「日本の水資源の現況」公表。 国内流域総合水管理の重要性に言及
公開日:2025年11月26日
自然災害・事業継続

近年、日本各地で渇水が深刻化しています。今夏、東北地方や西日本地域では厳しい水不足が報告され、宮城県の鳴子ダムでは貯水率が0%まで低下しました。この状況は無降水日(注1)が増加していることが原因とされ、2025年8月6日現在で、18水系25河川で渇水による取水制限等の措置が取られています。こうした措置は主に農業用水に対して取られていますが、新潟県関川水系では上水や工業用水に対して40%以上の節水が要請されており、製造業の操業にも影響をおよぼし得る状況です。
目次
日本各地で渇水が深刻化
渇水による被害は一時的なものではなく、今後、頻繁に発生することが懸念されます。なぜなら、気候変動の影響により無降水日が増加すると予測されているからです。具体的には地球の平均気温が4℃上昇するシナリオの場合、全国平均で無降水日が約8.2日増加すると試算されています。
深刻な渇水は、今より厳格な取水制限等の措置に繋がる可能性もあり、持続可能な企業経営のためには水資源管理と対策が不可欠です。
加えて、日本国内では水資源を巡る新たなリスクも表面化し始めており、企業には渇水以外への対策も求められます。国土交通省が2025年8月1日に公表した「令和7(2025)年版 日本の水資源の現況」では、渇水リスクの顕在化に加え、気候変動による水災害の激甚化、水インフラの老朽化による事故の発生、産業構造の変化に伴う水需要の変動による水供給への影響および、ネイチャーポジティブに向けた対応等、企業を取り巻く水課題は多様になっていると指摘されています。
これらの課題解決のために、自社の事業所敷地内の節水活動だけでなく、河川流域全体であらゆる関係者が協働して取り組み、流域治水の推進や水資源の効率的な管理と持続可能な利用を目指す流域総合水管理の重要性が着目されています。
認識が低調な「生物多様性」の現状について解説しています。
海外では企業が主体となって流域単位での総合水管理の取組を進めるアプローチが成功している事例もいくつかありますが、日本では自治体主導で進められることが多く、企業の参加が今後の課題です。
このような背景の下、日本でもJapan Water Stewardship(注2) という企業イニシアチブが設立されており、企業による流域内のステークホルダーと連携した水資源管理の取組促進が期待されています。企業が率先してステークホルダーとの協働体制を構築したり、流域の水管理に自社技術を提供したりといった取組をすることで、水リスクを管理して成長戦略に繋げる能力を高めることができます。
一例として、企業が水源保全を目的として、製造拠点の水源域に位置する自治体と協定を締結し、保全策を他企業やNGO等も交えて策定する取組が挙げられます。水を流域に涵養する取組を行うことで、企業は安定的に事業を行い、水不足による操業停止リスクを低減することが可能となります。
水リスクへの対応は単なるリスク管理の枠を超え、水使用効率を向上させる技術革新や、水資源管理に取り組むことによる評判やブランド価値の向上に繋がるものであり、企業の成長を左右する重要なテーマです。
成長戦略の視点を持って積極的に取り組むことで、企業は持続可能な社会の構築に貢献し、社会的責任を果たしつつ、長期的な競争力を維持することができます。単なるCSR活動でなく、事業機会、すなわち経済的利益との密接な関連性を認識して投資をすることで、将来のビジネスチャンスを生む土台となり得ます。
(注1)無降水日:日降水量1.0mm未満で降水の見られない日のこと。
(注2)Japan Water Stewardship:国際水資源管理基準(AWS スタンダード)の管理者である会員制連合体、Alliance for Water Stewardship(AWS)の呼びかけにより、日本国内の AWS メンバー企業を中心に設立された団体。「流域での責任ある水資源管理」(ウォータースチュワードシップ)を促進し、企業が業界を越えて協働して流域の水資源保全に取り組む環境を整備することで、国内外の流域で顕在化する水リスク対応への影響力を高めていくことを目指している。
参考情報:2025年8月1日付 国土交通省HP
「令和7年版 日本の水資源の現況」を公表~水資源の現状及び取組状況についてとりまとめました~
渇水情報総合ポータル
MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2025年9月(2025年度第6号)を基に作成したものです。
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