CSIRTとは?主な役割と導入する際のポイントを解説
公開日:2025年3月10日
サイバーリスク

企業や組織をターゲットとするサイバー犯罪は、年々巧妙化・複雑化してきています。セキュリティリスクが高まる現代にあっては、トラブルを未然に防ぐとともに、事故が発生した時に備えて速やかな対応手段を構築することも重要です。
そこで注目されているのが、社内のセキュリティ対策を専門に行う「CSIRT(シーサート)」という組織体制です。今回はCSIRTの概要や役割、自社で構築する上での手順とポイントについて解説します。
CSIRT(シーサート)の概要

企業の情報セキュリティを確保する上では、被害を未然に防ぐとともに、万が一問題が発生した時に速やかな対処が行える体制を整えることも大切です。不測の事態に備えて、被害を最小限に抑えるための仕組みとして注目されているのが「CSIRT」です。
これまでは大企業での導入や設置が主流だったCSIRTですが、近年では中堅・中小企業においても導入や設置が進みつつあります。主な理由として挙げられる点は、サイバー攻撃は企業規模の大小を問わず、あらゆる企業がターゲットにされているのが現状であり、攻撃の手口も年々巧妙化されているからです。
情報セキュリティの確保が重視されている一方で、中堅・中小企業ではセキュリティ人材等の確保が難しいため、アウトソーシングできるサービスが増えていると言えます。このような背景があり、CSIRTに注目が集まっているのです。
ここではまず、CSIRTの概要と現代の企業経営における重要性について見ていきましょう。
CSIRTとは
CSIRT(Computer Security Incident Response Team)は「シーサート」と読み、直訳すれば「コンピュータのセキュリティインシデントに対応するチーム」を意味します。インシデントとは事故や出来事を指す英単語であり、セキュリティインシデントでセキュリティ上の事故を表します。
例えば、情報漏えいや改ざん、データの破壊・消失、システムの機能停止等のことです。また、これらにつながるリスクがある細かな事象もインシデントに含まれます。
CSIRTは企業や行政機関等において、情報システム等にセキュリティインシデントが発生していないかを監視し、万が一問題が起こった時にはその原因を解析したり、影響の調査を行ったりする体制のことです。
CSIRTが必要とされる理由
CSIRTが必要とされるのは、企業や行政機関等におけるセキュリティインシデントのリスクが高まっているためだと言えます。なかでも、とりわけ大きな被害を生み出しているのがサイバー攻撃です。
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「独立行政法人情報処理推進機構(IPA)」が公表している「情報セキュリティ10大脅威2024」では、「組織」向けの10大脅威として以下のような順位が示されています。
CSIRTと関連した言葉

CSIRTを理解する上では、関連する言葉も含めておさえておくことが大切です。ここでは、類似する用語の意味とCSIRTとの違いについて解説します。
CSIRTとSOC(ソック)との違い
CSIRTと類似する組織体制として、「SOC(Security Operation Center)」が挙げられます。SOCとは、24時間365日体制でシステムやネットワークを監視し、セキュリティインシデントの検知や分析を担う部門のことを指します。
インシデントが発生しないように、事前に予兆を検知して対処するのがSOCの役割と言えるでしょう。それに対して、CRISTは実際にインシデントが発生してしまった時に、さらに被害が広がるのを予防したり、問題の原因を突き止めて根本解決したりすることを目的としています。
つまり、大まかな役割としては、「SOCが事前チェック」「CSIRTが事後の対応」をメインとする点に違いがあるということです。ただし、SOCのサービスを扱う運営会社によっては、インシデント発生後の復旧対応までカバーしているケースもあり、反対にCSIRTの領域でも事前チェックまで対象とするのが一般的です。
CSIRTとPSIRT(ピーサート)との違い
CSIRTと同じく、セキュリティ対策を行うチームを指す言葉に「PSIRT(Product Security Incident Response Team)」があります。PSIRTは、「Product」という単語が示すように、自社が提供する製品の脆弱性によるリスクに対応するための体制を指します。
例えば、自社が開発したソフトウェアを顧客へ提供する場合に、カスタマーサポート等とともに緊急のインシデントに備えて設置しておくのがPSIRTです。つまり、PSIRTは「外部に提供する製品・サービスの保護」を目的としているということです。
それに対して、CSIRTは自社のセキュリティ保護を目的としており、両者の対象や目的は大きく異なります。
CSIRTが担う役割

