火山災害に備える企業のリスク管理と事前対策
公開日:2026年8月21日
自然災害・事業継続

2025年3月に内閣府より「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」が発表され、2026年3月にはこれを踏まえた火山防災に関する普及啓発映像が公開されました。
日本には111の活火山が存在し、首都圏も含め全国の事業所が火山災害の直接・間接的影響を受ける可能性があります。特に富士山の宝永噴火級の大規模噴火が発生した場合、首都圏全域で広域・長期の降灰が予想されます。
一方、首都圏の企業の多くはこのような大規模降灰への対応実績が少ないため、対応が後手に回ればサプライチェーン全体が深刻な打撃を受けかねません。そのため本レポートでは火山災害特有のリスクや企業が取り組むべき平時からの備えについて紹介します。
火山噴火の概要と影響
本章では、火山噴火の概要と企業活動・事業継続に与える影響について解説します。
日本全国に活火山が分布しているという事実は「どこに立地する事業所であっても、火山噴火により直接・間接的に影響を受ける可能性がある」ことを意味します。特に、物流・サプライチェーンが全国に展開されている現在、自社が火山の近くにない場合でも、取引先・物流拠点・重要インフラが影響を受けることで操業が停止するリスクが潜在しています。
企業としては、単に「活火山が多い国である」という事実を知るだけでなく、まず自社およびグループ会社・主要取引先がどの火山のどのような影響を受けうるかを把握することが重要です。
(1)日本の活火山の概要
気象庁は現在111の火山を活火山と認定しています(参考文献1)。そのうち、火山防災の観点から監視・観測体制の充実が必要な火山として51火山が指定されており、これらの火山については気象庁および関係機関が24時間体制で観測・監視を行っています(図1)(参考文献2,3)。

活火山は日本全国に点在しており、2026年4月時点で北海道から鹿児島県まで13の火山に対し、噴火警報(周辺海域)および噴火警報(火口周辺)が発令されています(参考文献4)。中でも桜島(鹿児島県)や薩摩硫黄島(鹿児島県)では活発な噴火活動が続いているほか、浅間山(長野県)や草津白根山(群馬県)、雌阿寒岳(北海道)では噴煙や火山性地震が観測されています。
特に近年、社会に大きな影響を与えた噴火事例として2014年の御嶽山噴火が挙げられます。御嶽山では水蒸気噴火に伴う噴石等により、行方不明者を含めて63名が犠牲となりました。この噴火は、大規模噴火の前兆である地殻変動が観測されてから、わずか10分ほどで噴火が発生しており、火山予測の難しさを露わにした事例といえます(参考文献5)。
また、2021年には東京都の福徳岡ノ場海底火山で爆発的な噴火が発生し、噴出された大量の軽石が房総半島まで漂着しました。この影響で離島航路の運航に支障が発生し、タンカーが着岸できないことによる電力供給の不安定化が懸念されたほか、海上保安庁の巡視艇が航行不能になるなどの問題も発生しました。これは、火山災害が港湾・海運・エネルギー供給といったインフラや産業活動にまで影響をおよぼしうることを示す事例です(参考文献6)。
【関連記事】
首都直下地震の被害想定見直しを踏まえ、企業の取るべき対策の例や、対策を検討する上での留意点について解説しています。
(2)火山災害の特性
大規模災害の中でも特に身近な地震は、突発的に発生することが多く、その被害も短時間のうちに広範囲におよぶことが多いです。地震による建物やインフラ等の被害は、ほとんどの場合、発生直後に集中して現れ、余震が収まった後は集中的な復旧作業が可能となります。
一方、火山災害は継続的な噴火により、終息までに数年を要することもあり、影響範囲も広域におよぶ場合があります。特に火山噴火による広範囲の降灰は、直ちに停電や断水を引き起こすものではありませんが、水道や電気、交通機関へ段階的に被害を広げていくと考えられます(参考文献7)。
そして除灰によってある程度状況に改善が見込まれる点においても、火山災害の被害は他の自然災害と比べて特殊であるといえます。内閣府は火山災害に対する平時からの備えとして「生活を継続する備え」「直ちに避難するための備え」「除灰作業の備え」を継続し、各段階に応じた対応を速やかにとることができるよう計画を立てることを勧めています(参考文献8)。
