持ち込みの禁止――といった対策例を示していますので、参考にしてください。

なお、今回の改正には、▽コンセント制度(注4)導入に伴う、不競法の適用除外規定の新設 ▽デジタル空間における模倣行為の防止 ▽限定提供データの定義の明確化 ▽損害賠償額算定規程の拡充 ▽使用等の推定規定の拡充 ▽外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充 ▽国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化――等も含まれています。

(注1)裁判で原告企業が、①営業秘密が不正に持ち出されたこと②持ち出された先で当該営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産していること――の2点を立証できれば、被告企業がその営業秘密を使用しているとの推定が認められる。一方、営業秘密を持ち込まれた被告企業は、当該営業秘密の不使用や営業秘密の持ち込みに対して「重大な過失が無かったこと」を立証する必要がある。
(注2)https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/r5kaisei06.pdf
(注3)https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf
(注4)先行する登録商標の権利者による同意(コンセント)があれば、類似する商標であっても併存登録を認める制度

MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2024年9月(第6号)を基に作成したものです。

関連記事

「相続登記の義務化」の概要と注意点

2024年8月30日

法改正

育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の改正

2024年7月31日

法改正

介護職員の処遇改善加算制度の改正について

2024年7月12日

その他

法改正

EUにおいて進む製品安全・PLに関する法改正と日米の現在地

2024年5月24日

法改正

電子帳簿保存法の改正点を知るはじめの一歩!チェックポイントと必要な対策

2023年12月18日

法改正

おすすめ記事

物流業界での2024年問題とは?働き方改革と取組を解説

2024年10月28日

2024年問題

デジタルタトゥーとは?企業に与える影響と対応策を解説

2024年10月21日

サイバーリスク

ヒヤリハットとは?意味から原因、事例まで徹底解説

2024年10月7日

事故防止

Z世代とは?基本的な特徴と働き方、消費行動を解説

2024年9月30日

人手不足

建設業の2024年問題とは?課題となるポイントと対策を解説

2024年9月9日

人事労務・働き方改革

週間ランキング

お客さまは神様ではない!?カスハラの実態 企業はどう対応すべき?

2024年6月21日

人事労務・働き方改革

過剰に主張するハラハラとは!?具体例と対策について

2024年9月6日

人事労務・働き方改革

帝国データバンク公表「社長の平均年齢、60.5歳 33年連続の上昇、高齢化止まらず」

2024年4月26日

事業承継・M&A

物流2法の改正

2024年9月25日

2024年問題

弁護士が解説!企業が問われる法律上の賠償責任とは ~店舗・商業施設における訴訟事例~

2024年5月15日

その他