子ども・子育て拠出金とは?制度の仕組みや計算式、課題点を解説

公開日:2025年6月16日

人事労務・働き方改革

子ども・子育て拠出金とは、企業が毎月負担している費用の一つです。この記事では、子ども・子育て拠出金の基本的な仕組みや目的、企業が負担する拠出金の計算方法等をまとめてご紹介します。

その上で、子ども・子育て拠出金に関して中小企業が抱えやすい課題点にもフォーカスしながら、対応策を詳しく見ていきましょう。

子ども・子育て拠出金の概要

「子ども・子育て拠出金」とは、児童手当制度や子育て支援事業を支えることを目的として、企業が費用の一部を負担している資金のことです。もともとは児童手当制度が将来的な労働力の確保や維持につながる重要な仕組みであることを踏まえ、昭和46(1971)年度に創設された制度であり、当初は「児童手当拠出金」という名称でした。

2015年には現在の名称に変更され、現在では児童手当に加えて放課後児童クラブや各種保育事業にも充当されています。

子ども・子育て拠出金の対象となる事業

子ども・子育て拠出金は、子育てに関する幅広い事業の財源となっています。

・児童手当
児童手当は、0歳から18歳に達した年の年度末までの子どもがいる世帯に、子どもの人数や年令に応じた現金が支給される制度です。制度の目的は、家庭等における生活の安定を支え、次代の社会を担う児童の健やかな成長を促すことにあります。

・放課後児童健全育成事業
共働き家庭等で小学校に就学している児童を対象とした、いわゆる「放課後児童クラブ」を運営するための事業です。

・延長保育事業
認定を受けた子どもに対して、通常の利用日・利用時間以外の区分でも保育所等での保育を受けられる「延長保育」の事業です。

・病児保育事業
病児保育事業とは、子どもが病気の際に自宅で保育が困難なケースをケアする仕組みです。病院・保育所等が病気の児童を一時的に預かったり、看護師等が保育者の自宅へ訪問したりして、安心して子育てできる環境整備を図るのが目的です。

・企業主導型保育事業
企業等が設置した保育施設を支援するための仕組みです。休日や夜間の対応等、企業の勤務時間に応じた柔軟な保育の提供や、複数企業による共同利用を想定した保育施設の運営等を目的とした事業です。

・ベビーシッター利用者支援事業
労働者の多様な働き方を支えるため、ベビーシッター派遣サービスを利用しやすくなるように利用料金の一部を助成する事業です。

・中小企業子ども・子育て支援環境整備事業
育児休業等取得に積極的に取り組み、くるみん認定を取得した中小企業に対して助成金を支給する事業です。なお、助成事業は時限的なものであり、令和8年(2026年)度までとされています。

・子どものための教育・保育給付
私立の認定こども園、幼稚園、保育所に係る施設型給付費や、公立・私立の小規模保育事業、家庭的保育事業等に必要な費用を支援するための仕組みです。

産休・育休の概要やスケジュールについて、こちらの記事でも解説しています。

 

子ども・子育て支援金との違い

子ども・子育て拠出金と名称が似ている制度に、「子ども・子育て支援金」があります。子ども・子育て支援金は、少子化対策の強化をめざして2023年12月に策定された「こども未来戦略」の「加速化プラン」に基づいて制定された制度です。

少子化対策のための特定財源であり、個人の所得に応じた負担額が医療保険の保険料に上乗せされる形で、2026年度から徴収がスタートする予定です。なお、初年度の平均負担額は被保険者1人あたり平均月450円程度とされています。

このように、子ども・子育て拠出金は事業者負担、子ども・子育て支援金は高齢者も含む全世代の国民負担となっている点が大きな違いです。

子ども・子育て拠出金の基本的な仕組み

子ども・子育て拠出金の仕組みとして、ここでは負担者や納付方法について解説します。

育児・介護休業法等の法改正のポイントについて、こちらの記事でも解説しています。

 

拠出金の負担者

子ども・子育て拠出金は、厚生年金保険に加入する被保険者の雇用主である事業所が負担します。厚生年金保険や健康保険(社会保険)とは異なり、全額が事業所負担となるのが特徴であり、被保険者個人の負担はありません。

