帝国データバンク公表「企業の6割で賃上げ見込み、賃上げ率は平均4.16%と試算 ~半数超がベースアップを実施予定~」

2024年3月1日

その他

帝国データバンクが2024 年度の賃金動向に関する企業の意識調査を実施したところ、企業の6割で賃上げを見込んでおり、賃上げ率は平均4.16%と試算される結果となりました。また、半数超でベースアップを実施予定であることがわかりました。

はじめに

政府は、賃上げの計画を立てた企業を対象に、設備投資を支援する補助金を新設する方針を示すなど積極的に企業の賃上げを後押ししています。さらに岸田首相は、経済3団体に向けて物価上昇を上回る所得増を目指して、企業に対し「力強い賃上げ」を実現するよう呼びかけるなど、賃金改善(*)の動向が大きく注目されています。

そこで、帝国データバンクは、2024 年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を実施しました。本調査は、TDB景気動向調査2024年1月調査とともに行いました。

* 調査期間は2024年1月18日~1月31日、調査対象は全国2万7,308社で、有効回答企業数は1万1,431社(回答率41.9%)。なお、賃金に関する調査は2006年1月以降、毎年1月に実施し、今回で19回目。
* 本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載しています。
* 賃金改善とは、ベースアップや賞与(一時金)の増加によって賃金が改善(上昇)すること。定期昇給は賃金改善に含めません。

2024 年度、過去最高となる 59.7%の企業で賃金改善を見込む。ベースアップは過去最高を記録

2024年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む企業は59.7%と3年連続で増加、2006年の調査開始以降で最高を更新しました。一方、「ない」企業は13.9%と前回調査(17.3%)から3.4ポイント低下、調査開始以降で最も低い水準でした。

賃金改善の状況について企業規模別にみると、「大企業」「中小企業」「小規模企業」の3規模すべてで、前回調査の2023年度見込みから賃金改善見込みの割合が上昇しました。また、従業員数別では、「6~20人」「21~50人」「51~100人」「101~300人」で6割を超えています。「5人以下」(41.3%)では賃金改善を行う割合が低くなっていますが、初めて4割台に達しました。

他方、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」(31.6%)が突出して高く、従業員数が21人以上の企業では、賃金改善がない企業はいずれも1割未満にとどまっています。総じて従業員が5人以下でより賃金改善を行う環境が厳しくなっている様子がうかがえます。

業界別では『製造』(64.7%)が最も高く、『運輸・倉庫』(63.7%)や『建設』(62.5%)が続いています。2024年4月から時間外労働の上限規制が始まるトラックドライバーや建設業界等で、賃金改善を実施する企業の割合が昨年より高まっていました。

賃金改善の具体的な内容をみると、「ベースアップ」が53.6%(前年比4.5ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.7%(同0.6ポイント増)となりました。「ベースアップ」は過去最高となった前年の49.1%を上回り、3年連続で調査開始以降の最高を更新するなど、初めて半数を上回りました。

賃金改善の理由、「労働力の定着・確保」が75.3%へ増加、「物価動向」も半数を超える

2024年度に賃金改善が「ある」企業に、その理由を尋ねたところ、人手不足等による「労働力の定着・確保」が75.3%(複数回答、以下同)と最も高かったです。

また、昨年の調査から尋ねている「従業員の生活を支えるため」は63.7%でした。前回よりは低下したものの、依然として6 割を超える水準となっています。さらに、飲食料品等の生活必需品の値上げが響いている「物価動向」(51.6%)は前回より5.9ポイント減少したものの、引き続き半数超の企業が理由としてあげていました。また、今回初めて尋ねた「採用力の強化」(35.8%)が4番目にあげられており、賃金改善を通じて採用活動へのプラス効果を期待している様子がうかがえます。以下、「自社の業績拡大」(26.1%)、「同業他社の賃金動向」(25.3%)が続きました。

賃金を改善しない理由、「自社の業績低迷」が56.3%でトップ

他方、賃金改善が「ない」企業にその理由を尋ねたところ、「自社の業績低迷」が56.3%(複数回答、以下同)と2023年度見込み同様に最も高くなりました。また、「物価動向」(17.8%)は賃金改善を行う理由でも上位にあげられた一方で、物価上昇が賃金改善を行えない状況をもたらしていた様子もうかがえます。以下、新規採用増や定年延長にともなう人件費・労務費の増加等の「人的投資の増強」(13.6%)、「同業他社の賃金動向」(13.3%)、「内部留保の増強」(11.2%)が続きました。

総人件費は平均 4.32%増加見込み、従業員給与は平均4.16%増と試算

2024年度の自社の総人件費が2023年度と比較してどの程度変動すると見込むかを尋ねたところ、「増加」*1を見込んでいる企業は、72.1%と前年比で2.5ポイント増加していました。一方、「減少」すると見込む企業は5.3%(前年比0.5ポイント減)となりました。その結果、総人件費の増加率は前年度から平均4.32%増加すると見込まれます。そのうち従業員の給与は平均 4.16%、賞与は平均4.04%それぞれ増加、さらに各種手当等を含む福利厚生費も平均4.06%増加すると試算されます。

また、大企業において、総人件費の増加率が3%以上とした企業は52.6%(前年比5.0ポイント増)、中小企業でも総人件費の増加幅が3%以上の企業は54.9%(同4.1ポイント増)となりました。

*1 「増加」(「減少」)は、「20%以上増加(減少)」「10%以上20%未満増加(減少)」「5%以上10%未満増加(減少)」「3%以上5%未満増加(減少)」「1%以上3%未満増加(減少)」の合計

まとめ

2024年は賃金と物価の好循環が達成されるか否かに大きな注目が集まります。デフレから脱却するとともに、長く続いた非伝統的な金融政策であるマイナス金利政策の解除等、経済の正常化に向けた動きが一段と加速すると予測されています。こうしたなか政府は、政労使が一致して賃上げを行う環境を整えようとしています。

本調査によると、2024年度に賃上げを見込む企業は59.7%と、2007年以降で最も高い水準となりました。特に、ベースアップにより賃上げを進めようとする企業が半数を超えており、賃金の基礎的な上昇傾向が表れてきました。2023年度の実績では企業の74.4%が賃上げを実施しており、2024年度は最終的に同年度をさらに上回ることが期待されます。総人件費も企業の72.1%と7割超の企業が増加を見込み、金額ベースでも約4.32%と調査開始以降で最も高い上昇を想定しています。

2024 年度は賃金改善に上向きの傾向がみられますが、賃金改善が「ある」と見込む理由では、引き続き「労働力の定着・確保」が最も多く7割を超えます。さらに、非正社員においても企業の約3割で賃金改善が「ある」と見込んでいました。

今後の景気回復には継続的な賃上げが欠かせません。しかしながら、とりわけ従業員数が5人以下の企業で厳しい見込みとなっており、賃上げの動きが小・零細企業へ広がるかどうかがカギを握ります。国内外においてさまざまなリスク要因が山積していますが、バブル崩壊以降30年あまり続いてきた日本経済の沈滞感を払拭するためにも、生産性をさらに高めて賃金の上昇を進めることが重要となります。

調査先企業の属性

1.調査対象(2 万7,308 社、有効回答企業1 万1,431 社、回答率41.9%)

2. 企業規模区分

中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加え、下記のとおり区分。

株式会社帝国データバンク発行の「2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査」(2024年2月21日)を基に作成したものです。

【参考情報】

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