企業にとって、長期的な火山災害は、数週間から数か月にわたり生産や販売等の経済活動に影響をおよぼすことを意味します。自社拠点に直接的な被害がない場合であっても、サプライチェーンが被災することで、原料の調達や製品の出荷、従業員の出退勤が困難になるなど、間接的な被害が生じます。
このように、火山災害は自社の被害にとどまらず、サプライチェーン全体におよぶ長期的な事業リスクであるといえます。
火山災害の主な種類と概要は表1のとおりです。火山災害では、甚大な被害をもたらす火砕流や溶岩に注目が集まりがちですが、これらの影響範囲は比較的限定的です。一方、火山灰は風によって拡散し、遠隔地にも被害をおよぼす可能性があります。そこで本稿では、特に広範囲に大きな影響をおよぼす火山灰に着目して解説します。

(3)火山灰の特性
火山“灰”は、一般的に想像される木や紙の灰とは異なり、ガラス片や鉱物結晶片等から構成されます。乾燥状態では、風や人・車の動きによって容易に舞い上がり、空気中に長時間漂いやすいです。一方、水分を含み湿潤状態となると、重量が増して泥濘化します(図2)(参考文献10)。これらの特性から、以下のような被害が予想されます。
● 体育館のような長スパン建物は、降灰荷重が設計上想定される積雪荷重を超過した場合に、損傷や崩壊のおそれがある。
● 火山灰は基本的に酸性であり、金属を腐食させる。
● 湿潤状態の火山灰は導電性を持つことがあり、短絡による停電が発生する。
● 降灰厚が1cm未満であればほうきで対応できるが、数cmではスコップが必要になる。
● 乾燥状態の火山灰は舞い上がりやすく、吸い込むと呼吸器・肺に健康被害が生じる。
● ごく少量の降灰でも車両の走行が困難になる(視界不良・走行不能)。
● 火山灰は融点が低く、エンジンに侵入すると固着してしまう。
● 事業所敷地が広い場合には、除灰にブルドーザー等の重機が必要となる。
特に工場・倉庫等の大スパンの構造では降灰荷重による損傷・倒壊リスクがあるほか、空調・冷却塔・通信設備等屋外設備が降灰の影響を受けることで操業停止や品質不良のリスクが生じます。敷地面積が広い場合は除灰作業に多大な人員と時間、費用が必要となり、再稼働への大きな妨げとなります。これらを踏まえ、企業は建物・設備・従業員・物流の観点から、火山灰に対する具体的な対策を事前に検討しておく必要があります。
加えて、降灰は長期間におよぶ場合があり、堆積厚が増すことで被害が甚大化します。そのため、除灰作業は降灰中であってもこまめに行う必要があります。降灰から身を守るゴーグルやマスク、除灰用のほうきやスコップの準備は不可欠です。

全国に活火山が分布する日本においては、火山灰によって広範囲かつ各地で被害が発生する可能性があります。企業としては、自社の事業に関わるサプライチェーンの一部または全体に被害がおよぶことを想定した対策が重要です。次項では、経済的損失が特に大きい首都圏を対象に、公的機関が想定する富士山噴火の影響について紹介します。
(4)富士山噴火の影響
2025年内閣府は「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(参考文献7)を発行し、宝永噴火と同程度の降灰に備えた応急的な対策や事前の準備事項を示しました。ガイドラインによれば、首都圏の降灰被害の特性として、以下の3点があげられます。
①緊急的・直接的な命の危険性は低い。
②首都圏の人口が非常に多く、指定避難所の収容人数を大きく上回っている。また、交通機関の運休によって多くの帰宅困難者が発生する。
③予測の不確実性から、噴火前から社会活動を著しく制限することは現実的でない。
火山活動は一般的に、活動休止期間が長いほど大規模になる傾向があります。富士山は前回の大規模噴火(宝永噴火)から約300年が経過しており、宝永噴火以前には約5600年にわたっておよそ180回の噴火が起こったとされるにもかかわらず、近年は小規模な鳴動や噴気を除いて沈静化しているように見えます。
そのため、富士山で再び火山活動が始まる可能性は無視できず、次の火山活動が大規模なものである可能性も否定できないと指摘されています。過去の火山活動のほとんどは小から中規模の噴火であり、大規模噴火が生じることは稀ですが、発生時の被害は甚大です。