拠出金の対象条件

子ども・子育て拠出金の徴収対象となるのは、厚生年金保険の加入者全員です。厚生年金に加入している従業員がいる企業には、例外なく納付の義務が発生し、従業員の子どもの有無や世帯構成等には関係ありません。

また、負担額は加入者数の給与や賞与に応じて決まります。詳しい計算方法はのちほど詳しく解説するので、そちらも参考にしてみてください。

拠出金の納付方法

子ども・子育て拠出金は、毎月納付する必要があります。支払い方法としては、日本年金機構から毎月送付される社会保険納入告知書を使い、健康保険料や厚生年金保険料と一括で納付するのが一般的です。

また、ネットバンクを使った口座自動振替や、ATM、Pay-easy(ペイジー)による納付も可能です。ただし、口座自動振替が利用できるかどうかは、管轄の年金事務所によっても異なるので、事前に確認しておくと良いでしょう。

子ども・子育て拠出金の拠出金率

子ども・子育て拠出金の負担額は、個人の所得と毎年改定される「拠出金率」によって計算されます。近年では、拠出金率が増加傾向にあり、2025年度は「0.36%」となっています。

ただし、上限は法律で0.4%までと決められており、2020年度以降は0.36%で落ち着いている状況です。最新の拠出金率は日本年金機構のホームページでも確認できるので、具体的な拠出金額を計算する際にはチェックしておくと良いでしょう。

子ども・子育て拠出金の計算式と例

拠出金の納付額は、従業員数やそれぞれの給与や賞与に応じて決まります。具体的な金額は、日本年金機構から送られてくる「保険料納入告知額・領収済通知書」で確認できるほか、「(標準報酬月額+標準賞与額)×拠出金率」の計算式で求めることも可能です。

標準報酬月額に含まれるもの

「標準報酬月額」とは、従業員に支払う毎月の給与等(報酬月額)に応じて、厚生年金保険料額表で割り出した金額のことです。標準報酬月額は32の等級に区分されており、最低の1等級は8万8,000円、最高の32等級は65万円となっています。

報酬月額には基本給のほかに役職手当や勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等も含まれ、住宅や食事といった現物で支給されるものも対象です。ただし、臨時に支給されるものや年3回以下の頻度で支給される賞与等は、標準報酬月額には含まれません。

 

標準賞与額の基準

「標準賞与額」とは、税引き前の賞与額から、1,000円未満の端数を切り捨てて計算したものです。賞与とはボーナスや年末手当、繁忙手当、年末一時金等のことであり、ボーナスや賞与といった名称が使われていなくても、年3回以下で臨時的に支給されるものは該当します。

標準賞与額には上限が設けられており、子ども・子育て拠出金と厚生年金保険の計算においては、支給1回あたり(同じ月に2回以上支給されたときは合算)150万円が上限となります。なお、年4回以上支給される賞与については、標準報酬月額の対象に含まれるため、取扱いの違いには注意しましょう。

子ども・子育て拠出金の具体的な計算例

事業所全体で子ども・子育て拠出金をどのくらい負担するのかを計算する際には、従業員ごとに標準報酬月額と標準賞与額を割り出す必要があります。ここでは、計算方法の具体例を見ていきましょう。

【従業員Aさんの場合】
・報酬月額:35万円(標準報酬月額は等級22(36万円)に区分される)
・標準賞与額:50万円
・拠出金の計算式:(36万円+50万円)×0.36%=3,096円

まずは、報酬月額と最新の厚生年金保険料額表を照らし合わせ、標準報酬月額でどの等級に区分されるのかを確認します。続いて、標準報酬月額に標準賞与額を足し合わせ、拠出金率をかけて従業員ごとの負担額を求めます。

そして、最後に全従業員の負担額を合計すれば、事業所全体の負担額を割り出すことが可能です。また、先に全従業員の標準報酬月額と標準賞与額の合計額を計算し、最後に拠出金率をかけても同じ結果となります。

このように、従業員一人ひとりの標準報酬月額と標準賞与額が明らかになれば、事業所全体の負担額もすぐに計算することができます。

子ども・子育て拠出金における中小企業の課題点

子ども・子育て拠出金そのものは、比較的歴史の古い制度であり、既に導入されてから50年以上が経過しています。しかし、近年では使途や規模も拡大傾向にあり、2020年以降は拠出金率も高止まりしている状況です。

