事業承継に向けたはじめの一歩!中堅・中小企業の経営者が知っておきたいポイントをわかりやすく解説

公開日:2023年10月2日

事業承継・M&A

事業承継とは、企業の経営を後継者に引き継ぐ一連の手続きです。中堅・中小企業における経営者の高齢化によって、事業承継へのニーズは高まっているといえます。

事業承継にはかなりの時間が必要であるため、具体的な方法や手順を把握した上で、早めに取り掛かることが重要です。本記事では、事業承継の基本的なポイントや手順、活用できる補助金制度などを解説します。

事業承継とは

事業承継をスムーズに進めるには、定義や日本における実情などを把握しておく必要があります。まずは重要なポイントについて詳しく解説します。

事業承継の定義

事業承継とは、企業の経営を後継者に引き継ぐ手続きです。事業承継では、単に企業の経営権や資産を引き継ぐだけでなく、経営者の理念や想いなども引き継いでいくことになります。特に中堅・中小企業では、経営者の人柄や手腕が企業そのものの強みとなるケースが多いため、誰が後継者となるかは非常に重要といえます。

日本における事業承継の実情

中小企業庁が2020年に公表した「中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引き継ぎに向けて~」によれば、日本全体での2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者数は約245万人となっています。そのうち、約半数にあたる127万人程度が「後継者未定」と見込まれている実情があります。

つまり、多くの企業では後継者が決まってないことからいずれ廃業せざるを得ない状況にあるといえるでしょう。多くの企業がなくなってしまうと、雇用機会の喪失や連鎖倒産などを招く恐れがあり、社会全体に大きな影響が出る恐れがあります。

中堅・中小企業の事業承継に関する問題は、当事者である企業だけの問題ではなく、国全体にとって大きな課題といえます。そのため、経済産業省をはじめとした行政機関は事業承継に関するさまざまなサポートや補助金制度の拡充などに取り組んでいます。

事業承継には3つの方法がある

一口に事業承継といっても、「親族内承継」「従業員承継」「M&A」の3つの方法があります。それぞれの特徴について解説します。

親族内承継

親族内承継とは、現在の経営者の子どもなど親族に事業承継を行う方法です。事業承継に必要な準備期間を確保しやすく、心理的なハードルも下げられるのが特徴だといえます。

また、相続などによって財産や株式を後継者に移転できることから、所有と経営の一体的な承継を行えます。一方で、親族内に必ずしも適した候補者がいるとは限らず、資質はあっても会社を引き継ぐ意志があるとは限りません。

さらに、後継者の候補が決まったとしても、相続人が複数いる場合には後継者以外への配慮が必要であるため、経営権の集中が難しいといった課題もあります。

親族外承継

親族外承継とは、親族以外の役員等に事業承継を行う方法です。役員等の中から、経営能力のある人材を見極めて承継することができます。

経営に近い立場で働いてきた役員等であれば、経営方針や事業に対する理解度が深いため、経営の一貫性を確保できるでしょう。一方で、後継者候補に株式を取得するだけの資金力がない場合が多い点や、個人債務保証の引き継ぎなどで問題が生じてしまうケースもあるでしょう。

M&A

親族内承継や親族外承継が難しい場合には、M&Aという選択肢があります。社外の第三者に対して、株式譲渡や事業譲渡を行うことによって承継する方法です。

M&Aの場合、親族や社内に適した人材がいないときでも、幅広く候補者を求められます。また、現在の経営者は会社を売却することによって、引退後の生活資金を確保できるでしょう。

一方で、従業員の雇用維持や売却価格などの希望条件を満たす買い手を見つけるのが困難といった課題もあります。そして、買い手が見つかっても事業の継続性を確保するのが難しいといった点にも注意が必要です。