噴火史に残る最も大きな噴火の一つである宝永噴火では、16日間にわたって断続的に噴火が続き、宮地(1984)の調査によれば、粒径が0.5mm程度の火山噴出物が茨城県霞ヶ浦周辺まで到達したことが示されています(参考文献11)。これらの情報を鑑みると、富士山で再び大規模噴火が発生した場合、首都圏全域に火山灰が降り、人命や経済活動に深刻な影響をおよぼすことが予想されます。
2020年、中央防災会議は富士山噴火時の降灰について、既往最大規模の宝永噴火と同程度の規模を想定し、風向の異なる3つのケースを対象に社会的影響を検討しました(参考文献10)。図3に示すケース2(西南西風卓越)では、15日間の噴火で首都圏のほぼ全域が降灰の影響をうけ、東京では0.01~4.0 cmの降灰堆積が想定されています。
これは、視界不良による鉄道や自動車の運行停止、停電やこれに伴う上下水道の停止等、ライフラインに深刻な影響を与える値です(図4)。また、火山灰の被害は時間の経過とともに広範囲に広がり、内閣府は道路上の火山灰を緊急的に除去するために少なくとも4日間を要すると試算しています(参考文献7,10)。この間、首都圏を中心とした物流が停滞することにより、サプライチェーンが断絶し、その影響は全国に波及すると考えられます。

また、同ガイドライン(参考文献7)は、特に企業等事業者に対し、従業員や利用者等の安全確保対策を求めています。首都圏で鉄道が停止した場合、自力で出勤や帰宅が困難な従業員が多数発生します。
東京都は首都直下地震発生時の都内の帰宅困難者を最大4,151千人と試算しており(参考文献12)、火山災害が発生し降灰が続いている場合は健康被害や視界の悪化により自宅が近距離であっても帰宅が困難であることから、帰宅困難者数は大きく増加する可能性があります。
また、災害発生直後に多くの帰宅困難者が徒歩による移動を試みた場合、緊急輸送道路の閉塞や渋滞が生じ、緊急車両の通行が困難になることで復旧の遅れにつながるおそれがあります(参考文献12)。企業には従業員および利用者の帰宅を抑制し、数日間安全を確保する体制が求められます。
同ガイドライン(参考文献7)は、富士山噴火に対する行政の対応方針を示すとともに、企業にとっては、BCP等を策定する際に自社の立地や業種、サプライチェーン等の条件に照らして、火山災害の前提条件や想定シナリオとして活用することが期待できます。

2024年7月に改定された内閣府「大規模地震発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドライン」について解説します。
火山災害に対する平時の備え
本章では、企業・事業所が火山災害に備えて具体的に何をすべきかを、(1)リスクを知る、(2)対策を検討する、(3)計画を立てる、(4)訓練・周知する、の4段階に分けて整理します。本章の内容は業種を超えて共通する項目であるため、自社の拠点構成や業務内容に照らし、火山対応計画や防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画(タイムライン)の作成に役立ててください。
(1)リスクを知る
2026年3月に内閣府より公開された啓発映像8では、火山灰の被害が段階的に進行することが強調されています。火山灰は噴火後ただちに停電や断水をもたらすわけではなく、滞在・避難・除灰のうち取るべき行動を適切に選択するためには、居住地や拠点の地域特性のほか、従業員や来訪者等の特性を加味する必要があります。
まず、対象の拠点に発生しうる噴火リスクを把握するため、自治体等の公的機関が公開している近隣の火山噴火に関するハザードマップを活用し、各拠点のリスクを抽出する必要があります。図5は桜島の降灰ハザードマップですが、桜島で火山災害が発生した場合、火山灰の直接的な影響を受けるのは鹿児島県を含む近隣3県であることが分かります。
一方、降灰による物流の寸断等の間接的な影響は、原材料の不足や船舶、航空機の遅延といった形でその他の地域にもおよぶおそれがあります。
また、火山灰は噴火後も地表に残留するため、長期間にわたり土石流が発生しやすい状態が続きます。特に斜面では、降灰後に降雨があると土石流が発生する可能性が高まるため、長期的なリスクとして十分に注意が必要であります。

