業務委託契約(業務請負契約)の活用と注意点

2023年6月1日

経営に関する全般

働き方改革の進展に伴い、働き手の立場の多様化が進んでいます。会社と従業員という関係から離れた「業務請負契約」を会社と結んで就業する人も増えてきました。委任契約と請負契約の違いについて、会社(使用者)として押さえるべきポイントをお伝えします。

業務委託契約とは何か

業務委託とは、会社側からみれば、雇用関係のない者に特定の業務を委託し、それに対して委託料として報酬を支払う契約形態です。したがって、会社は業務の発注元(委託者)であり、受託者たる企業や個人は発注先です。

受託者が個人の場合は雇用関係にはないので、労働基準法や最低賃金の適用もありません。業務遂行または完了に伴う支払いは「賃金」ではなく業務委託料としての「報酬」です。委託者たる会社にとっては健康保険や厚生年金保険といった社会保険料および雇用保険、労災保険といった労働保険料の負担もありません。

他方、受託者側からみれば、受託者が個人であれば時間や場所の拘束はなく、会社から委託される業務に特化して仕事をすることができ、子育てや介護をしながらのリモートワークなど、各人のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。委託された業務の完成度や成果、実力が認められればより多くの仕事や高収入を見込むこともできますが、仕事の納期などによっては長時間労働に至る場合もあります。

委任契約と請負契約の違い

業務委託の契約形態には、委任契約と請負契約の2種類があります。委任契約は、委託業務の成果や完成度(結果)にかかわらず、その遂行に対して報酬が支払われる役務提供型の契約です。

例えば、社会保険労務士の顧問契約やシステム運用に伴うヘルプデスク契約などが、委任契約に属します。受託者には「善管注意義務」があり、業務遂行にあたり細心の注意を払うことが求められていますが、成果などは問われません。

他方、請負契約は委託された仕事を完成・完了させることを請負うもので、その完成品や納品物、成果物に対して報酬が支払われる業務請負型の契約です。受託者には、委託された物の製造(製品)やシステム開発などを完成させる責任があり、瑕疵(かし)があった場合には責任を問われ(瑕疵担保責任)、報酬に影響します。

記帳業務や給与計算業務をアウトソーシングで請負う企業や個人(士業など)の毎月の納品物にミスがあれば、受託者は瑕疵責任を問われることもあります。

まとめ

業務委託契約に関する明確な法律的な定義がないこともあり、実態は委任契約および請負契約を明確に区分して運用されていることは少なく、混在しています。しかし、会社の業務の一部を外部に委託するにあたって、委託先が企業であるか個人であるかを問わず、目的を明確にしたうえで、「請負契約」と「委任契約」のどちらを選択するべきかを慎重に検討することをお勧めいたします。
(寄稿:社会保険労務士法人みらいコンサルティング)

三井住友海上経営サポートセンター発行のビジネスニュース2021年8月(第299号)を基に作成したものです。
※関連記事「偽装請負とは?(業務委託契約の活用と注意点)」もご参照ください。

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