企業や組織において、CSIRTは具体的にどのような働きを持つのでしょうか。ここでは、四つのポイントに分けてCSIRTの役割を見てきましょう。
インシデント発生前の対応
まずは、インシデントが発生する前の監視・検知・分析がCSIRTの主な役割として挙げられます。場合によっては、先にも述べたようにSOCで対応する範囲として定義されることもありますが、便宜上はCSIRTに含めて考えるケースも多いです。
サイバー攻撃等を受けた時には、被害が広がる前にできるだけ早く対処することが重要となります。それには、素早い検知を可能にする監視システムが必要不可欠です。
自社のネットワークやシステムを途切れることなく監視し、不審な通信・挙動をいち早く発見するのがCSIRTの大きな役割です。
インシデント発生後の対応
実際にインシデントが発生した場合には、CSIRTが素早い初動対応によって事態の収束を進めます。そのための具体的な機能の一つとして、まず挙げられるのがインシデントの報告をまとめる「窓口」としての役割です。
現状を正確に把握するために、まずはCSIRTがデータを一元管理し、必要な調査を行えるようにします。その後、必要に応じて社内外の組織と連携し、原因の究明と被害拡大の防止につなげていくのが基本的な流れです。
インシデントが発生した時には、時間が経過するほど被害のリスクが大きくなっていくため、リアルタイムでの判断が必要となります。そのため、関係各所と日ごろからコミュニケーションを図り、有事に円滑な連携を実行できるようにしておくのもCSIRTの役割です。
脆弱性の管理に関する業務
インシデントを未然に防ぐための働きとして、脆弱性の管理も重要な役割となります。脆弱性とは、システムやWebサイト等におけるセキュリティ上の欠陥のことです。
先ほどご紹介した「情報セキュリティ10大脅威2024」では、第7位に「脆弱性対策情報の公開に伴う悪用増加」が挙げられています。これは、特定のソフトウェア、ハードウェアに脆弱性が存在する場合に、利用者への注意喚起を目的として行われる対策情報の公開を悪用した攻撃手法です。
攻撃者はその情報を悪用し、まだ対策を講じられていない当該製品を用いているシステムを見つけ、組織的な攻撃を仕掛けます。そのため、企業や組織が脆弱性をはらんだシステムを使い続ければ、攻撃者にとって格好の標的になるリスクがあるのです。
こうしたリスクに対応するため、CSIRTが脆弱性に速やかに対処し、外部からの悪質な攻撃を防ぎます。
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セキュリティ向上のトレーニング
インシデントの予防・早期対処を実現するには、単に形式としてCSIRTを導入するだけでなく、組織全体としてのセキュリティ意識の向上が不可欠と言えます。サイバー攻撃のなかには、従業員個人の端末にウイルスを感染させ、社内ネットワークを通じて企業全体へ攻撃を仕掛けるものもあります。
「情報セキュリティ10大脅威2024」で第1位に挙げられている「ランサムウェアによる被害」も、従業員の端末操作が原因で広がるケースが多いです。さらに、第9位には「テレワーク等のニューノーマルな働き方を狙った攻撃」も挙げられており、社内ネットワーク全体のセキュリティ強化は大きな課題と言えるでしょう。
こうした被害を防ぐには、自社で働くすべての従業員を対象に、セキュリティへの正しい知識や対応方法を学べる機会を設けることが大切です。そして、そのために必要なトレーニングを実施することもCSIRTの重要な役割です。
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CSIRTを導入するためのプロセス