これらの情報を踏まえて、事業影響度の分析を行います。内閣府は災害時を想定した事業継続計画について、従業員および経営への被害を最小限にするため、拠点横断的な対応だけでなくサプライチェーン等の依存関係にある企業・団体をも対策検討の範囲に入れるよう推奨しています(参考文献14)。
事業を構成する業務を洗い出し、それぞれについて業務が中断した場合の影響度を評価し、優先度を設定します。非常時にはすべての業務を継続することが困難になるため、事業に不可欠な業務から継続・早期復旧に取り組む必要があります。そのため優先業務をいつまでに復旧させるかの目標や、それに不可欠なリソースを特定しておく必要があります。
多くの場合、業務継続に必要なリソースは多岐にわたり目標時間内に確保することは困難を伴うため、この中で特に確保できなければ復旧が困難であるリソースを、ボトルネックとして把握することが求められます。
BCPの策定状況から、対応の対象や課題について解説しています。
(2)対策を検討する
前項で把握したボトルネック(拠点・設備・資材・ライフライン等)について、火山災害発生時にどのような被害がおよぶかを把握した上で、対策を検討する必要があります。火山災害の中でも火砕流や溶岩流等、生命に危険をおよぼすおそれが高い災害の場合は、速やかな避難が求められ、企業が事業を継続することは困難です。
一方、火山灰による被害は比較的生命への危険が低いため、一定の予防的対策を講じることが可能です。火山活動による経済的打撃を最小限に抑えるため、業務継続に不可欠な設備や業務について、火山灰による被害を想定し、事前に対応策を用意しておくことが重要です。
例えば、富士山等の噴火による降灰は発電機や空調フィルタの目詰まりを引き起こす可能性があり(参考文献15)、目詰まりによって換気・冷却ファンが停止した場合、機器内部で冷却不足による発熱が進行するおそれがあります。
さらに、火山灰に含まれる火山ガス成分によって短絡が発生したり、モーターの摩耗による故障が生じたりする可能性もあります。発災の時期によっては、空調設備の室外機に不具合が生じることで屋内の室温を適切に保つことが困難となり、倉庫等では保管品の品質に懸念が生じるほか、屋内へ避難している従業員等に健康上のリスクが生じることも考えられます。
さらに降灰の影響は、特に交通・電力・水道分野に大きな被害をもたらすと考えられます(参考文献7,10)。事業所敷地内の雨どいや排水管、排水溝に火山灰が流入すると、上下水道が閉塞し、日常生活や経済活動に大きな支障が生じる可能性があります。
以下に、降灰への対策が必要な箇所およびその対策の一例を示します(表2)。

また、首都圏における生産・消費活動の停滞は全国に大きな影響をおよぼすと考えられます。発災時は緊急輸送が優先となるため、主要道路が啓開されてからも生産物や原材料の輸送、輸出入には困難が伴います。さらに従業員が出張等の目的で発災地に滞在していた場合、通信網の混乱等により安否確認の難しい状態が続くことが考えられます。
サプライチェーンを構成する企業で事業継続に支障が発生した場合、サプライチェーン全体で生産が回復しません。サプライチェーンから受ける影響、あるいはサプライチェーンに与える影響を最小限にとどめるため、特に影響の大きい製品については平時から複数拠点で生産を行うか、非常時には代替拠点へ生産設備を移設し生産を再開する、外部へ生産を委託するなど対応を検討しておく必要があります(参考文献14)。
さらに自社の要員の確保も不可欠です。重要業務を担う要員の事前育成・確保のほか、他拠点からの応援を受け入れる体制・手順の構築、および手順の共通化が事前に求められます。加えて災害時には、従業員とその家族や取引先を含めて健康に配慮した対策を整えておく必要があります。火山灰は、その粒子が非常に細かく、呼吸により肺に入り込むことや、目や皮膚を刺激することが考えられます。
安全な作業環境を維持するため、表2のとおり、開口部の閉鎖と換気口、通気口の防塵フィルターを少なくとも1週間以上の対策を目安に備蓄しておく必要があります。また、降灰中の屋外作業には火山灰用のゴーグルおよびマスク、軍手の着用が不可欠です。水・食料・トイレ等の防災備蓄品と併せて、これらの対策も確認しておきましょう。
日経225銘柄の有価証券報告書を対象にした調査について解説しています。
(3)計画を立てる
