AIは「ほぼ間違いなく」サイバー攻撃を激化させる 英国NCSCが調査結果を公開

公開日:2024年4月3日

サイバーリスク

英国国家サイバーセキュリティセンター(以下、NCSC)は、AIのサイバー攻撃への活用可能性と攻撃の脅威を分析した調査結果を公開しました。調査結果によると、2025年までの2年間でAIはサイバー攻撃の量を増加させ、影響力を高めることは「ほぼ間違いない(almost certainly)」と結論付けました。全てのサイバー攻撃者は、程度に差はあれ、既にAIを活用しているとされ、攻撃の増加および巧妙化が懸念されます。

英国NCSCが調査結果を公開

本調査では、AI活用による能力向上の程度を攻撃者の能力毎に整理しており、低スキルの攻撃者はAIを活用することで偵察能力やフィッシング能力を著しく高めるとされます。例えば、企業情報や役員情報等、攻撃に利活用できる情報を効率的に収集できるようになるため、文法や内容に違和感が無い「自然な」フィッシングメールも容易に作成できてしまいます。また、AIがサイバー攻撃に活用されることで、サイバー攻撃への参入障壁が低下し、初心者ハッカーやハクティビスト(注1)達の自己満足や自己主張の手段として気軽にサイバー攻撃が行われてしまう可能性が危惧されます。NCSCは低スキルの攻撃者によるランサムウェア攻撃が増加する可能性について警鐘を鳴らしており(注2)、基本的な対策が進んでいない企業が標的となるリスクが高まっています。

また、既存の攻撃技術とAIを組み合わせることで、より効率的な脆弱性の分析やマルウェアの開発、侵入後のラテラルムーブメント(注3)が可能となります。これらの用途へのAIの活用は既存の攻撃技術とAI活用の両方で高いスキルが求められ、現時点では活用は限定的とされます。一方、攻撃能力の向上や、AIを活用した汎用的な攻撃ツールの普及は、今後「ほぼ間違いなく」進むと分析されており、動向を注視する必要があります。

世界経済フォーラム・グローバルリスク報告書2024年版では短期的・長期的なリスクの両方にAIに関連したリスクがランクインしています。国内では、情報セキュリティ監査人が2024年注意すべきテーマを挙げた「情報セキュリティ十大トレンド」(注4)の1位に「生成AIの悪用と誤用により増加するセキュリティ事故」が挙がっており、AIの普及によってさらに高まるサイバーリスクは、もはや避けられない経営リスクの一つです。変化が激しいサイバーリスクに対して、場当たり的な対応は限界があり、セキュリティ担当者の疲弊を生みかねません。そのため、経営自らが自社のセキュリティ方針・戦略の策定に積極的に関与し、ビジネス上の目標と自社のセキュリティ目標を合致させた、しなやかなサイバーリスク対応体制の構築が望まれます。

(注1)社会的・政治的な主張を目的としたハッキング活動を行う者。

 

(注3)攻撃者がターゲット企業内に侵入後、感染の範囲を広げることを指す。

 

MS&ADインターリスク総研株式会社発行のESGリスクトピックス2024年3月(第12号)を基に作成したものです。

関連記事

中小企業の情報セキュリティ体制、未だ不十分 IPAが調査結果公表

2025年7月4日

サイバーリスク

給与デジタル払いとは?基本的な仕組みと導入のメリット・デメリットを解説

2025年5月26日

サイバーリスク

IPA、情報セキュリティ10大脅威(2025年版)を公表 ランサム攻撃は依然大きな脅威

2025年5月9日

サイバーリスク

MS&ADサイバーリスクファインダーの診断結果から見えてきた、 地域別・従業員規模別のリスク傾向

2025年4月25日

サイバーリスク

IPA 中堅企業のDX推進課題解決へ 「専門人材確保と組織的対応が鍵」

2025年4月4日

サイバーリスク

おすすめ記事

介護手当とは?受給条件やその他の手当を解説

2025年6月23日

健康経営・メンタルヘルス

子ども・子育て拠出金とは?制度の仕組みや計算式、課題点を解説

2025年6月16日

人事労務・働き方改革

給与デジタル払いとは?基本的な仕組みと導入のメリット・デメリットを解説

2025年5月26日

サイバーリスク

フェムテックとは?基本的なとらえ方と課題解決のポイントを解説

2025年5月19日

健康経営・メンタルヘルス

不当解雇とは?適正な解雇との違いや条件を詳しく解説

2025年4月21日

人事労務・働き方改革

週間ランキング

6月から義務化(罰則付き)となった「職場の熱中症対策」のポイント

2025年6月13日

その他

帝国データバンク公表「採用時の最低時給は 1,167円人材確保を背景に最低賃金より112円高く~ 「東京」が唯一1,300円超え、都市部と地方で格差が顕著に~」

2024年11月6日

その他

リチウムイオン電池に起因する火災の現状と対策

2025年6月27日

事故防止

休職中の社員の社会保険料負担

2023年7月28日

人事労務・働き方改革

改正育児・介護休業法 ~令和7年10月1日施行編~

2025年3月28日

法改正