CSIRTの構築は全社的な取組となるため、しっかりと計画を立ててから進める必要があります。ここでは、CSIRTを導入するために必要なプロセスをご紹介します。
社内における情報収集と現状把握
CSIRTの構築を検討する際は、まず社内におけるセキュリティ体制の状況を把握することが重要です。各部署のセキュリティ担当者や、インシデントに対応した経験のあるメンバーを対象にヒアリングを行い、丁寧にデータを集めていく必要があります。
過去に起こったインシデントやその時の対応、セキュリティへの基本的な考え方やリスクの認識等について必要な情報収集を行い、課題や問題点を明らかにしましょう。
導入や運用に関する計画の立案を行う
自社の課題点を洗い出したら、CSIRTの設置に向けた運用計画を立てます。計画に盛り込む主なポイントとしては、「どのような手順でインシデントに対応するか」「導入・運用にあたってどのような業務が必要なのか」「担当者は誰が務めるのか」「予算はどのくらいなのか」「どのようなリソースが必要なのか」「新たに導入すべきツールはあるか」等が挙げられます。
また、外部との連携を図るにあたって、各所の連絡先情報やスケジュールも細かく整理しておくと良いでしょう。計画段階で精度の高い内容に仕上げることで、全社的な協力が得やすくなります。
導入に向けた社内対応
計画案が完成したら、経営層等の意思決定権者からの承認を得て、CSIRTの構築を進めていきます。まずは導入に必要なリソースの確保とスケジュールの調整を行いましょう。
その上で、CSIRTを構築するにはメンバーの選定が重要なポイントとなります。担当者にはITに関する専門知識が必要なのは前提として、各所との調整を行うためのコミュニケーションスキル、有事の時に臨機応変に動ける柔軟性が求められます。
また、CSIRTは一つのチームとして動くため、メンバー間の信頼関係やチームワークも重要です。スキルや経験だけでなく、メンバー同士の関係性や対人能力等にも目を向け、最適なチーム構成を行いましょう。
担当チームを立ち上げたら、各部署とコミュニケーションを図り、丁寧に調整作業を行います。特に、CSIRTの機能の一つでもある「窓口」としての役割を果たすには、社内全体に存在を周知させなければなりません。
インシデントが発生した際に、どこへ連絡・相談をすれば良いのかを知ってもらうためにも、積極的にCSIRTの存在をアピールしましょう。
サイバー攻撃被害発生時の情報共有事項のほか、近年注目されているセキュリティ対策のASMについても解説しています。
CSIRTの導入で気をつけておきたいポイント

最後に、CSIRTの導入にあたって注意したいポイントを三つ確認しておきましょう。
CSIRTを導入する目的を明確にする
CSIRTは企業によって必要な規模や役割が異なるため、自社の実情を踏まえた目的に沿って導入を進めることが大切です。どのような範囲までを活動の対象とするかによって、業務内容や必要な人員、適した予算にも違いが生まれるでしょう。
例えば、既にSOCのような役割を持つチームがあるのであれば、CSIRTはインシデントが発生した後の対応に専念することも可能です。あるいは、SOCの業務範囲を拡大して、CSIRTとして運用していくこともできます。
必要以上に活動範囲が広ければ、業務の幅も膨大になるため、いざというときに迅速な行動を起こせなくなってしまいます。具体的に担当する業務や活動範囲を決めることで、CSIRTの役割が明らかになり、チームが動きやすくなるでしょう。
導入にあたって社内での理解を得る
CSIRTの取組は組織全体で進める必要があるため、経営層をはじめとする各部署の理解を得ておかなければなりません。そのため、導入を検討する段階で、ある程度の具体的な計画を立案しておく必要があります。
まずは、自社にどういったセキュリティ上の課題があり、CSIRTの設置によってどのように課題解決につながるのかを明確化しましょう。その上で、自社の社風や人的リソースを踏まえながら、現実的に実行可能な範囲で計画に落とし込んでいくことが重要です。
まとめ
IT技術の進歩に伴い、企業におけるCSIRTの役割は今後もますます重要視されていくと考えられます。多様化・複雑化するセキュリティインシデントに対応するためには、専門チームとしてCSIRTを立ち上げ、速やかに察知・対処できる体制を整えておくことが大切です。
CSIRTを自社で構築するためには、社内全体の理解と協力が必要であり、さらには外部との連携も求められます。多くの協力者を巻き込むためにも、まずは社内の現状と課題を洗い出し、CSIRTの役割と重要性を検証してみましょう。
【参考情報】
2016年10月12日付 内閣府 「サイバーセキュリティ基本法第25条第1項第2号に基づく監査の報告について」
2023年3月28日付 総務省 「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和5年3月版)」
2024年7月付 独立行政法人情報処理推進機構 「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」
2024年2月付 独立行政法人情報処理推進機構 「情報セキュリティ10大脅威 2024~脅威に呑まれる前に十分なセキュリティ対策を~」
2018年12月15日 経済産業省 「第4回 産業サイバーセキュリティ研究会 ワーキンググループ1(制度・技術・標準化) 資料6添付E 用語集」
2020年8月付 独立行政法人情報処理推進機構 「脆弱性対処に向けた製品開発者向けガイド」
2019年6月付 総務省 「サイバーセキュリティ対策情報開示の手引き」
2020年8月付 独立行政法人情報処理推進機構 「【注意喚起】事業継続を脅かす新たなランサムウェア攻撃について」
2017年3月付 システム監査学会 第30巻第1号 「中小企業へのサイバー攻撃を防御するためのCSIRT導入の考察」木村 裕一、赤尾 嘉治、桜井 由美子