事業継続の観点から、火山災害によって想定される段階的な被害を踏まえて、行動計画を時系列に応じて定めておくことが望ましいです。発災時に組織として迅速かつ効率的に対策を進めるためには「誰が・何を・どのタイミングで」実施するかを明確にし、時系列ごとの対応をまとめたタイムラインの策定が有効です。本項では、このタイムラインについて紹介します。
火山災害の中でも火砕流や溶岩流の被害を受ける可能性のある地域に拠点が立地している場合、前述のとおり原則として人命安全が優先であり、噴火中の業務継続や早期の再開を検討することは困難です。この場合は、あくまでも安全を確保した上で在庫や代替生産等の手段をもって供給を再開させることが考えられます。反対に降灰のみが予想される拠点では、物的被害が比較的軽微となりやすく、時系列に応じて対応することができます。
以下に富士山噴火によって降灰が想定される首都圏の事業所を想定したタイムラインの例を示します(表3)。表3は、あくまでもタイムラインの一例であり、実際には各事業所の特性に合わせて作成することを推奨します。
タイムラインを作成する際には、対応開始のトリガーとなる情報を確実に入手できる体制を整備することが重要です。気象庁は広域に降灰を引き起こす大規模噴火(プリニー式噴火)が発生したと判断した時点で「噴火の発生」および「火山灰の影響が想定される地域への火山灰警報(仮)」を発表する(参考文献16)としており、これらの情報を見逃さないようにしましょう。また、気象庁や東京都、各事業者の提供するプッシュ型通知サービスへの登録も、情報獲得のため有効です。
さらに、ガイドライン(参考文献7)では降灰による被害の様相を4段階に設定しています(表4)。降灰のみが発生する地域であっても、その量が30cmを超える場合には、木造家屋の倒壊や土石流のリスクが高まるなど、除灰作業には十分な注意が必要です。段階に応じた対策の検討・実施のため参考にしてください。
火山灰は時間経過に伴い堆積厚が増していくため、降灰による影響もまた経時的に変化します。ただし、継続的な除灰等の対応によっては状況の改善が期待されるため、必ずしも悪化していくだけではありません。また、水災等と比較すると火山活動は予測が難しく、前兆から噴火までの時間が短い事例もあり、リードタイムが十分に確保できない可能性があります。そのため、噴火の発生可能性が高まった場合や火山災害が発生した場合、速やかに情報を獲得し、状況に応じた防災行動と事業継続対応を並行して取り組まなければなりません。
実際の降灰量と降灰の見込み、従業員・来訪者等の特性に応じて「生活の維持」「避難」「除灰」の行動がとれるよう、計画を立てることが望まれます。


(4)訓練・周知する
災害時には迅速な対応が求められます。特に担当部署には事前対策を確実に実施するとともに、その進捗を適切に管理することが求められます。また、対策計画の策定が完了し、策定に関わった要員が解散すると、ノウハウが散逸しやすいです。そのため、全社的な体制として維持し、事前対策および訓練における恒常的な体制とすることが推奨されています(参考文献14)。
さらに、これらの計画を実行性のあるものとするためには、災害に対する基礎知識や対策計画の概要、自部署の担う役割等について、認識と理解を深める機会を設け、教育・訓練を行う必要があります。特に製造現場においては、バックアップシステムの稼働方法や緊急停止手順等を実際に体験し、覚えるような訓練を行うことが望まれます。
訓練は定期的に実施するだけでなく、体制や人事に大幅な変更があった場合や、計画の見直し・改善を実施したときにも行うことが望まれます。その際には教育・訓練の目標を明確にするとともに、達成度を評価する方法を事前に決めておく必要があります(参考文献14)。
訓練には、対応計画の内容確認・理解・習得を目的とするものから、実際の対応行動を体験するものまでさまざまな方法があるため、対象者や目的に応じて適切な方法を選択し、実施することが重要です。
まとめ
日本には111の活火山があり、51の火山は24時間体制で観測・監視が行われています。また、火山灰は風によって遠方まで拡散されるため、火山から離れていても間接的な影響を受ける可能性があります。加えて火山災害は長期間続くことがあり、最低限のインフラを維持するためには災害発生中も復旧作業を継続して実施しなければならないという特徴があります。