事業承継を進めるためのステップ

事業承継を円滑に進めるには、基本的な流れを把握した上で早めに取り組むことが大切です。そこで、事業承継の手順を詳しく解説します。

自社の現状を把握する

事業承継を進めるには、まず自社の現状を正しく把握した上で事業承継の課題を洗い出す必要があります。その内容は後継者候補の有無や自社製品・サービスの収益性、業界でのポジショニングなど多岐にわたります。

また親族内承継の場合は、相続財産の特定や相続税の計算、ステークホルダーへの対応なども考慮しておきましょう。さらに事業承継の支援機関を活用すれば、適切なアドバイスを受けられるでしょう。

経営改善に取り組む

事業承継では、承継後に想定される経営上のリスクをできるだけ減らしておく点が大事です。具体的には、財務状況の改善や社内体制の確認、業務マニュアルの整備などの点が挙げられます。また経営改善に取り組む過程では、後継者には誰がふさわしいか見極める機会もあるでしょう。

事業承継計画を策定する

事業承継計画書は、親族内・親族外のケースとM&Aのケースでそれぞれ重要なポイントが異なります。親族や役員・社員に対して事業承継を行う場合には、経営者だけで事業承継計画を立てるのではなく、社内外の関係者の意見を聞きながら策定する必要があります。

中長期的な経営計画や事業方針、経営課題などと照らし合わせながら、事業承継後のロードマップを描きましょう。事業承継計画の策定を通じて、経営者と後継者が同じ目標に向かうプロセスが重要であり、経営理念の共有にもつながるでしょう。

一方M&Aの場合は、買い手企業との話し合いや交渉で事業承継を進めます。自力で買い手企業を見つけるのは困難なため、仲介会社などの支援機関に依頼する方法が一般的です。そのため、事業承継計画の策定には買い手企業や支援機関を交えて話し合います。

理想的な形で事業承継を進めるには、自社が希望する条件を整理した上で支援機関にアドバイスを受けながら擦り合わせを行いましょう。

事業承継を実行する

事業承継は、経営権の譲渡や資産の移転を実行する方法で進めます。親族や役員・社員に事業承継を行う場合には、後継者の育成に10年ほど掛かるでしょう。

一方M&Aの場合は、買い手企業に経営権を譲渡するため比較的スムーズに経営権が移行されますが、候補先企業がすぐに見つかるとはかぎりません。そのためM&Aを実行する際には早めに取り掛かる必要があります。

どのような場合でも事業承継には時間が掛かるため、検討する場合にはまず支援機関に相談しましょう。

事業承継に役立つ補助金・税制

事業承継では、資金面で悩みを抱えるケースが多いです。国の制度には事業承継に役立つ補助金や税制などが用意されているので、詳しくご紹介します。

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金(2023年9月15日現在 *)とは、事業承継につなげるための経営革新やM&Aに取り組む中小事業者を支援する制度です。「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3つの事業が設けられています。

特に「廃業・再チャレンジ事業」は他の制度と併用申請が可能であり、M&Aでも利用できます。支援機関からのサポートを受けるための費用補助や経営革新に掛かる費用補助などが利用できるので、ぜひ活用しましょう。

ただし、それぞれの制度によって申請条件や補助上限額など異なるので、事前のチェックが大切です。

事業承継税制

事業承継税制とは、中堅・中小企業の経営者から贈与・相続・遺贈などによって後継者が株式や資産などを取得した場合に、一定の条件を満たしていれば贈与税・相続税が猶予される制度です。事業承継に関する資金面における問題を解決する手段となるので、非常に便利です。

当該制度は企業の株式などを対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業主の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」が設けられています。

まとめ

事業承継とは、企業の経営権や資産、経営理念などを後継者に受け継いでもらう手続きを意味します。親族内承継・親族外承継・M&Aの3つの方法があり、自社の状況に応じて適切な方法を選ぶ必要があるでしょう。

事業承継を円滑に行うには、十分な準備期間を設けて計画的に進めなければなりません。事業承継・引継ぎ補助金や事業承継税制なども活用しながら、できるだけ早い段階から取り組みましょう。

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