さらに、新たに子ども・子育て支援金の導入も予定されていることで、企業個別における負担の増加が課題とされるケースも増えています。子ども・子育て拠出金に関して、中小企業が抱えやすい課題を3つに分けて整理してみましょう。

経営コストの増加

まずは、企業運営における経営コストの増加が重要な課題と言えます。前述のように、子ども・子育て拠出金は労使折半ではなく、企業が全額負担しなければなりません。

抱えている従業員数が多いほど、企業の負担も大きくなるため、固定費の増大が大きな問題となります。経営コストが増加すれば、単純に利益率が低下してしまい、設備投資や人材確保への資金が確保しにくくなります。

そうなれば、機会損失によって成長が止まってしまうリスクもあるでしょう。

人材確保への影響

子ども・子育て拠出金等の負担が増えれば、場合によっては給与や福利厚生を見直す必要性が生まれます。例えば、新たに月給25万円で従業員を1人雇う場合、賞与の支給がなかったとしても、子ども・子育て拠出金だけで年間の支出は合計1万1,232円です。

さらに厚生年金保険料や健康保険料、雇用保険料といった各種保険料、福利厚生費等を加えると、人件費の負担はますます増大します。これらの負担額は、従業員の給与・賞与が増えるほど大きくなるため、賃金引上げの判断を難しくさせる原因にもなるでしょう。

思うように賃金を上げられなければ、企業間での人材獲得競争で不利になってしまうため、中小企業の人材不足を招く結果にもなり得ます。

資金繰りの負担

子ども・子育て拠出金は毎月納付する必要があるため、毎月のキャッシュフローを悪化させる可能性もあります。従業員が多ければ、拠出金の負担も相当の金額になるため、経営に悪影響をおよぼすリスクもあるでしょう。

個々の企業においては、各種税金や保険料といった固定費の支払いを踏まえ、ある程度の中長期的な資金繰りに備えておく必要があります。

子ども・子育て拠出金の負担を減らすための対策

子ども・子育て拠出金は給与や賞与に紐づいて計算されるため、負担を減らすためには、人件費の見直しを図るのが基本となります。例えば、ITツールの導入等によって業務効率化を図り、残業時間を削減することでも、拠出金の負担を減らすのは可能です。

しかし、先にも述べたように不用意な人件費の削減は、人材確保の企業間競争で不利に働くリスクが高いです。そこで、賃金の極端な引上げを行う代わりに、福利厚生を充実させるのも有力な方法と言えます。

従業員のニーズに合わせ、中小企業ならではの柔軟な福利厚生プランを提供すれば、経済的な負担を抑えながら従業員満足度を向上させることも不可能ではありません。また、国や自治体が扱う助成金等を活用し、トータルでの経営負担を減らすのも一つの方法です。

例えば、子ども・子育て拠出金の対象事業でもある「中小企業子ども・子育て支援環境整備事業」では、子育て支援に積極的に取り組む企業(各種くるみん認定を取得した企業)に対して、50万円の助成が行われます。適用条件や申請期間を細かくチェックし、自社の実情に合った制度を利用すれば、無理なく経営の安定化を図ることができるでしょう。

まとめ

子ども・子育て拠出金は、子育て支援政策を支える財源の一つであり、事業者が全額を負担するのが特徴です。拠出金の負担額は、従業員の給与や賞与に応じて決まるため、従業員ごとにどのくらいの金額になるのかを計算する必要があります。

そして、各従業員における負担額を合計したものが、企業全体で納付すべき金額となります。従業員数が多いほど、あるいは従業員ごとの給与・賞与が高いほど負担額も大きくなるため、中小企業にとっては経営コストの増大につながるのが課題と言えるでしょう。

子ども・子育て拠出金の負担を軽減するには、「人件費を見直す」「賃金引上げの代わりに福利厚生を充実させる」「助成金を活用する」といったさまざまなアプローチが考えられます。自社の実情に合った方法を見極め、無理なく経営の安定を図ることが大切です。

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