近年、技術革新の進展、労働力人口の高齢化、雇用・就業形態の多様化など企業をとりまく社会構造の急激な変化は職場の安全衛生面にも影響を及ぼしており、労働災害のリスクと労働災害防止に対する事業者の責任がますます大きくなってきています。
労働災害やそれに伴う再発防止策の検討と実行、損害賠償請求や事業停止、社会的信用の失墜など、労働災害が発生した際のリスクを回避し、社会の信頼を得るための経営姿勢が求められています。
刑事責任 | 労働安全衛生法違反 業務上過失死傷 (刑法) |
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民事責任 | 災害補償責任 (労働基準法) 不法行為責任・債務不履行責任 (民法) |
行政上の責任 | 労働安全衛生法に基づく作業停止命令や設備等の使用停止命令 など |
社会的責任 | 指名停止、取引停止、 社会的信用の低下 など |
近年の状況を見ると、労働災害による死亡者の数は減少していますが、労働災害による休業4日以上の死傷者の数は、ここ数年増加傾向にあります。その内訳をみると、中小事業場における労働災害の発生が労働災害の多数を占めており、政府としても中小事業場を中心に安全衛生対策の取組促進が不可欠な状況にあるとしています。
また、厚生労働省の第14次労働災害防止計画において、労働者の安全衛生対策は事業者の責任であることを前提としつつ、「資産としての人的投資」として、労働者の安全衛生対策が人財確保の観点からプラスになるとしています。
労働災害の背景要因は4つのMに分類することができます。また、これら背景要因の根源には経営トップの姿勢を含む安全管理活動の欠陥が存在しています。
これらの背景要因が、作業環境や設備機器の「不安全状態」や、人の「不安全行動」に繋がり、結果として事故を誘発し、人が介在すれば労働災害となります。
人間的要因 (Man) | 作業者の身体的・心理的な要因、作業能力的な要因 (人間がエラーを犯すヒューマンファクター) |
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機械的・設備的要因 (Machine) | 設備・機器・器具固有の要因 (機械設備などの設計上の欠陥、危険防護不良、人間工学的配慮不足など) |
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作業的要因 (Media) | 作業者に影響を与えた物理的、人的な環境の要因 (作業に関する情報、作業方法、作業環境などの不適切) |
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管理的要因 (Management) | 組織における管理状態に起因する要因 (予算、経営方針、作業計画、社内安全規則・規定の整備、教育訓練など) |
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労働災害の背景要因への対策を検討する際に、5E(教育・訓練、技術的・工学的方策、強化・徹底、事例提示、作業環境)の観点を用いて検討を加える方法があります。労災事故発生後の再発防止策や類似事故の防止策を検討する際に、網羅的に検討する際の有効な方法の一つです。
教育・訓練 (Education) | 業務を安全に実施するための知識、意識、技術の教育 |
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技術的・工学的方策 (Engineering) | 事故・トラブルの要因となった設備機器上の要因を改善するための、機器や設備、工程への対策 (例:設計の改善、安全機能の多重化、フールプルーフ化など) |
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強化・徹底 (Enforcement) | 業務内容の定型化や、業務の簡素化、手順の明確化を行うことや、危険予知活動などによる危険個所の抽出と事故防止策の実施 |
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事例提示 (Example) | 危険個所や事故情報、模範的な業務手順等に関する具体的な事例の提示と情報共有化 |
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作業環境 (Environment) | 照明、温度、湿度、作業スペース等の作業環境の改善 |
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安全衛生管理に関する意識が従業員一人ひとりに浸透し、日常業務としてスムーズに実践されている企業では、経営者が自ら先頭に立って、各職場の監督者や作業者を指揮しています。企業規模の大小を問わず、いかなる経営状況であろうと安全衛生対策には真摯に取り組むことが求めれています。
また、一般に、安全衛生は設備や作業方法を効率的かつ適切な状態に保つことと無関係ではなく、安全衛生の問題は品質、生産性を高めるうえでも不可欠な要素であるといえます。
労働災害の防止を図る場合、既に発生した災害事例に基づいて対策を講じるだけでは、十分とは言えません。多種多様な機械設備や化学物質などが使用されるようになり、技術的な変化も短期間で生じやすい近年の環境下では状況変化に十分に対応しきれず、事故発生に至っていない潜在リスクへの対応が講じられない可能性があります。
そのため、潜在的なリスクを事故発生前に検討、抽出して、リスクを除去、低減する対策が必要になります。
ヒヤリ・ハット | もう少しでケガをするところだったなど、「ヒヤッ」「ハッ」とした事例を収集して、改善策の実施や安全教育での活用などを行うもの |
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リスクアセスメント | 対象とする作業等について、想定されるリスクを網羅的に抽出し、発生確率・影響度などを評価したうえで、許容範囲なレベルになるように対策を講じるもの |
危険予知 | 危険予知を通じて現場で潜在リスクを洗い出し、リスクアセスメントで除去できなかった残留リスクも含めて、現場での対策を講じるもの |
各方法で抽出したリスクに対して対策を講じる場合の優先順位の考え方の一例として、次があります。保護具着用などの担当者個人の取組だけに頼らず、技術的・工学的対策など、組織的に労働災害防止策を講じていくことが重要になります。
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