2020年、内閣府は富士山の大規模噴火が発生した場合、首都圏で広域かつ長期の降灰が発生すると想定し、その影響と対策について報告書を発表しました。この報告書によれば、火山灰の被害は時間の経過とともに首都圏の広範囲を覆い、緊急的な道路上の除灰には少なくとも4日間を要します。この間、首都圏を中心とした物流が停滞し、サプライチェーンが断絶することで、その影響は全国に波及すると考えられます。そして2025年、内閣府はこれらの想定を踏まえて新たにガイドラインを発表しました。
本ガイドラインは段階的に変化する火山灰災害の特性に着目し、各段階に応じた事前の対策が必要であると示しています。さらに2026年3月には啓発映像が公開され、住民が生活の維持・避難の準備・除灰の準備のすべてについて備えることを強く勧めています。ただし、本ガイドラインにおいては企業・事業所がとるべき対策については言及が少なく、経験のない大規模な火山災害に対して、取るべき対策を検討することは困難です。そこで今回、本レポートでは大規模な火山災害による降灰へ取り組むべき平時からの備えについて取りまとめました。
突発的な火山災害による業務の中断を最小限に抑え、事業を継続させるためには、各拠点における火山噴火のリスクを把握し、あらかじめ行動計画等を策定しておくことが望まれます。降灰のみが予想される拠点においては、防災行動と除灰等の事業継続対応を同時に実施することで、サプライチェーンから受ける影響とサプライチェーンに与える影響の双方を最小限に抑えることが期待されます。
火山災害そのものを防ぐことはできないが、ハザード情報の活用や計画的な備え、訓練・周知を通じて、人命の安全を確保しつつ事業中断期間と損失を最小限に抑えることは十分可能です。人命の安全を確保し、事業継続を実現するためにも、平時からリスクの把握と対策構築を強く推奨します。
【参考文献】
1. 気象庁:活火山とは
2. 気象庁:常時観測火山の観測点配置
3. 文部科学省:日本の活火山
4. 気象庁:火山登山者向けの情報提供ページ
5. 長野県:長野県御嶽山噴火災害対応記録集
6. 2021年福徳岡ノ場噴火によって形成された海上軽石群の漂流解析. 鹿児島大学地域防災教育研究センター(地震火山地域防災センター)
7. 内閣府(防災担当)首都圏における広域降灰対策ガイドライン. 内閣府. 2025.
8. 内閣府 火山防災に関する普及啓発映像資料
9. 土木学会地盤工学委員会火山工学研究小委員会 「噴火災害に備えて:火山工学の視点から避難等の対応をわかりやすく解説」. 丸善出版. 2022. 55p.
10. 中央防災会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ. 大規模噴火時の広域降灰対策について 首都圏における降灰の影響と対策. 内閣府. 2020.
11. 宮地直道. 富士火山1707年火砕物の降下に及ぼした風の影響. 火山. 1984. 2(29). P17-30.
12. 東京都防災会議 首都直下地震等による東京の被害想定報告書
13. 鹿児島大学地震火山地域防災センター
14. 内閣防災担当 事業継続ガイドライン―あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応―
15. 千葉県 富士山等の噴火に伴う降灰対策に関する対応指針
16. 気象庁 広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報の在り方
MS&ADインターリスク総研株式会社発行の災害リスク情報2026年5月(106号)を基に作成したものです。
MS&ADインターリスク総研株式会社
企業や組織のリスクマネジメントをサポートするコンサルティング会社です。
サイバーリスク、防災・減災、BCM/BCP、コンプライアンス、危機管理、企業を取り巻く様々なリスクに対して、お客さま企業の実態を踏まえた最適なソリューションをご提供します。
また、サステナビリティ、人的資本経営、次世代モビリティといった最新の経営課題にも豊富な知見・ノウハウを有しています。中堅・中小企業にも利用しやすいソリューションも幅広くラインナップしています。

















